令和6年司法試験の結果について(5)
~評価区分と順位の対応~

1.前回の記事(「令和6年司法試験の結果について(4)」)でも紹介したとおり、論文の採点基準における優秀、良好、一応の水準、不良の各区分と各科目の得点の対応は、以下のようになっています(「司法試験の方式・内容等について」)。

優秀 100点~75点
(抜群に優れた答案 95点以上)
良好 74点~58点
一応の水準 57点~42点
不良 41点~0点
(特に不良 5点以下)

 これを、実際の得点分布と照らし合わせると、上記の各区分が、概ねどのくらいの順位に相当するかが分かる。以下は、全科目、公法系、民事系、刑事系のそれぞれについて、上記の各区分に対応する順位をまとめたものです。

全科目
成績区分 順位
優秀 存在しない
良好 1位~395位
一応の水準 396位~2088位
不良 2089位以下

公法系
成績区分 順位
優秀 12位以上
良好 13位~511位
一応の水準 512位~1982位
不良 1983位以下

民事系
成績区分 順位
優秀 10位以上
良好 11位~523位
一応の水準 524位~1992位
不良 1993位以下

刑事系
成績区分 順位
優秀 6位以上
良好 7位~535位
一応の水準 536位~2035位
不良 2036位以下

 これを見ると、優秀の区分は概ね20位より上、一桁くらいのトップクラスを狙う場合に要求される水準だということが分かるでしょう。超上位でないと納得できない、というような人は別にして、普通に合格を考えている人にとっては、優秀という区分はほとんど関係のない世界です。
 良好の区分をみると、概ね600番より上を狙う場合に必要となる水準であることが分かります。確実に600番より上の順位で受かりたい、という人にとっては、このレベルをクリアする必要があるのでしょうが、とにかく合格したい、という人にとっては、やはりそれほど関係のない領域です。当サイトが、基本論点について、規範の明示と事実の摘示をしっかりやっていれば合格できる、と繰り返し説明しているのは、通常はこれを守るだけで600番前後になる、すなわち、一応の水準の上位、場合によっては良好の領域にまで入ってしまうことが多いからです。逆にいえば、600番にも届かない場合は、基本論点を落としているか、規範を明示できていないか、事実の摘示ができていない、ということです。ただし、最近では、意識的に事務処理の比重を下げようとする方向性が示されています(「令和6年司法試験の結果について(3)」)。論点の数が少なく、規範の明示、事実の摘示をしっかりとやってもなお時間に余裕がある場合には、規範の理由付け、事実の評価まで必要になってくることもないわけではありません。とはいえ、その場合でも、まずは規範の明示と事実の摘示という答案スタイルで書き切れるようになっておくことが前提です。そのような答案スタイルで書くクセが付いていれば、時間の余裕に応じて理由付け、評価を付するようにすればよく、それはそれほど難しいことではないでしょう。
 一応の水準は、概ね600番から2100番までの間の順位です。今年は1592人合格ですから、この区分で合否が分かれているというわけです。不良の区分は、はっきりした不合格答案です。

2.採点実感を読む際には、上記のことを念頭に置く必要があります。自分が600番より上を狙っているのであれば、「良好に該当する答案の例は~」とされている部分まで注目する必要があるでしょう。単に合格したい、というのであれば、一応の水準について言及されている部分だけに注目すれば足りる。そして、このことは、出題趣旨との関係でも、意識すべきです。出題趣旨で多くの文字数を割いて説明してあることの多くは、優秀・良好に関する部分です。優秀・良好に関する部分は、普通の受験生には分かりにくい応用部分を含むので、詳細に説明をする必要があるからです。これに対し、一応の水準に関する部分は、当たり前すぎるので、ほとんどの場合、省略されている。誰もが知っているような著名な判例の規範を明示すること、それに当てはまる事実を問題文から答案に書き写すこと。こういったことは、わざわざ出題趣旨に書いても仕方がないと考えられているわけですね。だから、出題趣旨をただ漫然と読んでも、合格レベルというものは、見えてこないのです。「俺は大体出題趣旨と同じようなことを書いたのに、ひどい点数だったぞ。」という人は、規範を明示していたか、事実を答案に書き写していたか、再度チェックすべきでしょう。もっとも、最近では、重要な判例の規範については、わざわざその内容を出題趣旨で引用する場合も増えてきました。あまりに規範を答案に明示しない人が多いので、このような対応をしているのでしょう。こうしたものは、特に合否を分ける重要な規範であることが多いので、答案に明示できるようになっておく必要があります。こういったことは、出題趣旨の各部分が、採点実感でどの区分に関するものとして整理されているかを確認すると、ある程度分かるようになります。出題趣旨を読む際にも、採点実感と対照する必要があるのです。

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