令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(2)

1.口述試験結果の発表と同時に、参考情報として、短答、論文段階を含めた詳細なデータが公表されます。
 以下は、直近5年の年齢層別の受験者数の推移です。

年齢層 平成29 平成30 令和元 令和2 令和3
19歳以下 84 76 107 100 151
20~24歳 3422 3631 3791 3573 3952
25~29歳 1348 1297 1372 1200 1274
30~34歳 989 1014 1079 962 1063
35~39歳 1045 988 1036 908 1057
40~44歳 950 980 1006 899 941
45~49歳 906 959 992 810 898
50~54歳 706 761 817 769 844
55~59歳 566 615 692 616 638
60~64歳 335 382 434 388 440
65~69歳 256 270 281 211 256
70~74歳 79 110 120 129 150
75~79歳 44 36 31 30 31
80歳以上 13 17 22 13 22

 すべての年代で、受験者数は増加しています。昨年は、70代前半を除き、すべての年代で受験者数が減少しました。これは、新型コロナウイルス感染症の影響といってよいでしょう。昨年の短答式試験実施日(令和2年8月16日)の前日(同月15日)の新規感染者数は、1233人でした(厚生労働省「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」参照)。「こんなに感染者が増えているなら、明日は受験をしないでおこう。」と考えた人が増えたのだろう、と考えられたのでした。これに対し、今年の短答式試験実施日(令和3年5月16日)の前日(同月15日)の新規感染者数はというと、6419人です。しかも、当時は、北海道、東京都、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県及び福岡県について緊急事態宣言がされていたのでした(「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の区域変更」)。それにもかかわらず、受験者数が増加したのは、「収束まで待っていたのでは、いつまで経っても受験できない。」、「試験会場でクラスターが発生したというニュースは聞いたことがないから、大丈夫だろう。」というような感覚があったからでしょう。また、今年は、4月12日から高齢者の新型コロナワクチン優先接種が開始されました。高齢受験者は自身が接種できたという人もいたでしょうし、昨年は高齢の同居家族がいて受験を躊躇した受験者も、家族が接種したことで受験しやすくなったということもあったのかもしれません。
 コロナ禍以前との比較という点でいうと、20代前半は受験者数が増加しているのに対し、20代後半は、むしろ減少しています。これは、概ね大学生の増加、法科大学院生の減少という最近の傾向に対応するものといえるでしょう。また、40代は、全体的にコロナ禍前より減少しています。働きながら受験をしている人が多く、万が一感染して職場に迷惑をかけることになってはいけない、という考慮がはたらきやすいからかもしれません。変に元気なのが70代前半で、コロナ禍の影響を感じさせない一貫した増加傾向を保っています。母数が少ないこともありますが、これはちょっと理解が難しいところです。同じく母数が少ないものの、19歳以下も着実に受験者数が増加してきています。今年は、17歳で最終合格した者がおり、少数とはいえ、高校生の段階で本格的に勉強を始める人が増えてきていることを示しているといえるでしょう。

2.以下は、今年の年齢層別最終合格者数、受験者ベースの最終合格率等をまとめたものです。

年齢層 受験者数 最終
合格者数
最終合格率
(対受験者)
19歳以下 151 2.64%
20~24歳 3952 313 7.92%
25~29歳 1274 60 4.70%
30~34歳 1063 31 2.91%
35~39歳 1057 18 1.70%
40~44歳 941 17 1.80%
45~49歳 898 10 1.11%
50~54歳 844 0.94%
55~59歳 638 0.62%
60~64歳 440 0.45%
65~69歳 256 0%
70~74歳 150 0%
75~79歳 31 0%
80歳以上 22 0%

 20代前半が最も高いものの、それでも8%に満たない合格率です。50代以降に関しては、ほとんど絶望的な数字になっている。「よくこんな試験受けてんな。」と、感じさせます。よく、「予備試験は抜け穴として安易に利用されている。」というような指摘がされがちですが、実際には針に糸を通すような非常に狭いルートであって、「法科大学院に行かなくても、予備ルートなら簡単に法曹になれる。」等と安易に考えて受験するのは、とても危険です。仕事をしながら予備ルートで法曹になる、というのは魅力のある選択肢ですが、受験するのであれば、相応の覚悟が必要です。今年、40代以上の受験者は4220人で、合格者は41人です。毎年41人合格するとして、4220人全員が合格するには、単純計算で103年程度を要します。何となく勉強を続けて毎年受験していれば、いつかは受かるだろう、というのは、とても甘い考えです。

3.前記2のとおり、受験者ベースの最終合格率をみると、20代前半が最も高いわけですが、短答・論文段階に分けて見てみると、見え方が違ってきます。以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。  

年齢層 受験者数 短答
合格者数
短答合格率
(対受験者)
19歳以下 151 5.96%
20~24歳 3952 884 22.36%
25~29歳 1274 236 18.52%
30~34歳 1063 218 20.50%
35~39歳 1057 279 26.39%
40~44歳 941 268 28.48%
45~49歳 898 243 27.06%
50~54歳 844 223 26.42%
55~59歳 638 168 26.33%
60~64歳 440 114 25.90%
65~69歳 256 50 19.53%
70~74歳 150 27 18.00%
75~79歳 31 9.67%
80歳以上 22 4.54%

 短答段階では、40代前半がトップであることがわかります。60代前半でも、25%を維持しています。最終合格率トップだったはずの20代前半は22%程度と、高齢受験者に及びません。19歳以下に至っては、6%程度で、70代後半にも劣る有様です。「はっはっは。甘いんじゃよ若造め。」と言われても、仕方のない結果だといえるでしょう。短答は単純に知識で差が付くので、苦節10年、20年と勉強を続けてきた高齢受験者が有利になるのです。仮に短答だけで合否を決する仕組みであれば、若手は合格することが難しい試験となっていたことでしょう。

4.それが、論文段階になると、全く景色が変わります。以下は、年齢層別の論文合格率(短答合格者ベース)等をまとめたものです。  

年齢層 短答
合格者数
論文
合格者数
論文合格率
(対短答合格)
19歳以下 44.44%
20~24歳 884 318 35.97%
25~29歳 236 60 25.42%
30~34歳 218 31 14.22%
35~39歳 279 20 7.16%
40~44歳 268 20 7.46%
45~49歳 243 11 4.52%
50~54歳 223 3.58%
55~59歳 168 2.38%
60~64歳 114 1.75%
65~69歳 50 2.00%
70~74歳 27 0%
75~79歳 0%
80歳以上 0%

 短答では強かった高齢受験者が壊滅し、若手が圧倒的に有利になっています。以前の記事(「令和3年司法試験の結果について(12)」)で説明した若手優遇策は、予備試験の論文式試験でも用いられているのです。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、短答のように高齢受験者が有利になり、40代前半が最も受かりやすい試験になってしまう。「40代まで勉強を続けた者が一番受かりやすい試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若手優遇効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。このことを知った上で、正しく対策をしないと、知識・理解をどんなに深めても、合格することは極めて困難になります。一方で、正しく対策し、訓練すれば、高齢受験者でも、不利を克服できることがわかっています(「令和3年司法試験の結果について(8)」)。前にも説明したとおり、漫然と受験を繰り返すだけでは、計算上、40代以上の受験者は合格に100年かかっても不思議ではない合格に必要とされる知識・理解の程度は、19歳以下でも習得できるレベルになっているのが現状です。その程度の知識・理解を習得した後に合否を分けるのは、配点の高い規範と事実を重視した答案スタイルと、それを最後まで書き切る筆力です。意識して答案スタイルを変え、限られた時間で必要な文字数を書き切るだけの訓練をすることが必要です。「こんなことは法曹に必要な能力なのか。」とか、「こんな非本質的な作業はつまらない。」等と思っているうちは、合格は極めて難しいでしょう。

戻る