1.前回の記事(「平成26年司法試験の結果について(4)」)では、論文だけでみた合格ラインを確認しました。今回は、これに短答を加味した場合の影響がどの程度であるのか。その寄与度を検討してみましょう。
2.今年の短答の合格点は、210点でした。ですから、総合評価段階での最低点が、この210点ということになります。短答で210点だった人が合格するためには、論文で何点を取る必要があるのでしょうか。
総合評価は、以下の算式で計算されます(「司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について」)。
総合得点=短答の得点×0.5+論文の得点×1.75
今年の総合評価での合格点は、770点ですから、上記の算式に当てはめると、
770=210×0.5+論文の得点×1.75
770=105+論文の得点×1.75
論文の得点=665÷1.75
論文の得点=380点
短答でギリギリ合格という場合には、論文では380点を取る必要があったということです。前回の記事でみた、論文単独の合格点が、369点でしたから、それより11点高い得点が必要だということになります。ただ、得点率にすると、380点は、800点満点の47.5%ですから、やはり得点率50%、すなわち、「一応の水準の真ん中」を取れば、余裕を持って合格できるというわけです。論文で確実に得点率50%をキープすることができれば、短答は最低ラインさえクリアすれば足りるのです。
3.上記と同様に、代表的な短答の得点と、その場合に合格に必要な論文の得点及びその得点率についてまとめたのが、以下の表です。
短答の得点 | 短答順位 | 論文の 合格点 |
得点率 |
210 (短答合格点) |
5080 | 380 | 47.5 |
243 (短答合格者 の平均点) |
2405 | 371 | 46.3 |
262 (上位1000番) |
1051 | 366 | 45.7 |
280 (満点の8割) |
315 | 360 | 45.0 |
317 (短答トップ) |
1 | 350 | 43.7 |
短答ギリギリ合格の人と、トップの人では、論文でちょうど30点の差が付いていることがわかります。論文は選択科目を含めて8科目ですから、1科目当たりにすると、3.75点です。これが短答で生じる最大格差なのです。短答にかける勉強量を考えるに当たっては、このことをよく考えておく必要があるでしょう。
短答の特性として、論文よりも素直に勉強量が得点に反映されやすい、ということがあります。そのことを考えると、ある程度は短答で稼ぐ方がよい。短答は同時に論文の基礎知識にもなりますから、その意味でも効率的です。現在の短答ならば、8割取るくらいまでは、勉強量に比例して点が取れるようになるでしょう。ですから、7割から8割くらいを一応の目標とし、そこまで取れるようになったら、論文主体に切り替える、というのが、最も効率的ではないかと思います。
4.気になるのが、来年以降の短答も同様に考えてよいか、ということです。来年以降は、短答の試験科目が憲民刑の3科目となります。これが、どのように影響するかです。結論的には、ほぼ同様でよい、ということになりそうです。
(「司法試験法の改正を踏まえた短答式試験の在り方等について」より引用、太字強調及び※注は筆者)
第4 短答式試験の問題数及び点数
1 憲法20問ないし25問程度とし,50点満点とする。
2 民法30問ないし38問程度とし,75点満点とする。
3 刑法20問ないし25問程度とし,50点満点とする。
(中略)
第5 短答式試験と論文式試験の総合評価
短答式試験の得点と論文式試験の得点を合算した総合点をもって総合評価を行うことについては変更は加えない。
合算の際の配点については,短答式試験と論文式試験の比重を1:8とし,総合点は以下の算式により計算する。
算式 = 短答式試験の得点 + ( 論文式試験の得点×1400÷800 )
※注 上記算式では、分数表記を割り算表記としています。
(引用終わり)
従来は、350点満点の2分の1を総合評価に加えていました。来年以降は、それを175点満点でそのまま総合評価に加えることになっています。そして、短答:論文=1:8の比重は変わっていませんから、科目の数を考慮しなければ、来年以降も、短答の勉強量についての基本戦略は変わらない、ということになるでしょう。
ただ、試験科目が3科目となると、全体の得点が高くなりやすい。そうなると、合格点が従来よりも高めになる可能性があります。従来の過去問レベルなら、確実に7割以上は取れるようにしておく。余裕があれば、8割くらいまで取れるようにしておいた方が、安全だという感じがします。具体的な勉強法については、「平成26年司法試験短答式試験の結果について(6)」
で説明したとおり、基本的には、肢別問題集を全肢潰すというのが、最もシンプルで、効果的だと思います。