平成26年司法試験の結果について(9)

1.「平成26年司法試験の結果について(7)」では、予備組全体の合格率66.8%という数字の意味を検討しました。優秀と思われている予備組も、実は上位ロー既修と同じ位の合格率だ、ということがわかりました。しかし、実はこの情報も、予備組内部の年代によって細分化してみると、随分と見え方が違ってきます。下記の表は、予備試験合格の資格で受験した者の年代別の受験者合格率をまとめたものです。

年齢 受験者数 最終
合格者数
受験者
合格率
20代 122 116 95.0%
30代 62 32 51.6%
40代 40 12 30%
50代 15 20%
60代 0%

 圧倒的に若手有利です。20代の95%という数字は、驚異的です。受かって当たり前という感じですね。「20代予備合格者」に限ってみれば、上位ロー既修の初回受験者(最高の東大で84.2%)を上回る合格率になっているのです。20代に限ってみれば、やはり予備組は上位ローをも凌ぐ恐るべき実力だ、ということになります。
 この20代は、ほとんどが大学生かロー在学生でしょう。職種別の受験状況によれば、「大学生」の受験者は50人、「法科大学院生」の受験者は78人です。また、最終学歴別の受験状況によれば、「大学在学中」の受験者は50人、「法科大学院在学中」の受験者は78人です。いずれも合計128人で、20代の受験者数122人とほぼ重なります。大学生は、50人中47人合格で合格率94%。法科大学院生は、78人中72人合格で、合格率は92.3%です。興味深いのは、大学生の合格率が、上位ロー既修の初回受験者(平成25年修了生)やロー在学中の予備合格者より合格率が高いということです。ローの教育内容が、司法試験合格にとって不要なだけでなく、かえって有害である可能性を示唆しています。

2.これに対し、30代になると、合格率は一気に5割にまで落ち込んでしまいます。上位ロー既修にも劣る数字です。なぜ、こんなことになってしまうのでしょうか。
 上記の差が生じているのは、専ら論文です。短答は、1人を除いて全員合格しているからです。論文における若手の絶対的な優位性は、予備組に限らず、法科大学院修了生にもみられる確立した傾向です(「ロー生の年代別合格者数から読み取れること(下)」)。この原因を読み解くことが、論文攻略の重要なカギになります。原因は、大きく分けて2つあります。一つは、論文に受かりにくい者が滞留して高齢になっていくこと。もう一つは、加齢により集中力、反射神経が衰えてしまうことです。

3.まず、一つ目の原因、すなわち、論文に受かりにくい者の滞留について説明します。「平成26年司法試験の結果について(6)」で説明したとおり、論文は、受験回数が増えると、合格率が下がります。すなわち、論文に受かりにくい人は、勉強量を増やしても、やはり受かりにくい。受験回数が増えるに従って、受かりにくい人が滞留するので、合格率が下がっていくのです。当サイトでは、これを「論文に受かりにくい者は、何度受けても受かりにくい法則」と呼んでいます。
 この法則の影響を強く受けているのが、旧試験組と、受験資格喪失者(いわゆる三振者)です。
 旧試験に合格できなかったが、いまさらローに通うこともできないと思い、予備試験を受験したところ合格した。そういう人達が、旧試験組です。旧試験組は、旧試験の論文に合格できなかった人達ですから、論文に受かりにくい属性を持っています。旧試験受験者の多くは30代以降ですから、これが30代以降の合格率を下げていると考えられます(※1)。
 他方、受験資格喪失者は、(新)司法試験の論文に合格できなかった人達ですから、やはり論文に受かりにくい属性を持っています。受験資格喪失者は、最終学歴別の受験状況のうちの「法科大学院修了」のカテゴリーに属します(※2)。「法科大学院修了」のカテゴリーに属する者は、31人受験して、8人合格。受験者合格率は、25.8%です。予備組の中でみれば、これは低い数字です(※3)。受験資格を一度喪失して、予備試験を受験して合格し、再度司法試験に参戦する場合、ほとんどが30代以降になってしまいます。ですから、受験資格喪失者の存在は、30代以降の合格率を下げるのです。
 以上のように、論文に受かりにくい者の滞留という要素は、主として20代と30代の合格率の差に顕著に影響しているといえます。逆に、30代と40代、40代と50代の比較という観点では、この要素はあまり影響していない。従って、30代より以降に生じている合格率の低下は、次に説明する要因が大きいと思います。 

※1 ただし、30代が5割も受かっているのは、予備論文合格を体験したという限度での「受かりやすさ」があるからです。

※2 この情報は出願時現在のものですから、在学中に合格して法科大学院を修了した者が、予備試験合格の資格で受験する場合には、「法科大学院在学中」のカテゴリーに入ります。ですから、出願時に「法科大学院修了」のカテゴリーに属する者は、基本的に受験資格を喪失した者ということができるのです(例外は、ロー在学中の予備試験合格者がロー修了後に予備試験合格の資格で受験して不合格になり、翌年に再受験する場合です)。

※3 今年の司法試験受験者全体の合格率は、22.5%ですから、これと比較すると高い数字といえます。この点は、予備論文合格を体験したという限度での「受かりやすさ」の反映であるといえるでしょう。

 

4.30代以降の加齢により生じる合格率低下の原因として考えられるのが、集中力、反射神経の衰えです。論文試験では、非常に限られた時間の中で、問題文を読み、論点を抽出し、規範に沿った当てはめをすることが求められます。これをこなすには、瞬時に論点に気付いたり、素早く事案を整理、分析することが必要です。そのために必要な集中力、反射神経は、かなり高度なものです。また、答案用紙に書く際には、それなりのスピードで書く必要があります。答案構成を見ながら、すばやく文章化していくための集中力、反射神経もまた、相当高度なものが要求されるでしょう。年齢を重ねると、こういった能力に衰えが生じてきます。若い時はぱっと目を通しただけで意味が読み取れたのに、40代になってからは何度も読み返さないと頭に入ってこない。若手は、問題文を見て、すぐに論点に気付くのに、高齢になると、一度考えてみないと論点が浮かばない。若手は当然のようにたくさんの文量を書いてくるのに、高齢になると5ページが限界だ。こういったことは、論文ではかなりのハンデになります。これが、論文合格率に影響していると考えられるのです。

5.さて、上記2つの原因のうち、影響が大きいのは、前者、すなわち、論文に受かりにくい者の滞留です。これは、20代と30代の合格率低下が40%以上にもなるのに対し、30代以降の合格率低下幅は相対的に小さいことからわかるでしょう。ですから、30代以降の受験生は、まずこの点を克服すべきなのです。
 そのためには、「受かりにくさ」の正体を掴む必要があります。論文に受かりにくくなるクセというのは、人によって違います。ただ、概ね以下の2つの傾向を指摘できるでしょう。
 一つは、基本軽視の傾向です。出題趣旨をみるときに、どうしても優秀・良好に対応する事柄に目が行ってしまう。問題文を読むときにも、応用論点ばかり気になって、肝心の基本論点を落としてしまう。普段の学習でも、基本論点の規範があやふやなまま、難しい論点を勉強してしまう。あるいは、誰もが当たり前のように同じことを書く部分を、「現場思考」によって、自分の言葉で書いてしまう。こういった人は、配点の極端に大きい基本論点で点が取れないので、極端に受かりにくくなるのです。
 もう一つは、「学説重視、判例軽視」、「論証重視、規範軽視」の傾向です。現在の司法試験では、判例の規範を端的に示して当てはめたり、判例の規範が問題文の事例に妥当するかという点の検討が求められています。配点も、このような点にあるのです。ところが、確立した判例があるにもかかわらず、学説の規範を用いたり、規範に至る理由付け(いわゆる「論証」ですね)を長々と書いたりする人がいます。普段の学習でも、判例ではなく、学説の考え方を勉強したり、規範に至る理由付けを覚えようとする。これでは、点が取れなくて当然です。このような勉強法を続けている限り、極端に受かりにくい状況から抜け出すことができません。これには、一部の予備校教材の影響があると思います。旧試験時代の予備校論証は、ほとんどが判例を批判して学説、それも少数説を延々と論証するようなものでした。「この点判例は~しかし~で妥当でない。思うに~」というのが、その典型です。それが、未だにアップデートされずに残ってしまっているものが一部にあるのです。また、答練等の解答例の中にも、残念ながら旧試験時代の名残を残しているものがあります。特に憲法で顕著ですが、判例の引用が全くない解答例も珍しくありません(今年の憲法で薬事法事件を参照しないのは、それだけで致命的です)。かつては、「判例は事案が少しでも違うと間違いになるから、問題文が判例と少しでも違う場合には引用してはいけない」、「判例と全く同じ事案などあり得ないから、判例の引用はしてはいけない」、「判例の暗記ではなく、あなた自身が自分の頭で考えたことを自分の言葉で書きなさい」、「『○○判例参照』とするのは考査委員に参照せよと命ずるものであって無礼である」などと誤った指導がされていたものです。未だにその影響が残っていて、判例を引用して端的に規範を示したり、判例の規範が問題文に妥当するかといった検討がなされていない解答例が多いのですね。そのような解答例の真似をしてしまうと、かえって受かりにくくなります。予備校メインで学習している人は、このような点に注意すべきです。
 以上のような点を克服すれば、比較的簡単に合格できてしまいます。大学生の予備合格者が94%受かるという事実は、知識的には大学生がフォローできる程度の勉強量で足りるということを意味しています。大学生がわからないような部分は、わからなくても合格できるのです。その意味では、合格レベルは高くない。それにもかかわらず、受かりにくい人がいつまでも受からないのは、論文の採点基準からすればおよそ点が付かないような答案を、良かれと思って書いてしまっているからです。およそ点が付かないようなことを修得するために、何年も必死に勉強している。このことに早く気付き、修正することが必要です。

6.一方で、加齢による集中力、反射神経の衰えは、ある程度は仕方がありません。ただ、演習を繰り返すことによって、一定程度補うことは可能です。事例問題を繰り返し解けば、頭と体が慣れてきて、手が勝手に動くようになります。そうすれば、若手と同じとまではいかなくても、差を縮めることはできるでしょう。
 また、疲労している時間帯に、時間を限って答案を書く訓練も必要です。つらい、苦しい中で、踏ん張って丁寧に答案を書く精神力を養う。若手に負けない気力を身に付けることが大切だと思います。司法試験の会場では、最後の最後で踏ん張って書けるか、心が折れて雑になるか、そこで決定的な差が付く場合も少なくありません。最終的には、「気合いだ」ということですね。

戻る