平成26年予備試験論文式試験の結果について(2)

1.前回の記事(「平成26年予備試験論文式試験の結果について(1)」)で、一応の水準の下限である210点が予備合格者数の頭を抑えている、という説明をしました。これは、受験生の側からすれば、「不良にさえならなければ受かる」ことを意味します。ただ、ここで注意しなければならないのは、「全科目平均点の下落による上位陣の得点押下げ効果」です。

2.「全科目平均点の下落による上位陣の得点押下げ効果」とは、何だったか。若干復習しましょう。以下の表1と表2を見比べてみてください。

表1
素点 調整後
受験生1 80 67
受験生2 70 61.52
受験生3 60 55.78
受験生4 55 52.91
受験生5 53 51.76
受験生6 50 50.04
受験生7 43 46.02
受験生8 35 41.43
受験生9 30 38.56
受験生10 25 35.69
平均点 50.1 50.07
標準偏差 17.42 9.95

 

表2
素点 調整後
受験生1 80 50.89
受験生2 70 47.43
受験生3 60 43.97
受験生4 55 42.24
受験生5 35 35.32
受験生6 25 31.86
受験生7 15 28.4
受験生8 10 26.67
受験生9 5 24.95
受験生10 0 23.22
平均点 35.5 35.49
標準偏差 28.91 10

 1から4までの受験生の素点は、表1と表2で変わりません。しかし、表2では、下位の受験生の素点が極端に悪かったために、平均点が下がっています。同時に、上位と下位の得点幅が大きくなりすぎてしまった(標準偏差28.91)ので、これを平均点を中心にして一定の得点幅(標準偏差10)に調整するときに、その調整幅が大きくなります。その結果、上位陣の調整後の得点は、かなり押し下げられてしまいました。これが、「全科目平均点の下落による上位陣の得点押下げ効果」です。
 この効果が「210点を取れば受かる」という命題との関係で問題となるのは、素点で210点以上を確保していても、得点調整により得点が押し下げられて210点未満になってしまう危険があるのではないか、ということです。

3.「全科目平均点の下落による上位陣の得点押下げ効果」により、素点で210点以上の人が調整後に210点未満となる可能性が生じるには、条件があります。1つは、全科目平均点が210点未満であること。もう一つは、素点の標準偏差が一定の数値(法務省資料では「配点率」と表記されるもの)を超えていることです。1つ目の条件については、上記の表をみれば具体的に理解できると思います。調整後に素点より得点が下がるのは、平均点より高い素点だった人ですね。ですから、210点以上の素点だった人の点数が下がるためには、平均点がそれより低い点数でなければならないのです。今年の予備試験の平均点は、177.80点ですから、この条件は満たしています
 もう一つの条件である素点の標準偏差ですが、残念ながら、これは直接確かめる術がありません。司法試験では、素点ベースの最低ライン未満者数を手がかりにして、どうやらこの条件を満たさないだろう、という推論が可能でした(「平成26年司法試験の結果について(10)」)。しかし、予備試験では、そのような手がかりすらありません。
 ただ、以下の2つのことから、おそらく予備試験ではこの条件を満たしているだろう、と筆者は考えています。
 一つは、上位ロー生の受験が急増してきているのに、上位陣の調整後の得点が、平均点の下落に連動して下がっているという事実です。以下は、論文で100番の順位の者の得点と論文平均点の推移です。


(平成)
100番の順位の点数 平均点
23 249 195.82
24 246 190.20
25 241 175.53
26 241 177.80

 平均点の下落と、上位100番の者の点数との間に、連動性があることがわかると思います。ただ、平均点の変動幅ほどは、100番の人の得点は下がっていません。このことは、後述する重要なポイントです。
 もう一つの根拠は、再現答案です。A評価の再現答案を見比べてみると、平成23年、24年のものは、出来の悪いものが多い、という印象です。これに比べて、上位ロー生の受験が急増した平成25年、26年は出来がよくなっている。これは感覚的なところもあるので、確実な根拠とはいえませんが、平成23年の上位陣の素点より、平成25年、26年の上位陣の素点の方が低かったというのは、ちょっと考えにくいという感じです。このことは、平成25年、平成26年の上位陣の得点が下がっているのは、「全科目平均点の下落による上位陣の得点押下げ効果」が生じていたためである。すなわち、2つ目の条件を満たしていたという一応の根拠となります。

4.以上のことから、予備試験では、「全科目平均点の下落による上位陣の得点押下げ効果」により、素点で210点以上の人が調整後に210点未満となる可能性がある、ということが一応いえます。このことは、試験対策を考える際には厄介です。見かけの合格点より、素点では高い点を取らなければいけないということを意味するからです。
 とはいえ、筆者は、この点はあまり気にする必要はないだろうと思っています。理由は大きく分けて2つあります。
 一つは、どうやら影響が小さそうだということです。前記の100番の人の点数の推移をみても、調整後の得点への影響は限られています。この影響は、210点付近の者に作用する場合には、さらに小さくなります。なぜなら、得点調整の影響は、平均点からの乖離が大きい素点に対して、大きく作用するからです。このことは、前記の表1と表2を見比べてみると、分かるだろうと思います。ですから、超上位の得点を狙いたい人はともかく、210点以上を取れるかどうか、ということを考える場合には、その影響は全科目合計でも数点、一科目に換算すると1点にも満たないようなわずかな点数でしかないということになるでしょう。
 もう一つの理由は、結局のところ、目指すべき合格答案像には変化がない、ということです。司法試験では、採点実感等に関する意見が公表されていて、そこでは、「一応の水準」と「不良」の具体例が挙がっています。ですから、これを参考にすることで、素点レベルで一応の水準をクリアするにはどの程度か、具体的に把握することができるわけです。ところが、得点調整によって一応の水準の素点が不良に落ちる、ということがあると、採点実感等に関する意見の記述をそのまま参考にするのは危ない、ということになりかねません。ですが、予備試験では、そのような具体的な採点資料が公表されていませんから、そもそもそのような誤解の素が存在しないのですね(なお、司法試験では、「全科目平均点の下落による上位陣の得点押下げ効果」の条件をおそらく満たさない(「平成26年司法試験の結果について(10)」)ので、採点実感等に関する意見を参考にすることが可能です)。そして、予備試験で目指すべき合格答案像は、「主要な論点を拾い、正確な規範を立て、問題文の適切な事実を引用して当てはめる」だけです。これを守っていれば、例年優に合格答案となっています。ですから、裏を返せば、不合格になる人は、主要な論点を落としているか、正確な規範を立てていないか、当てはめができていない、ということになります。
 論点を落としている人は、そもそも論点の知識がないならば、論点を学習する。知っていても思いつかなかったならば、多くの問題を解いて、論点に気づくことができるようにする必要があるでしょう。正確な規範を立てられない人は、覚えるべき規範については事前にしっかり記憶する。覚えるべき規範ではないもの(いわゆる「現場思考」の規範)については、趣旨から導出できるように演習で訓練する。具体的には、「○○の趣旨は、■■の保護にある。したがって、「××」とは、■■を害するおそれのないことをいう。」のように、趣旨で使った言葉をそのまま単純に規範化するというテクニックを現場で使えるようにするということです。そして、当てはめができない人は、問題文の適切な事実を引用できるように、演習で訓練する。その際、注意すべきは、合格ラインは「事実の抽出」までであって、「事実の評価」は、「優秀」「良好」のレベルの問題だ、ということです。ローなどでは、「評価が大事ですよ」と教わることが多いと思います。ところが、評価をしようとするが余り、事実の抽出がおろそかになってしまう人が多い、という印象です。まずは、出題者が予定している事実をきちんと挙げることが、合格レベルの最低限です。いきなり評価的な記述があって、しかし、どの問題文を引いているかが明確にされていない。あるいは、答案の前半で丁寧に評価を書いていたために後半で時間がなくなって、具体的な事実を挙げることなく、当てはめが極端に雑になってしまう。そういうところで損をしている人が、案外多いのです。事実の抽出を確実に行って、評価はその後にできる範囲でやればよい。このことは、特に注意しておくべきことだと思います。これは、実際に時間制限の中で答案を書く訓練を繰り返すことによって、改善することができるでしょう。
 このように、結局のところ、予備の論文でやるべきことは、「全科目平均点の下落による上位陣の得点押下げ効果」の影響にかかわらず、変わらないのですね。ですから、実際の試験対策においては、ほとんど気にしなくてもよいだろうと思います。

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