1.法務省から、平成27年司法試験の出願者数の速報値が公表されました。それによれば、出願者数は、9073人でした。
直近5年の出願者数の推移は、以下のようになっています。
年(平成) | 出願者数 | 前年比 |
23 | 11892 | +765 |
24 | 11265 | -627 |
25 | 10315 | -950 |
26 | 9255 | -1060 |
27 | 9073 | -182 |
平成24年から出願者数は減少傾向となり、毎年その傾向が強まっていました。志願者数の激減と、それに伴う法科大学院の統廃合や定員削減の影響です。すなわち、新規参入者の減少が、出願者数の減少傾向の要因となっていたのです。この傾向は、今後も続くでしょう。
平成27年についても、減少傾向には変わりがありません。しかし、減少幅はわずかなものにとどまっています。なぜでしょうか。上記の新規参入者の減少傾向には変わりがありませんから、これは、従来、退場するはずの人が滞留したからだ、ということになります。すなわち、受験回数制限が5年5回に緩和されたことで、従来は出願できなかった4回目の受験者が、退場せずに参戦してきているということです。このように、平成27年の出願者数は、新規参入者の減少と、滞留者の増加という綱引きによって、結果的には微減となったといえます。今年4回目の受験生は、仮に不合格になっても、来年5回目の受験が可能です。ですから、来年も、滞留者による出願者数の押上げ効果が生じることになります。
このことが、短答のレベルを上昇させ、論文のレベルを低下させることは、当サイトで繰り返し説明してきました(「平成26年司法試験の結果について(3)」等参照)。短答は、受験回数が増えると受かり易くなるが、論文は逆に、受験回数が増えると受かりにくくなる。ですから、短答が苦手で論文の得意な新規参入者が減少し、短答が得意で論文が苦手な滞留者が増加すれば、短答のレベルが上がり、論文のレベルは下がるのです。また、短答の3科目化は、未修者や初学者の救済という趣旨で行われましたが、むしろ滞留者に有利に作用するでしょう(「平成26年司法試験の結果について(12)」)。今年、初めて受験する人は、短答をしっかりやっておかないと、思わぬ所で足をすくわれることになりかねません。他方で、今年4回目の受験生は、当サイトが繰り返し説明している「論文に受かりにくい人は何度受けても受からない法則」を打破する必要があります。従来の延長線上で学習していたのでは、どんなに勉強量を増やしても、受かり易くはならないでしょう。「受かりにくさ」の原因である「基本軽視」、「学説重視、判例軽視」、「論証重視、規範軽視」の傾向から脱却する必要があるのです(「平成26年司法試験の結果について(9)」)。
2.今度は、合格率という視点から、今年の難易度を考えてみましょう。以下は、直近5年の受験者数、合格者数及び受験者合格率の推移です。
年(平成) | 受験者数 | 合格者数 | 受験者 合格率 |
23 | 8765 | 2063 | 23.5% |
24 | 8387 | 2102 | 25.0% |
25 | 7653 | 2049 | 26.7% |
26 | 8015 | 1810 | 22.5% |
27 | ??? | ??? | ??? |
直近では、平成25年が最も合格率が高く、昨年が最低の合格率だったということになります。昨年の22.5%という受験者合格率は、(新)司法試験全体でみても、最も低い合格率でした。とはいえ、昨年に関しては、その合格率の低さは見かけ上のもので、実質的には横ばいといってよい状態であったことは、以前の記事(「平成26年司法試験の結果について(2)」で説明したとおりです。
では、今年はどのような数字になるのでしょうか。まずは、受験者数を推計する必要があります。受験者数を推計するためには、出願者がどのくらいの割合で実際に受験するのか、すなわち、受験率を考える必要があります。以下は、直近5年の出願者ベースの受験率の推移です。
年(平成) | 受験率 |
23 | 73.7% |
24 | 74.4% |
25 | 74.1% |
26 | 86.6% |
27 | ??? |
平成23年から平成25年までは、74%程度で安定しているのに対し、昨年は86.6%に跳ね上がっています。これは、受験回数制限の緩和が明らかになったことで、受控えが減少したことが原因でしょう。そうすると、同様の要因が作用する平成27年についても、昨年と同様の受験率になることが予想できます。そこで、今年も受験率86.6%となると仮定して受験者数を算出すると、
9073×0.866≒7857人
ということになります。この数字は、昨年の8015人と比べると、158人少ない数字ですが、ほぼ横ばいといってもよいかもしれません。
次に、合格者数です。ここでは、3つのシナリオを考えてみましょう。合格者数が1600人まで減少した場合、合格者数が昨年同様に1800人だった場合、合格者数が2000人に戻った場合です。以下は、それぞれの場合の受験者合格率をまとめたものです。
受験者数 | 合格者数 | 受験者 合格率 |
7857 | 1600 | 20.3% |
7857 | 1800 | 22.9% |
7857 | 2000 | 25.4% |
まず、合格者数が昨年同様の1800人だった場合をみてみると、合格率も22.9%と、昨年の22.5%とほぼ同じということになります。しかし、ここで注意しなければならないのは、昨年とは異なり、今年は見かけの合格率の低さということでは済まない、ということです。昨年は、短答段階で脱落するような受控え層の受験が増えただけでした。しかし、今年は、受験回数4回目の受験生が参戦してきます。受験回数4回目の受験生は、かなりの割合で短答を突破しますから、初受験組にとっては、脅威となるのです。その意味で、合格率は昨年と同じでも、難易度は今年の方が高いと考えるべきです。
次に、以前の水準である2000人に戻った場合をみてみます。この場合は、平成24年と同水準の合格率です。もっとも、前記のとおり、4回目の受験生の参入により、短答は平成24年より難易度が高く、論文は平成24年より難易度が下がると考えてよいでしょう。
最後に、1600人まで合格者数が絞られた場合です。この場合は、新司法試験史上最低の20.3%となります。これまでは4人に1人の割合だったものが、5人に1人の割合となるということです。さらに、昨年の合格率の低下は見かけ上のものに過ぎませんでしたが、今年は現実に難易度の上昇を示すことになりますから、昨年と比較した場合の難易度の上昇は、見かけ以上に大きいということになります。特に、短答を得意とする4回目受験生の参戦により、短答は厳しくなるでしょう。逆に、4回目の受験生は論文が苦手ですから、論文ではそこまで難易度は上がりません。ですから、仮に1600人程度に合格者数が絞られても生き残るという戦略を考える場合には、初受験者は特に短答に気を付ける必要があるといえます。他方で、昨年1900番前後のギリギリで不合格になってしまった人は、論文に気を付けるべきです。昨年惜しかったのだから、今年も同じような勉強の延長線上で何とかなるだろうと考えていると、今年は1700番台で不合格、ということになってしまいかねません。論文は、受かり易い人は特に難しいことを書いていないのに500番くらいを簡単に取ります。昨年1900番くらいになるということは、惜しいのではなく、受かりにくい書き方をしている可能性が高いのです。意識をして、点を取り易い書き方に変えていくべきでしょう。上位者の再現答案等を見て、どの辺りを手抜きして、どの辺りに力を入れているか、確認してみるとよいでしょう。再現答案を素材とする予備校の講義などでは、「上位答案はここが良くないので、ここを直すとより良くなるでしょう」などと説明されたりします。しかし、むしろ、上位答案はその点を犠牲にして他で点を取ろうという姿勢で答案を書いているからこそ上位になっていることが多いのです。上位答案の欠点を改善することは、むしろ、「受かりにくい答案像」に近づくおそれもあるわけですね。そのような点に注意して、再現答案を分析することが必要です。
3.上記の3つのシナリオのうち、最も可能性が高いのは、昨年と同じ1800人でしょう。一方で、2000人に戻るというのは、現状の状況だとやや可能性が低そうです。
気を付けなければならないのは、さらに合格者数が減少するリスクです。常識的に考えると、合格者数をこれ以上減らすというのは、考えにくいのです。なぜなら、これ以上減らしてしまうと、平成16年、17年の旧司法試験の合格者数に近い水準になってしまうからです。旧司法試験時代より多数の法曹を輩出できるという前提の下にロー制度が導入されたのですから、旧司法試験時代と同じ程度の合格者数にまで絞り込むというのは、考えにくいでしょう。しかし、具体的な合格点を決定するのは、司法試験委員会です。昨年、1800人基準を合格ラインとしたのは、法務省の意向というよりは、司法試験委員会の意向という側面が強いと思います(「平成26年司法試験の結果について(1)」)。これまで、司法試験委員会が、政府の方針とは異なる合格者数となるような合格点を設定したのは、論文の出来があまりに悪い場合でした。そして、今年は、そのような論文の出来が悪い場合となる可能性が高いのです。その理由は、これまでに繰り返し説明してきたとおり、4回目の受験生の参戦にあります。4回目の受験生は、短答を楽々とクリアする反面、論文では酷い点を取りやすい。その結果、論文全体のレベルが低下し、司法試験委員会にこれ以上合格ラインは下げられないという強気の姿勢をとらせる危険があるのです。今年は、そのようなリスクを抱えた年であることに、注意する必要があるでしょう。