1.法務省から、平成28年司法試験の受験予定者数が公表されました。ここには、既に公表されていた出願者数に関するデータには含まれていない受験回数別の受験予定者数が含まれています。
この受験回数別の受験予定者数から、わかることがあります。それは、昨年に出願して合格しなかった者のうちの、何割が今年も受験しようとしているか。すなわち、どのくらいの割合が再受験したかという「再受験率」です。具体的には、、昨年の受験回数別出願者数から受験回数別合格者数を差し引いて得た数字を今年の受験回数別受験予定者数で除した数字を「再受験率」として算出します。これをまとめたものが、下の表です。厳密には、昨年に出願して合格しなかった者の中には、出願をしても受験しなかった者が含まれていますが、最近では受験回数制限緩和の影響で受控えが少なくなっていることから、表では「昨年の不合格者」という表記をしています。
今年の 受験回数 |
昨年の 不合格者 |
今年の 受験予定者 |
再受験率 |
2回目 | 2269 | 1914 | 84.3% |
3回目 | 2098 | 1716 | 81.7% |
4回目 | 1884 | 1031 | 54.7% |
5回目 | 850 | 314 | 36.9% |
2回目、3回目の人は8割以上が再受験しています。1、2回不合格になった程度で諦めてしまったのでは、ローに通ったことが無駄になってしまうわけですから、理解できる数字です。それでも、2割弱の撤退者がいるというのは、最近の弁護士の経済状況の厳しさを反映しているのでしょう。「一発合格でないとマトモな事務所に就職できない。それくらいなら、一般企業に就職した方がいい。」という判断をする人も、一定数いるようです。一般企業への就職を考えるなら、早い方がよいということもある。就職活動は、できる限り新卒に近い年齢の方が有利です。また、面接の際に、1回で方向転換したという場合には、自分の立場を説明しやすいものです。他方、3回、4回と不合格になった後だと、「不本意だけど仕方なく一般企業に回った」というイメージがどうしても出てしまうので、志望動機の説明の際に「結局君は、本当はウチで働きたくないんだけど、受からなかったから仕方なく来たんでしょ?」というようなことを面接官から言われてしまいがちになる。この辺りを考慮して、素早く方向転換するというのは、1つの考え方なのだろうと思います。
4回目以降になると、顕著に再受験率が低下します。4回目の受験は半数程度、5回目になると、4割弱程度しか再受験していない。受験回数制限は緩和されましたが、3回不合格になると、自主的に諦めてしまう人がかなり出てくるということです。特に、5回目の再受験率がここまで低いことは、意外です。今年5回目の受験となる人の多くは、昨年4回目の受験をして、不合格になった人です。4回目の受験ができるようになったのは、昨年が初めてのことで、受験ができるようになった受験生にとっては、タイミングとしてはラッキーなことでした。そのような強運によって手にした権利は、行使したくなるものです。それなのに、諦めてしまっている。心理的に再受験したくなる今年でこの数字ですから、来年以降、5回目受験生の再受験率は、もっと低くなるかもしれません。論文には、「受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則があります。どんなに勉強しても、むしろ成績は下がったりする。そのために、「もう受かる気がしない」として、撤退してしまう人が多いのでしょう。
2.さて、このことは、受験対策上どのような意味を持つのでしょうか。以前の記事(「今年の出願者数からわかること」)でも説明したとおり、4回目、5回目の受験生は、短答には異常に強い反面、論文には極端に弱いという特徴を持っています(ただし、昨年の4回目受験生が予想より論文で健闘したという点については、「平成27年司法試験の結果について(12)」参照。)。ですから、4回目、5回目受験生の数の増減について、以下のような関係が成り立つわけです。
(1)4回目、5回目受験生の数が増えると、短答は相対的に厳しくなり、論文は相対的に易しくなる。
(2)4回目、5回目受験生の数が減ると、短答は相対的に易しくなり、論文は相対的に厳しくなる。
昨年の4回目の受験者数は、915人でした。今年、仮に4回目、5回目の受験予定者が全員受験してきても、両者合わせて1345人です。実際の受験者は、もっと少ない。実際の受験者数を考えるには、昨年の受験回数別の受験予定者数と受験者数から算出される受験率が参考になります。
受験回数 | 受験予定者数 | 受験者数 | 受験率 |
1回目 | 2912 | 2570 | 88.2% |
2回目 | 2585 | 2312 | 89.4% |
3回目 | 2146 | 1918 | 89.3% |
4回目 | 1007 | 915 | 90.8% |
これを見ると、受験回数にかかわらず、受験率は大体9割だということがわかります。これを基礎にして4回目、5回目の受験者数を推計すると、
1345×0.9=1210.5
となりますから、今年の司法試験を受験する4回目、5回目の受験者は、概ね1210人だということになる。これは、昨年の915人と比べると、295人の増加です。それなりに増えてはいますが、劇的に増えているというわけではない。これは、5回目受験を諦めた人が多かったことが影響しています。5回目の受験生の参入は今年が初めてとなりますが、その影響は、当初の予想よりも限定的なものになりそうです。
3.それから、予備組について少し説明しておきましょう。今年の出願段階では、「司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」が395人、「法科大学院課程修了見込者で、同課程修了の資格に基づいて受験するが、同課程を修了できなかったときは司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」が120人でした。
今回の受験予定者の数字は、修了見込者の修了が正式に確定した後の数字です。その受験予定者の段階では、「司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」は、395人でした。出願段階と同じ数字です。これは、出願段階の
「法科大学院課程修了見込者で、同課程修了の資格に基づいて受験するが、同課程を修了できなかったときは司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」が、全員無事に法科大学院を修了できたので、法科大学院修了の資格で受験することになった、ということを意味します。すなわち、これらの者は、予備試験合格者ではあるが、法科大学院修了の資格で受験しているので、法務省の資料等では法科大学院修了者の方でカウントされることになる、ということです。このように、実際には予備組なのに、データの上ではロー組の方に参入されている「隠れ予備組」が、一定数存在しています。今年は、そのような「隠れ予備組」が、少なくとも120人存在していた、ということです。さらに、昨年の「隠れ予備組」で不合格になった者が、今年に再受験する場合にも「隠れ予備組」になります。この数字は、公表された資料からはわかりません。ただし、ロー在学中の予備合格者は9割近く司法試験に合格するので、このような「隠れ予備組」の数は、かなり少ないでしょう。