1.平成28年司法試験の出願者数の速報値が公表されました。7730人でした。以下は、直近5年の出願者数、受験者数等をまとめたものです。
年 | 出願者数 | 受験者数 | 受験率 (対出願) |
短答 合格者数 |
短答 合格率 (対受験者) |
論文 合格者数 |
論文 合格率 (対短答) |
論文 合格率 (対受験者) |
24 | 11265 | 8387 | 74.4% | 5339 | 63.6% | 2102 | 39.3% | 25.0% |
25 | 10315 | 7653 | 74.1% | 5259 | 68.7% | 2049 | 38.9% | 26.7% |
26 | 9255 | 8015 | 86.6% | 5080 | 63.3% | 1810 | 35.6% | 22.5% |
27 | 9072 | 8016 | 88.3% | 5308 | 66.2% | 1850 | 34.8% | 23.0% |
28 | 7730 | ??? | ??? | ??? | ??? | ??? | ??? | ??? |
出願者数は、昨年から1342人減少しています。かなり減ったな、と感じさせます。この出願者数の減少は、今後もどんどん進んでいくのでしょうか。今年のような1300人程度の減少が仮に毎年起こったとすると、あと6年で出願者がゼロになる計算です。もちろんそんなことはあり得ないわけですから、今年のようなペースでどんどん減少していくことはあり得ない。それは、確かなことです。
もう少し緻密に考えてみましょう。今年の出願者数減少の原因は何か。それは明らかで、定員削減と志願者減による法科大学院の入学者数の減少にあります。昨年は、受験回数制限が緩和された最初の年だったため、以前なら受控えをしていた人が出願したということに加え、一度受験資格を喪失したはずの復活組の参入という特殊事情がありましたから、これがあまり表に出てきませんでした。今年は、ダイレクトに出願者数に表れてきたということです。
では、今後、法科大学院の入学者数はどうなるのか。法科大学院の実入学人員は、これまで一貫して減少していました。しかし、これもゼロになるまで減少し続けるということはありません。どんどん減るとは言っても、限度がある。近時、その兆しがようやく現れてきました。下記は、平成20年度以降の法科大学院の実入学人員の推移です。
年度 | 実入学者数 | 前年比 |
20 | 5397 | --- |
21 | 4844 | -553 |
22 | 4122 | -722 |
23 | 3620 | -502 |
24 | 3150 | -470 |
25 | 2698 | -452 |
26 | 2272 | -426 |
27 | 2201 | -71 |
上記をみると、一貫して減少してきた入学者数が、平成27年度に入って下げ止まっていることが分かります。2200人まで減少して、さすがに下げ止まってきたというわけですね。また、今後の法科大学院の入学定員規模は、2500人程度が想定されています(「法曹人口の在り方に基づく法科大学院の定員規模について(案)」)。そうすると、当面の入学者数は、2200人から2500人の間で横ばいということになるでしょう。
さて、そうすると、司法試験の出願者数も、今後は下げ止まり、横ばいとなるのでしょうか。すぐにそうなるわけではありません。なぜか。これには、2つのタイムラグを考える必要があります。1つは、法科大学院入学者が司法試験受験者となるまでの、新規参入のタイムラグ。もう1つは、司法試験受験者となった者が、受験資格を喪失するまでの、退出のタイムラグです。前者については、2年から3年です。平成26年度から2200人程度で下げ止まっていることを考えると、この影響は、来年にもすぐに現れてくるでしょう。ただ、この影響は、上記の表を見れば分かるとおり、年間400人程度の影響しかありません。今年の1300人強の減少幅のうちの、3分の1程度しか解消されないのです。残りは、後者の影響によります。昨年に受験して受験資格を喪失した者は、今年は出願できませんから、退出者の存在は、出願者数のマイナス要因となります。多数の入学者がいた頃の修了生が、退出のタイムラグを経て、多数の退出者として出願者数を押し下げるという構図です。入学者が法科大学院を修了し、受験資格を得てから、これを喪失するまでには、修了までの2年から3年に加えて、従来は3年から5年、受験回数制限が緩和されてからは5年を要します。このように、退出の影響は、かなり遅れて出願者数に影響してくるのです。平成26年度から2200人程度に入学者数が下げ止まっても、これから退出を余儀なくされる受験生は5年以上前に入学した者達ですから、あと5年程度は、この退出による出願者の減少は続くことになるでしょう。
以上のことからすれば、来年以降、新規参入者の減少は収まってくるものの、入学者の多かった頃の修了生の退出までにはしばらく時間を要するため、全体としての出願者数の減少傾向は、減少幅を縮小しながらも、あと5年程度は続きそうだ、と予測できます。
2.今度は、今年の予測をしてみましょう。まず、受験者数の予測です。直近の出願者ベースの受験率は、受験回数制限緩和の影響を受けて、87%前後で推移しています。そこで、今年の受験率を87%と仮定して試算をしてみると、受験者数は、
7730×0.87≒6725人
となります。
3.次に、短答合格者数の予測です。比較的基準のはっきりしている論文と比べると、短答の合格ラインの基準は、あまりはっきりしません。概ね、満点の65%に近い114点を目安にしつつ、合格者数が5000人強くらいになるように調整しているようだ、というのが、今のところの状況です(「平成27年司法試験短答式試験の結果について(1)」)。そのことからすれば、今年も5000人くらい、ということになるでしょう。しかし、それだと、今年は1725人しか不合格にならない計算になる。例年、2500人から3000人くらいの不合格者が出ていたことを考えると、さすがに少し合格者が多すぎるという印象です。出願者の減少に合わせて短答合格者も減少すると考える場合には、例年の短答合格率が1つの目安となります。直近の受験者ベースの短答合格率をみると、概ね65%前後で推移しています。そこで、今年の短答合格率が65%になると仮定して考えると、
6725×0.65≒4371人
ということになります。これは、それなりにありそうな数字です。あまり確かな推計とはいえませんが、ここでは一応、4371人を短答合格者の推計値としておきましょう。このような推計を前提とする限り、数字の上での難易度は例年と変わらない、ということになります。ただ、これはそうなるように試算したというだけであって、あまり意味のある予測ではありません。
気を付けたいのは、4回目、5回目の受験生の参入です。昨年は、初めて4回目の受験生が参入した年でした。当サイトでは、4回目の受験生は異常に短答に強いので、初受験者は気を付けないとやられてしまう、と警告をしていたものです(「平成26年司法試験短答式試験の結果について(2)」)。実際のところ、昨年の4回目の受験生の短答合格率は、81.09%に達しました(「平成27年司法試験の結果について(12)」)。今年、5回目受験生として参入してくるのは、この4回目受験生です。ですから、昨年同様、極端に短答に強いでしょう。さらに、昨年3回目だった受験生が、今年は4回目受験生として参入してくる。この4回目受験生も、短答には極端に強いはずです。短答は、単純に勉強量を増やせば点が取れる試験です。しかも、現在では憲民刑の3科目に科目が限定されている。そのため、ますますその傾向が強まっているのです。ですから、特に初回受験生は、油断しているとあっさり短答で不合格になってしまうおそれがあります。十分な対策をとっておくべきでしょう。
4.では、論文はどうか。論文の合格ラインは、短答と比べると、基準が比較的明確です。出願者数が1万人を超えていた頃は「2000人ルール」、9000人台となった直近では「1800人ルール」によって決定されていました(「平成27年司法試験の結果について(1)」)。出願者数が8000人を切った今年に関しては、1800人より減ることはあっても、増えることはないでしょう。ですから、論文合格者1800人というのは、最も楽観的なシナリオです。仮に、今年の論文合格者数が1800人だとすると、論文合格率は、
短答合格者ベース:1800÷4371≒41.1%
受験者ベース:1800÷6725≒26.7%
となります。短答合格者ベースの合格率は、直近では最も高い水準です。受験者ベースでみると、直近では高めの合格率だった平成25年と同じ水準の合格率です。これが、今年の最も楽観的なケースです。
他方、最悪のケースを考えてみましょう。現在のところ、合格者数の下限としては、1500人が想定されています。
(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用、太字強調は筆者)
新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。
(引用終わり)
将来的には、この1500人も裏切られるかもしれませんが、少なくとも今年に関しては、下限と言って差し支えないと思います。仮に、論文合格者数が1500人だったとすると、論文合格率は、
短答合格者ベース:1500÷4371≒34.3%
受験者ベース:1500÷6725≒22.3%
となります。短答合格者ベースでみると、昨年をやや下回る合格率。受験者ベースだと、平成26年に近い数字です。逆に言えば、最悪のケースであったとしても、この程度で収まるということです。以上の試算を平成28年の暫定値としてまとめると、以下の表のようになります。
年 | 出願者数 | 受験者数 | 受験率 (対出願) |
短答 合格者数 |
短答 合格率 (対受験者) |
論文 合格者数 |
論文 合格率 (対短答) |
論文 合格率 (対受験者) |
24 | 11265 | 8387 | 74.4% | 5339 | 63.6% | 2102 | 39.3% | 25.0% |
25 | 10315 | 7653 | 74.1% | 5259 | 68.7% | 2049 | 38.9% | 26.7% |
26 | 9255 | 8015 | 86.6% | 5080 | 63.3% | 1810 | 35.6% | 22.5% |
27 | 9072 | 8016 | 88.3% | 5308 | 66.2% | 1850 | 34.8% | 23.0% |
28 | 7730 | 6725? | 87%? | 4371? | 65%? | 1800? 1500? |
41.1%? 34.3%? |
26.7%? 22.3%? |
今年は、さらに4回目、5回目受験生の参入による実質的な難易度の補正を考える必要があります。結論的には、4回目、5回目受験生の参入は、論文の実質的な難易度を下げる方向に作用します。論文には、当サイトで繰り返し説明しているとおり、「受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則があるからです。昨年の4回目受験生の論文合格率(短答合格者ベース)も、受験回数別でみると最も低い21.16%でした(「平成27年司法試験の結果について(12)」)。もっとも、3回目受験生の論文合格率が21.34%だったことからすれば、下げ幅はわずかです。これが昨年限りの異常値で、今年はもう少し合格率が下がるのか。それは、今のところよくわかりません。とはいえ、4回目、5回目の受験生が論文に強くないことは確かです。ですから、今年も昨年同様、数字の上でみる難易度に比較して、短答が厳しくなる反面、論文は易しめになる、と考えておいてよいと思います。