平成28年司法試験短答式試験の結果について(3)

1.科目別の平均点、最低ライン未満者の状況をみてみましょう。以下は、直近5年間の科目別の平均点及び最低ライン未満者割合の推移です。昨年から3科目となったので、昨年と今年に関しては、公法は憲法、民事は民法、刑事は刑法を示します。また、平均点の括弧内には、平成26年以前との比較のため、倍にした数字を示しました。

公法系
平均点
民事系
平均点
刑事系
平均点
公法系
最低ライン
未満割合
民事系
最低ライン
未満割合
刑事系
最低ライン
未満割合
24 54.8 97.6 72.0 11.3% 3.2% 1.3%
25 65.1 104.8 63.1 2.9% 1.4% 5.2%
26 61.0 99.8 57.9 3.9% 3.9% 9.0%
27 32.8
(65.6)
51.6
(103.2)
36.3
(72.6)
2.3% 4.1% 4.3%
28 34.3
(68.6)
49.5
(99.0)
36.2
(72.4)
2.3% 6.1% 4.6%

 前回の記事(「平成28年司法試験短答式試験の結果について(2)」)でみたとおり、3科目合計の平均点は、昨年とほとんど変わっていません。科目別にみると、刑法はほぼ昨年と同じ。憲法はやや易しく、民法がやや難化したといえますが、概ね昨年と同様といえるでしょう。
 7科目時代の短答は、年ごとに難易度が大きくブレる傾向にありました。例えば、平成24年は、公法が極端に難しかった。この年は、受験者の1割以上が、公法で最低ライン未満となってしまったのです。平成26年は、刑事系が難しかった。それと比べると、憲民刑の3科目になってからは、今のところ難易度が安定しているといえるでしょう。ただ、今後もその傾向が続くかどうかはわかりません。

2.気になるのは、最低ライン未満者です。今年は、昨年と比べて、民法の最低ライン未満者の割合が2%増加しています。実数でいえば、昨年の民法の最低ライン未満者は336人。今年は、423人と、87人の増加です。確かに、今年は、昨年に比べて民法は平均点が2点程度下がっています。とはいえ、それにしては最低ライン未満者の増加幅が大きい。過去の数字と比較しても、同じくらいの平均点だった平成26年の1.5倍近い割合です。また、刑法は、昨年と最低ライン未満者割合はほとんど変わっていませんが、同じくらいの平均点だった平成24年と比べると、3倍以上の割合になっていることがわかります。

3.常識的に考えると、平均点と最低ライン未満者の数には相関があるはずです。平均点の低い科目は、問題が難しかったということですから、最低ライン未満者も増える。これが、普通の感覚でしょう。しかし、3科目になってからの短答の結果をみると、それでは説明がつかない。それは、憲法と刑法の平均点と、最低ライン未満者割合を見るとわかります。昨年と今年のいずれも、憲法の方が、刑法より平均点は低いのです。しかし、最低ライン未満者は、刑法の方が、憲法より倍近く多い。これは、どういうことなのか。昨年の記事(「平成27年司法試験短答式試験の結果について(3)」)では、その原因は、得点分布の二極化にあるとされています。これは、今年にも当てはまることなのでしょうか。
 以下は、法務省の公表した得点別人員調を、より大掴みなものに集計し直したものです。括弧内は、受験者数に対する割合を示しています。赤く着色された枠は、最低ライン未満に該当する部分です。民法・刑法との比較のため、今年の民法に近い平均点だった平成26年民事系、今年の刑法に近い平均点だった平成24年刑事系のものも掲載しました。

憲法 民法 刑法
得点 人員 得点 人員 得点 人員
40~50 1662
(24.0%)
60~75 1374
(19.9%)
40~50 2787
(40.3%)
30~39 3730
(54.0%)
45~59 3401
(49.2%)
30~39 2744
(39.7%)
20~29 1292
(18.7%)
30~44 1648
(23.8%)
20~29 991
(14.3%)
10~19 161
(2.3%)
15~29 413
(5.9%)
10~19 306
(4.4%)
0~9
(0.01%)
0~14 10
(0.1%)
0~9 18
(0.2%)

 

平成26年民事系 平成24年刑事系
得点 人員 得点 人員
120~150 1276
(15.9%)
80~100 2560
(30.5%)
90~119 4507
(56.2%)
60~79 4408
(52.5%)
60~89 1871
(23.3%)
40~59 1249
(14.8%)
30~59 314
(3.9%)
20~39 114
(1.3%)
0~29
(0.02%)
0~19
(0.01%)

 まず、民法をみてみます。平成26年民事では、上から2番目の枠には56.2%がいたわけですが、今年の民法では、その割合が7%減っています。この層がどこに移動しているかといえば、一番上の枠に4%が移動し、残りの3%が、概ね下から2番目の最低ライン未満者の方に移っている。また、今年は一番下の枠に10人もいる、というのも、見逃せない事実です。
 次に、刑法をみてみましょう。平成24年刑事では、上から2番目の枠には52.5%がいたわけですが、今年の刑法では、その割合が13%ほど減っています。この層がどこに移動しているかといえば、一番上の枠に10%が移動し、残りの3%が、概ね下から2番目の最低ライン未満者の方に移っている。また、今年は一番下の枠に18人もいる、というのも、見逃せません。
 このように、平均点は同水準でも、得点分布が上下に二極化したために、最低ライン未満者の割合が増加したのです。昨年は、この現象が刑法だけに顕著に現れていましたが、今年は、それが民法にも拡大してきたということです。

4.なぜ、このような現象が生じるのか。昨年の記事(「平成27年司法試験短答式試験の結果について(3)」)では、憲法と刑法の問題の特性に原因があるのではないか、という考え方をしていました。しかし、今年のように民法にまでこの傾向が拡大してくると、なかなかそれだけでは説明が難しいように思います。
 昨年・今年に共通している平成26年以前からの根本的な変化として、短答3科目化と受験回数制限の緩和の2つがあります。昨年は、前者の変化に着目して考えていたのですが、むしろ、後者の方が、より得点分布にダイレクトに影響する要素であるように思います。
 受験回数制限が緩和されると、受控えが減少する。それは何を意味するか。ここで考えるべきは、これまで受控えをしてきたような人は、どのような人なのか、ということです。これは、多くの場合、「短答すら突破できない人」です。短答で不合格になってしまえば、論文は採点すらされませんから、あまりにも無駄が大きい。しかも、短答は、論文と違って、自分の実力が比較的容易にわかります。ですから、せめて短答くらいは確実に突破できるようになってから、受験しよう。そう思うのが普通だからです。さて、そうなると、今まで受控えをしていた人が受験するようになったことは、何を意味するか。それは、「とても短答を突破できない人達が増える」ことを意味します。それは、下位層の増加を意味する。これで、下位層の増加の理由はわかりました。
 では、上位層の増加の理由は何か。これも、受験回数制限の緩和によって説明できます。すなわち、受験回数4回目以降の受験生の参入です。短答は、勉強量がダイレクトに結果に影響しますから、受験回数の多い受験生は、短答が得意です。このことは、平成26年以前からの得点分布の変化において、何を意味するか。「短答が異常に得意な人が増える」ことを意味します。それは、上位層の増加を意味する。これで、上位層の増加の理由もわかりました。

5.わかってしまえば、「当たり前過ぎてつまらない」という感じもします。ただ、このようなことは、言われてみないと意外とわからない。また、理屈でそうなるはずだ、ということと、現実の統計データがそうなっている、ということとは、意味合いが違います。昨年、そして今年の結果から、受験回数制限の緩和による下位層及び上位層の増加という影響が、憲法についてはあまり現れていないが、民法、刑法では顕著になってきていることがわかった。今後は、二極化の傾向が来年以降も続くのか、憲法にも二極化の影響が及ぶのか、という点に注目する必要があります。

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