1.以下は、過去の司法試験における短答式試験の合格点等の推移です。昨年から試験科目が3科目となり、満点が以前の350点の半分(175点)になっていますので、比較のため、括弧内に倍にした数字を記載しています。
年 | 合格点 | 平均点 | 合格点と 平均点の差 |
受験者数 | 合格者数 | 受験者 合格率 |
18 | 210 | 232.9 | 22.9 | 2091 | 1684 | 80.5% |
19 | 210 | 231.7 | 21.7 | 4607 | 3479 | 75.5% |
20 | 230 | 250.7 | 20.7 | 6261 | 4654 | 74.3% |
21 | 215 | 228.1 | 13.1 | 7392 | 5055 | 68.3% |
22 | 215 | 230.8 | 15.8 | 8163 | 5773 | 70.7% |
23 | 210 | 219.2 | 9.2 | 8765 | 5654 | 64.5% |
24 | 215 | 224.5 | 9.5 | 8387 | 5339 | 63.6% |
25 | 220 | 233.0 | 13.0 | 7653 | 5259 | 68.7% |
26 | 210 | 218.7 | 8.7 | 8015 | 5080 | 63.3% |
27 | 114 (228) |
120.7 (241.4) |
6.7 (13.4) |
8016 | 5308 | 66.2% |
28 | 114 (228) |
120.0 (240.0) |
6.0 (12.0) |
6899 | 4621 | 66.9% |
まず、平均点をみると、昨年とほぼ同じ数字です。全体的な問題の難易度は、昨年とほとんど変わらなかった。過去の平均点と比較すると、平成20年以来の高さです。3科目になって、点が取りやすくなったように見えます。
合格点は、前回みたとおり、昨年と同じ。平均点がほとんど変わらなかったことからしても、これが穏当な数字であることがわかります。7科目時代と比較すると、平成20年以来の高さということになります。平均点が高くなったが、合格点も上がっている。3科目になって点が取りやすくなったからといって、それがそのまま受かりやすさに繋がっているわけではないということです。もっとも、合格点と平均点の差は、過去5年でみると、昨年と平成25年に次いで大きくなっています。このことは、平均点の上昇幅ほど、合格点は上がっていないことを意味する。すなわち、点が取りやすくなった分がそのまま受かりやすさに繋がっているわけではないけれども、それでも、7科目時代の平成23年、24年、26年と比べれば、数字の上では楽になっている。普通に点を取れば、危なげなく合格できたことを意味しているように見えます。受験者合格率も、直近5年でみると、昨年をわずかに上回り、平成25年に次いで高い数字となっています。
2.ただ、上記のことは、実は見かけの数字から単純に読み取った場合の理解に過ぎません。平成26年までの数字と単純に比較することは、適切とはいえないのです。それは科目数が違う、ということではなく、3回目の受験生までしか参戦していない、という点で、大きな違いがあるからです。当サイトで繰り返し説明しているとおり、短答は、単純に勉強量を増やせば、点が取れるようになります。受験回数が1回増えると、1年余分に勉強できますから、勉強量が増える。そのために、受験回数が増えると、短答合格率は上昇する。これは、過去のデータから明らかな確立した傾向です。したがって、4回目、5回目の受験生が参戦すると、実際の難易度がそれほど変わらなくても、全体の合格点、平均点、短答合格率を押し上げるのです。ですから、平成26年以前の数字と比較するためには、この4回目、5回目受験生の参入の影響を除去しなければならないというわけです。
3.実際のところ、4回目、5回目受験生の参入は、どの程度の影響があるのでしょうか。昨年の今頃、当サイトでは、昨年から参入した4回目受験生の参入の影響を試算していました。試算のためには、4回目受験生の短答合格率を考える必要があるのですが、その時点では4回目受験生の短答合格率は不明でした。そこで、4回目受験生の短答合格率を、80%と仮定したのです。当時の記事では、「4回目受験生の短答合格率が8割というのは、さすがにちょっと高すぎるという感じもします」とされています(「平成27年司法試験短答式試験の結果について(2)」)。当時の筆者の感触としては、「いくら4回目受験生が短答に強いと言っても、8割はさすがにないだろう」という感じだったのです。
ところが、実際に公表されたデータを見てみると、4回目受験生の短答合格率は、なんと81.09%でした(「平成27年司法試験の結果について(12)」)。3回目受験生が64.03%ですから、圧倒的な強さです。「4回目受験生は短答に強い」とわかっていた筆者でさえ、「さすがに8割はない」と思っていたのに、さらにそれを超える合格率だったわけですね。とはいえ、概ね8割で当たっていたともいえるでしょう。そこで、今回も、4回目、5回目受験生の短答合格率は、80%と仮定して考えてみたいと思います(※)。
※ 厳密には、5回目受験生はさらに合格率が高くなるかもしれませんが、さすがに8割を大きく超えるのは難しいのではないか、ということと、5回目受験生の人数が少ない(314人)ということもあり、計算を簡単にするために、ここでは4回目受験生と同じ合格率として考えます。
4.さて、今年は、受験予定者の段階で、4回目受験生が1031人、5回目受験生が314人でした。この受験予定者の何割が実際に受験したのか。昨年の4回目受験生の受験率は、90.8%でした。ここでは、4回目、5回目の受験生のいずれも9割が実際に受験したと仮定しましょう。4回目、5回目の受験予定者の合計1345人の9割は、
1345×0.9≒1210人
ということになります。そして、このうちの8割が短答に合格したとすると、
1210×0.8=968人
が4回目、5回目の合格者数ということになる。今年の合格者数は、全体で4621人ですから、上記968人を差し引いた3653人が、1回目から3回目までの受験生の合格者数だということになります。これを、全体の受験者数6899人から上記4回目、5回目受験生の受験者数の推計値である1210人を差し引いた5689人で割ると、
3653÷5689≒64.2%
となって、これが、4回目、5回目の受験生の参入の影響を差し引いた1回目から3回目までの受験生の短答合格率の推計値ということになります。全体の合格率66.9%と比べると、2.7%下がっています。これが、4回目、5回目の受験生の参入による影響です。
5.2.7%を大きいと見るか、小さいと見るか。それは、人によって感じ方は違うでしょう。いずれにせよ、平成26年以前の数字と比較するときは、単純に全体の合格率で比較するだけでなく、上記の4回目、5回目の受験生の参入の影響を除いた実質的な難易度の変化も見る必要があるのです。その観点から見ると、64.2%という数字は、直近でみると、平成24年、平成26年よりは高いが、平成25年よりは低く、平成23年に近い数字だということができるでしょう。実質的な難易度としては、その程度のものであった、ということができます。その意味では、3科目になっても、必ずしも「短答が易しくなった」とはいえないということです。