1.法務省から、平成28年司法試験の結果が公表されました。合格者数は、1583人でした。昨年の1850人と比較すると、267人の減少ということになります。
随分減ったな、という印象ですね。
合格点は、880点でした。昨年が835点でしたから、合格点は45点も引き上がったことになります。
2.1583人というのは、当サイトの事前の想定の下限(1500人)に近い数字です(「今年の出願者数からわかること」)。1500人が下限であるというのは、以下の法曹養成制度改革推進会議決定が根拠になっています。
(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)
新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。
(引用終わり)
その意味では、今回、合格者数が1583人まで減少したのも、一応は想定の範囲内である、といえなくもありません。とはいえ、昨年の1850人から、いきなりここまで減らすというのは、あまり予想していませんでした。1800人→1700人→1600人→1500人というように、緩やかに減らしていくのだろう、と思っていたからです。その意味では、今回の結果は、予想外のものということができるでしょう。
3.もう1つ、予想外だったことがあります。それは、合格点の決定基準です。ここ数年、合格点は、一定のルールに従って決まっていました。平成21年から平成25年まで(ただし、平成24年は除く。)は、「2000人基準」(「平成26年司法試験の結果について(1)」)。平成26年及び平成27年は、「1800人基準」です(「平成27年司法試験の結果について(1)」)。すなわち、5点刻みで、最初に2000人または1800人を超える得点が合格点となる、というルールによって、大体説明ができたのです。
そうなると、今年は、「1500人基準」になったのかな、と思わせます。そこで、法務省の公表した総合点別人員調を用いて、5点刻みで合格点前後の累計人員を調べてみると、以下のようになっています。
得点 | 累計受験者数 |
870 | 1707 |
875 | 1643 |
880 | 1583 |
885 | 1513 |
890 | 1442 |
「1500人基準」であれば、5点刻みで、最初に1500人を超える得点が合格点となるはずです。それだと、885点が合格点になる。しかし、そうはなっていません。ですから、今年は、「1500人基準」が採用されたとはいえないのです。このように、従来の合格点の決定ルールでは、説明が難しい結果になっている。これが、もう1つの予想外な部分です、もっとも、これまでも、平成24年のように、「ルールどおりだとちょっと少なすぎるかな」という場合に、合格点が1つ引き下げられたとみえる場合がありました。今回も、1513人だとちょっと少なすぎる、ということで、1つ合格点を引き下げた、という可能性はあると思います。
4.気になるのは、来年以降、1500人よりもさらに減ることはあるのかどうか、ということです。当サイトとしては、可能性がないわけではない、と思っています。2つの理由があります。
(1)1つは、上記の法曹養成制度改革推進会議決定は、その文言からして、破られる可能性のある記述になっている、ということです。これまでも、合格者数の目安というものはありました。しかし、それらの中には、後から反故にされたものもあります。その最も有名なものは、平成22年ころまでに合格者数を3000人にする、というものです。
(司法制度改革審議会意見書より引用。太字強調は筆者。)
当審議会としては、法曹人口については、計画的にできるだけ早期に、年間3,000人程度の新規法曹の確保を目指す必要があると考える。具体的には、平成14(2002)年の司法試験合格者数を1,200人程度とするなど、現行司法試験合格者数の増加に直ちに着手することとし、平成16(2004)年には合格者数1,500人を達成することを目指すべきである。さらに、同じく平成16(2004)年からの学生受入れを目指す法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、新制度への完全な切替え(詳細は後記第2「法曹養成制度の改革」参照)が予定される平成22(2010)年ころには新司法試験の合格者数を年間3,000人とすることを目指すべきである。
(引用終わり)
(規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用。太字強調は筆者。)
司法試験合格者数の拡大について、法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備状況等を見定めながら、現在の目標(平成22年ころまでに3,000人程度)を確実に達成することを検討するとともに、その後のあるべき法曹人口について、法曹としての質の確保にも配意しつつ、社会的ニーズへの着実な対応等を十分に勘案して検討を行う。
(引用終わり)
上記で気を付ける必要があるのは、司法制度改革審議会意見書では、「目指す」とされ、規制改革推進のための3か年計画では、「確実に達成する」ではなく、「確実に達成することを検討する」となっていることです。そのような目で、前記の法曹養成制度改革推進会議決定を見てみると、やはり、「目指す」となっていることがわかります。
(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)
新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。
(引用終わり)
そして、実は、上記部分に引き続いて、以下のような文章が続きます。
(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)
なお、新たに養成し、輩出される法曹の規模に関するこの指針は、法曹養成制度が法曹の質を確保しつつ多くの法曹を養成することを目的としていることに鑑み、輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある。
(引用終わり)
つまり、質が確保されないならば、1500人も破られる余地がありますよ、ということが、示されているのです。前記の規制改革推進のための3か年計画でも、類似の言及がありました。
(規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用。太字強調は筆者。)
司法試験合格者数の拡大について、法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備状況等を見定めながら、現在の目標(平成22年ころまでに3,000人程度)を確実に達成することを検討するとともに、その後のあるべき法曹人口について、法曹としての質の確保にも配意しつつ、社会的ニーズへの着実な対応等を十分に勘案して検討を行う。
(引用終わり)
ですから、前記の法曹養成制度改革推進会議決定があるから、1500人を下回る可能性はない、とはいえないのです。
(2)それから、もう1つは、受験者数の減少が、今後もしばらくは続くだろう、ということです(受験者数の減少傾向については、「今年の出願者数からわかること」参照。)。昨年は、8016人が受験して、合格者数は1850人。受験者合格率は、23.0%でした。今年は、6899人が受験して、1583人が合格ですから、受験者合格率は、22.9%です。受験者数が減っているので、合格者数がこれだけ減っても、受験者合格率はほとんど変わっていないのです。このように、受験者数が減少していけば、それに応じて合格者数も減っていく。これも、ある程度はやむを得ないことといえるでしょう。
当サイトとしては、最近の合格者数の決定要因としては、このファクターが最も重要なのではないか、という気がしています。受験者数がここまで減ってくると、合格者数を適切に調整しないと、受験者合格率の振幅が大きくなりすぎてしまうからです。例えば、来年の受験者数が4000人まで減ってしまったとしましょう。そうすると、仮に1500人合格の場合、受験者合格率は、37.5%と、かなり高い数字になってしまいます。合格者数が1000人まで減っても、受験者合格率は25%。つまり、昨年や今年よりも高い合格率になる。ですから、来年の合格者数は、実際の出願者数を見てから予想した方がよいのではないか。現段階では、そのように考えています。