1.ここ数年、司法試験の結果が出るたびに、注目されるのが、予備組の結果です。今年は、予備試験合格の資格で受験した400人中、290人合格。予備組の受験者合格率は、72.5%でした。以下は、予備組が司法試験に参入した平成24年以降の予備試験合格の資格で受験した者の合格率の推移です。
年 (平成) |
受験者数 | 前年比 | 合格者数 | 前年比 | 受験者 合格率 |
前年比 |
24 | 85 | --- | 58 | --- | 68.2% | --- |
25 | 167 | +82 | 120 | +62 | 71.8% | +3.6 |
26 | 244 | +77 | 163 | +43 | 66.8% | -5.0 |
27 | 301 | +57 | 186 | +23 | 61.7% | -5.1 |
28 | 382 | +81 | 235 | +49 | 61.5% | -0.2 |
29 | 400 | +18 | 290 | +55 | 72.5% | +11.0 |
2.受験者数は一貫して増加を続けているものの、今年になって急激に増加幅が減少しています。その要因は2つ。1つは、予備試験の最終合格者数が、昨年から11人しか増えなかったことです(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)。これは、予備試験の論文段階で「400人基準」が採られる限り、今後も同様の傾向となるでしょう(「平成28年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。もう1つは、予備組が参入して5年が経過したことにより、受験回数制限による退出者が本格的に生じたということです。昨年失権したとみられる平成23年予備合格者は、記録上11人います(「平成28年司法試験受験状況」)。ただ、予備組は合格率が非常に高いので、そもそも滞留者があまり生じません。ですから、この影響は、法科大学院修了生の場合ほど大きくはならないでしょう。
気になるのは、合格者数の急増と合格率の急上昇です。特に、これまで低下傾向だった合格率が、今年は反転し、大幅な上昇となっている。合格者数の急増は、これに対応したものといえます。昨年の記事では、予備組の合格率の低下傾向は、今後も続くだろうと予測していました(「平成28年司法試験の結果について(10)」)。この予測は、大きく外れたということになります。この原因は、どこにあるのでしょうか。
3.まず、原因として思いつくことは、今年は全体の論文合格率が大きく上昇した年だったということです(「平成29年司法試験の結果について(1)」)。全体の論文合格率が上がったのだから、予備組の合格率が上がるのも当然といえるでしょう。問題は、これだけで十分な説明になっているかどうかです。以下は、平成24年以降の受験生全体の論文合格率(短答合格者ベース)の推移です。
年 (平成) |
全体の 論文合格率 |
前年比 |
24 | 39.3% | --- |
25 | 38.9% | -0.4 |
26 | 35.6% | -3.3 |
27 | 34.8% | -0.8 |
28 | 34.2% | -0.6 |
29 | 39.1% | +4.9 |
確かに、ある程度は予備組の合格率の変動と対応しています。しかし、今年の予備組の合格率が11%も上昇しているのに、全体の論文合格率は、4.9%の上昇にとどまっている。これを、どう考えるかです。
直感的には、「予備組の方が実力者が多いので、全体の論文合格率の上昇幅以上に合格率が上昇しても不思議ではない。」という感じもします。仮に、この考え方が正しいなら、同じく実力者の多い上位ロー既修の合格率も、かなりの上昇幅になっているはずです。そこで、東大、京大、一橋、慶応の既修者の今年の受験者合格率と昨年の受験者合格率をまとめたのが、以下の表です。
法科大学院 | 今年の 受験者合格率 |
昨年の 受験者合格率 |
前年比 |
東大 既修 |
68.6% | 63.0% | +5.6 |
京大 既修 |
63.1% | 64.4% | -1.3 |
一橋 既修 |
65.0% | 61.7% | +3.3 |
慶応 既修 |
58.5% | 58.7% | -0.2 |
意外なことに、上位ロー既修は、予備組ほど合格率は上がっていないことがわかります。むしろ、京大や慶応は、合格率が下がっている。その結果、今年は、72.5%の合格率を誇った予備組が、上位ロー既修に対しても圧倒的な差を見せています。このことの意外感は、昨年の数字と比較すると、実感しやすいでしょう。以下は、昨年の予備組と上位ロー既修の合格率等をまとめたものです。
昨年(平成28年) | |||
受験者数 | 最終 合格者数 |
受験者 合格率 |
|
予備 | 382 | 235 | 61.5 |
東大 既修 |
165 | 104 | 63.0 |
京大 既修 |
149 | 96 | 64.4 |
一橋 既修 |
81 | 50 | 61.7 |
慶応 既修 |
211 | 124 | 58.7 |
昨年は、東大、京大、一橋の既修は、予備組より高い合格率だったのです。それが、今年は完敗している。このように、今年の予備組の合格率の急上昇は、「予備組の方が実力者が多いので、全体の論文合格率の上昇幅以上に合格率が上昇しても不思議ではない。」ということでは、説明できません。単に、全体の論文合格率が上昇したという原因以外に、予備組に固有の要因が何かある。
4.ここで、予備組の合格率を左右する予備組固有の要因を確認しておきましょう。昨年の記事で、予備組の合格率が低下傾向を続けるだろうと予測した根拠は、論文特有の「受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則が、予備組にも妥当すること、滞留者の増加傾向が続いていることにありました(「平成28年司法試験の結果について(10)」)。ここでは、後者の滞留者の推移を確認してみます。以下は、各年の受験者数から合格者数を差し引いた滞留者数の推移です(※)。
※ 厳密には、受験回数制限による失権者を差し引く必要がありますが、現時点では今年の失権者数が不明なため、差し当たり単純な数字を用いています。
年 (平成) |
滞留者数 | 前年比 |
24 | 27 | --- |
25 | 47 | +20 |
26 | 81 | +34 |
27 | 115 | +34 |
28 | 147 | +32 |
29 | 110 | -37 |
今年は、滞留者の数が一転して減少に転じたことがわかります。この原因は、前記2で説明した受験者数の増加幅の縮小と、予備組の合格率の急上昇による合格者数の増加にあります。もっとも、注意すべきは、これは来年受験するであろう滞留者の数が減ったということを意味するにとどまるということです。今年の結果は、昨年の滞留者の増減が影響します。そして、昨年は、滞留者の増加傾向が続いていた。ですから、今年の予備組の合格率の急上昇の原因とはなり得ません。では、上記に挙げた根拠のうちの前者、すなわち、論文特有の「受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則が、予備組にも妥当するという部分に、何か変化があったのか。次回は、この点を意識しながら、予備組のデータを見ていきたいと思います。