令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(3)

1.以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)です。

年齢層 短答
合格率
19歳以下 13.0%
20~24歳 23.0%
25~29歳 19.6%
30~34歳 21.5%
35~39歳 26.3%
40~44歳 28.8%
45~49歳 27.7%
50~54歳 28.6%
55~59歳 24.3%
60~64歳 25.0%
65~69歳 19.9%
70~74歳 10.8%
75~79歳 6.6%
80歳以上 7.6%

 当サイトで繰り返し説明しているとおり、短答は単純に知識で差が付くので、勉強量の多い年配者が有利です。それが、合格率にはっきり表れている。30代後半から60代前半までの年代を見ると、50代後半を除いて全て25%以上の高い合格率です。これに対し、20代前半は23%、20代後半は19.6%に過ぎません。このことは、単純に知識だけで勝負させてしまうと、「30代後半くらいまで勉強を続けないとなかなか合格できない。」という怖い結果が出力されかねないことを示しています。合格率のトップが40代前半、次点が50代前半というのも、若い人からすれば、「意味がわからないよ。」という感じだと思います。このことは、30代後半から60代前半までの受験者の多くは、勉強期間が長い人達である。すなわち、30代、40代、50代になって初めて法曹を目指し始めた社会人ではなく、 旧司法試験時代から、苦節10年、20年、30年と勉強を続けている人達である、ということを意味しています。前回の記事(「令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)でみたとおり、今年は新型コロナウイルス感染症の影響を受けているものの、年配受験者の受験者数は近年増加傾向にあります。これは年配者の新規参入の増加を意味している(※1)のですが、それでもなお、年配受験者層の多数を占めるのは、長期受験者だということです。旧司法試験時代に存在した滞留者問題は、解消されていないのです。前回の記事(「令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明した若年化方策が必要とされる所以です。
 ※1 長期受験者は概ね毎年受験するので、前年比でみた場合の受験者数の増加にはほとんど寄与しません。

2.上記のとおり、短答は年配者有利の結果でしたが、論文段階ではどうなるか。以下は、短答合格者ベースの年齢層別論文合格率です。

年齢層 論文
合格率
19歳以下 23.0%
20~24歳 37.1%
25~29歳 27.9%
30~34歳 16.9%
35~39歳 6.2%
40~44歳 5.0%
45~49歳 5.3%
50~54歳 5.0%
55~59歳 2.0%
60~64歳 0%
65~69歳 0%
70~74歳 0%
75~79歳 0%
80歳以上 0%

 短答では強かった年配者が壊滅し、若手が圧倒的に有利になっています。これが、前回の記事(「令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明した若年化方策の効果です。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、短答のように30代後半以降の者が有利になり、40代前半・50代前半が最も受かりやすい試験になってしまう。「40代、50代まで勉強を続けた者が一番受かりやすい試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若年化効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。
 予備試験の論文式試験の問題は、旧司法試験の問題に外見が似ています。しかし、旧司法試験時代と現在とでは、若年化方策が異なる旧司法試験時代は、比較的単純な基本重視で、とりあえず趣旨を書けば受かる、というものでした。だから、趣旨に遡る形式の予備校論証を貼っていれば、当てはめがスカスカでも受かっていたのです(※2)。これに対し、現在の予備試験は、規範の明示と事実の摘示に極端な配点を置く当てはめ重視です。ですから、論証を貼って当てはめがスカスカというのでは、危ない。旧司法試験過去問を解く場合には、この点に注意する必要があります。
 ※2 その典型例は、刑訴の伝聞法則で、趣旨さえ覚えて貼り付けておけば、その後の事例処理が誤っていても、普通に合格答案になっていたりしたのでした。逆に、趣旨を省略してその後の事例処理を的確かつ丁寧に論述する答案は、なぜか不合格答案になる。これが、かつての旧司法試験の恐ろしさでした。現在では、これは全く逆の評価になります。

3.このように、短答で比較的素直に高齢化させておいて、論文で若年化させる。現在は、そのような仕組みになっています。なぜ、短答段階でも若年化方策を採らないのか、不思議に思う人もいるでしょう。かつての旧司法試験では、短答でも複雑なパズル問題を出題するなど、知識では解けない問題を出題して、若年化を図っていました。ところが、そのような手法は、見た目にも法律の知識・理解を問う気がないことがバレてしまう出題形式だったので、もはや法律の試験ではない、というまっとうな批判がなされました。しかも、短答段階で知識を問わなくなった結果、あまりにも知識のない者が合格してしまい、修習に支障が生じるという事態にもなりました(旧司法試験でも民法だけは知識重視の傾向が維持されたのは、これだけは譲れない一線だったからだと言われています。)。そして、そもそも、年配者も知識で解かないということに気付いてしまい、若年化効果が薄れてしまった。そこで、新司法試験では、そのような出題はしないこととされたのです。

 

新司法試験実施に係る研究調査会報告書(平成15年12月11日)より引用。太字強調は筆者。)

第4 短答式試験の在り方

1 出題の在り方

 (中略)

 基本的知識が体系的に理解されているかを客観的に判定するために,幅広い分野から基本的な問題を多数出題するものとし,過度に複雑な出題形式とならないように留意する

(引用終わり)

 

 このことは、現在でも司法試験委員会決定において確認され、予備試験における短答式試験の実施方針においても留意事項とされています。

 

(「司法試験の方式・内容等の在り方について」(平成30年8月3日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

  短答式試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わない

(引用終わり)

(「予備試験の実施方針について」(平成21年11月11日司法試験委員会)より引用。太字強調は筆者。)

第2 短答式試験について

 (中略)

3 出題方針等

(1) 法律基本科目(憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法をいう。以下同じ。)

○ 幅広い分野から,基本的な事項に関する内容を多数出題するものとする。
新司法試験の短答式試験において,過度に複雑な形式による出題は行わないものとしていることにも留意する必要がある

(引用終わり) 

 

 短答は、出題形式や採点方法に工夫の余地が少ないのに対し、論文は、採点をブラックボックスにできるので、工夫の余地が大きいのです。そして、現在の方策は、外見上、法律の知識・理解が問われているように見えるので、年配者も気が付きにくい。不合格になっても、来年に向けて法律の知識・理解を深めようと努力してくれれば、その年配者を落とすことができるので、問題がないわけです(※3)。
 ※3 上記の「過度に複雑な形式による出題は行わない」ということから、「現在の司法試験の短答では難しい問題は出題されないはずだから、とても簡単だ。今の司法試験の合格者はレベルが低い。」等と言う人がいるようです。これまでに説明したとおり、実際には、「過度に複雑な形式による出題は行わない」とは、「法の知識・理解を問う気のない単なる国語のようなパズル問題は出題しない」という意味です。むしろ、現在の司法試験・予備試験の短答の方が、普通に知識・理解を問う出題になっています。そのことは、実際に短答式試験の問題(とりわけ刑法の問題)を解き比べてみれば、容易にわかることです。この種のいい加減な言説がまことしやかに流布されるのが、司法試験の世界です。騙されないようにしましょう。

4.ただ、前回の記事(「令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)でも説明したとおり、この若年化方策の効果が、薄まりつつあると思わせるような数字もみられるようになってきています。以下は、平成28年と今年の短答合格者ベースの論文合格率の比較表です。

年齢層 平成28年 令和2年
19歳以下 0% 23.0%
20~24歳 37.8% 37.1%
25~29歳 24.5% 27.9%
30~34歳 11.7% 16.9%
35~39歳 8.3% 6.2%
40~44歳 4.3% 5.0%
45~49歳 4.7% 5.3%
50~54歳 2.3% 5.0%
55~59歳 2.1% 2.0%
60~64歳 2.7% 0%
65~69歳 0% 0%
70~74歳 0% 0%
75~79歳 0% 0%
80歳以上 --- 0%
全体 17.6% 18.3%

 全体の論文合格率でみると、今年は、平成28年よりも0.7ポイント上昇しています。しかし、20代前半の論文合格率は、逆に0.7ポイント下落している。一方で、20代後半や30代前半が合格率を伸ばしていることがわかります(※4)。もっとも、昨年は、これとは違った結果となっており、今のところ、確立した傾向とはいえません(「令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)。まだはっきりとはしないものの、このような数字は、若年化方策の効果が薄れつつある兆しではないか、と感じさせるのです。当サイトが、規範の明示と事実の摘示の重要性を繰り返し説明し、平成27年からこれに特化した参考答案を掲載するようになったこともあって、若年化方策の手口が知られるようになってきたことが、影響しているのではないかとも感じます。もっとも、いまだに20代前半が圧倒的に強いことには変わりはない今年も、30代後半以降は相変わらず壊滅状態です。前回の記事(「令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明したとおり、現在のところ、規範と事実に大きな配点を置く出題傾向には直ちに大きな変化が生じそうな状況ではありません。年配の受験生は、若年化方策が採られていることを十分に理解した上で、意識して対策する必要があります。予備試験の受験生は、高齢になってくると、勉強方法が習慣化し、毎年のように、同じような勉強をひたすら続けるだけの毎日を送る傾向にあります。孤立して他者のアドバイスを受ける機会がなくなりがちであることも、影響しているのでしょう。今まで何年も信じて続けてきたことを否定するようで抵抗があるのはわかりますが、がむしゃらに勉強をしたのでは、何年経っても受かりやすくはなりません。高齢でも、意識して適切な対策をすれば不利を克服できることは、今年の司法試験の結果が示しています(「令和2年司法試験の結果について(8)」)。若年化方策を逆手に取ってやろう、というような気概を持って意欲的に対策をしたいものです。
 ※4 19歳以下が大幅に伸びているようにみえますが、これは母数が少ないことによるものです。

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