1.令和4年司法試験の出願状況(速報値)が公表されました。出願者は、3367人でした。以下は、直近5年の出願者数の推移です。
年 | 出願者数 | 前年比 |
平成30 | 5811 | -905 |
令和元 | 4930 | -881 |
令和2 | 4226 | -704 |
令和3 | 3754 | -472 |
令和4 | 3367 | -387 |
出願者は、昨年から387人減少しました。減少幅が縮まってきてはいるものの、それでも依然として大きな減少を続けています。仮に、毎年同じペースで減少を続ければ、8~9年で受験者数がほぼゼロになってしまいます。さすがにそれはない、というのが、直感的な結論です。実際のところはどうなのか、検討してみましょう。
2.そもそも、なぜ、司法試験の出願者は減少を続けているのか。従来は、法科大学院修了生の減少ということで、説明できました(※)。以下は、平成20年度以降の年度別の法科大学院入学定員数・実入学者数及び修了者数の推移です(「各年度修了者の令和3年までの司法試験合格状況」参照)。
※ 他に、予備試験合格者の増減も出願者の増減に影響しますが、ここ数年は大きな増減はありません(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)。
年度 | 入学定員 | 前年比 | 実入学者 | 前年比 | 修了者数 | 前年度比 |
平成20 | 5795 | --- | 5397 | --- | 4994 | +83 |
平成21 | 5765 | -30 | 4844 | -553 | 4792 | -202 |
平成22 | 4909 | -856 | 4122 | -722 | 4535 | -257 |
平成23 | 4571 | -338 | 3620 | -502 | 3937 | -598 |
平成24 | 4484 | -87 | 3150 | -470 | 3459 | -478 |
平成25 | 4261 | -223 | 2698 | -452 | 3037 | -422 |
平成26 | 3809 | -452 | 2272 | -426 | 2511 | -526 |
平成27 | 3169 | -640 | 2201 | -71 | 2190 | -321 |
平成28 | 2724 | -445 | 1857 | -344 | 1872 | -318 |
平成29 | 2566 | -158 | 1704 | -153 | 1622 | -250 |
平成30 | 2330 | -236 | 1621 | -83 | 1456 | -166 |
令和元 | 2253 | -77 | 1862 | +241 | 1307 | -149 |
令和2 | 2233 | -20 | 1711 | -151 | 1403 | +96 |
令和3 | 2233 | 0 | 1724 | +13 | --- | --- |
これまで、入学定員、実入学者、修了者のいずれもが一貫して減少を続け、司法試験出願者減少の主な要因となっていました。それが、直近では下げ止まりの傾向にあることがわかります。令和3年度修了見込者の実数は不明ですが、上記の推移をみる限り、大幅に減っているとは考えにくいでしょう。
したがって、直近の出願者の減少に関しては、「法科大学院修了生が減少したからだ。」という説明は難しいのです。
3.直近の出願者減少の主な要因は、司法試験の合格率の上昇にあります。合格率が上昇すると、不合格になって翌年受験しようとする滞留者が減少するので、出願者の減少要因となるのです。実際の数字をみてみましょう。ある年の滞留者については、前年の受験予定者から、前年の合格者数を差し引くことで、概数を求めることができます。ただし、5回目の受験生は翌年に受験することができないので、この数字からは除くことになる。こうして求めた直近5年の滞留者に関する数字をまとめたものが、以下の表です。
年 | 前年の 受験予定者数 (5回目を除く) |
前年の 合格者数 (5回目を除く) |
前年の 受験予定者ベース の合格率 (5回目を除く) |
前年の 受験予定者数 と合格者数の差 (5回目を除く) |
前年比 (変化率) |
平成 30 |
6195 | 1482 | 23.9% | 4713 | -1087 (-18.7%) |
令和 元 |
5189 | 1452 | 27.9% | 3737 | -976 (-20.7%) |
令和 2 |
4445 | 1413 | 31.7% | 3032 | -705 (-18.8%) |
令和 3 |
3703 | 1393 | 37.6% | 2310 | -722 (-23.8%) |
令和 4 |
3429 | 1374 | 40.0% | 2055 | -255 (-11.0%) |
合格率の上昇に伴い、滞留者(前年の5回目受験生を除く受験予定者数と合格者数の差)が急減に減ってきていることがわかります。高い合格率によって滞留者がどんどんはけて行き、再受験者が減っているというわけです。もっとも、合格率がこれ以上高くなると、法科大学院修了生の累積合格率が9割を超えてしまいかねません(「令和3年司法試験の結果について(2)」)。そのことからすれば、合格率の上昇も、そろそろ頭打ちとなるでしょう。それに伴って、滞留者の減少幅も小さくなるはずです。現に、直近の滞留者の減少幅は、それ以前と比較すると、かなり小さくなっています。今後は、合格率の上昇によって出願者がどんどん減るということにはならないでしょう。
4.上記のとおり、これまで存在した出願者の減少要因は、弱まっていく方向にあります。他方、来年から、在学中受験が可能となります。その影響で、来年は、出願者は増加に転じることになりそうです。