令和4年予備試験論文式試験の結果について(1)

1.令和4年予備試験論文式試験の結果が公表されました。合格点は255点合格者数は481人でした。以下は、予備試験論文式試験の合格者数及び合格点の推移です。年号の省略された年の表記は、平成の年号のものを指します。

論文
合格者数
合格者数
前年比
論文
合格点
合格点
前年比
23 123 --- 245 ---
24 233 +110 230 -15
25 381 +148 210 -20
26 392 +11 210
27 428 +36 235 +25
28 429 +1 245 +10
29 469 +40 245
30 459 -10 240 -5
令和元 494 +35 230 -10
令和2 464 -30 230
令和3 479 +15 240 +10
令和4 481 +2 255 +15

2.今年は、昨年から合格者数が2人増加しました。昨年とほぼ同水準といえるでしょう。一方で、合格点は15点上昇し、255点となりました。これは、予備論文史上最も高い点数です。どうして、このような結果となったのでしょうか。
 予備試験の論文の結果については、平成25年以降、以下の2つの基準によって、合格者数、合格点を説明することができました(「令和3年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。

(1)210点に累計で450人(平成28年までは400人。(2)において同じ。)以上存在しない場合は、210点が合格点となる。
(2)210点に累計で450人以上存在する場合は、5点刻みで初めて450人を超える点数が合格点となる(「450人基準」)。

 上記の2つの基準には、相応の正当化の理屈がありました。

3.上記の(1)は、「資格試験としてのあるべき運用に配意」すると、210点未満を合格点にするわけにはいかない、という理屈によって正当化される基準です。

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。
 これは、法科大学院修了者と予備試験合格者とが公平な競争となることが根源的に重要であることを示すものであり、法科大学院修了者と同等の能力・資質を有するかどうかを判定することが予備試験制度を設ける趣旨である。両者における同等の能力・資質とは、予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきであるという理念を意味する。

(引用終わり)

  予備試験の論文は各科目50点満点で、10科目です(「司法試験予備試験の実施方針について」)。したがって、210点というのは、1科目当たりにすると、21点。これは、一応の水準の下限の数字でした。

(「司法試験予備試験の方式・内容等について」より引用。太字強調は筆者。)

(2) 各答案の採点は,次の方針により行う。

ア 優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。

イ 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。

ウ 良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。

エ 上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

  優秀 良好 一応の水準 不良  
  50点から38点
(48点)
37点から29点 28点から21点 20点から0点
[3点]
 

(引用終わり)

 210点未満を合格させてしまうことは、不良の水準でも合格させてしまうことを意味する。それは、「資格試験としてのあるべき運用に配意」すると、許されない、ということです。

4.上記の(2)の「450人基準」は、閣議決定の「予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させる。」とは、うまく行っていない法科大学院修了者の合格率に予備試験合格者の合格率を合わせるという意味ではなく、法科大学院修了者の合格率を引き上げる方策を検討すべきであるという趣旨であるから、法科大学院がうまく行っていない現状においては、予備試験合格者数をこれ以上増やすべきではない、という理屈によって、正当化される基準でした。

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。
 これは、法科大学院修了者と予備試験合格者とが公平な競争となることが根源的に重要であることを示すものであり、法科大学院修了者と同等の能力・資質を有するかどうかを判定することが予備試験制度を設ける趣旨である。両者における同等の能力・資質とは、予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきであるという理念を意味する。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第8回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

吉戒修一(元東京高裁長官)顧問 「予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させる」ということが書いてあるので、これをどう読むかです。……(略)……今の時点で予備試験合格者に占める本試験合格者の割合は約7割です。それに対し、法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合は約3割です。本来、法科大学院修了者の司法試験合格率は7~8割というのが目標ですから、現在は、それにはるかに及ばない、3割という低いところにいるわけです。したがって、これを7~8割までに引き上げるべきと読めるかと思います。これを低減させる方向で、つまり、法科大学院修了者の3割のラインに予備試験合格者の水準も下げるというのはおかしいだろうと思います。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第9回山根顧問提出資料より引用。太字強調は筆者。)

 予備試験の合格者数に関しては,「規制改革推進のための3か年計画」の存在が問題視されているが、この閣議決定は“両方のルートからの司法試験合格率がどちらも7~8割”となるという形での均衡を言っているのであって、法科大学院修了者の司法試験合格率が3割を切るという当時想定していなかった現状の中で、それに合わせて予備試験合格者を増加すべきと言っているものではないと考える。従って法科大学院制度の改革が進み、修了生が7~8割司法試験に合格できるようになるまでの当面の間は予備試験合格者の数を現状維持、あるいは減少させることが適当であると考える。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第61回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

土井真一(京都大学大学院法学研究科教授)委員  政府の規制改革推進3か年計画の中で、新司法試験の合格率において、予備試験合格者と法科大学院修了者の間で可能な限り差異が生じないようにすべきであると指摘されていますけれども、しかし、これは本来法科大学院が期待されていた役割を十全に果たしているという状況を前提にして、それと比べて予備試験合格者を不公平に取り扱わないという趣旨だったものだと私は理解しております。決して課題を抱えている法科大学院の現状に予備試験を合わせていって、法科大学院が抱えている課題をより深刻にするというようなことを意図しているわけではないと思います。その意味では、対症療法の一つとして、この閣議決定が間違っているというわけではなくて、本来の趣旨というものを適切に理解した上でその運用をお考えいただくということが大変重要なことではないかと思います。

片山直也(慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)委員長・教授)委員 仮にこの閣議決定に拘束力があることを前提に、今合格率の均衡を図る必要があるということだとしましても、その方法はいろいろ考えられるわけでありまして、その均衡を達成するために予備試験の合格者数を増やすというのは、これは本末転倒の議論ではないかという印象を受けております。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第8回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

有田知德(元福岡高検検事長)顧問 私、この前にもお話ししましたように、もう土俵が全く違ってきているのではないかなという感じを持っているのです。ですから、これはこれとして、今、射程範囲を超えた状況にあるわけですから、現状をどうするのかという視点で見た場合、一応、これは横に置いておくという措置しか私はないと。それで、その横に置いておくための理由付けをどうするのかというのをもう少し肉づけした上で、みんなに分かっていただくような方法がいいのではないのか。

橋本副孝(元日弁連副会長)顧問 私としては、現状、国として、法科大学院の卒業生に関して、一方で7~8割は受かるという目標設定をして、それを達成するための施策を立案し、実行している過程にある。他方で、予備試験合格者について、書かれているように法科大学院の卒業生と合格率の点で均衡させることを謳っている。こういう状態なのですから、国としては、この両方の要請を満たす形で考えないと、方針として一貫しないのではないかと思います。
 そういう意味で、両方を整合させて考えるのであれば、低い方の合格率に合わせて全体の制度を設計するというのは……(略)……前提が違うのではないかと思います。ここからどういう対応策を導くかという議論はあるとは思いますが、ただ、両者の要請があることを前提としたものにしないと政策として一貫しませんし、本来の趣旨が生きないのではないかと考えています。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第10回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

納谷廣美(前明大学長)座長 現状では、法科大学院修了者の司法試験合格率について、累積合格率が約7割と当初目指していた水準にほぼ達する法科大学院がある一方、累積合格率が全国平均(約5割)の半分未満の法科大学院も相当数あり、全体として法科大学院修了者の約5割(単年では約3割弱)しか司法試験に合格していないことから、法科大学院全体としては大きな課題を抱えており、極めて深刻な事態である。このように認識している。
 一方、平成23年から始まった予備試験については、これまでの実績を見ると、合格者の司法試験合格率が単年で7割程度で推移している。しかし、法務省の公表データ、今日のデータもありますが、自己申告によるものではあるが、予備試験に合格した者のうち法科大学院生と大学生が占める割合は高く、彼らのほとんどが司法試験に合格しており、その現象は増大傾向にあることが読み取られる。上記閣議決定当時には想定されていなかった事態が生じていると思います。このことから、予備試験合格者の司法試験合格率と、法科大学院修了者の司法試験合格率を単純に比較することは適当でないと思います。
 以上の問題状況に鑑みると、法科大学院教育については、その教育内容、水準及び質を早急に根本的に改善・充実させることが必要であるところ、法科大学院制度と予備試験制度との関係が当初想定されていた姿となっていない現状においては、予備試験の合否の判定を現状の法科大学院修了者の水準に合わせることは適当ではない
 こんなところでまとまるかなと思ってペーパーにまとめました。言葉は言い尽せないところもありますし、もう少し付加したいところもあるのですが、おおよそ閣議決定についてはこのように考えていけたらどうなのだろうか。このように顧問会議の御意見を集約させていただいたところでございます。

(引用終わり)

 現状では、予備試験合格者の方が、法科大学院修了生よりはるかに合格率が高いですから、合格率均衡の要請は、本来は予備試験合格者を増やす方向で作用するはずです。もっとも、この合格率均衡の要請は、現在のように法科大学院在学生が予備試験を受験できる状況の下では、額面どおりに実行することができないことは明らかです。すなわち、予備試験の合格者を増やすと、その分だけ法科大学院在学生が予備に受かりやすくなり、上位者からどんどん合格していきます。先に予備試験に受かった上位者と、在学中に予備試験に受からなかった法科大学院修了生とを比較するわけですから、両者の合格率が均衡するはずはありません。どんどん予備試験を簡単にしても、その簡単な予備試験にすら受からない修了生と比較すれば、常に予備合格者の合格率の方が高くなるのは当たり前です。結局、合格率均衡とは、際限なく予備合格者を増やすことを意味することになる。その先にあるのは、「予備試験が簡単過ぎて法科大学院在学生が全員合格してしまい、わざわざ法科大学院を修了する人がいなくなる。」という状況です。法科大学院制度を前提とする限り、これは受け入れられない帰結でしょう。上記(2)の「450人基準」は、このような際限のない予備試験合格者の増加を抑制するものといえます。

5.以上のことを踏まえて、今年の結果をみてみましょう。まず、基準(1)の「210点に累計で450人以上存在しない場合は、210点が合格点となる。 」との関係を調べます。法務省の公表する得点別人員調によると、210点を取った者は1402人います。したがって、基準(1)によっては、合格点は決まりません。では、基準(2)との関係は、どうか。以下は、合格点である255点前後の累計人員の抜粋です。

得点 人員
265 356
260 416
255 481
250 557
245 647

 5点刻みで初めて450人を超える点数は、255点です。すなわち、今年の結果は、上記の(2)の「450人基準」によって説明が付く平成25年以降の予備試験論文式試験の合格者数の決定方法は、平成29年に基準人数が400人から450人へと変わったほかは一貫しているといえるでしょう。平成29年以降の論文合格者数の増減は、合格点前後の人員分布がどうなっていたかということによる偶然の結果です。

6.もっとも、この結果は、とても意外なことです。なぜなら、短答式試験の合格者数が、2年連続で意図的に増やされていたからです。このことについては、以前の記事(「令和4年予備試験短答式試験の結果について(1)」)で説明していました。

(「令和4年予備試験短答式試験の結果について(1)」より引用。太字強調は原文による。)

 一昨年が「2500人基準」、昨年が「2700人基準」、そして今年は「2800人基準」ということになり、意図的な短答合格者数の増加が続いていることになります。

 (中略)

 平成25年以降、論文合格率は19%前後で推移していることがわかります。短答合格者数と論文合格者数をバラバラに決めていたら、ここまで安定した数字にはならないでしょう。このことから、論文合格者数を見越して、短答合格者数を調整してきたのだろう、と考えることができます。……(略)……そうすると、短答合格者数を意図的に増加させることは、同時に、論文合格者数の増加を見込んでいることをも意味するはずです。

 (中略)

 仮に、今年も論文で、「450人基準」が維持された場合には、17%に近い合格率になるのに対し、「500人基準」が採用された場合には、19%に近い合格率になるだろうと予測できます。これまで、論文合格率を19%くらいに調整するつもりで短答合格者数が決められてきたとすれば、論文で「500人基準」を採用することを見越して、今年の短答合格者を増加させたのだ、と考えるのが自然です。

(引用終わり)
 

 当初から論文合格者を従来どおりの水準にとどめるつもりならば、短答合格者を増やす必要はないはずです。実は、昨年も、同じような状況でした。

(「令和3年予備試験論文式試験の結果について(1)」より引用。太字強調は原文による。)

 そうなると、どうして短答式試験の合格者数を増加させたのか、という疑問が残ります。おそらくは、短答段階では論文合格者500人強を想定していたものの、論文段階でそれが覆されたのでしょう。過去の例でよく耳にしたのは、「論文の出来が予想外に悪かった。」というような話です。しかし、今年は昨年より合格点が10点高い(平均点も5点ほど高い。)わけですから、その可能性は低いと思います。
 考えられるのは、短答段階では、事務局側が論文合格者500人強を想定して「2700人基準」に基づく短答合格者数を提案し、その時はそれで問題なく了承されたが、実際に論文合格判定段階で「500人基準」に基づく論文合格者数を提案したところ、「論文合格者を増やすとは聞いていない。」などと強い反対論が出て、従前どおり「450人基準」によることになった、という仮説です。これは全くの憶測ですが、法科大学院に近い考査委員から、「今は法曹コースの創設や在学中受験を可能とする等の改革が緒に就いたばかりの時期である。このような時期に予備試験合格者を増加させてしまえば、やはり予備ルートが早道であるという誤ったメッセージを送ることになりかねず、法科大学院を目指す学生の意欲をそいでしまいかねない。当面は新たな改革の成果を見極めるべきであり、拙速に予備試験の合格者を増加させるべきではない。」というような反対論が出たのかもしれません。今年の司法試験の結果は、「ほぼ予備組全員合格」という様相を呈していますから、これを見て、「予備合格者を増やせば、増やした分だけ法科大学院修了生の合格枠が減ってしまう。」という強い危機感を生じさせたということもあるのかもしれません。

(引用終わり)

 今年に関しても、合格点は過去最高の水準ですから、「全体の出来があまりに悪かったから」という理由ではなさそうです。では、今年もイレギュラーな形で反対論に押し切られたのか。昨年そのようなことがあったのであれば、次の年はきちんと調整をするはずです。2年連続で同じことになるだろうか。疑問が残ります。

7.今後も、予備試験合格者数を450人強の水準に据え置き続けるとすれば、これをどのように説明するのか、という問題が生じてくるでしょう。今年の司法試験における予備組の合格率は、97.5%でした(「令和4年司法試験の結果について(8)」)。仮に、合格率均衡の意味を、「ロー修了生の合格率を高めることによって達成する趣旨だ。」と解釈するとしても、ロー修了生の合格率を97.5%にするということは考えられないことです。合格率を均衡させるためには、ロー修了生の合格率を高めるだけでなく、予備組の合格率をある程度(例えばあるべきロー修了生の水準とされる累積合格率8割に相当する程度)まで下げる方策も必要であることは明らかです。その方策としては、予備試験合格者を増加させるくらいしかないでしょう。現時点では、前記4のような理屈では、もはや予備試験合格者の増加を抑制する理由とすることが難しい状況に至っているのです。
 法務省は、現時点でどのような説明をしているのか。今年の3月の時点において、法務省は従来どおりの説明を繰り返しています。

衆院法務委員会令和4年3月9日より引用。太字強調は筆者。)

階猛(立民)委員 予備試験の合格者と法科大学院修了者、この二つが司法試験の受験者となるわけです。ところが、同じ試験を受ける二つのカテゴリーの中で、合格率が大きく違うという問題があります。……(略)……直近で司法試験の合格率は四一・五%です。そのうち、ロースクールを終えて受験した人の合格率は三四・六二%、予備試験に合格して司法試験に受かった人は何と九三・五%です。物すごい合格率の差があるわけですね。

 (中略)

 この異常な状態を招いていることによって何が生じているかというと……(略)……予備試験合格者は四百人ぐらいしかいません。一方で、政府は合格者の枠を千五百人めどということに定めています。四百人が予備試験枠、予備試験合格者の枠、残り千百人が、今、毎年千八百人ぐらいしか入らない法科大学院修了者の枠なんですよ。
 いいですか。片や、一万何千人受けて四百人しか通らない予備試験、これを何とか通って司法試験を受けると、一〇〇%に近い確率で司法試験に合格する。他方で、法科大学院は、二千人も入らない法科大学院の方々が毎年千百人の枠を与えられて、千百人の合格枠に二千人弱の中から入るという非常に緩い制度になっているわけです。
 要するに、受験機会、合格する機会、これが両者の間で大きく違いがあるわけで、これを是正しないと、とてもではないけれども、司法試験の受験機会の平等であるとか公正さが保たれないと思うわけですけれども、こうした状況を改善する、もしお考えがあれば、具体策とともにお答えください。

古川禎久国務大臣 両者において合格率に相当な開きが出ているというのは、これはもう一目瞭然でありますし、それが司法試験法五条の期待する姿ではない状態であるということもおっしゃるとおりです。これを均衡させる、均衡した姿がやはり望ましいということについては全くそのとおりでございます。
 では、どのようにしてそれを実現するかという、そのアプローチとしてなのでございますが、法科大学院修了資格者の合格率を高めていくということが一つのアプローチだと、私は大事なアプローチだと思っておりまして……(略)……つまり合格率が均衡するように、そういう方向を目指して、法科大学院修了者の合格率を上げていくということを目標に今進めているところです。
 累積合格率も七割ぐらいになってきているというふうにも聞いていますし、方向としてはあるべき方向に向かっているのではないかと認識しているところです。

(引用終わり)

 しかし、前記のとおり、この説明は、早晩維持することができなくなるはずです。「法曹コースの運用が安定するまで現状維持で」というのは1つの説明ですが、100%に近い予備組合格率を正当化するにはちょっと弱い感じです。このような場合でも、頑張って何かしらの説明をひねり出すのが官僚の仕事ですが、これに関しては、なかなか理屈を考えるのは難しそうです。

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