1.令和4年予備試験短答式試験の結果が公表されました。合格点は159点。合格者数は、2829人でした。合格点は昨年より3点下がり、合格者数は昨年より106人増加しています。受験者合格率は、21.7%でした。
2.以下は、合格点、合格者数等の推移です。
年 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答 合格率 |
短答 合格点 |
平成23 | 6477 | 1339 | 20.6% | 165 |
平成24 | 7183 | 1711 | 23.8% | 165 |
平成25 | 9224 | 2017 | 21.8% | 170 |
平成26 | 10347 | 2018 | 19.5% | 170 |
平成27 | 10334 | 2294 | 22.1% | 170 |
平成28 | 10442 | 2426 | 23.2% | 165 |
平成29 | 10743 | 2299 | 21.3% | 160 |
平成30 | 11136 | 2612 | 23.4% | 160 |
令和元 | 11780 | 2696 | 22.8% | 162 |
令和2 | 10608 | 2529 | 23.8% | 156 |
令和3 | 11717 | 2723 | 23.2% | 162 |
令和4 | 13004 | 2829 | 21.7% | 159 |
短答式試験の合格点、合格者数については、その背後にある一定のルールを読み取ることで、傾向の変化やその意味を理解することができます。平成25年から平成29年までは「2000人基準」、すなわち、「5点刻みで、最初に2000人を超えた得点が合格点となる。」というルールで、説明ができました(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。この時期の合格者数の増減は、意図的なものではなく、全くの偶然だったのでした。平成30年は、それが「2500人基準」へと、変更されたようにみえたのでした(「平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。それでも、「5点刻み」というルールは、維持されていたのでした。
それが、令和元年になって、初めて5点刻みではない合格点となりました。それは、5点刻みの「2500人基準」とすると、合格者数が2911人となって、多くなり過ぎるということを考慮したのではないか、と思われたのでした(「令和元年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。そして、一昨年は、1点刻みの「2500人基準」で説明でき、これは、受験者数が1万人強で推移する状況の下では、合格点前後の1点に100人弱の人員が存在するので、5点刻みだと偶然の事情で500人弱の合格者数の変動が生じてしまいかねないことを踏まえ、1点刻みとすることとしたのではないか、と考えられたのでした(「令和2年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
さらに、昨年は、1点刻みの「2700人基準」で説明できる合格者数となり、意図的に短答合格者を200人程度増やそうとしたと考えられたのでした(「令和3年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
今年は、どうだったのでしょうか。159点という合格点から、5点刻みでなかったことは明らかです。では、昨年同様の1点刻みの「2700人基準」だったのか。確認してみましょう。以下は、法務省の得点別人員調から、合格点である159点前後の得点の人員数をまとめたものです。
得点 | 人員 | 累計 人員 |
161 | 109 | 2604 |
160 | 114 | 2718 |
159 | 111 | 2829 |
158 | 111 | 2940 |
157 | 117 | 3057 |
昨年と同じ1点刻みの「2700人基準」であれば、合格点は160点で、合格者数は2718人、受験者合格率は20.9%となります。2700人強の合格者数を想定していたのであれば、合格点のキリもよいし、合格率も極端に低いというわけではなく、それなりに無難な数字です。しかし、実際の合格点は、それより1点低い159点。合格者数は2829人でした。1点刻みの「2700人基準」では、説明が付かない数字です。単純に考えると、これは1点刻みの「2800人基準」になった、ということなのでしょう。仮にそうなのであれば、一昨年が「2500人基準」、昨年が「2700人基準」、そして今年は「2800人基準」ということになり、意図的な短答合格者数の増加が続いていることになります。
3.仮に、意図的な短答合格者数の増加が続いているとすると、それはどのような意味を持つのか。以下は、これまでの論文の受験者数、合格者数及び論文合格率(論文受験者ベース)の推移をまとめたものです。
年 (平成) |
論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 |
23 | 1301 | 123 | 9.4% |
24 | 1643 | 233 | 14.1% |
25 | 1932 | 381 | 19.7% |
26 | 1913 | 392 | 20.4% |
27 | 2209 | 428 | 19.3% |
28 | 2327 | 429 | 18.4% |
29 | 2200 | 469 | 21.3% |
30 | 2551 | 459 | 17.9% |
令和元 | 2580 | 494 | 19.1% |
令和2 | 2439 | 464 | 19.0% |
令和3 | 2633 | 479 | 18.1% |
平成25年以降、論文合格率は19%前後で推移していることがわかります。短答合格者数と論文合格者数をバラバラに決めていたら、ここまで安定した数字にはならないでしょう。このことから、論文合格者数を見越して、短答合格者数を調整してきたのだろう、と考えることができます。すなわち、平成25年から平成29年までは、論文合格者数を400人強とすることを見越して、短答合格者数が2000人強となるように、「2000人基準」を採用していた。現に、この時期の論文合格者数は、「400人基準」で説明できたのでした(平成29年は例外で、過渡期の数字だったといえます(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。)。そして、平成30年から一昨年までは、論文合格者数を450人強とすることを見越して、短答合格者数が2500人強となるように、「2500人基準」を採用した。現に、この時期の論文合格者数は、「450人基準」で説明できたのでした(「令和2年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。
そうすると、短答合格者数を意図的に増加させることは、同時に、論文合格者数の増加を見込んでいることをも意味するはずです。
ところが、昨年は、「2700人基準」が採用され、短答合格者が200人程度増加したにもかかわらず、論文では「450人基準」が維持されたのでした(「令和3年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。その結果、論文合格率は、18.1%という低めの水準となっています。
今年、「2800人基準」を採用し、昨年よりさらに100人程度短答合格者を増やしたということを、どうみるか。簡単なシミュレーションをしてみましょう。近時の論文の受験率が96%程度である(「令和4年予備試験の出願者数について(2)」)ことから、今年の論文受験者数は、2829×0.96≒2715人と推計できます。これを基礎に、論文合格者数が470人だった場合(「450人基準」を想定)と、520人だった場合(「500人基準」を想定)で論文合格率を算出すると、以下のようになります。
年 (平成) |
論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 |
令和4 | 2715? | 470? | 17.3%? |
520? | 19.1%? |
仮に、今年も論文で、「450人基準」が維持された場合には、17%に近い合格率になるのに対し、「500人基準」が採用された場合には、19%に近い合格率になるだろうと予測できます。これまで、論文合格率を19%くらいに調整するつもりで短答合格者数が決められてきたとすれば、論文で「500人基準」を採用することを見越して、今年の短答合格者を増加させたのだ、と考えるのが自然です。昨年の司法試験の予備試験合格者の異常に高い合格率(「令和3年司法試験の結果について(8)」)からも、そうなりそうな感じがします。もちろん、昨年がそうだったように、何らかのイレギュラーな事情(「令和3年予備試験論文式試験の結果について(1)」)が働いて、これまでどおり「450人基準」が維持される可能性も否定はできないでしょうが、その可能性は、昨年よりさらに低くなっているといえるでしょう。