1.令和5年司法試験の受験予定者が公表されています(※1)。受験予定者は、4165人でした。以下は、直近5年の受験予定者数の推移です。今年から在学中受験が可能となりましたので、比較のため、今年の数字については、括弧書で在学中受験を除いたものを記載しました。
※1 例年は法科大学院修了見込者を含む出願者数をまず公表し、修了が確定した段階で受験予定者数を公表するという取扱いになっていましたが、出願時期が後倒しになった関係で、今年からは受験予定者のみ公表する扱いになっています。
年 (令和) |
受験予定者数 | 前年比 |
元 | 4899 | -827 |
2 | 4100 | -799 |
3 | 3733 | -367 |
4 | 3339 | -394 |
5 | 4165 (3051) |
+826 (-288) |
これまでずっと減少傾向でしたが、今年は、昨年より大きく増加しています。今年から在学中受験が可能となることから、当サイトでは、受験者数が1000人くらい押し上げられても不思議ではない、と予測していました(「令和4年司法試験の結果について(2)」)。実際には、在学中受験資格に基づく受験予定者は1114人でした。これが、今年の受験予定者の増加要因となっています。もっとも、これは制度変更による一時的な現象です。在学中受験を除いた数字をみると、減少幅は縮まってきているものの、依然として減少を続けています。この調子だと、来年は、また減少に転じるでしょう。仮に、来年以降も300人くらい減少を続けたとすると、10年強で受験者がいなくなってしまいます。さすがに、そんなはずはない、ということは直感でわかりますが、実際のところはどうなのか、検討してみましょう。
2.そもそも、なぜ、司法試験の受験者は減少を続けているのか。従来は、法科大学院修了生の減少ということで、説明できました(※2)。以下は、平成25年度以降の年度別の法科大学院入学定員数・実入学者数及び修了者数の推移です(「各年度修了者の令和4年までの司法試験合格状況」、「志願者数・入学定員数・入学者数・入学定員充足率の推移」参照)。
※2 他に、予備試験合格者の増減も受験者の増減に影響しますが、ここ数年は大きな増減はありません(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)。
年度 | 入学定員 | 前年比 | 実入学者 | 前年比 | 修了者数 | 前年度比 |
平成25 | 4261 | -223 | 2698 | -452 | 3037 | -422 |
平成26 | 3809 | -452 | 2272 | -426 | 2511 | -526 |
平成27 | 3169 | -640 | 2201 | -71 | 2190 | -321 |
平成28 | 2724 | -445 | 1857 | -344 | 1872 | -318 |
平成29 | 2566 | -158 | 1704 | -153 | 1622 | -250 |
平成30 | 2330 | -236 | 1621 | -83 | 1456 | -166 |
令和元 | 2253 | -77 | 1862 | +241 | 1307 | -149 |
令和2 | 2233 | -20 | 1711 | -151 | 1403 | +96 |
令和3 | 2233 | 0 | 1724 | +13 | 1321 | -82 |
令和4 | 2233 | 0 | 1968 | +244 | --- | --- |
これまで、入学定員、実入学者、修了者のいずれもが一貫して減少を続け、司法試験受験者減少の主な要因となっていました。それが、直近では下げ止まりの傾向にあることがわかります。実入学者に関しては、むしろ、増加傾向に転じそうにもみえる。令和4年度修了者の実数は不明ですが、上記の推移をみる限り、大幅に減っているとは考えにくいでしょう。
したがって、直近の受験者の減少に関しては、「法科大学院修了生が減少したからだ。」という説明は難しいのです。
3.直近の受験者減少の主な要因は、司法試験の合格率の上昇にあります。合格率が上昇すると、不合格になって翌年受験しようとする滞留者が減少するので、受験者の減少要因となるのです。実際の数字をみてみましょう。ある年の滞留者については、前年の受験予定者から、前年の合格者数を差し引くことで、概数を求めることができます。ただし、5回目の受験生は翌年に受験することができないので、この数字からは除くことになる。こうして求めた直近5年の滞留者に関する数字をまとめたものが、以下の表です。
年 (令和) |
前年の 受験予定者数 (5回目を除く) |
前年の 合格者数 (5回目を除く) |
前年の 受験予定者ベース の合格率 (5回目を除く) |
前年の 受験予定者数 と合格者数の差 (5回目を除く) |
前年比 (変化率) |
元 | 5189 | 1452 | 27.9% | 3737 | -976 (-20.7%) |
2 | 4445 | 1413 | 31.7% | 3032 | -705 (-18.8%) |
3 | 3703 | 1393 | 37.6% | 2310 | -722 (-23.8%) |
4 | 3429 | 1374 | 40.0% | 2055 | -255 (-11.0%) |
5 | 3111 | 1361 | 43.7% | 1750 | -305 (-14.8%) |
合格率の上昇に伴い、滞留者(前年の5回目受験生を除く受験予定者数と合格者数の差)が減ってきていることがわかります。高い合格率によって滞留者がどんどんはけて行き、再受験者が減っているというわけです。もっとも、合格率がこれ以上高くなると、法科大学院修了生の累積合格率が9割を超えてしまいかねません(「令和4年司法試験の結果について(2)」)。そのことからすれば、合格率の上昇も、そろそろ頭打ちとなるでしょう。それに伴って、滞留者の減少幅も小さくなるはずです。現に、直近の滞留者の減少幅は、それ以前と比較すると、小さくなっています。今後は、合格率の上昇によって受験者がどんどん減るということにはならないでしょう。
4.上記のとおり、これまで存在した受験者の減少要因は、弱まっていく方向にあります。今年の受験者増は在学中受験による一時的なもので、来年は再び減少に転じるものの、その減少幅は小さくなるだろう、というのが、当サイトの予測です。