準相手方に関するポイント
(令和5年司法試験公法系第2問)

1.今年の行政法設問1(2)では、相手方に準ずる者(「準名宛人」と略称されることもありますが、ここでは、「司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】」に準拠して「準相手方」と表記します。なお、「相手方」、「名宛人」、「名あて人」の異同については、同書の「不利益処分の相手方の原告適格」の項目の※注において、詳しく説明しています。)が問われました。合否を分けるポイントは、一般的な「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)の定義を示せるか、法40条1項5号、44条1項を摘示できるかです。前者は、初学者でも覚えていなければならないレベルの定義。後者は、知識がゼロでも現場で探せば見付けられる条文です。これらをクリアできれば、当サイト作成の参考答案(その1)のレベルのものは、書くことができます。

問題文より引用)

(評議員の資格等)
第40条 次に掲げる者は、評議員となることができない。
 一~四 (略)
 五 第56条第8項の規定による所轄庁の解散命令により解散を命ぜられた社会福祉法人の解散当時の役員
 六 (略)

 (中略)

(役員の資格等)
第44条 第40条第1項の規定は、役員について準用する。
2~7 (略)

(引用終わり) 

 

(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。)

(1)「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(小田急高架訴訟判例参照)
 処分の相手方は当然に上記の者に当たるが、相手方に準ずる者も、同様に上記の者に当たる。
 本件解散命令により、DはAの業務執行理事の地位を失うだけでなく、評議員及び役員となることができなくなる(法40条1項5号、44条1項)。
 したがって、Dは本件解散命令の相手方に準ずる者といえる。

(2)よって、Dに原告適格が認められる。

(引用終わり)

 「論証集グルグル」のようなインプットをメインで勉強していて、現場で法40条1項5号、44条1項を見付けられなかった、という人は、演習不足が原因でしょう。演習慣れしていれば、当たり前のように、「何か関係ある条文あるやろ。」という目で順番に上から条文を見ていって、関係ありそうなやつを引っ張ってくるという作業に入るはずで、これをやれば容易に発見できる条文でした。

2.上位か否かを分けるポイント。それは、滞納者持分差押事件判例の規範を示すことができたか、「権利」と「法律上保護された利益」の峻別を意識できていたかどうかです。規範を覚えていた人は、侵害される対象が「権利」であって、「法律上保護された利益」でないことは、無意識のうちに答案に書くことができたでしょう。

(滞納者持分差押事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第99号同53年3月14日第三小法廷判決・民集32巻2号211頁(※注:主婦連ジュース事件判例を指す。)、最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁(※注:もんじゅ訴訟判例を指す。)等参照)。そして、処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には、その者は、処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に、当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり、その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

(引用終わり)

 

(「司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】」より引用)

・権利制限による準相手方の原告適格
重要度:B

 処分の相手方以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には、その者は、処分の相手方に準じ、その処分により自己の権利を侵害される者に当たる(滞納者持分差押事件判例参照)。

(引用終わり)

 

 もっとも、これを事前に準備して覚えていた人は、少数だったのではないかと思います。ちなみに、「権利」と「法律上保護された利益」の峻別については、「司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】」の「「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)の定義」の※注及び「権利制限による準相手方の原告適格」の※注において、詳しく説明しています。
 演習慣れしている人は、当てはめ要素になりそうな条文を探しているうちに、「法36条1項、43条、45条の13、45条の16とかは、多分ここで使うんだろうな。」と直感する。理屈は分からないけれど、とりあえず、「権利」の当てはめ要素として摘示しておくか。これが、実戦的なセンスというものです。さらに、その意味付けまでできていれば完璧ですが、現場でそこまでできた人はほとんどいないでしょう。

問題文より引用)

(機関の設置)
第36条 社会福祉法人は、評議員、評議員会、理事、理事会及び監事を置かなければならない。
2 (略)

 (中略)

(理事会の権限等)
第45条の13 理事会は、全ての理事で組織する。
2 理事会は、次に掲げる職務を行う。
 一 社会福祉法人の業務執行の決定
 二 理事の職務の執行の監督
 三 理事長の選定及び解職
3 理事会は、理事の中から理事長一人を選定しなければならない。
4、5 (略)

(理事の職務及び権限等)
第45条の16 理事は、法令及び定款を遵守し、社会福祉法人のため忠実にその職務を行わなければならない。
2 次に掲げる理事は、社会福祉法人の業務を執行する。
 一 理事長
 二 理事長以外の理事であつて、理事会の決議によつて社会福祉法人の業務を執行する理事として選定されたもの
3 前項各号に掲げる理事は、3月に1回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。(以下略)
4 (略)

(引用終わり) 

 

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

1.取消訴訟は、判決の形成力によって処分の法的効果として個人に生じている権利利益の侵害状態を解消させ、その回復を図ることを目的とし、「法律上の利益」(行訴法9条1項)とは、このような権利利益の回復を指す。したがって、「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(小田急高架訴訟判例参照)。
 不利益処分の相手方には、当然に原告適格がある。不利益処分は相手方に直接に義務を課し、又はその権利を制限する処分である(行手法2条4号柱書)から、相手方は自己の権利を侵害される者に当たるためである。同様に、処分の相手方以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には、その者は、処分の相手方に準じ、その処分により自己の権利を侵害される者に当たる(滞納者持分差押事件判例参照)

2.解散命令の効果により、相手方である社会福祉法人は解散(法46条1項6号)するが、その役員も、その地位を失うとともに、評議員・役員となる資格を失う(法40条1項5号、44条1項)という効果を受ける。役員の地位や評議員・役員となる資格は、いずれも外延・帰属の明確な法的地位であって、評議員・役員が社会福祉法人の必要的機関(法36条1項)として様々な権限(法43条、45条の13、45条の16第2項)を有することに照らせば、「権利」というを妨げない
 以上から、解散命令当時の役員は、解散命令の相手方に準じ、解散命令により自己の権利を侵害される者として、「法律上の利益を有する者」として原告適格が認められる。

3.Dは、本件解散命令当時の業務執行理事であるから、本件解散命令の取消訴訟の原告適格が認められる。

(引用終わり)

 ここは、必要な文字数が少ない割に、配点が高め(25点)なので、見た目以上に合否に影響するでしょう。

3.準相手方は、昨年の予備試験でも問われていました(「令和4年予備試験論文式行政法参考答案」)。昨年予備試験に合格して、今年司法試験を受験した人は、「またかよ。」と思ったことでしょう。このように、予備試験と司法試験では、論点が重なることがそれなりにあります。なので、予備試験の受験生は、司法試験の論文問題も解くべきですし、司法試験の受験生は、予備試験の論文問題も解くべきなのです。 

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