1.今年の民法設問1(1)では、配偶者短期居住権が問われました。現場で条文を引くことができたかどうかで、合否が分かれるでしょう。このような場合、全く知識がゼロだと、そもそも条文があることすら知らないので、かつての判例法理を挙げて使用貸借構成を書くことになってしまいやすい(「使用貸借構成について(令和5年司法試験民事系第1問)」)。最低限、「これ何か改正あったよね。」程度は知っておく必要があったでしょう。その程度の知識があれば、「どっかに条文があるはずだ。」という意識になりますから、手元の法文から探すことになる。ここで差が付くのは、「まず目次を確認するか否か。」です。
2.一般に、条文の数が多く、規定する内容が多岐にわたる法令については、目次を置くこととされています。これは、「法令形式ノ改善ニ関スル件」(大正15年6月1日内閣訓令)に基づく取扱いです。
(「法令形式ノ改善ニ関スル件」(大正15年6月1日内閣訓令)より引用。太字強調、※注及び現代表記化は筆者。) 法文の記述については、その内容を整理配列するに当たり、実用を主眼とし懇切を旨とすることに意を用い、出来得る限り、国民の労力と時間とを要せざらしむるに努むべし。この故に、例えば、大法典については内容の目録(※注:目次を指す。)を付し、章節の分かち方に意を注ぎ……(以下略) (引用終わり) |
民法は、明らかに上記でいう「大法典」なので、目次があります。司法試験で出題される法令はほとんどが「大法典」なので、目次があるのが通例ですが、中には「大法典」扱いされていないものもあります。手形法や小切手法がその例で、改めて確認してみると、目次がないことに気が付くでしょう。
3.そんなわけで、「何か改正で新設された条文あるかな。」という目で民法の目次をみてみると、以下の部分に目が行くはずです。
(参照条文)民法 目次 (中略) 第八章 配偶者の居住の権利 第一節 配偶者居住権(第千二十八条―第千三十六条) |
「これじゃん。」と思う。同時に、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の両方があることにも気付く。「どっち?」と思ったら、それぞれの冒頭の条文を確認するしかないでしょう。
(参照条文)民法 1028条(配偶者居住権) 1037条(配偶者短期居住権)
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両者を対照すれば、「本問は配偶者短期居住権の方だよね。」と判断できたでしょう。目次で確認しないでいきなり条文を引き始めた人は、1028条を発見した段階で、「これだ!よくわからんけど、1号に当たるんじゃね?知らんけどそういうことにしとこ。」という感じになってしまい、強引に1028条を適用してしまいがちです。目次を確認しておけば、知識がなくても、居住権には2種類あることに気が付くでしょうし、1028条と1037条を対比すれば、1037条の方が本問にフィットすることにも容易に気が付くはずでした。
4.ちなみに、1037条は、単に「配偶者」としか書いていなくて、現場でいきなり同条を見た人は、「?」となったかもしれません。しかし、1028条と1037条を対比していた人は、「あっ1028条の方で定義されてたわ。」と気付くことができたでしょう。
(参照条文)民法 1028条(配偶者居住権) 1037条(配偶者短期居住権)
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当サイトの参考答案(その2)において、同条1項第1括弧書の摘示があるのは、そのためです。なお、現在では「括弧書」が正確な公用文表記ですが、答案中では、画数を考慮して「かっこ書」と表記しています。
(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。) 1.Dは、被相続人Aの配偶者(1028条1項第1かっこ書)で、Aの所有する甲建物に相続開始時に無償居住していたから、遺産分割による甲建物の帰属確定日又は相続開始時から6か月経過日のいずれか遅い日までの間、甲建物を共同相続したBCに対し、配偶者短期居住権(以下、単に「居住権」という。)を有する(1037条1項1号)。 (引用終わり) |
5.このようなことも、演習慣れしてくると、自然にできるようになっていきます。現場で条文を引けなかった人は、意識して演習量を増やすべきでしょう。その際には、漫然と解くのではなく、「どうすればより効率的に条文を引けるか。」のように解答の方法論を考え、実践する。一部の若手のように、それほど演習をこなさなくても当たり前のようにできてしまう人もいますが、多くの人は、演習を通して体得していくほかはありません。