弁済提供と引取義務遅滞
(令和5年司法試験民事系第1問)

1.今年の民法設問2(1)では、多くの人が、何らかの理由でFの引取義務(※1)を認めたことでしょう。その上で、Fが引渡日にEの事務所に来なかったことをもって、簡単に引取義務遅滞を認めたのではないかと思います。しかし、本当にそれでよいのでしょうか。
 ※1 「受領」でなく、「引取り」の語を用いているのは、より具体の義務として表現する趣旨です。例えば、「給付」や「弁済」は債務の履行全般を指しますが、売主の義務として具体に表現すると、目的物の引渡義務となるでしょう。「受領」と「引取り」の関係は、「給付」ないし「弁済」と「引渡し」の関係に対応します。

2.一般に、受領遅滞とは、「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない」ことをいいます。そこでは、債務者が弁済(履行)の提供をしたことが前提とされる。条文上も、そうなっていますね。

(参照条文)民法

413条(受領遅滞)
 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。
2 (略)

413条の2(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
 (略)
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

567条(目的物の滅失等についての危険の移転)
 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。

 

 このことは、引取義務の遅滞についても同様でしょう。ということは、本問において、Fに引取義務遅滞があるというためには、Eに弁済の提供があったことが必要となります。では、本問で、引渡日に弁済の提供があったといえるでしょうか。

問題文より引用)

4.令和4年10月1日の早朝、Eは、本件コイを出荷用容器に入れて事務所に運び込んだ。Eは、終日、事務所でFを待っていたが、Fが来訪することはなかった。 

(引用終わり) 

 

 当サイトで実施したアンケートでは、引渡日に現実の提供があったのだ、と理解する人が半数近く(閲覧のみを除く)存在しています。「Eとしてできることはやったんだから、現実の提供と評価してもいいじゃろ?」ということなのでしょう(※2)。しかし、それは493条に関する通説の理解とは整合しません。
 ※2 同旨と読める記載をする著名な概説書も存在します(内田貴『民法Ⅲ債権総論・担保物権[第4版]』(東京大学出版会 2020年)103~104頁)。また、そのような理解の余地が生じる点で、通説の「現実の提供」概念は曖昧で適切でないよね、という批判がある(石田穣『債権総論民法大系(4)』(信山社 2022年)556頁)ところでもあります。なので、あながち間違った理屈ではありません。

(参照条文)民法493条(弁済の提供の方法)

 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる

 

 通説は、同条の「債務の履行について債権者の行為を要するとき」の典型例として、取立債務の場合を挙げます。取立債務の場合は、債権者が取立てに来てくれないと現実の提供ができないので、口頭の提供で足りるよ、という趣旨と理解するわけですね。本問は、履行場所がEの事務所ですから、取立債務であることは明らか。ですから、仮に、Eが事務所で準備して待っていたというだけで現実の提供だ、というのであれば、「取立てに来てくれないと現実の提供ができない。」なんてことはないわけで、「口頭の提供で足りる。」とする意味がわからん。そんなわけで、現実の提供があるとするのは、少なくとも通説の理解とは異なるものとして、説得的な説明がない限り積極には評価されないでしょう。
 次に、口頭の提供はあるでしょうか。当サイトで実施したアンケートでは、閲覧のみを除く回答者の半数近くが、「口頭の提供がある」と回答しています。そんな理解は可能なのでしょうか。
 口頭の提供とは、493条で示されているとおり、「弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告」をすることをいいます。「本件コイを出荷用容器に入れて事務所に運び込んだ」ことから、準備はあるでしょう。では、「受領の催告」はあるか。仮に、本問が下記のような事案であったなら、明らかに「受領の催告」ありです。

問題文より引用。太字強調部分は筆者が挿入したもの。)

4.令和4年10月1日の早朝、Eは、本件コイを出荷用容器に入れて事務所に運び込んだ。Eは、Fに架電し、「コイを取りにコイ。」と言った。これに対し、Fは、「わかった。取りにイク。」と答えた。Eは、終日、事務所でFを待っていたが、Fが来訪することはなかった。 

(引用終わり) 

 

 しかし、実際の問題文には、このような事実はありません。なので、「受領の催告」がない。したがって、引渡日の時点では、口頭の提供はないのです。
 「えっ?じゃあ、Eは履行遅滞になるの?」と疑問に思うかもしれません。しかし、取立債務のように債権者の協力を要する場合には、債権者の協力がない限り、口頭の提供がなくても履行遅滞にはなりません。債権者の協力がないと履行しようがないので、遅滞と評価できないからです。条文の文言に即していえば、「履行をしない」、「履行しない」に当たらないということになるでしょう。

(参照条文)民法

415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 (略)

492条(弁済の提供の効果)
 債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。

541条(催告による解除)
 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 

 弁済の提供は、「債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる」ためのものなので、そもそも「履行しない」状態にないのであれば、弁済の提供がなくても遅滞責任を負うことはない。このことは、短答式試験でも出題されています。

(平成26年司法試験短答式試験民事系第21問、予備試験短答式試験民法第9問。太字強調は筆者。)

 弁済及び相殺に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。

ア.A名義のB銀行に対する預金に係る通帳と印鑑を窃取したCが,Aの代理人と称して,B銀行から預金の払戻しを受けた場合,Cは,自己のためにする意思でしたものではなく,債権の準占有者には当たらないので,B銀行の過失の有無にかかわらず,弁済の効力は生じない。

イ.AがB銀行に対する定期預金債権を有していたところ,Cが,Aと称して,B銀行に対し,その定期預金債権を担保とした貸付けの申込みをし,B銀行は,CをAと誤信したため貸付けに応じた。その後,貸付金債権の履行期に弁済がなかったため,B銀行がその貸付金債権を自働債権としてその定期預金債権と相殺をした場合において,貸付けの際に,金融機関として負担すべき相当の注意義務を尽くしていたときは,B銀行は,その相殺をもってAに対抗することができる。

ウ.債務者の弁済が,債権の準占有者に対する弁済として有効となる場合においては,真の債権者は,弁済を受けた者に対し,不当利得返還請求をすることができない。

エ.AがBに対して取立債務を負っている場合において,その履行期にBが取立てをしなかったとしても,Aが口頭の提供をしていないときは,Aは債務不履行責任を免れない。

オ.Aは,Bに対する債権をC及びDに二重に譲渡し,それぞれの譲渡につきBに対して確定日付のある証書で通知をしたが,その到達はCへの譲渡についてのものが先であった場合において,BがDに対してした弁済が効力を生ずるためには,Dを真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることを要する。

1.ア イ  2.ア エ  3.イ オ  4.ウ エ  5.ウ オ

 この問題は、アウが誤りと確定すれば、その時点で自動的に3が正解とわかる肢の組み合わせになっています(※3)。エの肢に関しては、正誤どちらであっても正解は変わらない(※4)。なので、試験当日の解法としては、エは読んではいけない肢です。しかし、普段の学習では、このような肢も知識としてインプットする必要がある。過去問形式で解いていると、このような肢を軽視しがちなので、当サイトは、昔からずっと、「肢別問題集の形式で解くべきだ。」と言い続けているのでした(「令和5年司法試験短答式試験の結果について(2)」、「令和5年予備試験短答式試験の結果について(2)」)。
 ※3 アは最判昭37・8・21があるので誤り。ウは大判大7・12・7があり、受験生の感覚からしても不当利得返還請求できて当たり前という感じでしょうから、容易に誤りと判断できます。
 ※4 これには一応理由があり、遅滞を免れるのに口頭の提供を必要とするのが通説・判例だ、とする概説書(平野裕之『債権総論[第2版]』(日本評論社 2023年)485、487頁)があったりするからです(ただし、判例を年月日等で特定明示しない。)。しかし、当サイトが調査した感じでは、口頭の提供が必要であると明示する最高裁判例は見当たりませんし、現在も口頭の提供必要説を積極に主張する学説はほとんど発見できていません。

3.以上のことを理解して改めて問題文を読み直すと、「あー翌日に口頭の提供があるってことかー。」と、多少は納得がいくことでしょう。

問題文より引用)

4.令和4年10月1日の早朝、Eは、本件コイを出荷用容器に入れて事務所に運び込んだ。Eは、終日、事務所でFを待っていたが、Fが来訪することはなかった。
 同月2日の朝、Eは、Fに対し、引渡日が過ぎたので早急に本件コイを受け取りに来てもらいたいこと、その際は前日までに連絡が欲しいことを伝えた。 

(引用終わり) 

 

 もっとも、そう考えても、若干腑に落ちない点があります。上記の催告は、催告解除に必要な催告とみることもできそうで、相当期間の指定がなくても相当期間を経過すれば解除できるのだから、同月2日から相当期間が経過すれば、直ちに催告解除ができそう。しかし、Eは何か二度手間みたいなことをしてダラダラやっているとみえます。 

問題文より引用)

4.令和4年10月1日の早朝、Eは、本件コイを出荷用容器に入れて事務所に運び込んだ。Eは、終日、事務所でFを待っていたが、Fが来訪することはなかった。
 同月2日の朝、Eは、Fに対し、引渡日が過ぎたので早急に本件コイを受け取りに来てもらいたいこと、その際は前日までに連絡が欲しいことを伝えた

5.その後、Fからは特に連絡がないまま、2週間が過ぎた。Eは、この間も毎日、乙池に戻した本件コイの世話を続けていた。

6.令和4年10月16日、Eは、Fに対し、同月30日までに本件コイを受け取りに来なければ同月31日付けで契約①を解除する旨を告げた。その際、Eは、乙池は同年11月上旬に釣堀営業のために使用する予定があり、同年10月末までにいったん空にしなければならないことも説明した。

7.Fは、令和4年9月以降に錦鯉の相場が下落したため錦鯉の輸出事業計画を中止し、同年10月30日を過ぎても、本件コイを受け取りに行かなかった。そのため、Eは、釣堀の営業を断念せざるを得なかった。

(引用終わり) 

 

 なんで、同月16日時点で直ちに解除せず、もう一回催告してるのか。これは、「口頭の提供があれば直ちに引取義務遅滞になるか。」という点の理解に関わります(※5)。通常、「取りにコイ。」と言われてから、引き取りに行くためには、一定の時間が掛かります。そのことを考慮するなら、口頭の提供によって直ちに引取義務遅滞となるのではなく、引取りに行くまでに必要な相当期間を経過して、初めて遅滞と評価できるのだろう。そう考えると、問題文の時系列の意味が理解できます。すなわち、同月2日に口頭の提供があって、それから2週間経過によって引取義務遅滞となる。そこで、同月16日に催告解除のための催告(厳密にはそれプラス停止期限付き解除の意思表示)がされた。そういうことなのでしょう。債権法改正前の危険移転時期に関する論考ですが、以下のような指摘をするものがあります。
 ※5 直ちに解除できるのであれば、同月31日まで解除を引き伸ばしたことをもって損害軽減義務違反とみる余地が生じます。

北居功「民法四一三条と買主の引取遅滞制度との関係(二・完) : 買主の引取遅滞に関する二〇世紀のフランス法およびドイツ法の比較から」『法學研究』70巻8号(1997年)65~66頁より引用。太字強調は筆者。)

 持参債務の場合には、現実の提供時と債権者の受領拒絶時が時的に表裏一体となるため問題はないが、取立債務において、債務者が口頭の提供をした後債権者が受領を拒絶するまで時間の経過がありうるため、口頭の提供によって危険移転を認めるのと受領遅滞によって危険移転を認めるのとでは危険移転時期が異なってくるのである。とりわけ、危険負担における債権者主義が批判に晒されている今日の解釈では、債権者の支配が目的物に及ぶ時から対価危険が債権者に移転するものと解釈されるため、口頭の提供時の危険移転効果の発生は早すぎる効果発生時期となる。同様の考慮は、注意義務の軽減や増加費用の賠償の効果にも当てはまるため、一般的に、提供の効果はきわめて限定的に解釈されているのが実状である(14)。

(14) ……(略)……提供には、債権者が債務不履行に陥らないという防御的側面と債権者を債務不履行ないし受領遅滞に陥らせるという攻撃的側面があるとの指摘があるが、その防御的側面の効果のみに着目するのが提供の効果を限定的に解釈する方向である。……(略)……

(引用終わり)

4.当サイトの参考答案(その2)は、以上のような理解に基づいています。ちなみに、「確定期限付き取立債務の場合には引取義務遅滞との関係でも口頭の提供は要らないんじゃね?」という考え方はあり得るところです(受領遅滞の文脈で同様の見解対立があることにつき、『新版注釈民法 第10巻 債権(1) 債権の目的・効力: 399条~426条』(有斐閣 2003年)517、518頁参照)。参考答案(その2)では、下記引用部分の「3(2)ア」で、その点に触れています。

(参考答案(その2)より引用)

3.Fの引取義務不履行を理由とする催告解除が考えられる。

(1)買主の義務は原則として代金支払に尽きる(555条)のであって、当然には引取義務を負わない。契約①の締結に際し、Fが引取義務を負う旨の明示の合意もない。
 しかし、目的物の本件コイは1等級錦鯉で、単に倉庫等に保管するのでは足りず、毎日の世話、保管用の池の確保、水質維持等の特別の管理を要する。Fが引き取らない場合、Eは、通常の売買では生じない上記管理の継続を強いられる。それも1匹や2匹でなく、乙池で育成中の100匹全部である。Fが増加費用を負担する(413条2項)だけでは解決にならないから、EF間において、上記場合にはFの債務不履行となり、Eは解除して上記管理から解放されうることが当然の前提とされていたといえる。
 以上から、Fは、黙示の合意に基づく引取義務を負う。

(2)ア.引取義務とは、弁済提供があれば引き取るべき義務をいうから、弁済提供がなければ遅滞とならないのが原則である。
 契約①で引渡日は令和4年10月1日、履行場所はEの事務所とされた。Eの債務は確定期限つき取立債務である。一般に、取立債務は債権者の協力を要するから現実の提供は不要であるが、口頭の提供は必要とされる(493条ただし書)。もっとも、確定期限つき取立債務においては、口頭の提供がなくても、履行期の引取りがないことで当然に引取義務遅滞となるのではないか。
 確かに、履行遅滞との関係では、債務者は債権者の協力を待たざるをえず、遅滞と評価できないから、弁済提供がなくても、債権者の必要な協力があるまで遅滞とならないとされ、これと同様に考えれば引取義務遅滞との関係でも口頭の提供は不要とみえる。とりわけ、確定期限つき取立債務については、確定した履行期日に債権者が取立てに来ることが当然予定されるから、受領の催告をする意味がないともみえる。
 しかし、消極に売主自らが遅滞責任を免れるのと、積極に買主の引取義務遅滞を追及するのとでは場面が異なる。確定期限つき取立債務であっても、売主が引取遅延に無関心でなく、直ちに引取りを求める旨の意思の通知として、受領の催告には意味があり、その前提として準備を要するといえる。
 以上から、口頭の提供は必要である。

イ.本件コイを引き渡すには出荷用容器に入れる必要があるが、同容器に入れたままでは長期保管できないと考えられること、前日に連絡があれば乙池から同容器に入れて当日引き渡すことが可能なことから、乙池に戻した後も準備が継続していると評価できる。
 令和4年10月2日の朝、Eは、Fに対し、引渡日が過ぎたので早急に本件コイを受け取りに来てもらいたいこと、その際は前日までに連絡が欲しいことを伝えたから、準備に加えて受領の催告(口頭の提供)がされた。

ウ.取立債務については、引取義務遅滞の評価に当たり、取立てに必要な相当期間を考慮すべきである。
 上記イの提供後、Fからは特に連絡がないまま2週間が過ぎた。取立てに必要な相当期間を経過したと評価できる。

エ.以上から、Fは、遅くとも同月16日に引取義務遅滞に陥っている。

(3)同日、Eは、Fに対し、同月30日までに本件コイを受け取りに来なければ同月31日付けで契約①を解除する旨を告げた。同月30日までにFの引取りがないことを停止条件とする解除の意思表示があるとみえる。しかし、一般に、履行の提供の事実は本来債務者が主張・立証すべきであるところ、「催告期間内に履行がないこと」を停止条件とする解除と考えると、条件成就について債権者が主張・立証責任を負うことになってしまうから、債権者の合理的意思解釈から、「催告期間が経過したときは解除する。」という停止期限付解除の意思表示と考える。一般に、遡及効のある単独行為である解除は相手方の地位を不安定にする点で期限に親しまないが、停止期限付解除の意思表示は、債務者に履行機会を与える点に変わりはなく、債務者の地位を不安定にすることもないから、有効である。
 以上から、2週間の相当期間を定めた催告に加え、その経過を停止期限とする解除の意思表示がされたといえる。

(4)買主本来の債務は代金債務であり、引取義務は付随義務にとどまる。付随義務違反が「軽微」(同条ただし書)かは、契約目的達成に不可欠又は重大な影響を与えるかで判断する(判例)。
 Fは本件コイの全部の引取りをしない。Fの代金債務の弁済期は引渡しから2か月とされ、Fが引き取らない限り、Eは代金債務を回収できないから、契約目的達成に不可欠といえる。
 以上から、「軽微」でない。

(5)停止期限である同月30日の経過により、同月31日に契約①は解除された(540条1項)。

4.よって、下線部㋐の主張は正当である。

(引用終わり)

 とはいえ、以上のようなことは、全く合否を分けないでしょう。書ける人がほとんど存在しないからです。当サイトで実施したアンケートでも、引渡日に「弁済の提供はない」と回答したのは全体の7%弱にとどまっていました。なので、「設問2ってすっげー難しかったんだね。」ということを体感できれば十分でしょう。予備校等ではきちんと説明されなさそうなので、詳細に説明してみました。 

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