仮定に仮定を積み重ねてない
(令和5年司法試験民事系第3問)

1.今年の民訴設問2。問題文を読んでいて、「あれっ、予備的相殺の再抗弁って仮定に仮定を積み重ねるからダメなやつなんじゃないの?」って思った人もいたかもしれません。しかし、それは「訴訟上の」相殺の抗弁に「訴訟上の」相殺の再抗弁を被せる場合です。 

最判平10・4・30より引用。太字強調は筆者。)

 被告による訴訟上の相殺の抗弁に対し原告が訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは、不適法として許されないものと解するのが相当である。けだし、(一)訴訟外において相殺の意思表示がされた場合には、相殺の要件を満たしている限り、これにより確定的に相殺の効果が発生するから、これを再抗弁として主張することは妨げないが、訴訟上の相殺の意思表示は、相殺の意思表示がされたことにより確定的にその効果を生ずるものではなく、当該訴訟において裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の相殺の効果が生ずるものであるから、相殺の抗弁に対して更に相殺の再抗弁を主張することが許されるものとすると、仮定の上に仮定が積み重ねられて当事者間の法律関係を不安定にし、いたずらに審理の錯雑を招くことになって相当でなく、(二)原告が訴訟物である債権以外の債権を被告に対して有するのであれば、訴えの追加的変更により右債権を当該訴訟において請求するか、又は別訴を提起することにより右債権を行使することが可能であり、仮に、右債権について消滅時効が完成しているような場合であっても、訴訟外において右債権を自働債権として相殺の意思表示をした上で、これを訴訟において主張することができるから、右債権による訴訟上の相殺の再抗弁を許さないこととしても格別不都合はなく、(三)また、民訴法114条2項……(略)……の規定は判決の理由中の判断に既判力を生じさせる唯一の例外を定めたものであることにかんがみると、同条項の適用範囲を無制限に拡大することは相当でないと解されるからである。

(引用終わり)

 本問では、Yのした相殺の抗弁は訴訟上の相殺ですが、Xのした相殺の再抗弁は、訴訟外の相殺です。問題文をよく読むと、受訴裁判所の対応も、上記判例を受けたものであることがわかるでしょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Yは、第1回口頭弁論期日において、Xの主張を認めた上で、主位的に、甲債権に対しては既に弁済をした旨を主張し、予備的に、Xに対する200万円の売買代金債権(以下「乙債権」という。)により相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を提出した

 (中略)

 Xは、Yによる電子メールの無断閲覧は許し難いものの、本件動産の売買契約締結の事実自体は争い難いと考えた。そこで、第2回口頭弁論期日において、本件動産の売買契約締結の事実を認めた上、乙債権は既に弁済したとの主張をするとともに、仮に弁済が認められないとしても、Yは、Xの亡父Bからかつて200万円を借りており、Xは令和3年9月に死亡したBの唯一の相続人として、BのYに対する貸金債権(以下「丙債権」という。)を相続により取得し、同年10月末日に弁済期が到来した旨、丙債権を自働債権、乙債権を受働債権として相殺するとの意思表示を訴訟外でした旨、及び、丙債権と乙債権の相殺適状は、甲債権と乙債権の相殺適状よりも先に生じており、民法第512条の趣旨からも前者の相殺が優先されるべきである旨の主張を追加した

 (中略)

 受訴裁判所は、Xによる丙債権を自働債権とする相殺の意思表示は、訴訟外で既に確定的になされているため、訴訟上許容されると判断した。

(引用終わり) 

 なので、設問2の解答で、「Xの相殺の再抗弁は仮定に仮定を重ねるものなので、再抗弁自体を許容するとしても、114条2項の既判力は生じない。」のような論述をするのは誤りです。

2.設問2及び設問3は、普通の人が書く文字数に比して大きめの配点が付されていますが、そのうちのいくらかは、普通の人は書けないであろう応用論点にあるのだろうと思います。当サイトが、配点が低めの設問1が結果的に合否を分けるかもしれないと説明している(「当てはめ大魔神する方法(令和5年司法試験民事系第3問)」)のは、そのためでもあります。設問2でいえば、「訴訟外相殺にも114条2項の適用があるか。」というのがその例で、かつては、「過去に請求債権が消滅してたことを主張立証する点で弁済の抗弁と同じだにゃん。」という理由から同項の適用が否定されていました(※)。しかし現在では、「反対債権の二重行使の問題はやっぱり生じ得るから既判力で封じといた方がいいよね。」ということで、同項の適用を認める説が多数です。その上で、「それは予備的な訴訟上の相殺の抗弁に対する再抗弁としてされた場合も同じなの?」というものがあり、訴訟上の相殺の法的性質論との関連で説明の仕方は色々あるところではありますが、ざっくり言えば、「反対債権の二重行使の問題はやっぱり生じ得るから既判力で封じといた方がいいよね。」という同じ理由で既判力を肯定してよさそうです。当サイトの参考答案(その2)は、その立場で書いています。
 ※ 売買代金請求の前訴に対し、弁済の抗弁が認められて売主の請求が棄却された場合に、後訴で、買主が、「あの時支払ったお金は弁済ではなかったから返せ。」という不当利得返還請求をした場合、前訴の既判力は、当該支払が弁済であったことには及ばない(買主の主張を封じるべきであるというなら、信義則等の法理を用いるべきである。)。同様に、売買代金請求の前訴に対し、「買主が売主に対して有する貸金債権を自働債権とする訴訟外の相殺によって、代金債権は既に消滅した。」旨の訴訟外の相殺の抗弁が認められて売主の請求が棄却された場合に、後訴で、買主が、「相殺の事実はなかったから、貸金を返せ。」という貸金返還請求をした場合、前訴の既判力は、訴訟外の相殺があったこと、すなわち、貸金債権の不存在には及ばない(買主の主張を封じるべきであるというなら、信義則等の法理を用いるべきである。)、という考え方です(現在でもこの立場を明示に支持する文献として、和田吉弘『基礎からわかる民事訴訟法』(商事法務 2012年) 457頁)。訴訟上の相殺について訴訟行為説に立つと、訴訟上の相殺と訴訟外の相殺は全く別物だ、という理解になるので、訴訟行為説が有力だった時代には、このような考え方が支持されやすかったという事情もあります。

(参考答案(その2)より引用)

 114条2項の趣旨は、反対債権の存在を前提とする紛争の蒸返しを防ぐ点にあるから、同項の既判力は、反対債権の不存在に生じる。予備的相殺の抗弁及びこれに対する訴外相殺の再抗弁に係る判断についても、反対債権の存在を前提とする紛争の蒸返しのおそれがある点は同様であるから、同項の既判力は生じる。

(引用終わり)

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