1.今年の刑訴設問1。捜査②で占有取得過程の強制性を肯定する立場で答案を書く場合には、その論理に注意が必要です。例えば、以下のような論述は、評価を下げるおそれがあるでしょう。
【論述例】 強制処分(197条1項ただし書)とは、明示又は黙示の意思に反して重要な権利を制約する処分をいう。 |
どうして、これがダメなのか。それは、「その理屈だと、捜査①も強制があることになっちゃうじゃん。」と言えてしまうためです。ほとんどの人は、捜査①は普通に適法としたことでしょう。しかし、上記の論述例の論理からは、捜査①も、「ごみ袋を領置されることには同意しないから、黙示の意思に反する。」、「ごみ置場に捨てた場合でも、プライバシーに対する期待はあるから重要な権利を制約する。」となるはずで、それは捜査①の論述との整合性を欠くことになる。仮に、本問で捜査①と捜査②の説明における論理的整合性が採点の対象とされていたとすれば、これは評価を下げるはずです。
2.なので、捜査②で占有取得過程の強制性を認める筋で答案を書くのは、結構ハードルが高いのです。前回の記事(「強制処分該当性の書き方(令和5年司法試験刑事系第2問)」)で説明した、「強制処分該当性は諦めて、必要性・相当性で当てはめ大魔神する。」という当サイトの参考答案(その1)の戦略が実戦的といえるのには、このような理由もあります。捜査②で強制性を認める筋で答案を書くなら、当サイトの参考答案(その2)のような慎重な理論構成が求められるでしょう。
(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者) 1.捜査① (中略)
(2)領置が強制処分(197条1項ただし書)として法定された趣旨は、捜査機関が領置した物を押収物として還付せず占有し続けることができる(222条1項、123条2項)点にある。他方、領置に令状を要しない趣旨は、占有取得過程に強制がない点にある。したがって、占有取得過程に強制があるときは、実質的には221条の要件を満たさない。 ア.合理的に推認される個人の意思に反して秘かに行われる場合には、個人の意思を制圧するものといえる(上記判例参照)。
イ.ごみの中身から生活状況等を推知しうることを考慮すると、みだりにごみの中身をみられない自由は、個人の私生活上の自由の1つとして、憲法13条で保障される(京都府学連事件判例参照)。不要品として廃棄されたとはいえ、直前まで憲法上「所持品」(憲法35条1項)として押収を受けない権利があった。 ウ.以上から、占有取得過程に強制があるとはいえず、実質的にも同条の要件を満たす。 (中略) 2.捜査② (中略) ア.確かに、甲は自ら容器を投棄している。一般に、たまたま付着していた唾液からDNA型が採取されたとしても、それだけで強制とは評価できない。 イ.確かに、甲は不特定多数人が通行しうる公道に投棄したから、容器を回収されないという期待利益があるにとどまり、その要保護性も低いとみえる。 ウ.以上から、捜査②は実質においてDNA型の強制採取であって、「遺留した物」とも「任意に提出した物」ともいえないから、221条の要件を満たさない。 (引用終わり) |
現時点では、このような論理的整合性が採点の対象とされているか、明らかではありません。旧司法試験時代には、このような点は当たり前のように採点対象とされ、小問間の論理矛盾には厳しい減点が待っていました(最近の人はこのことを知らないので、安易に「旧司法試験の問題は簡単」などと言われますが、それは的外れです。)。しかし、現在の司法試験になってからは、それほど極端な採点はされなくなっています。今年の刑訴についてはどうか。出題趣旨や採点実感が公表された際には、この点は注目すべきポイントといえます。