1.令和5年予備行政法で最大の難関は、最初の原告適格です。ここは、難しすぎる。これと比べると、他はどうでもいいと感じるくらいです。
2.本問に関しては、一応、直接参照できる判例(一廃業(小浜市)事件判例)があります。当サイトでは、この判例に関する受験時点での知識の有無について、Xでアンケートを実施していました。その結果は、以下のとおりです。
今年の予備論文を受験された方。行政法を受験した当時、一般廃棄物処分業等の既存許可業者の原告適格に関する判例(最判平26.1.28)を知っていましたか? 理由中のキーワード等も含めて知っていた。 12.7% |
「閲覧のみ」を除いた割合でみると、「理由中のキーワード等も含めて知っていた。」は21.5%、「結論を知っていた程度」は35.2%、「ほとんど知らなかった。」は43.2%になります。本問の場合、「結論は原告適格肯定なんだろうな。」というのは、後の設問を見ればわかります。およそ原告適格が認められないような事例であれば、このような設問にはならないからです。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 〔設問1〕 〔設問2〕 (引用終わり) |
なので、判例の結論だけ知っている程度では、役に立ちません。判例を知っていて意味があったと感じるのは、「理由中のキーワード等も含めて知っていた。」という人だけでしょう。これは、全体の2割程度。あとの8割程度は、ほとんど現場思考、初見の感じで解くことになったことでしょう。考査委員からすれば、「こんなもん重要な百選判例じゃから知っておるのが当たり前じゃろ?」という感じかもしれませんが、現実はこの程度。実務基礎から選択科目までやらされている受験生の立場からすれば、それもやむを得ないという感じでしょう。
3.では、理由中のキーワード等も含めて知っていた2割がとても有利だったかというと、そうでもない、というのが、論文式試験の面白いところです。この判例は、以下のような内容です。
(一廃業(小浜市)事件判例より引用) (1) 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。 (2) 上記の見地に立って,上告人が本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
ア 廃棄物処理法は,廃棄物の適正な収集運搬,処分等の処理をし,生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的として,廃棄物の処理について規制を定めている(同法1条)。 イ(ア) 一般廃棄物処理業は,市町村の住民の生活に必要不可欠な公共性の高い事業であり,その遂行に支障が生じた場合には,市町村の区域の衛生や環境が悪化する事態を招来し,ひいては一定の範囲で市町村の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じ得るものであって,その適正な運営が継続的かつ安定的に確保される必要がある上,一般廃棄物は人口等に応じておおむねその発生量が想定され,その業務量には一定の限界がある。廃棄物処理法が,業務量の見込みに応じた計画的な処理による適正な事業の遂行の確保についての統括的な責任を市町村に負わせているのは,このような事業の遂行に支障を生じさせないためである。そして,既存の許可業者によって一般廃棄物の適正な処理が行われており,これを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されている場合には,市町村長は,それ以外の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請につき,一般廃棄物の適正な処理を継続的かつ安定的に実施させるためには既存の許可業者のみに引き続きこれを行わせるのが相当であり,当該申請の内容が当該一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないとして不許可とすることができるものと解される(最高裁平成14年(行ヒ)第312号同16年1月15日第一小法廷判決・裁判集民事213号241頁参照)。このように,市町村が市町村以外の者に許可を与えて事業を行わせる場合においても,一般廃棄物の発生量及び処理量の見込みに基づいてこれを適正に処理する実施主体等を定める一般廃棄物処理計画に適合すること等の許可要件に関する市町村長の判断を通じて,許可業者の濫立等によって事業の適正な運営が害されることのないよう,一般廃棄物処理業の需給状況の調整が図られる仕組みが設けられているものといえる。そして,許可業者が収集運搬又は処分を行うことができる区域は当該市町村又はその一部の区域内(廃棄物処理法7条11項)に限定されていることは,これらの区域を対象として上記の需給状況の調整が図られることが予定されていることを示すものといえる。 (イ) また,市町村長が一般廃棄物処理業の許可を与え得るのは,当該市町村による一般廃棄物の処理が困難である場合に限られており,これは,一般廃棄物の処理が本来的には市町村がその責任において自ら実施すべき事業であるため,その処理能力の限界等のために市町村以外の者に行わせる必要がある場合に初めてその事業の許可を与え得るとされたものであると解されること,上記のとおり一定の区域内の一般廃棄物の発生量に応じた需給状況の下における適正な処理が求められること等からすれば,廃棄物処理法において,一般廃棄物処理業は,専ら自由競争に委ねられるべき性格の事業とは位置付けられていないものといえる。 (ウ) そして,市町村長から一定の区域につき既に一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者がある場合に,当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可又はその更新が,当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響についての適切な考慮を欠くものであるならば,許可業者の濫立により需給の均衡が損なわれ,その経営が悪化して事業の適正な運営が害され,これにより当該区域の衛生や環境が悪化する事態を招来し,ひいては一定の範囲で当該区域の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じ得るものといえる。一般廃棄物処理業の許可又はその更新の許否の判断に当たっては,上記のように,その申請者の能力の適否を含め,一定の区域における一般廃棄物の処理がその発生量に応じた需給状況の下において当該区域の全体にわたって適正に行われることが確保されるか否かを審査することが求められるのであって,このような事柄の性質上,市町村長に一定の裁量が与えられていると解されるところ,廃棄物処理法は,上記のような事態を避けるため,前記のような需給状況の調整に係る規制の仕組みを設けているのであるから,一般廃棄物処理計画との適合性等に係る許可要件に関する市町村長の判断に当たっては,その申請に係る区域における一般廃棄物処理業の適正な運営が継続的かつ安定的に確保されるように,当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響を適切に考慮することが求められるものというべきである。 ウ 以上のような一般廃棄物処理業に関する需給状況の調整に係る規制の仕組み及び内容,その規制に係る廃棄物処理法の趣旨及び目的,一般廃棄物処理の事業の性質,その事業に係る許可の性質及び内容等を総合考慮すると,廃棄物処理法は,市町村長から一定の区域につき一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けて市町村に代わってこれを行う許可業者について,当該区域における需給の均衡が損なわれ,その事業の適正な運営が害されることにより前記のような事態が発生することを防止するため,上記の規制を設けているものというべきであり,同法は,他の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請に対して市町村長が上記のように既存の許可業者の事業への影響を考慮してその許否を判断することを通じて,当該区域の衛生や環境を保持する上でその基礎となるものとして,その事業に係る営業上の利益を個々の既存の許可業者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,市町村長から一定の区域につき既に廃棄物処理法7条に基づく一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者は,当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可処分又は許可更新処分について,その取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。 (引用終わり) |
「長いわ。」と思ったことでしょう。こんなもん、仮に全部覚えていても書けたもんじゃない。上記は、本問に関係のない一廃処分業についての判示や、本問の参照条文に挙げられていない条文についての判示があったりするので、これを削除し、表記も簡略化したものが、以下の論述例です。
【論述例】 法は、廃棄物の適正処理による生活環境保全・公衆衛生向上を目的とする(同法1条)。 |
これでも、答案に書くと3頁くらいになります。長すぎる。一案は、最後の結論部分だけ、条文を挿入して書く、という方法でしょう。そうすると、以下の論述例のようになるでしょう。
【論述例】 法は、市町村長から一定の区域につき一廃収運業の許可・更新を受けて市町村に代わってこれを行う許可業者について、需給均衡が損なわれ、その事業の適正運営が害されることにより住民の健康・生活環境に被害や影響が及ぶ事態が発生することを防止するための規制を設けており(法1条、6条、6条の2、7条1項、同条5項2号、同項3号、同法施行規則2条の2)、同法は、許可・更新申請に対して市町村長が既存許可業者の事業への影響を考慮して許否を判断することを通じて、衛生環境保持の基礎として、営業上の利益を個々の既存の許可業者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む。したがって、市町村長から既に法7条に基づく一廃収運業の許可・更新を受けている者は、他者への許可処分又は許可更新処分について、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する。 |
判例の結論部分を覚えているなら、こうした書き方も一応考えられます。ただ、本問の場合、これでは微妙な感じもする。条文摘示が粗すぎるというだけでなく、問題文の事情を全然拾えていないからです。判例の知識があって、それに頼って解こうとしすぎると、かえって問題文を無視することになりやすいのです。
4.本問は、判例知識ゼロの状態で虚心坦懐に問題文を眺めると、肯定・否定方向の事実を淡々と摘示して解答することが一応可能です。その例が、当サイトの参考答案(その1)です。
(参考答案(その1)より引用) (1)法7条5項2号は、申請内容の計画適合性を要件とする。本件利益が侵害されるときは許可をしてはならない趣旨か。 (引用終わり) |
そんなに頭を使わなくても、区域割りが事実上のものであることや、BC2社体制を否定するような新計画への変更が否定方向だろうというのはわかるはず。後は、肯定方向になりそうなやつをガンガン書き写す。書き写す順序はどうでもいいときもありますが、本問の場合は原告適格なので、個別の事情は、「既存業者によって適正な収運がされていることを踏まえて法6条の計画が策定されている場合」に該当する要素であるっぽいことが何となく伝わるような順序にするのが望ましいでしょう(※1)。演習慣れしていれば、上記の程度はそれほど時間を使わずに書けるようになるはずです。
判例の理由中のキーワードや「直接の明文規定が見当たらないのに趣旨解釈から原告適格を認めた。」という感じの評釈を知っている(※2)なら、以下のように、要所要所にそれを埋め込めばよい。
※1 原告適格の範囲は法解釈の問題なので、普通は個別具体の事情を直接に考慮することはないわけですが、本問では一廃計画が処分要件を構成することから、その辺りが微妙になるのです。この点は、別の記事で詳しく説明する予定です。
※2 知らなくても、現場で規定をみて読み取ることができた人もそれなりにいたことでしょう。
(参考答案(その1)より引用。太字強調は、筆者が挿入したもの。) (1)法7条5項2号は、申請内容の計画適合性を要件とする。本件利益が侵害されるときは許可をしてはならない趣旨か。 (引用終わり) |
本問では、「過当競争の結果として経営状態が悪化し、それにより一般廃棄物収集運搬業務に支障が生じる事態を回避する」という目的による担当区域はBCが決めた事実上の区域割りにすぎない(BCについては競争を回避して需給を調整する仕組みの計画になってなくね?)とか、計画が変更されてる(計画が変更された場合の原告適格とか考えたことねーぞ。)とか、変更後の新計画では競争性を確保するとされてる(「自由競争に委ねる趣旨でない。」って言えなくなっちゃってない?)というように、上記判例では言及されていなかった特殊な悪魔的要素が含まれています。これに気が付いて、頭を使い始めると、「あれ、これって判例の射程及ばないんじゃね?」という感じになってしまう。結論としては、それは正しい。しかし、前回の記事(「構成段階で求められる大局観(令和5年予備試験行政法)」)で説明したとおり、ここで頑張りすぎるのは戦略的とはいえません。とはいえ、気付いたのに無視する必要もない。上記要素の意味を理解することができなくても、とりあえず肯定方向か、否定方向かがわかるのであれば、最低限列挙だけはしておく。判例のキーワードや気の利いた評価の表現が思い浮かんだら、適宜それを添えておけばよい。これが大魔神の秘訣です。よく、「間違ってたらどうするの?」という人がいますが、現在の司法試験では、誤った事実の摘示があっても、それほど減点はされていないとみえます(※3)。その結果、部分的に誤った事実を摘示したことのマイナスを、全体的にたくさんの事実を摘示したという物量のプラスが大きく凌駕する。すなわち、「書いたもん勝ち」です。ベテランから見ると、「こいつ何もわかってないじゃん。」という感じの筆力自慢の若手がすぐ受かるのは、こうした傾向が影響しているのです。
※3 ただし、「その事実を挙げるってことは規範の意味を全然理解してないよね。」というレベルの基本事項に関する根本的な誤りは別です。