1.今年の行政法設問1(1)。原告適格の判断に当たり、一廃計画の趣旨目的を考慮すべきことを理解する(「一廃計画を考慮する?(令和5年予備試験行政法)」)と、新計画への変更が原告適格の肯否に影響し得ることにも気が付くでしょう。旧計画では、「既存許可業者(BC)が担当区域で独占営業する利益を侵害するときは、許可をしてはならない。」という趣旨を容易に読み取ることができますが、新計画では、そのような趣旨は読み取れない。そうすると、新計画の下でされた本件許可については、もはや既存許可業者に原告適格を認めることはできないのではないか。これが、クリアすべき最後のハードルです(※1)。
※1 類似の計画変更がされた事案に関する裁判例として、阿久根市事件(鹿児島地判平22・5・25)がありますが、この裁判例は一廃業(小浜市)事件判例以前のもので、そもそも一廃計画を何ら考慮せず簡単に原告適格を否定するものなので、その判示内容をそのまま参照することはできません。
2.すぐに思い付くのは、「現在の一廃計画、すなわち、新計画の下では、既存許可業者の独占利益は保護されていないから、もはや原告適格は認められない。」とする考え方です。これはこれで、1つの筋の通った考え方といえるでしょう。もっとも、そのように考えてしまうと、「計画変更前に具体個別に保護されていた利益を有する者は、その利益を保護しない計画に変更されたときは、変更後の処分の取消訴訟を提起して変更自体の違法を争うことができない。」という帰結に至ります。このことを、どう考えるかです。「旧計画で保護された利益は、旧計画が維持される限りでのみ保護されるのであって、将来の計画変更によって保護されなくなることまで保障しないのだから、それで構わないよね。」という考え方もなくはなさそう。だけど、そこでいう「将来の計画変更」は、適法であることが前提になっているのではないか。違法に計画変更がされ、既存の保護利益が否定されるに至った場合には、計画変更の違法性を含めて、新規の許可の取消訴訟で争うことができると考えるべきではないか。ここまで考えてくると、「計画変更の違法をどの段階・手段によって争わせることが合理的か。」という話になっていきます。
3.そもそも、計画の違法は、計画を基礎とする処分の取消訴訟で争えるのか。この点については、計画適合性が処分要件となっている場合には、計画の違法は後続処分の違法事由となるから、処分の取消訴訟で争うことができるとするのが一般です(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』の「行政計画の違法は関連する処分の違法事由となるか」の項目も参照)。
(小田急本案事件判例より引用。太字強調は筆者。) 都市計画法……(略)……は,都市計画事業認可の基準の一つとして,事業の内容が都市計画に適合することを掲げているから(61条),都市計画事業認可が適法であるためには,その前提となる都市計画が適法であることが必要である。 (引用終わり) |
そうすると、一廃計画は一廃業許可の処分要件となっているわけですから、一廃計画の違法性は一廃業許可の取消訴訟で争うことができる。許可の取消訴訟という手段が有効適切である以上、既に新計画に基づく許可がされた場合には、特段の事情のない限り、一廃計画自体の違法確認訴訟(※2)は、確認の利益を欠くことになるでしょう(※3)。そう考えると、「計画変更の違法をどの段階・手段によって争わせることが合理的か。」という問いに対しては、「本件取消訴訟じゃんね。」と回答することになる。
※2 一廃計画の策定・変更・廃止は、少なくとも本問の事情の下では、処分とはいえないでしょう。したがって、考えられるのは違法確認訴訟です。
※3 取消判決の拘束力(行訴法33条)は訴訟物(処分の違法性)に対する判断だけでなく、それを導くのに必要な事実認定・法律判断にも生じる(バレル研磨法事件判例参照)以上、本件取消訴訟で勝訴した場合、計画変更の違法についても拘束力が及ぶことになるでしょう。なので、「計画変更の違法を確認した方が取消訴訟より抜本的に紛争が解決できる。」という理由で確認の利益を肯定することもできません。
4.以上のように考えてくると、新計画の下でも、計画変更を争う場合には(※4)、既存許可業者BCには原告適格が認められてしかるべきだ、という結論に至るでしょう。問題は、その理論構成です。ここで重要なことは、原告適格というのは、原告の主張を前提にした紛争主体としての適否の判断であって、その当否は本案で判断されるべきことだ、という点です。
※4 具体的には、請求原因における本件許可の違法事由として、新計画への変更の違法性を基礎付ける事由が記載されていなければ、原告適格が否定されるという趣旨です。
(衆院法務委員会平16・5・7より引用。太字強調及び※注は筆者。) 山崎潮(司法制度改革推進本部事務局長)政府参考人 この法文(※注:行訴法9条2項を指す。)で「処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益」、こう言っておりまして、これは、そういう違反があった場合を仮定したときにどういう害が生ずるのかということを考えて決めなさいということでございまして、それが違法かどうかというのを、まずその審査をするわけではなくて、あったとしてどういうものが生ずるかということでやるわけでございます。 したがいまして、その原告適格というのは、あくまでも仮定の上に立った訴訟の入り口の問題、その訴訟要件の一つでございまして、その判断の前提として、訴訟の主題である処分が違法か否かというような実体的な判断そのものが行われるわけではないというふうに御理解を賜りたいと思います。 (引用終わり) |
このことは、通常の民事訴訟でも同じです。売買契約に基づく代金支払請求訴訟の原告適格は、売買契約の売主にあるわけですが、これは、原告が「自分は売買契約の売主である。」と主張すれば足り、実際に売買契約が締結されていたか否かは、本案の対象です(※5)。
※5 本案審理の結果、売買契約は締結されておらず、原告は売買契約の売主ではないと判断されても、請求棄却の本案判決がされるのであって、訴えが却下されるわけではありません。
(最判平23・2・15より引用。太字強調は筆者。) 給付の訴えにおいては,自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格があるというべきである。本件各請求は,上告人が,被上告人らに対し,上告人自らが本件各請求に係る工作物の撤去又は金員の支払を求める権利を有すると主張して,その給付を求めるものであり,上告人が,本件各請求に係る訴えについて,原告適格を有することは明らかである。 (引用終わり) |
このことを理解すると、Cが、新計画への変更は違法無効であると主張する場合には、その主張どおりであれば旧計画はまだ生きているので、Cの主張を前提とする限り、旧計画の下で具体個別に保護された利益は、まだ生きており、本件許可はその利益を必然的に侵害するものであるとして、原告適格を基礎付け得ることになります。ここまで考えることで、ようやくCの原告適格を肯定することができました。
5.以上の思考過程を答案の形にして示したものが、当サイトの参考答案(その2)です。
(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。) (2)旧計画によれば、大幅な変動がない限り、新許可はしてはならない。これは、既存許可業者BCの担当区域での独占利益(本件利益)を侵害するときは許可をしてはならない趣旨か。自由主義経済の下では自由競争が原則であり、競争を制限して経営上の利益を保護するのは例外であるから、社会経済政策として特に経営保護を目的とする(公衆浴場法事件、一廃業事件各判例参照)ことを要し、自由な経済活動がもたらす弊害を防止する趣旨では足りない(他施設開設者事件、薬事法事件各判例参照)。
ア.法は、適正収運による生活環境保全・公衆衛生向上を目的とする(1条)。収運は公共性が高く、支障が生じると、衛生状態が悪化し、住民健康・生活環境に被害が生じ、上記目的を損なう。 イ.法6条の2第1項は一廃処理を市町村の責務とし、法7条5項1号は市町村の収運困難を要件とする。その趣旨は、一廃収運業は行政事務の代行であって、自由競争を前提とする個人の経済活動(小売市場事件判例参照)とは異なる点にある。 ウ.A市では、昭和50年代以降、新計画への変更がされるまでの長期にわたり、旧計画の下でBC2社体制が維持されてきた。BCは、過当競争の結果として経営状態が悪化し、それにより収運支障が生じる事態を回避することで、適正運営の継続・安定確保のため、それぞれの担当区域を取り決める事実上の区域割りを行ってきた。BCが上記取決めに反して競争し、共倒れする事態となれば、収運支障が生じるから、旧計画は、BCの各担当区域における独占状態を前提とし、その独占利益が侵害される事態を想定していない。そうすると、各担当区域は事実上の区域割りにすぎないとしても、長期間定着した運用として当然の前提とされ、旧計画において黙示に不可欠の内容とされてきたと評価できる。 エ.以上のように、旧計画は、競争制限による収運支障防止という社会経済政策を採用し、本件利益を特に保護している。
(3)これに対し、新計画では、BC2社体制と新許可しない旨の記述が削除され、競争性確保のため新許可を検討するとされており、競争制限による収運支障防止という社会経済政策を採用しない旨が明らかにされた。 ア.そうすると、本件許可は新計画の下でされた以上、本件利益は具体的利益として保護されておらず、原告適格を基礎づけないともみえる。 イ.したがって、新計画への計画変更を争う限り、本件利益はなお具体的利益として保護されている。 (引用終わり) |
しかしながら、こんなもん現場で書ける人なんて絶対いない(※6)。なので、「本試験では難しすぎる問題も出るから、マトモに相手にしない方がいい場合もある。」という例として、参考にしてもらえればと思います。
※6 参考答案(その2)は、答案用紙にすると全体で10頁くらいあるので、物理的にも絶対に書けません。今年の問題は、真面目に検討するとそのくらいの文字数を要する問題だということです。