1.令和5年予備試験口述試験の結果が公表されました。合格点は、これまでと同じ119点。最終合格者数は、479人でした。昨年の最終合格者数472人と比べると、7人の増加ということになります。
今年の口述試験の受験者合格率は、479÷487≒98.35%でした。以下は、これまでの口述試験の受験者合格率等の推移をまとめたものです。元号の省略された年の表記は、平成の元号によります。
年 | 受験者数 | 合格者数 | 受験者 合格率 |
前年比 |
23 | 122 | 116 | 95.08% | --- |
24 | 233 | 219 | 93.99% | -1.09 |
25 | 379 | 351 | 92.61% | -1.38 |
26 | 391 | 356 | 91.04% | -1.57 |
27 | 427 | 394 | 92.27% | +1.23 |
28 | 429 | 405 | 94.40% | +2.13 |
29 | 469 | 444 | 94.66% | +0.26 |
30 | 456 | 433 | 94.95% | +0.29 |
令和元 | 494 | 476 | 96.35% | +1.40 |
令和2 | 462 | 442 | 95.67% | -0.68 |
令和3 | 476 | 467 | 98.10% | +2.43 |
令和4 | 481 | 472 | 98.12% | +0.02 |
令和5 | 487 | 479 | 98.35% | +0.23 |
平成26年までは下落傾向でしたが、平成27年以降は、上昇傾向となっています。さらに、令和3年以降は、98%を超える非常に高い水準となり、それが3年続きました。これをどうみるか。
2.以前にも説明したとおり、口述試験の理論的な合格率は、93.75%です(「令和5年予備試験口述試験対策について(上)」)。もっとも、これは公表された採点割合の目安から算出した理論的な数字であって、年によって結構ブレが生じます。「受験者の下位4分の1に59点が付き、2日連続で59点を取る者が118点になって不合格になる。」という仮定がそのとおりであっても、それは確率的にそうなるというだけで、初日に59点を取った人のちょうど4分の1の割合が次の日に必ず59点を取る、というわけではない(※1)。なので、例えば、ある年は、「初日に59点を取った人の10分の1くらいしか翌日も59点を取らなかった。」ということもあり得る(※2)。この場合には、合格率は、1-(0.25×0.1)=97.5%となります。このように、合格率の1ケタ部分の数字が揺れ動いても、ほとんどの場合、それは誤差の範囲ということで説明が付くのです。そのように考えるなら、ある年の合格率が93.75%より高かったとしても、「今年はたまたま高い合格率だったけど、来年は93.75%に近い数字になってもおかしくありませんよ。」と説明するのが正しい。当初、当サイトでは、そのように説明していたのでした(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)。
※1 コインを投げて表が出る確率は2分の1ですが、それは、2回投げれば必ず表が1回、裏が1回出る、という意味でないことと同じです。
※2 受験者全体の4分の1が59点を取るという割合に変更がないとすれば、これは初日に60点以上を取った人が翌日に59点を取る割合が増えていることを意味します。
3.ただし、それが3年も連続で続くということになると、誤差という説明でいいか、疑問が生じてきます。59点の付く割合が、目安の4分の1よりも減っているのではないか。この仮説が正しいとすると、現在の98%程度の合格率は誤差ではなく、59点の付く割合を正しく反映したものだ、ということになるので、そこから逆算することで、59点の付く割合がどの程度で運用されているか、知ることができます。そこで、2%の平方根を取ると、59点の付く割合は、およそ14.14%だということがわかる。このことは、
0.1414×0.1414≒0.1999
となることから、確認できますね。
上記仮説によれば、現在の合格率は、「民事・刑事でそれぞれ下位14%が59点を取り、両方で59点を取った者が118点となって、不合格になる。」という理屈で説明できます。当初の下位4分の1(25%)よりは随分割合が減っていますが、それでも、「論文合格者という猛者達の中での下位14%」というのは、油断すればすぐ入ってしまうレベルとも感じるでしょう。よく、「考査委員を殴ったりしない限り受かる。」とか、「試験室は宿泊部屋なのでユニットバスがある。そこにお湯を張って飛び込んだりしない限り受かる。」のように言われたりしますが、そんな人が全体の14%もいるはずがない。それほどバカ丸出しの対応をしていなくても、下位14%には簡単になってしまうのです。それが不運にも2日続けば不合格。そう考えると、現在の高い合格率が誤差でないという前提に立ったとしても、やはり口述は恐ろしい試験であることに変わりはないのです。
口述は、不合格になると、自分の人格まで否定されたようなショックを受けがちですが、上記のとおり、ほとんどの場合、実際には不運が続いたことによるものです。口述不合格者は、翌年の論文に合格する確率がとても高いことで知られています。それは、論文に一度合格した経験をすることで、「なんだ、こうやれば受かるのか。」ということがわかり、「受かりやすい人」になるからです。
4.最近では、口述の再現をネット上に公開する人が増え、口述不合格者の再現を目にする機会が増えてきています。それをみると、民事・刑事のどちらかが悪く、それが58点以下になって不合格になったようにみえたりするものです(再現者自身がそのような感想を述べていることも多いようです。)。しかし、上記3のとおり、実際には59点すら目安ほども付いていない可能性がある。58点を取ったという可能性は、極めて低いといえます。以前の記事(「令和5年予備試験口述試験対策について(上)」)でも説明したとおり、口述は初日に大失敗した、と感じるのが普通で、58点が付く可能性を考えるようになると、それだけで心理的に不利になります。口述再現を目にする機会が増えることは悪いことではありませんが、読み方には注意を要します(※3)。以前の記事(「令和5年予備試験口述試験対策について(下)」)でも説明しましたが、口述再現は、当日の雰囲気を知る程度のものとして読み流せばよく、論文の再現答案のように、それを分析して対策しようとすることは、適切とはいえないと思います。
※3 論文は答案という書面の内容のみで審査されますが、口述は言語によるやり取り以外の要素も審査対象となること、採点方法も論文とは違い、考査委員の印象でざっくりと決まること、論文は試験問題が公開されますが、口述の場合は主査の問いかけ自体も受験生の記憶に基づくこと、とっさのやり取りは記憶に残りにくいことに加え、論文よりも受け答えの内容が人格に関わりやすく、本当に恥ずかしい受け答えは再現から省いてしまいがちなこと等、口述再現には不確定要素があまりにも多く、それを理解した上で適切に判断の材料とすることは容易ではありません。