1.令和5年予備民法設問1。前回の記事(「Bの帰責性(令和5年予備試験民法)」)で説明したとおり、AB双方有責が正しい。しかし実際には、Aのダメ人間ぶりが圧倒的すぎたため、Aのみ有責とした受験生がとても多かったようです。そこで、今回は、Aのみ有責とした場合にどのような帰結となるか、考えてみましょう。
2.まず、気を付けたいのは、Bの請求の根拠です。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 8.Bは、「本件請負契約は有効に成立しており、甲の修復ができないのはAの問題である。」として、Aに対して250万円の支払を請求している。これに対して、Aは、「本件請負契約は無効である。仮に有効だとしても、甲が現に修復されていない以上、金銭を支払う理由はない。」と反論している。 〔設問1〕 【事実】1から8までを前提として、BのAに対する請求が認められるかどうか、認められるとした場合にはどのような範囲で認められるかについて、法的根拠を明示しつつ論じなさい。なお、 - 3 - 利息及び遅延損害金について検討する必要はない。 (引用終わり) |
問題文のBとAの主張からして、契約の有効性を書くんだろう。原始的不能な場合の有効性については、債権法改正前は無効だったけれど、改正後は当然には無効じゃないってことだったよね。その根拠条文は、412条の2第2項だったよね。このことは、債権法改正の基本であり、当サイトの以前の記事(「債権法改正:原始的不能に関する根拠条文など」)や『司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論』「原始的不能な契約の効力」の項目の※注で詳しく説明していたので、知っていた人が多かったことでしょう。そこで、412条の2第2項を見るわけですが、そこにちょっとしたワナがあります。
(参照条文)412条の2第2項 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。 |
「あーなるほどねー。Bの請求は履行不能に基づく損害賠償請求かー。」と納得してしまいそう。でも、それは明らかに違います。Bは本件請負契約の請負人ですから、Aに報酬を請求する側です。報酬請求権は単純な金銭債権ですから、不能になりようがない。本件損傷によって原始的不能になっているのは、Bの仕事債務です。なので、仮に履行不能に基づく損害賠償請求権を問題にするのであれば、それはAの側から相殺の抗弁の自働債権とする場合ということになる。Aのみ有責、Bは無責という前提に立つのであれば、これは成立しないと考えなければ筋が通りません(415条1項ただし書)。そんなわけで、Bの請求の法的根拠は、本件請負契約に基づく報酬請求権である。ここはかなり初歩的なところなので、間違えると厳しい評価になり得るでしょう。
3.Bの請求の根拠が本件請負契約に基づく報酬請求権とわかったとして、仕事債務が不能になった場合にどうなるのか。「売買の場合とおんなしじゃーん。」ということで、何も考えずに536条2項を適用して、250万円全額の報酬請求を認めた人もいたことでしょう。
(参照条文)536条2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 |
もう少し慎重な人は、「ちょっと待って、仕事完成が先履行でしょ?それに、634条との関係はどうなるの?」と疑問を感じ、立ち止まってしまったかもしれません。結論からいえば、Aのみ有責とするなら、何も考えずに536条2項を適用してよかった(※1)。現場で真面目に悩んだ人は、時間をロスしたことになります。このように、「何も考えない人が得をする。」というケースは、論文試験では珍しくないことです(だから知識のない若手が早く受かる。)。とはいえ、ここでは上記の疑問について、ちょっと考えてみましょう。
※1 松岡久和ほか『改正債権法コンメンタール』(法律文化社 2020年)
880頁参照。筒井健夫・村松秀樹編著『一問一答民法(債権関係)改正』(商事法務 2018年)338頁は、これを図表で端的に明示しています。
まず、「仕事完成が先履行」というのは、確立した判例法理ではありますが、632条、633条ただし書、624条1項、634条からも読み取れる規律です。
(参照条文)民法 632条(請負) 633条(報酬の支払時期) 624条(報酬の支払時期) 634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬) |
本問では、民法の上記規定を引くまでもなく、本件請負契約それ自体から、「仕事完成は先履行」といえるのではないか、と思った人もいたかもしれません。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 3.Aは、令和5年7月1日、Bとの間で、Bの店舗において、以下の内容を含む契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。 (1) Aは、Bに対して、甲を、その修復のため、令和5年7月15日までに預託する。 (引用終わり) |
本件請負契約(3)は、633条本文と同趣旨の内容です。「633条本文は仕事完成が先履行であることを前提とするものだ。」と説明されたりしますが、仕事完成が先履行であることそれ自体の規律ではありません。そのことからすると、本問で本件請負契約(3)のみをもって直ちに「仕事完成が先履行」と論述することは、やや適切さを欠くといえるでしょう。
さて、問題は、「仕事完成が先履行」であるとすれば、本問では、536条2項にいう「反対給付」はいまだ発生していない、または、履行期が到来していないので、同項の適用によっても報酬請求をすることはできないのではないか、ということです(※2)。また、634条は、既にした仕事部分にしか報酬請求を認めていません。
※2 「仕事完成が先履行」であることの意味について、①仕事完成によって初めて報酬債権が発生する、という意味なのか、②請負契約成立時に報酬債権は既に発生しており、仕事完成は支払時期にすぎないという意味なのか、という問題があります。①仕事完成によって初めて報酬債権が発生すると考える立場から、注文者に帰責事由がある場合でも、いまだ仕事が完成していないのだから、536条2項の適用によっても報酬請求はできない、という考え方があり得ます(松岡久和ほか『改正債権法コンメンタール』(法律文化社 2020年)
882頁参照)。判例は、②の立場です(大判昭5・10・28等)。②の立場は、請負契約成立後仕事完成前の報酬債権について、譲渡が将来債権譲渡にならないようにするとか、差押え・転付命令を有効とする意味があります。もっとも、本文で説明するとおり、仕事完成が擬制されると考えれば、いずれの立場からも、報酬全額の請求が可能と考えることができるでしょう。②の立場については、請負契約成立時に抽象的な報酬債権が発生し、仕事完成によって具体的報酬債権が発生するという説明の仕方がされることもあります。純粋な弁済期とはちょっと違う意味を持たせたい場合に、このような説明をする意味があります(後記※6参照)。
(参照条文)634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬) 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。 |
同条の考え方をそのまま適用すると、既にした仕事が全く存在しない本問では、報酬はゼロになりそう。しかし、1号を見ればわかるとおり、同条は注文者無責の場合の規律です。注文者有責の場合は規定していない。これは、債権法改正において、注文者有責の場合には報酬全額請求ができる旨の特別な規定を置くことが検討されたものの、結局は見送られ、536条2項に委ねることとされたためです。
(民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(6)(民法(債権関係)部会資料 72A)より引用。太字強調は筆者。) 契約の趣旨に照らして注文者の責めに帰すべき事由によって仕事を完成することができなくなった場合については、伝統的な考え方によれば、危険負担に関する民法第536条第2項が適用され、請負人は報酬を請求することができると理解されている。判例も、注文者の責めに帰すべき事由によって仕事の完成ができなくなった場合には、請負人は、自己の仕事完成義務を免れるが、同項によって報酬を請求することができ、この場合に請求することができる報酬は約定の請負代金全額であるとしている(最判昭和52年2月22日民集31巻1号79頁)。判例の結論は妥当なものとして一般的に支持されているものの、民法が第534条以下で規定する危険負担は双務的な関係に立つ債権のうちの一方を履行することができなくなった場合に他方が消滅するかどうかという問題を扱うものと解されており、請負契約においては仕事が完成しない限り請負人の報酬請求権は発生していないと解すべきであるから、仕事を完成することができなくなった場合の報酬請求権の可否について危険負担に関する規律である同項を適用するのは適当ではないと考えられる。同項の「反対給付を失わない」という文言からも、既に発生した反対給付請求権の帰趨について規定していると解され、発生していない報酬請求権を発生させる根拠になり得るかについては疑問があるとの指摘もある。そこで、注文者の帰責事由により仕事を完成することができなくなった場合については、民法第536条第2項の実質を維持しつつ、同項とは別に、報酬及び費用の請求権の発生根拠となる規定を新たに設ける必要があると考えられる。 (引用終わり) (民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その3) 補充説明(民法(債権関係)部会資料 81-3)より引用。太字強調は筆者。) 部会資料72Aでは、注文者の責めに帰すべき事由によって仕事を完成することができなくなった場合について、実質的に民法第536条第2項の規律を維持しつつ、同項とは別に報酬請求権の発生根拠となる規定を設けることとしていた(部会資料72A第1、1(3))。もっとも、請負人に報酬全額の請求を認めるべきではない事案があり得ることや、注文者に請負人の利得を主張立証させるべきではないことなどの理由から、この規律を設けることに反対する意見があることや、この規律によって請求することができる報酬の範囲が必ずしも明確ではないなどの問題もあることから、素案では、この規定は設けず、引き続き同項に委ねることとしている。 (引用終わり) |
結局のところ、理論的には曖昧なまま、注文者有責の場合には、従前どおり536条2項で解決することになったわけです。経緯を知らないと、とってもわかりにくい。その意味では、現場で悩んだ人は正しいのです。でも、論文試験ではそれはプラスに評価されず、時間のロスにしかならない。「売買の場合とおんなしじゃーん。」と何も考えずに536条2項を適用した人の方が得をする。これが、今の論文試験の現状です。
それはさておき、634条が新設され、既にした仕事の結果のうち可分な部分を仕事の完成と擬制することで割合的報酬請求を認めたことは、536条2項を適用する場合の法律構成を考えるに当たっても、参考にすることができます。634条が適用される場合には、一部の仕事完成が擬制される。仮に、注文者有責の場合に報酬全部の請求を認める規定も一緒に創設されたなら、全部の仕事完成を擬制する規定となったことでしょう。結局は、そのような規定は創設されず、536条2項に委ねることになったわけだから、536条2項が適用される場合には、全部の仕事完成が擬制されると解釈することになるのだろう。このように考えれば、とりあえず色々なことを整合的に理解することができそうです。
以上を踏まえると、「仕事完成が先履行でしょ?それに、634条との関係はどうなるの?」という疑問に対しては、「536条2項が適用される場合には仕事全部の完成が擬制される。だから、先履行があると考えてよい。634条は、注文者無責の場合の規定だから、注文者有責の場合には適用がない。ただし、仕事完成の擬制という法律構成は、536条2項が適用される場合にも参考になるよね。」と答えることになります。
4.以上の検討で、Aのみ有責と考えた場合には、250万円全額について報酬請求権が発生することがわかりました。「えっ?Bは何もしてないのに全額もらえちゃうの?」という疑問が湧くことでしょう(※3)。そこで、536条2項後段に着目して、Aの償還請求を認めることはできないか。これは、現場で気付いた人もいたことでしょう。請負人の償還義務自体は、判例も認めるところです。
※3 100万円の壺を売る売買で、買主の帰責事由によって当該壺が滅失した、という場合には、売主は100万円の壺を失っているわけなので、買主に100万円全額負担させても売主が得をするわけではなく、不当ではありません。しかし、請負の場合には、何ら労務提供を行っていないのに対価を得ることになり、請負人にとって「棚ぼた」状態になることに留意すべきでしょう。
(参照条文)536条2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 (最判昭52・2・22より引用。太字強調は筆者。) 請負契約において、仕事が完成しない間に、注文者の責に帰すべき事由によりその完成が不能となつた場合には、請負人は、自己の残債務を免れるが、民法536条2項によつて、注文者に請負代金全額を請求することができ、ただ、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還すべき義務を負うにすぎないものというべきである。 (引用終わり) |
仮に、Bが仕事債務を免れることによって何らかの利益を得ていたのであれば、これを償還しなければならない。「償還しなければならない。」というのは、Aが、Bに対して償還請求権を取得する、ということなので、これを報酬請求権と相殺することで、実質的な報酬減額を実現できるというわけです(※4)。
※4 新版注釈民法(13)債権(4)〔補訂版〕(有斐閣 2006年)688頁。債権法改正後の要件事実として相殺の抗弁を明示するものとして、司法研修所編『4訂紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造』(法曹会 2023)198頁。
5.問題は、Bが自己の債務を免れたことによって得た利益とは何か、です。「仕事をしなくて済んだんだから、仕事の対価に相当する額が利益だよね。」と考えて、既に支出した40万円を差し引いた210万円の償還を認めた人もいたかもしれません。これはこれで、現場思考としてはやむを得ない判断でしょう。しかし、厳密にはそれは誤りです。請負人の仕事債務が不能になった場合における自己の債務を免れたことによって得た利益とは、節約できた費用(※5)であって、報酬から費用を差し引いた利益については、償還の対象にはならないからです。
※5 新版注釈民法(13)債権(4)〔補訂版〕(有斐閣 2006年)688頁。「請負人が債務を免れることにより節約することのできた材料の購入費や人件費に相当する額」とするものとして、潮見佳男『新債権総論Ⅰ』(信山社 2017年)294頁。
(東京地判平30・6・29より引用。太字強調は筆者。) 民法536条2項により、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならないところ、未施工部分に係る債務者の利益相当額は、債務者が債務を免れたことによって得た利益には当たらず、償還の対象にならない(他方で、未施工部分に係る経費等[免れた費用]は、債務を免れたことによって得た利益に当たり、償還の対象となる。)ものと解される。 (引用終わり) |
本件損傷が判明した令和5年7月13日の時点で、Bは必要な費用をすべて支出してしまっています。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 6.Aは、本件請負契約の交渉過程において、甲の状態を確認しておらず、Bから数回にわたって「甲の状態や保管方法に問題はないか。」と問い合わせられても「問題ない。」と答えるのみで放置していたため、本件請負契約を締結した時点では、本件損傷の事実を知らなかった。Aは、令和5年7月13日、甲を梱包するために物置から取り出したところ、本件損傷に気付き、直ちにBに連絡し、Bは自ら本件損傷を確認した。 7.Bは、令和5年7月2日から同月10日にかけて、甲の修復に要する材料費等の費用一切として40万円を支払っていた。 (引用終わり) |
「費用一切」という以上、今後支出が予定される費用はない。そう読むべきでしょう。なので、仮に本件損傷が生じることなく、つつがなく仕事が完成して250万円の報酬を受けとることができていたなら、Bは、210万円の利益を得ることができたはずであった。そうだとすれば、210万円は償還の対象にはなり得ない。そんなわけで、Bが「自己の債務を免れたことによって利益を得たとき」とはいえないので、Aは何ら償還請求をすることはできません。こうして、Bは何ら仕事をすることなく、250万円全額をせしめることができる結論となるのでした。
「えー何かBがすっごい得をして、Aに酷な気がするよー。」と思うでしょう。それは、元々の出発点、すなわち、「Aのみ有責でBは全然悪くない。」という判断に問題があるのです(「Bの帰責性(令和5年予備試験民法)」)。Aが100%悪いとすれば、Aが何もかも被って当たり前。だけど、それは何かおかしい気がする。それはつまり、Aが100%リスクを負うべき場合ではないよね、ということなのでした。仮に、本問の事実4以下が次のような事案であったなら、Bが250万円全額請求できて何の違和感もありません。
(問題文の事実4以下を筆者が改変したもの) 4.甲の状態はBが当初確認した状態から変化することはなく、令和5年7月15日、Aは、本件請負契約(1)に基づき、甲をBに預託した。 5.同日以降、Bは、甲の修復を行おうとしたが、その度に突然Aが現れ、「甲には指一本触れさせんぞ。」と言いながら修復を妨げた。Bは、同日から修復の期限である令和6年7月15日まで、毎日のように甲の修復を試みたが、その度にAが突然現れ、修復を妨げ続けた。そのため、Bは、甲の修復はもはや不可能と判断した。 6.Bは、「甲の修復ができないのはAの問題である。」として、Aに対して250万円の支払を請求している。これに対して、Aは、「甲が現に修復されていない以上、金銭を支払う理由はない。」と反論している。 |
上記のような事案であれば、「Aのみ有責」と認定して問題ない。しかし、本問のように、「250万円全額はちょっと変だよね。」と感じられる場合には、「Aのみ有責」と認定すべきではなかったのです。この辺りの帰責事由に関する考え方については、次回、AB双方有責の場合の処理との関係で、また詳しく説明する予定です。
6.以上が、Aのみ有責とした場合の処理です。当サイトとしては、Aのみ有責という出発点には問題があるものの、その後の処理は一貫しているので、このような構成でも合格レベルを超えるのではないかと思っています。これを簡潔に答案化したのが、当サイトの参考答案(その1)です。
(参考答案(その1)より引用) 第1.設問1 1.Bは、本件請負契約に基づく請負報酬債権(632条)の履行請求として、Aに250万円の支払を請求できるか。 2.契約締結に先立つ本件損傷により、Bの仕事債務全部が原始的不能であったが、直ちに無効とはならない(412条の2第2項)。他に特段の無効事由はうかがわれないから、本件請負契約は有効に成立する。
3.Aは、解除(542条1項1号)・危険負担(536条1項)で拒めるか。 4.Bは、「自己の債務を免れたことによって利益を得たときは」、Aに償還を要する(同項後段)。しかし、Bは既に甲修復に要する材料費等の費用一切として40万円を支払ったから、新たに支出を免れる費用はない。したがって、Bは何ら償還義務を負わない。 5.よって、請求は250万円全額について認められる。 (引用終わり) |
厳密には、「Aは、解除(542条1項1号)・危険負担(536条1項)で拒めるか。」という問題提起は、Aの抗弁のような書き方なので、不正確です。請求原因で請負契約締結を主張した時点で先履行が顕れる(※6)ので、Bの側から、536条2項による仕事完成擬制を基礎付けるものとして、Aの帰責事由を主張・立証する必要があるからです。とはいえ、合格レベルという意味では、この程度は痛くも痒くもない。要件事実に即して書いた方が書きやすい場合もありますが、厳密に要件事実に即して書こうとするとかえって書きにくいときは、簡易に書く方が無難です。上記は、そのような簡易な書き方として、参考にしてみて下さい。
※6 請負契約締結によって初めて報酬債権が発生するという立場や、請負契約締結時に抽象的な報酬債権が発生するが、仕事完成によって具体的報酬債権が発生するという立場からは、請求原因となることは当然であるという説明になるのに対し、純粋な支払時期にすぎないという立場からは、本来は注文者の抗弁であるけれども、公平の観点から請求原因になる、とか、売買とは異なり、請負の場合は特段の合意がない限り仕事完成が先履行となるので、注文者の抗弁ではなく請求原因になる、という説明になるでしょう。