1.令和5年予備刑法設問1。「反対の立場からの主張にも言及して」という設問を見て、「可能的自由説と現実的自由説の対立だけ書いて終わりだよね。」と思った人もいたかもしれません。しかし、そのような人は、その直前の「具体的な事実関係を踏まえつつ」を見落としています。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【事例1】 2 甲とXは、同日午前10時頃から登山を始めたが、同日午後4時頃、天候が急変して降雨となったため、当初の登山計画を変更し、山頂付近にあった無人の小屋で一晩を過ごすことにした。甲は、同日午後5時頃、疲れていたXが上記小屋内で熟睡したことから、この機会にXを殺してしまおうと決めた。ちょうどその頃、雨が止んだため、甲は、Xを殺した後にXの滑落死を装うための場所をあらかじめ探そうと思い立ち、上記小屋周辺を下見しておくことにした。甲は、しばらくの間、上記小屋を離れ、外に出ることにしたが、外にいる間にXに逃げられないようにするため、同日午後5時5分頃、同小屋の出入口扉を外側からロープできつく縛り、内側から同扉を開けられないようにした。なお、上記小屋は、木造平屋建てで、窓はなく、出入口は上記扉1か所のみであった。 3 その後、甲は、上記小屋から歩いて約100メートル離れた場所に、高さ約70メートルの岩場の崖があるのを確認し、同日午後6時頃、同小屋に戻り、上記ロープをほどいた。Xは、同日午後5時頃に熟睡した後、一度も目を覚まさなかった。 〔設問1〕 (引用終わり) |
可能的自由説と現実的自由説の対立について使いそうな事実は、「Xは、同日午後5時頃に熟睡した後、一度も目を覚まさなかった。」という部分くらいしか思い付かないのが普通でしょう(※1)。そうだとすれば、「具体的な事実関係を踏まえつつ」とは、どういう意味なのか。その意識を持って改めて問題文を見れば、監禁該当性を基礎付ける事実が妙に詳しいことに気が付くでしょう。このことに気が付けば、「これ、大魔神案件じゃん。」という判断に至ります。
※1 可能的自由説と現実的自由説の対立が監禁該当性の問題でないこと、出題趣旨は法益侵害結果の当てはめも要求しているとみえることについては、以前の記事(「監禁該当性の問題か(令和5年予備試験刑法)」)参照。
2.本問は、ぱっと見は設問2がメインで、設問1は単一論点だけを問う付け足しのようにみえます。設問1は、とても配点が低そう。けれども、大魔神案件となると、少し話は別です。1つ1つの事実に配点が振られてくるので、合計すると無視できない感じになりそう。なので、監禁該当性を基礎付ける事実は、ちょっと厚めに摘示しておこう、という判断をすべきところでした。例えば、当サイトの参考答案(その1)のような感じです(※2)。
※2 なお、「不法に」は違法性阻却事由を確認的に記載しただけで、独自の構成要件としての意味はないとされるのが一般なので、「殺人目的だから『不法に』に当たる。」と書くのは勇み足です。
(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。) 監禁(220条)とは、一定の場所からの脱出を困難にして、継続的に場所的移動の自由を奪うことをいう。 (引用終わり) |
単純に問題文を書き写したように見えるかもしれませんし、まあ実際そうなんですが、意味のある部分だけ抽出した上で、整理して書き写している点に注目しましょう。簡単にできそうでいて、慣れないと、現場では手際よくできません。
3.筆力自慢の猛者であれば、小さめの字で一行40文字とか書きこんで来るので、事実に加えて評価も付していきます。
(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。) 監禁(220条)とは、一定の場所からの脱出を困難にして、継続的に場所的移動の自由を奪うことをいう。 (引用終わり) |
参考答案(その1)引用部分は230文字、参考答案(その2)引用部分は332文字なので、100文字くらいは増える計算です。一行25文字くらいだと、230文字でも9行強。それが、一行40文字ペースだと、332文字でも8行強なので、評価を付してもなお、普通の人よりコンパクトになったりします。評価の文言は答案用紙に事実を書いている時間で思い付くものなので、構成用紙とかに一々書きません。構成用紙に評価まで書いているようでは、時間切れになってしまいます。とはいえ、普通の人はここまでする必要は全然ないので、まずは事実の摘示をしっかりやりましょう。