職業の独立性
(令和6年司法試験論文式公法系第1問)

 判例は、(狭義の)職業選択の自由に対する規制であるか、営業の自由に対する規制かで、審査基準を区別している(「狭義の職業選択の自由と営業の自由の区別(令和6年司法試験論文式公法系第1問)」)。そのことを理解すると、両者の区別、すなわち、何をもって独立した1つの「職業」というかが重要な問題点となります。この点は、令和2年でも問われていたことでした。

令和2年司法試験論文式試験出題の趣旨より引用。太字強調は筆者。)

 規制①は,バス事業を一つの職業として見た場合,形式的には職業遂行の自由に対する制約にとどまるとも解し得るが,専ら高速路線バスのみを運行してきた乗合バス事業者にとっては,狭義の職業選択の自由に対する制約に等しいとも言える。取り分け,本問においては,生活路線バスへの参入に対して申請者の能力や資質とは無関係の要件が設けられているため,新規参入が事実上,極めて困難であることにも注意しなければならない

(引用終わり)

 令和6年司法試験論文式公法系第1問の規制①についていえば、「犬猫を販売すること」は、独立した職業なのか。それとも、ペットショップ営業のうちの取扱商品の態様にすぎないのか。この点が問題となることは、問題文にもヒントがあります。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

X:はい。ですが、規制の対象は犬猫に限られていますので、それ以外の動物、例えばうさぎや鳥、観賞魚等を販売して営業を続けることは可能です。統計資料によれば、ペットとして動物を飼養している者のうち、犬を飼っているのは31パーセント、猫については29パーセントですから、やはり犬や猫の割合は多いといえます。ただし、犬猫以外の多種多様なペットを飼う人も増加傾向にあり、現在その割合が50パーセント近くになっています。犬猫販売業免許を取得できなかったとしても、ペットショップとしての営業の継続は可能だと議連では考えています。

(引用終わり)

 これを、どう考えるか。まず、「問題文を使う。」という観点から問題文を眺めてみると、以下の部分が使えそうなことに気付きます。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 我が国におけるペット、取り分け、犬又は猫(以下「犬猫」という。)の関連総市場規模は拡大傾向にあり、ペットの種類が多様化する中、犬猫の飼養頭数割合は相対的に高いままで推移している。

 (中略)

X:はい。ですが、規制の対象は犬猫に限られていますので、それ以外の動物、例えばうさぎや鳥、観賞魚等を販売して営業を続けることは可能です。統計資料によれば、ペットとして動物を飼養している者のうち、犬を飼っているのは31パーセント、猫については29パーセントですから、やはり犬や猫の割合は多いといえます。ただし、犬猫以外の多種多様なペットを飼う人も増加傾向にあり、現在その割合が50パーセント近くになっています。犬猫販売業免許を取得できなかったとしても、ペットショップとしての営業の継続は可能だと議連では考えています。

(引用終わり)

 例えば、普通の人なら飼おうと思わないような絶滅危惧種の希少動物とかであれば、規制の対象になっても、「取扱商品が減ったよね。」という感じでしょう。しかし、「ペットといえば犬猫」という状況であれば、犬猫を取り扱えるかどうかは業として継続できるかに直結する重要性を持ちます。そうなると、「単なる取扱商品の問題だよね。」とはいえなくなってくるわけです。
 その上で、参考となるのは、前回の記事でも紹介した、医薬品ネット事件第1審です。

医薬品ネット事件第1審(東京地判平22・3・30)より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 原告らは, インターネット販売による医薬品販売業という職業を想定すべきであり,本件規制は,そのような職業の選択に関する制限である旨主張する……(略)……が,改正法及び改正省令の施行の前後を通じて,薬事法及びその関係法令(以下「薬事法令」という。)によれば,郵便等販売をすることができるのは薬局又は店舗販売業の許可を得ている者に限られている(新施行規則15条の4,142条参照)のであり,店舗を有しないインターネット販売専業の医薬品販売業といった営業形態は薬事法令上認められておらず,医薬品のインターネット販売という営業については,薬局又は店舗販売業の許可を得た者が一般用医薬品の郵便等販売を行うという薬事法令上認められている場合の販売方法の一態様として位置付けられているところ,薬局又は店舗販売業の許可を得た者は郵便等販売が認められなくなっても通常の販売方法による医薬品の販売ができなくなるわけではないから,本件規制は,その法的性質としては,営業活動の態様に対する規制であると解するのが相当である。原告らは, 本件規制は,前掲最高裁昭和50年4月30日大法廷判決(※注:薬事法事件判例を指す。)が職業選択の自由そのものに対する規制であるとした適正配置規制以上の規制であり,職業選択の自由そのものに対する規制と解すべきである と主張するが,上記最高裁判決の事例は,許可を得られないことにより薬局としての営業が全くできない場合であるのに対し,本件規制の場合は,薬局又は店舗において全区分の一般用医薬品を販売することが可能であり,上記のとおり,薬事法令上,インターネット販売は郵便等販売という販売方法の一態様であってそれ自体が独立した職業と位置付けられているものではないことからすれば,本件規制は上記最高裁判決の場合とは事例を異にし,同判決の適正配置規制以上の規制であるということもできない。

(引用終わり)

 これは、ざっくりいえば、「同じ商品の販売方法が違うだけでしょ。法令もそういう位置付けだし。」という趣旨です。これを本問でみると、どうか。規制①は単なる販売方法の問題ではなく、およそ犬猫販売業を営むことを規制しています。また、本件法案の骨子も「犬猫の販売業」という呼称を用いているわけなので、独立した職業という位置付けです。そう考えれば、犬猫販売業は独立した職業だ、ということになり、規制①は(狭義の)職業選択の自由に対する規制である、ということになるでしょう。
 もう1つ、手掛かりになる判例情報があります。それはあマ指師養成施設不認定事件判例における草野耕一意見です。

あマ指師養成施設不認定事件判例(最判令4・2・7)における草野耕一意見より引用。太字強調は当サイトによる。)

 職業活動の主たる意義の一つは,当該職業活動が生み出す商品役務の効用(福利の増加)にあるから,同等のコストで他の商品役務を調達しても得ることのできない効用をもたらす商品役務の提供活動は,これを一つの独立した職業として捉えることが合理的である。この点を踏まえていえば,一人の被施術者に対して,はり及びきゅうのいずれか又は双方の施術とマッサージの施術とを併用して行う施術業(以下「総合施術業」という。)は,これらの各施術を個別に行う職業とは異なる独自の職業とみることが可能である。なぜならば,①総合施術業は,上記の各施術を組み合わせることによって,これらの個別の施術によっては得ることのできない効用を被施術者にもたらし得る業務であり,かつ,②総合施術業を行い得る者(以下「総合施術師」という。)なくして同等のコストで同等の効用を得ることはできないからである……(略)……。

(引用終わり)

 これは、医薬品ネット事件第1審よりも抽象度の高い説明の仕方で、ちょっとわかりにくい。このようなときは、具体例で考えみると、わかりやすくなります。例えば、同じ商品を店舗で販売するか、インターネットで販売するか、という場合、店舗販売とインターネット販売とで調達コストを同じとみれば(※1)、同じ商品をゲットするわけだから、効用は同一だろう。このような場合には、「同等のコストで他の商品役務を調達しても得ることのできない効用をもたらす商品役務の提供活動」とはいえないので、1つの独立した職業ではない、と判断できる、というわけです。とはいえ、やっぱりわかりにくいので、一般的な定式として答案に書くほどではないかな、という感じがします。効用の観点を答案にちょっとだけでも触れれば、「おおっ。」という感じにはなるので、その限度で触れることができれば、上位争いで差が付くというくらいのところでしょう(※2)。
 ※1 厳密には、インターネット販売と店舗販売とでは送料や交通費の比較で全く同一コストとはいきませんが、商品自体の対価と比較すれば微々たるものであるとして、実質同じとみることもできるでしょうし、いやいや店舗までに行く手間もコストであり、全然違うとみることもできそうです。後者の考え方からは、本文と異なり、同一商品であっても、インターネット販売と店舗販売とでは異なる独立の職業だ、とみることになります。
 ※2 逆にいえば、薬事法事件判例の明示や問題文の事実の摘示のような基本的な要素を欠く場合には、こんなもん触れてもほとんど意味がないと思います。

 これを本問でみると、どうか。「犬猫であろうと、うさぎや鳥、観賞魚等であろうと、ペットから受ける効用は『癒やし』という同一のものである。」といえなくもないですが、賛成する人はほとんどいないでしょう。「ワンちゃんを飼いたい。」と思っている人に、「同一のコストで金魚を5000匹飼えるぞ。」と言われても、同一の効用にはなりようがない。そんなわけで、上記草野耕一意見を加味して考えても、やはり犬猫販売業は独立した職業とみるべきだ、という結論になるのです。

2.上記の理解を答案化すると、以下のようになるでしょう。

参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

 職業の許可制は、職業活動の内容・態様を超えて、職業選択そのものを制約する点で、職業の自由に対する強力な制限であり、それに見合った公益の重要性が求められるから、その合憲性は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的かで判断する。職業の許可制とは、職業遂行を一般的に禁止し、許可された者のみに許すことをいう(以上につき上記判例参照)。
 規制①は犬猫販売業の遂行を一般的に禁止し、犬猫販売業免許を受けた者のみにこれを許すから、職業の許可制である。
 これに対し、ペットショップ営業は禁止されない以上、職業選択そのものを制約する強力な制限でない、あるいは、職業遂行を一般的に禁止するとはいえないとの立場がありうる。この立場は、同項が独立した職業として保護するのはペットショップ営業であり、犬猫販売はペットショップ営業の取扱商品の態様にすぎないことを理由とする。しかし、犬猫は伝統的かつ代表的な愛玩動物であり、犬猫関連総市場規模は拡大傾向で、ペットの種類が多様化する中でも犬猫飼養頭数割合は相対的に高いまま推移している。ペット動物飼養者のうち、犬31%、猫29%で、犬猫以外のペットは50%にとどまる。犬猫を専門に扱うペットショップは一般に存在し、特異でない。本件法案も「犬猫の販売業」とし、独立した職業と位置付けている。独立した職業かの判断に当たっては、提供される商品役務の効用も考慮する(あマ指師養成施設不認定事件判例における草野耕一意見参照)。犬猫を飼いたいと思う者が、うさぎ、鳥、観賞魚等で同等の効用を得るとは考えられない。犬猫とその他の動物とでは、役務の効用が全く異なり、同一効用提供のための態様の差異という余地はない。以上から、上記立場は採用できない。

(引用終わり)

 上記のようなことは、相応に憲法を勉強した人でないと、気付かないでしょう。答案で触れられなくても、余裕で合格答案になると思います。当サイトの参考答案(その1)がこの点に全く触れていないのは、その趣旨です。

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