1.商業広告規制については、近時の判例として、最判令4・3・8(だいにち堂事件)があります。
(最判令4・3・8(だいにち堂事件)より引用。太字強調は筆者。)
1.不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」という。)5条1号は、事業者は、自己の供給する商品又は役務(以下「商品等」という。)の品質、規格その他の内容(以下「品質等」という。)について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品等を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であることを示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの(以下「優良誤認表示」という。)をしてはならない旨を規定する。
2.法7条2項は、事業者がした自己の供給する商品等の品質等を示す表示について、当該表示のとおりの品質等が実際の商品等には備わっていないなどの優良誤認表示の要件を満たすことが明らかでないとしても、所定の場合に優良誤認表示とみなして直ちに措置命令をすることができるとすることで、事業者との商品等の取引について自主的かつ合理的な選択を阻害されないという一般消費者の利益をより迅速に保護することを目的とするものであると解されるところ、この目的が公共の福祉に合致することは明らかである。 3.したがって、法7条2項は、憲法21条1項、22条1項に違反するものではない。このことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和29年(あ)第2861号同36年2月15日大法廷判決・刑集15巻2号347頁(※注:適応症広告事件判例を指す。)、最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁(※注:小売市場事件判例を指す。))の趣旨に徴して明らかである。 (引用終わり) |
(参照条文)不当景品類及び不当表示防止法 1条(目的) 5条(不当な表示の禁止) 7条 |
上記判例は、21条1項、22条1項を並列していて(※1)、前回の記事で説明した政府見解の立場と整合的です(「商業広告(営利的言論)規制の審査基準(令和6年司法試験論文式公法系第1問)」)。また、規制範囲が合理的に画されているか、という点に着目していて、「目的が実質的な公共の利益を図るものか、手段が目的である利益を直接かつ相当程度促進するものか、規制範囲が合理的に画されているか」で判断するセントラルハドソンテストに類似する面があるともいえるでしょう。また、立法裁量逸脱審査の体裁をとっている点も、表現の自由の制約に関する従来の判例とは異質です(※2)。
※1 第1審及び原審では、憲法の法条が明示されていません。最高裁が、敢えてこれら法条を明示したことには、一定の意味があります。
※2 例えば、緩やかな審査基準を採用したとして批判される猿払事件判例も、立法裁量の統制という観点からではなく、裁判所独自の観点から違憲審査をしています(判断代置)。風俗案内所規制条例事件判例も立法裁量逸脱審査の体裁をとっている点は同様でしたが、判示があまりに簡潔だったこともあって、当時はあまり意識されていませんでした。上記判例が改めて立法裁量に言及した点は、法条として22条1項を明示したこととの関連で、軸足を経済的自由の方に置く方向のものとして、今後、理解されることになるでしょう。
2.もっとも、上記判例については、不実証広告規制に関する判断である、という特殊性を踏まえた理解が必要です。虚偽・誇大な商業広告を保障範囲外とする今日の通説的な理解(前回の記事(「商業広告(営利的言論)規制の審査基準(令和6年司法試験論文式公法系第1問)」)でも触れました。)によれば、虚偽・誇大な広告を規制できるのは「当たり前」です。なので、景品表示法5条の不当表示禁止は、余裕で合憲である。しかし、不実証広告規制というのは、事業者側が「表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出」(景品表示法7条2項)をしなければ、不当表示とみなす、というものです。公権力が市民の人権を制約するためには、公権力の側で正当化要素を基礎付ける資料を収集し、主張・立証すべきである。この一般原則を転換しようというのが、不実証広告規制であるといえます。憲法論の観点からいえば、その本質は、「憲法の保障対象外となる行為であるか否かの資料収集提出責任を転換する。」という点にある、というわけですね。別の言い方で表現すれば、「人権そのものを実体的に制約するものではなく、人権に関する争訟における手続利益を制約するにすぎない。」という言い方もできるのです。
3.以上のことを踏まえて本問をみると、規制②は、虚偽・誇大とはいえないモフモフ犬猫の動画等を用いた広告を丸ごと禁止するもので、不実証広告規制とは全然意味合いが違うことに気付くでしょう。なので、厳密な理解という意味からいえば、上記判例をそのまま参照することには慎重であるべきです。当サイト作成の参考答案でも、上記判例を用いることはしていません。もっとも、現在では、「不適切な判例を挙げる人」と「適切な判例を挙げる人」の争いではなく、「判例ガン無視野郎」と「とりあえず判例を挙げようとする人」の争いになっているので、本問で上記判例を何らかの形で使っていれば、評価される可能性は十分あるでしょう。