勝負どころを見抜く
(令和6年司法試験民事系第2問)

1.令和6年司法試験民事系第2問。設問1小問1は自信がない。小問2は、利益供与は分からんが、著しく不公正(※)の当てはめにはおそらく配点があるだろう。設問2は、株主平等原則は分からんが、著しく不当な決議の当てはめには配点があるだろう。ほとんどの人が、こんな感触を持ったはずです。ならば、勝負どころは設問1小問2の著しく不公正と設問2の著しく不当な決議の当てはめだろう。ここを見抜いて時間配分を考えることができたかで、大きく差が付くでしょう。
 ※1 招集手続か決議方法かで迷うでしょうが、そんなの大きな差になるわけないと腹をくくって、どっちか適当に選ぶべきです。

2.設問1小問2の著しく不公正と設問2の著しく不当な決議の当てはめ。ここは、法的知識・理解としては、肯定方向か否定方向かが分かる程度で足ります。他方で、圧倒的に必要とされる能力は、時間内に問題文を書き写す筆力です。単に問題文を書き写す作業をするだけでも、かなりの文字数になる。当サイトの参考答案(その1)を見れば、それが実感できるでしょう。

(参考答案(その1)より引用)

第2.設問1小問2

 (中略)

(2)確かに、甲社の近年の業績が悪化していた。本件書面には、「甲社の改革の実現に御協力をお願い申し上げます。」と記載された。商品券は1人当たり1000円相当である。
 しかし、本件各議題の内容は、①取締役3名の解任の件、②監査役3名の解任の件、③取締役3名の選任の件、④監査役3名の選任の件である。本件書面には、「乙社提案の各議案のいずれにも賛成していただいた方には、後日、1000円相当の商品券を郵送にて贈呈させていただきます。」と記載された。甲社では、過去の定時株主総会に際して、甲社、甲社の役員、株主が一定の内容の議決権の行使又は議決権の行使自体を条件として商品券等を提供したことはなかった。本件決議1は、いずれも出席株主議決権の約75%賛成で可決したが、本件臨時株主総会1では、出席株主議決権数は、例年の定時株主総会よりも約30%増加し、行使された議決権のうち議案に賛成したものの割合も、例年の定時株主総会において行使された議決権のうち甲社提案議案に賛成したものの割合よりも高かった。
 以上から、決議方法が著しく不公正といえる。なお、決議方法の法令・定款違反の場合と異なり、裁量棄却の余地はない(同条2項反対解釈)。
 よって、Eの前記1(2)の主張は正当である。

第3.設問2

 (中略)

イ.また、以下の事実から、著しく不当な決議ともいえない。
 確かに、本件決議2当時甲社は非公開会社である。本件計画では、本件株式併合で300株を1株とした直後に本件株式分割で1株を200株にするとされた。本件計画実現のため、BはAに甲社株式100株を譲渡した。本件計画を行うことにより、ABCは令和3年12月の時点と同じ持株を有するのに対し、丙社は株式をすべて失う。甲社の急速な業績回復には丙社の協力が寄与した。
 しかし、急速な業績回復には、甲社製造機器の品質に定評があったことに加え、建築設備機器に対する需要の増加及びAらの努力も寄与した。Fは、Aらに甲社の持つ技術やライセンスを丁社に提供するよう求めた。丁社は、甲社の営業範囲と隣接する地域で建築設備機器の製造及び販売等を行っている。FとAらとの間に見解の相違が見られるようになった。Gは、甲社を丙社の完全子会社とした上で将来的には丁社と合併させる方がうまくいくのではないかと考えるようになった。Aは、上記Gの意向をFから聞かされて驚がくし、BCと対応策を協議した結果、甲社と競合関係にある丁社のために経営に介入されることを防ぎ、甲社の独立を維持するために、丙社を締め出すべきであるとの結論に達した。Gが考えていた甲社を丙社の完全子会社にする案も、Aらが決定した甲社の独立を維持するために丙社を締め出すという案も、甲社の企業価値との関係では、客観的にいずれか一方が他方よりも優れているとは言い難く、見解の分かれる問題で、Bは、当初はGの案もあながちおかしなものではないと考えていたが、Aが甲社の独立を維持する必要があると強く主張し、Cもこれに賛同したことから、最終的にはAらの案を支持することにした。本件株式併合により端数となる株式の買取価格は、公正な価格であった。

(引用終わり)

 大して会社法の知識がなくても、時間さえあれば、思い付きで評価を付すことはできるでしょう。時間の許す限り、大魔神して差を付ける。当サイトの参考答案(その2)は、1つの目標です(※2)。
 ※2 規範部分は知識がないとちょっと難しいので、ここは規範を立てずにいきなり大魔神でも十分上位です。

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

第2.設問1小問2

 (中略)

(2)前記(1)イのとおり、招集株主による利益供与に120条1項の趣旨がそのまま当てはまるとはいえないものの、議決権行使の場面において株主意思歪曲防止が要請されることは株主招集の場合にも当てはまるし、不正の請託による株主間の議決権買収につき贈収賄罪(968条1項1号)が設けられていることからすれば、議決権行使に不当な影響を及ぼすときは、決議方法が著しく不公正といえる(裁判例)。供与の目的、条件、財産的価値、議案の内容等を考慮する。

ア.確かに、乙社には甲社に損害を加える意図等の不正な目的はない。しかし、本件各議題は現在の取締役・監査役をすべて解任して新たな取締役・監査役を選任する内容で、甲社の支配権そのものを左右する重大事項である。しかも、本件書面には、「乙社提案の各議案のいずれにも賛成していただいた方には、後日、1000円相当の商品券を郵送にて贈呈させていただきます。」と記載されており(以下、同記載による商品券供与表明を「本件表明」という。)、単に議決権行使を促進する趣旨でなく、自らの提案に賛成する対価とする趣旨であることが明らかである。株式の譲渡を受けることなく金銭等を対価にして支配権を獲得することは、会社法の仕組みに反するから、不当と評価できる。
 確かに、商品券の財産的価値は1人当たり1000円相当にすぎない。しかし、商品券送付を受けるためには、全ての議案について『賛』の欄に○印を付けて議決権行使書面を返送するだけでよく従来議決権行使に関心のなかった一般株主に対する動機付けとしては十分といえる。
 本件決議1は、いずれも出席株主議決権の約75%賛成で可決した。乙社の議決権を差し引いても、約55%が賛成した。本件臨時株主総会1では、出席株主議決権数は、例年の定時株主総会よりも約30%増加し、行使議決権のうち議案に賛成したものの割合も、例年の定時株主総会の行使議決権のうち甲社提案議案に賛成したものの割合よりも高かった。甲社では、過去の定時株主総会に際して、甲社、甲社の役員、株主が一定の内容の議決権の行使又は議決権の行使自体を条件として商品券等を提供したことはなかったから、特段の事情のない限り、本件表明の影響によるものと推認される。確かに、甲社の近年の業績は悪化しており、本件書面には、「甲社の改革の実現に御協力をお願い申し上げます。」と記載されていたから、純粋に乙社提案に期待する意思で賛成票を投じた株主も一定数あったと考える余地が抽象的には存在するものの、これを具体的に裏付ける事実は見当たらない。したがって、上記推認を覆す特段の事情はない。本件決議1は、本件表明の影響によると認められる。

イ.以上から、議決権行使に不当な影響を及ぼしたと評価でき、決議方法が著しく不公正といえる。なお、招集手続の法令・定款違反の場合と異なり、裁量棄却の余地はない(同条2項反対解釈)。

ウ.よって、Eの前記1(2)の主張は正当である。

第3.設問2

 (中略)

ウ.では、著しく不当か。
 前記1(2)イのとおり、法は、株主を締め出す目的で株式併合が利用されることを想定しており、丙社を締め出す目的があっただけでは、著しく不当とはいえない。また、本件株式併合における端数株式買取価格は公正な価格であったから、丙社の経済的利益を不当に害するともいえない。もっとも、本件株式併合当時、甲社は非公開会社で、株主の個性が重視されるから、会社の利益を離れた個人的・恣意的理由によって特定の株主の地位を喪失させるときは、著しく不当といえる。
 確かに、丙社の協力によって長期的に悪化していた甲社の業績は急速に回復した。丙社には今後も甲社の経営に参画する期待があったといえ、丙社において信義に反すると感じられることは理解できなくはない。
 しかし、上記業績回復には、甲社製造機器の品質に定評があったことに加え、建築設備機器に対する需要の増加及びAらの努力も寄与した。丙社の協力のみによるものではない。Fは、Aらに対し、甲社の持つ技術やライセンスという重要な無体財産を丁社に提供するように求めた。丙社の協力の対価として技術やライセンスを提供する旨の合意があった事実はない。丁社は、甲社の営業範囲と隣接する地域で建築設備機器の製造及び販売等を行う会社で、甲社と競業関係にある。技術やライセンスを提供すれば、丁社に顧客を奪われるおそれがある。丙社は丁社の再建に注力するようになり、甲社にとって協力関係を維持する必要性が低下した一方で、FとAらとの間に見解の相違が生じ、丙社が株主として残存することが経営上の支障となった。Gは、甲社を丙社の完全子会社とした上で将来的には丁社と合併させる意向であった。甲社の独立性を確保しようとするAらの経営方針とは両立不能であり、丙社を締め出す必要が生じた。Gが考えていた甲社を丙社の完全子会社にする案も、Aらが決定した甲社の独立を維持するために丙社を締め出すという案も、甲社の企業価値との関係では、客観的にいずれか一方が他方よりも優れているとは言い難く、見解の分かれる問題で、Bは、Aよりも前にGの案を聞いており、当初はGの案もあながちおかしなものではないと考えていたが、Aが甲社の独立を維持する必要があると強く主張し、Cもこれに賛同したことから、最終的にはAらの案を支持することにした。Aらは、単にFGと見解が対立したことによる個人的な嫌悪感等や自己保身からではなく、甲社の利益を考慮した経営判断に基づいて、本件株式併合を含む本件計画を決定したと評価できる。
 以上から、会社の利益を離れた個人的・恣意的理由によるとはいえず、著しく不当ではない。

エ.よって、831条1項3号に当たらない。丙社の主張は正当でない。

(引用終わり)

 実際には、ここまでできなくても、余裕で上位になるでしょう。少しでもこれに近付くように、日々の演習で肩を鍛える必要があります。 

3.上記のように大魔神するには、答案を書く時間を確保する必要があります。本問で、385条1項や120条1項の類推をウンウン考えて時間をロスし、設問1小問2の著しく不公正と設問2の著しく不当な決議の当てはめが薄くなった人は、戦略ミスを自覚すべきです。385条1項に関しては、他に考えられる手段がないと自信を持って判断できたなら、「単に取締役の行為じゃないってだけなわけないから、簡潔に類推書いとくか。」でよい(※3)。「実は他に手段があって自分が知らないだけかも。」と不安なら、取締役の行為じゃないから385条1項は無理ということだけを書いて、他で頑張るしかありません。この場合、仮に類推を書いたとしても、正解は他の手段である可能性があるので、ただの余事記載になるおそれがあるからです(※4)。この判断は、瞬殺でやるべきです。小問2の120条1項については、類推しなくても、結局は831条1項1号を書くことになるので、類推する意味があまりありません。この点が、類推しないとなんにもなくなる小問1との違いです。類推肯定じゃないと出てこない当てはめなんて、大して配点もないでしょう。しかも、著しく不公正の当てはめと事実も重なってしまう。ならば、120条1項は簡単に否定でいい。これも、瞬殺で判断すべきです。難しいところは瞬殺で判断し、文字を書き写す簡単なお仕事に時間を残す。「受かりにくい人」は、この判断を逆にするので、なかなか受かりません。しかも、この判断は、どんなに勉強量を増やしても、それだけでできるようにはならない。このことも、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則(「令和5年司法試験の結果について(12)」)が成立する原因の1つになっています(※5)。
 ※3 理由は、全然何も思い付かなければ、直接適用できないことを書いた後に、「もっとも、同項を類推適用できる。」と結論だけ言い放ってもよいのですが、「取締役の招集は差止めができるのに、株主招集は差止めできないのは均衡を欠く。」くらいはすぐ思い付くでしょうから、そんな感じで瞬時に思い付いた理由を書き殴っておけばよいのです。
 ※4 「類推もギリ配点あるかも。」と思ったなら、直接適用できないことを書いた後に、「もっとも、同項を類推適用できる。」と結論だけ言い放っておくのも一興で、本問では結果的に結論明示の配点を拾うことができたでしょう。ただ、他に手段があって、類推なんて全然訊かれてない問題だった場合には、「は?類推とかできるわけねーだろ。」と考査委員から基本知識の欠如と判断されて、逆に失点するおそれもあるので、相応のリスクはあります。
 ※5 受かりにくい人は、「文字を書き写すような下劣な作業をして合格なんかしたくない。385条1項類推論のような難しい論点を自分の言葉で表現して、考査委員が感心するような答案を書いて受かりたい。」という強い信念を持っていることも多く、それもまた、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則の成立に寄与しています。 

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