1.令和6年司法試験刑事系第2問。捜査②については、強制処分と判断した人も多かったでしょう(※1)。その場合、違法なのは当然ですが、うっかり、「強制処分法定主義違反」としてしまった人がいたかもしれません。
※1 前回の記事(「作りが雑すぎる(令和6年司法試験刑事系第2問)」)で説明したとおり、当サイトとしては、考査委員は強制処分を前提にして作問したのではないかと思っています。もっとも、任意処分で解答しても、相応に評価されるでしょう。昨年、紙コップ事件高裁判例を参照して解答した答案も、相応に評価されていました。
2.ビデオ撮影の法的性質については、五感のうちの視覚によって場所・人の状態を認識するものですから、強制処分としてする場合には検証に当たるとされています。
(「警察におけるカメラ画像の活用と課題」警察政策学会資料第100号(2018年)星周一郎首都大学東京都市教養学部法学系教授講演部分より引用。太字強調は筆者。) 特定の犯罪のために、例えば犯罪者がアジトにしているのではないかというところの人の出入りを見るために、臨時にカメラを設置するという場合もあり得るかと思います。それは捜査の一環という形になりますので、その撮影が任意処分にとどまるのであれば、刑訴法197条にいう「必要な取調」として、強制処分に当たるのであれば、刑訴法218条の定める検証の一環として検証令状に基づいて、それぞれ行ってください、ということになります。捜査用に設置したカメラに関して、それが直接争われた最高裁判例はありませんけれども、任意処分であれば捜査比例の原則に基づいて、検証に当たるようものであれば検証令状を取って行ってくださいということですね。 (引用終わり) |
検証というのは、法定の強制処分(128条、218条1項前段)ですから、法定されていない強制処分をした、という意味での強制処分法定主義(197状1項ただし書)違反にはなりません。
(参照条文)刑事訴訟法 128条 裁判所は、事実発見のため必要があるときは、検証することができる。 197条1項 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。 218条1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。 |
それをいうなら、強制処分(領置を除く)をするには令状を要するとされている(218条1項前段)のに、検証許可状の発付を受けることなく検証に当たる行為をした、すなわち、令状主義違反です。
3.当サイト作成の参考答案(その2)では、その点が明確になるように記載しています(※2)。
※2 厳密には、憲法35条1項は、「捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」として捜索・押収のみを念頭に置いているようにも読めるので、検証に令状を要することについて同項をそのまま援用してよいか疑問の余地がないではありません。筆者は、「準用」と表記する方が正確なんじゃないかと思ったりしますが、これを明示する文献はざっと見た感じ見当たりません。しかし、司法試験レベルでは、そんな細かいことは気にしないことにしましょう。
(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。) (2)捜査②は、五感のうち視覚の作用によって場所の状態を認識する強制処分であるから、検証の性質を有する。検証は、法定の強制処分である(128条、218条1項前段)から、強制処分法定主義に反するとはいえない。 (3)以上から、捜査②は、令状主義に反し、違憲・違法である。 (引用終わり) |
ここは、そんなに大きな差にはならないと思いますが、間違えるとちょっと減点される感じにはなるでしょう。説明されれば当たり前なことではあるのですが、うっかりしやすいので、ちょっと気を付けたいところです。