1.令和6年予備試験商法。設問1(2)のAについて、「オレってば計算規則までちゃんと引いたってばよ!」という人もいたかもしれません。でも、ここに関しては、「計算規則なんて引くところじゃないんだコレ!」というのが正解です。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 1.……(略)……甲社の創業以来、Aが代表取締役を……(略)……務め、DとEは甲社の日常の経営に関わっていない。 3.甲社は、会社法上必要な手続を経て、令和6年3月31日に、Dから、本件株式を総額1000万円で買い取った。 (中略) 4.ところが、……(略)……令和6年3月31日における分配可能額は800万円であった。 〔設問1〕 上記1から4までを前提として、次の(1)及び(2)に答えなさい。なお、本件株式の取得価格は適正な金額であったものとする。 (1) 甲社による本件株式の買取りは有効かについて、論じなさい。 (2) 甲社による本件株式の買取りに関して、A、D及びFは、甲社に対し、会社法上どのような責任を負うかについて、論じなさい。 (引用終わり) |
剰余金の配当等に関する責任については、462条が定めています。それは、すぐに分かる。そして、そこで列挙されているうちの、「当該行為により金銭等の交付を受けた者」は、Dを指すので、Aはこれに当たらない。これも、すぐに判断できることでしょう。そうなると、「当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者」のうちのどれか、ということになる。なげーよ。
(参照条文)会社法462条(剰余金の配当等に関する責任) 前条第1項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。 一~六 (略) 2、3 (略) |
このようなときは、落ち着いて条文構造を理解しましょう。まず、指名委員会等設置会社の話は関係ないので、ここは省略して考える。
(参照条文)会社法462条(剰余金の配当等に関する責任) 前条第1項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役……(略)……その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。 一~六 (略) 2、3 (略) |
その上で、大きな枠で捉えると、「当該行為に関する職務を行った業務執行者」と「当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者」の2つの類型が「及び」で接続されていることに気付くでしょう。
(参照条文)会社法462条(剰余金の配当等に関する責任) 前条第1項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役……(略)……その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。 一~六 (略) 2、3 (略) |
そのような構造を捉えると、括弧書部分が、「当該行為に関する職務を行った業務執行者」のうちの「業務執行者」の内容を具体的に定めているらしい、ということも分かるでしょう。そこで、その括弧書を見ると、「業務執行取締役」と「当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの」が、「Aその他B」の構造で接続されていることに気付きます(※1)。
※1 ちなみに、「当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの」の最後の「もの」が平仮名で表記されるのは、直前の「者」を受ける関係代名詞としての用法だからです。「~の者であって、~のもの」のような用例が典型例です。
(参照条文)会社法462条(剰余金の配当等に関する責任) 前条第1項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役……(略)……その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。 一~六 (略) 2、3 (略) |
一般に、「A、Bその他のC」という場合には、包括的例示を意味し、A、Bは、Cに含まれる概念として規律されます。これに対し、「A、Bその他C」という場合には、並列的例示を意味し、A、B、Cは別の概念として規律されるのでした。「どっかで聞いたことあるコレ。」と思ったなら、それは今年の行政法のときですね(「農地法5条2項4号の読み方(令和6年予備試験行政法)」)。462条1項柱書は、「Aその他B」だから並列的例示。すなわち、「業務執行取締役」と「当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの」は、別の概念ということになるわけですね。つまり、「業務執行取締役」は独立の類型であって、「当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの」でいうところの、「法務省令」によって内容が定まる概念ではないのです。仮に、これが、「業務執行取締役その他の当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの」という文言(※2)であったなら、「業務執行取締役」は、「当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの」に含まれるので、「法務省令」によって内容が定まる概念だ、ということになったはずでした。行政法のときと同様、ここでは、「その他」と「その他の」という文言の違いで、大きく意味が違ってくるのです。
※2 「当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者」の中に、直前の「業務執行取締役」が含まれるとすると、文言としてちょっとおかしいな、ということに気が付いたなら、それは良い感覚です。「Aさんの業務を補助する人」という言い方をする場合、普通Aさんは入らないですよね。その意味でも、「その他」で接続するのが適切なのでした。
2.さて、本問のAが「業務執行取締役」に当たるなら、法務省令なんて関係なく問答無用で「業務執行者」に当たります。
(参照条文)会社法462条(剰余金の配当等に関する責任) 前条第1項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役……(略)……その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。 一~六 (略) 2、3 (略) |
「じゃあ、『業務執行取締役』ってなんだってばよ!」と思うところ。「業務を執行する取締役だコレ!」というのは、まあ間違ってはいませんが、正確でもありません。ここは、普段から会社法に慣れ親しんでいないと、ちょっと厳しい。この「業務執行取締役」という概念は、実は2条に定義がある。それも、各号に掲げる用語として定義されているわけではなく、「社外取締役」の定義規定中で定義されていたりします。
(参照条文)会社法2条(定義) この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一~十四 (略) 十五 社外取締役 株式会社の取締役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。 十六~三十四 (略) |
「第363条第1項各号に掲げる取締役ってなんだってばよ。」ということで、363条1項を見ます。
(参照条文)会社法363条(取締役会設置会社の取締役の権限) 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。 一 代表取締役 2 (略) |
というわけで、代表取締役は、「業務執行取締役」だ、ということが分かるのでした。ちなみに、代表取締役が業務執行権を有することは、349条4項からも分かります。
(参照条文)会社法349条(株式会社の代表) |
本問のAは甲社の代表取締役なので、「業務執行取締役」に当たるというわけです。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 1.……(略)……甲社の創業以来、Aが代表取締役を……(略)……務め、DとEは甲社の日常の経営に関わっていない。 (引用終わり) |
3.こうして、Aは、462条1項柱書の「業務執行者」に当たると判断できたのでした。そうすると、後は、「当該行為に関する職務を行った」といえるかです。
(参照条文)会社法462条(剰余金の配当等に関する責任) 前条第1項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役……(略)……その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。 一~六 (略) 2、3 (略) |
ここは、普通に考えれば足ります。すなわち、Aは甲社の代表取締役なのだから、「甲社」が主語になっている行為は、Aが甲社を代表して行っている。だから、本件株式の買取りも、Aが甲社を代表して行ったはずで、そうであれば、余裕で「当該行為に関する職務を行った」といえることになるのです。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 1.……(略)……甲社の創業以来、Aが代表取締役を……(略)……務め、DとEは甲社の日常の経営に関わっていない。 3.甲社は、会社法上必要な手続を経て、令和6年3月31日に、Dから、本件株式を総額1000万円で買い取った。 (引用終わり) |
こうして、Aは、「当該行為に関する職務を行った業務執行者」に当たるので、その余の類型に当たるか否かを検討するまでもなく、462条1項柱書の責任主体となると判断できたのでした。
4.そんなわけで、本問では、会社計算規則なんて引く必要はありませんでした。とはいえ、この機会なので、ちょっと確認しておきましょう。「当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの」の法務省令は、会社法施行規則116条15号、会社計算規則159条です。
(参照条文) ◯会社計算規則159条(剰余金の配当等に関して責任をとるべき取締役等) |
自己株式取得そのものを行った業務執行取締役が規定されていないことが分かるでしょう。それはなぜかというと、「業務執行取締役」の方で規律されているからです。ここからも、「業務執行取締役」と「当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの」が別概念であることが実感できることでしょう。なお、甲社は取締役会設置会社なので、「法第157条第1項の規定による決定に係る株主総会」は存在しようがなく、計算規則159条3号ロには当たりようがありません。
(参照条文)会社法 157条(取得価格等の決定) 160条(特定の株主からの取得) |
5.以上のことを理解すれば、当サイトの参考答案(その2)の条文操作の意味が分かるでしょう。
(参考答案(その2)より引用) Aは、代表取締役として業務執行権を有する(349条4項、363条1項1号)から、「業務執行取締役」(2条15号イ第1括弧書)であり、甲社を代表して本件株式の買取りを行ったと考えられるから、「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(462条1項柱書)に当たる。 (引用終わり) |
もっとも、上記のような条文操作は、結構高度で、慣れていないと、時間のロスが大きいでしょう。「代表取締役なんだから『当該行為に関する職務を行った業務執行者』に当たるに決まってるコレ!」と決め打ちして書いてしまうのも、1つの判断です。当サイトの参考答案(その1)は、その発想で書いています。
(参考答案(その1)より引用) Aは代表取締役であるから、「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(462条1項柱書)に当たる。 (引用終わり) |
この種の条文摘示については、それ自体に一定の配点があるようではあるものの、間違えても大勢には影響がないというのが、これまでの経験則です。もっとも、どの条文に当たるかによって答案の流れが全く変わる、というような場合には、その後の規範や当てはめの事実が変わってきますから、間違えると、本来の配点事項と異なることを延々と書くことになりかねません。それは、致命傷になり得る。なので、そのような場合は、慎重に検討する必要があるのです。本問の場合、どれに当たってもその後の検討事項が同じなので、テキトーでよい。むしろ、こんなところで時間を投入してしまえば、他の論述が薄くなってトータルで大きなマイナスになりかねません。とりわけ、予備試験では、民法、商法、民事訴訟法を同じ枠で解くので、商法でグズグズしていると、民法・民事訴訟法にも悪影響が及びます。どうでもいいところは、意識して雑に処理する。この辺りの臨機応変な判断も、普段の演習を通じて、体得していくべきでしょう。