令和6年司法試験の結果について(7)
~修了年度別、未修・既修別の合格率~

1.以下は、今年の受験生のうち、法科大学院修了生の資格で受験した者の各修了年度別、未修・既修別の合格率です。令和6年度については、同年度修了予定の在学中受験者を指します。

修了年度
(令和)
既修・未修
受験者数 合格者数 受験者
合格率
元未修 99 7.0%
元既修 92 8.6%
2未修 133 11 8.2%
2既修 156 16 10.2%
3未修 152 15 9.8%
3既修 199 30 15.0%
4未修 171 26 15.2%
4既修 275 75 27.2%
5未修 219 40 18.2%
5既修 576 243 42.1%
6未修 235 69 29.3%
6既修 997 611 61.2%

 毎年の確立した傾向として、以下の2つの法則があります。

 ア:同じ年度の修了生については、常に既修が未修より受かりやすい
 イ:既修・未修の中で比較すると、常に修了年度の新しい者が受かりやすい

 今年も、この法則が完全に当てはまっています。このように既修・未修、修了年度別の合格率が一定の法則に従うことは、その背後にある司法試験の傾向を理解する上で重要なヒントとなります。

2.アの既修・未修の差は、短答・論文の双方で生じています。今年の短答・論文別の既修・未修別合格率はまだ公表されていませんので、昨年のデータ(「令和5年司法試験受験状況」)を参考に参照すると、以下のようになっています。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。

令和5年
短答
合格率
論文
合格率
既修 81.66% 51.34%
未修 61.63% 26.30%

 短答・論文の双方で、差が生じていることが分かります。短答で生じる差は、単純な知識量の差とみることができます。未修者よりも既修者の方が知識が豊富なので、単に知っているかどうかで差が付く短答では、単純に有利になるということです。
 他方、論文で生じる差は、演習量の差とみることができるでしょう。当サイトで繰り返し説明しているとおり、論文で合格点を取るには、基本論点について規範を明示し、事実を摘示して解答すればよい。繰り返し演習を行うことで、頻出の基本論点の規範のように、「これは覚えなければいけない。」というポイントを発見し、覚えるプロセスを回す(※1)とともに、論文に必須の速書きスキルを体得し、論点抽出、ケアレスミスの回避、時間切れ防止のための方法論を身につけていく(※2)。そうしていくことで、基本論点を落とすことなく、規範明示・事実摘示の答案スタイルを守った答案を時間内に書き切ることができるようになっていくのです。そのためには、通常は相当の時間が必要です(※3)。既修者は、早い段階から過去問や事例演習系の教材を用いた演習を繰り返すことによって、論文でも点を取ってくる傾向にあるのに対し、未修者は、短答レベルの知識の習得に時間がかかってしまい、過去問等の演習も不足したまま本試験に突入してしまうので、論文でも点が取れない傾向にある。それが、上記の結果として表れているのだろうと思います。
 ※1 具体的には、以前の記事(「答案を書くことで覚える範囲がわかる」、「ガチ暗記する方法」)を参照。
 ※2 ただ漫然と問題を解くのではなく、復習を通じて自分の思考回路・方法論の欠陥を認識し、これを補完・修正するプロセスが必要です。具体的には、個別の過去問解説記事で詳細に説明しています。
 ※3 例外的に、いくつかの能力(とりわけ速書きのスキル)を先天的に備えている人は、これらのプロセスのいくつかを省略できるので、超短期の合格が可能となります。

3.イの修了年度による合格率の差は、主に論文で付いています。今年の短答・論文別の修了年度別合格率もまだ公表されていませんので、昨年のデータ(「令和5年司法試験受験状況」)を参考に参照しましょう。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。なお、昨年から在学中受験が開始されたため、令和4年修了者と令和5年修了予定者は、いずれも1回目受験です。

令和5年
修了年度
短答
合格率
論文
合格率
平成30 64.73% 9.58%
令和元 63.82% 19.11%
令和2 62.81% 15.79%
令和3 71.85% 30.96%
令和4 83.81% 65.68%
令和5
(在学中)
87.20% 68.27%

 短答でもそれなりに差は付いていますが、論文では、短答とは比較にならないほど顕著な差が付いていることが分かります。修了年度が古い受験生は、ローを修了してからの期間が長いわけですから、それだけ勉強時間を確保できます。上記2で説明した演習量という点では有利です。しかも、受験経験がより豊富なので、試験当日、試験会場での勝手も分かっていて、心理的な動揺なども少ないはずです。そうであれば、修了年度が古い受験生ほど、有利になるのが自然であるとも思えます。しかし、結果は逆になっている。それはなぜか。当サイトでは古くから、この現象を、論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい。」法則によるものと説明してきました。すなわち、論文は、勉強時間ではなく、「受かりやすい人」か、「受かりにくい人」かという要素が決定的に重要である。「受かりやすい人」は、1回目の受験で受かる確率が非常に高い。そのため、修了年度の新しい受験生の合格率は、高くなりやすい。他方で、「受かりにくい人」は、ほとんどが受からないので、2回目以降に滞留する。「受かりにくい人」は、どんなに勉強量を増やしても受かりやすくならないので、2回目以降の受験でも、ほとんどが受からない。1回目の受験で例外的に不合格になった「受かりやすい人」は、2回目以降も受かりやすい。こうして、「受かりやすい人」がどんどん抜けて、「受かりにくい人」がどんどん滞留していくので、修了年度の古い受験生(ずっと滞留した受験生)ほど受かりにくいという結果が出力される、という仕組みです。つまり、受かりにくい人を選抜する負のセレクションが働いているというわけです。
 では、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい。」法則の原因は何か。法律に向いていないとか、やる気がないというようなことでは、説明になりません。上記の表をみればわかるとおり、短答に関しては、修了年度の古い受験生も、それなりに健闘しています。本当に法律に向いていないとか、やる気がなくてだらけているなら、短答も同様の傾向となっていなければおかしいでしょう。実際の経験からみても、なかなか合格できずに苦労している人ほど、むしろよく勉強していて、法律の知識・理解は豊富であることが多いように思います。
 この原因は、現時点ではかなり分かってきています。現在の論文式試験は、基本論点について、規範を明示し、問題文の事実を摘示し(書き写し)て書けば、合格できます。しかし、そのためにはかなりの文字数を書き切る必要がある。体力的に書き切る力がなかったり、速く書くという意識がない人は、そもそも必要な文字数を制限時間内に書くことが物理的に不可能です。そのような人は、何度受けても受からない。また、一定以上の筆力があっても、当てはめの前に規範を明示するクセの付いていない人は、何度受けても規範を明示せずにいきなり当てはめに入るので、何度受けても受からない。規範を明示するクセが付いていても、問題文の事実を摘示し(書き写し)て書くクセの付いていない人は、何度受けても問題文の事実を摘示し(書き写し)て書かないので、何度受けても受からない。上記の各要素は、勉強量を増やして知識が豊富になったからといって、なんら改善されるものではありません。だから、受験回数が増えても合格率は上がるどころか、かえって下がってしまうというわけです。
 ちなみに、5回目受験になると、4回目受験よりちょっと合格率が上がる、というのが、最近時折みられるようになった傾向です。これは、4回受験して手応えのない人は5回目を受験しないこと、4回の不合格経験から、これまでどおりの受験対策ではダメだということに気付く人が増えること等が原因ではないかと思っています。令和5年の司法試験では、ややイレギュラーですが、それが令和元年修了生について表れています。

4.以上のことをまとめましょう。短答は、単純に知識量で勝負が付きますから、とにかく勉強時間を確保することを考えましょう(具体的な勉強法については、「令和6年司法試験短答式試験の結果について(2)」参照)。論文も、必要な演習量を確保するためには、相当程度の勉強時間を確保する必要があります。しかし、勉強時間を確保できても、制限時間内に必要な文字数(概ね1行平均30文字程度で6頁程度)を書く能力と、規範を明示し、事実を摘示する答案スタイルで書くクセが身に付いていないと、何度受けても受かりにくい
 今年、不合格だった人で、誰もが書く基本論点に気が付かなかったとか、基本論点の規範すら覚えていなかったなら、単純な勉強時間の不足が原因である可能性が高いでしょう。これは未修者的な不合格の例です。今年の例でいえば、憲法で薬事法事件の判例法理を知らなかったとか、行政法で処分性の規範を覚えていなかったとか、民法で他人物売買と相続の判例法理や留置権・錯誤の各要件の意義を覚えていなかったとか、商法で特別利害関係株主の意義を覚えていなかったとか、民訴で明文なき任意的訴訟担当の要件や裁判上の自白の意義を覚えていなかったとか、刑法で強盗罪の構成要件の意義ないし判断基準を覚えていなかったとか、刑訴で違法収集証拠・派生証拠排除、所持品検査、ビデオ撮影等の規範を覚えていなかった、という場合が、これに当たります。これらの事項は、普通に演習をしていれば、一回は書く機会があるので、書けなかった経験をし、「これは覚えなければいけない。」と認識して暗記プロセスを回すことで、頭に入っていくはずのものです。
 他方、基本論点を抽出できて、その規範も覚えていたが、規範の明示と事実の摘示というスタイルで書けなかった、というのは、修了年度の古い受験生的な不合格の例です。原因は2つあり、対処法が違います。時間が足りなくて平均5頁以下しか書けなかったので、規範を明示して事実を摘示するというスタイルでは書けなかった、というのなら、時間内に書ける文字数を増やす訓練をすべきです。漫然と「できる限り速く書こう。」というのではなく、答案構成の時間を減らしたり、書きやすいボールペンや万年筆に変えてみたり、意識して字を崩して書いてみるなど、目に見えるような違いが出る工夫をしてみましょう。平均6頁以上書いているけれども、問題提起や理由付け、事実の評価などを中心に書いているために、規範の明示や事実の摘示を省略してしまっているのなら、規範の明示や事実の摘示を優先して、問題提起や理由付け、事実の評価などを省略する答案スタイルに改めるべきです。今までのこだわりがあるので抵抗はあるでしょうが、その点を見直さないと、「受かりにくい人」になってしまいます。

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