平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)

1.平成27年予備試験論文式試験の結果が公表されました。合格点は235点合格者数は428人でした。以下は、予備試験論文式試験の合格点及び合格者数の推移です。


(平成)
論文
合格者数
合格者数
前年比
論文
合格点
合格点
前年比
23 123 --- 245 ---
24 233 +110 230 -15
25 381 +148 210 -20
26 392 +11 210
27 428 +36 235 +25

 今年は、昨年と比べて合格点が25点上昇し、合格者数は36人増加しています。このことは、何を意味するのでしょうか。

2.これを理解するには、ここに至るまでの経緯を把握しておく必要があります。
 平成24年と平成25年は、大幅に合格者数が増えた時期でした。この合格者急増の根拠となっていたのが、合格率をロー修了生と均衡させるという閣議決定です(「平成26年予備試験短答式の結果について(4)」)。

 

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用、太字強調は筆者)

  法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。 これは、法科大学院修了者と予備試験合格者とが公平な競争となることが根源的に重要であることを示すものであり、法科大学院修了者と同等の能力・資質を有するかどうかを判定することが予備試験制度を設ける趣旨である。両者における同等の能力・資質とは、予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきであるという理念を意味する。

  (引用終わり)

 

 当時は、ロー修了生の合格率と予備合格者の合格率が等しくなるまで、予備試験の合格者はどんどん増え続けるのではないか、などと言われていたものです。しかしながら、当サイトでは、そのようなことをすれば、ロー生は在学中に予備に全員受かってしまい、ロー修了生の資格で受験する者はいなくなるから、上記閣議決定を額面どおりに実現することはあり得ない。そのことは、司法試験委員会もわかっているだろう。だから、合格者数は抑制に転じるのではないか、と指摘をしていました

 

平成26年予備試験短答式の結果について(4)より引用、太字強調は現在の筆者による)

 現在のようにロー在学生が自由に予備を受験できる状況では、予備の合格者をどんなに増やしても、合格率の均衡は達成されません。
 予備の合格者を増やすと、その分だけロー在学生は予備に受かり易くなり、上位者からどんどん抜けていきます。従って、ロー修了生の資格で受験する人は、「在学中予備に受からなかった人」ということになる。先に予備に受かった上位者と、在学中予備に受からなかったロー修了生の合格率が、均衡するはずはありません。どんどん予備を簡単にしても、その簡単な予備にも受からない修了生との合格率の均衡が求められる。際限がありません。予備合格者の数を極限まで増加させた先にあるのは、「予備が簡単過ぎてロー在学生が全員合格してしまい、わざわざローを修了する人がいなくなる」という状況です。
 このようなことは、少し落ち着いて考えればすぐわかることですから、額面どおりに合格率均衡を実現するわけにはいかない。このことは、司法試験委員会もわかっているでしょう。

(引用終わり)

 

 そこで、合格者数を抑制する防波堤として、当サイトが指摘していた可能性が、「一応の水準の下限」という合格点でした(「平成26年予備試験短答式の結果について(5)」)。平成25年、平成26年の合格点210点は、満点500点の42%に当たります。これは、一応の水準の下限に当たる得点率です(司法試験予備試験論文式試験の採点及び合否判定等の実施方法・基準について)。これ未満の合格点を設定するということは、不良水準を合格させることを意味する。これは、質の確保という観点から許されないだろう。前記閣議決定にも、「資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら」という文言が入っていますから、「不良を受からせるのは資格試験としてあるべきでない事態である」と考えれば、閣議決定にも反しないということになります。当サイトでは、平成25年の段階で、これが合格者抑制要因として機能するのではないか、と予測していたのです(「平成25年予備試験論文式試験の結果について(3)」)。平成26年に関しては、この予測によって合格者数がほとんど増えなかったことを説明できたのです。
 そして、その後、上記閣議決定については、ロー修了生の低い合格率に予備組の合格率を合わせるという意味ではなく、ロー修了生の合格率を引き上げるように頑張れという意味に過ぎない。だから、予備の合格者数を増やす必要はないという新解釈が登場し、上記閣議決定は、無視されつつあるというのが、現在の状況です。

 

法曹養成制度改革顧問会議第8回会議議事録より引用、太字強調は筆者)

吉戒修一(元東京高裁長官)顧問 「予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させる」ということが書いてあるので、これをどう読むかです。・・・今の時点で予備試験合格者に占める本試験合格者の割合は約7割です。それに対し、法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合は約3割です。本来、法科大学院修了者の司法試験合格率は7~8割というのが目標ですから、現在は、それにはるかに及ばない、3割という低いところにいるわけです。したがって、これを7~8割までに引き上げるべきと読めるかと思います。これを低減させる方向で、つまり、法科大学院修了者の3割のラインに予備試験合格者の水準も下げるというのはおかしいだろうと思います。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第9回山根顧問提出資料より引用、太字強調は筆者)

 予備試験の合格者数に関しては,「規制改革推進のための3か年計画」の存在が問題視されているが、この閣議決定は“両方のルートからの司法試験合格率がどちらも7~8割”となるという形での均衡を言っているのであって、法科大学院修了者の司法試験合格率が3割を切るという当時想定していなかった現状の中で、それに合わせて予備試験合格者を増加すべきと言っているものではないと考える。従って法科大学院制度の改革が進み、修了生が7~8割司法試験に合格できるようになるまでの当面の間は予備試験合格者の数を現状維持、あるいは減少させることが適当であると考える。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第61回)議事録より引用、太字強調は筆者)

土井真一(京都大学大学院法学研究科教授)委員  政府の規制改革推進3か年計画の中で、新司法試験の合格率において、予備試験合格者と法科大学院修了者の間で可能な限り差異が生じないようにすべきであると指摘されていますけれども、しかし、これは本来法科大学院が期待されていた役割を十全に果たしているという状況を前提にして、それと比べて予備試験合格者を不公平に取り扱わないという趣旨だったものだと私は理解しております。決して課題を抱えている法科大学院の現状に予備試験を合わせていって、法科大学院が抱えている課題をより深刻にするというようなことを意図しているわけではないと思います。その意味では、対症療法の一つとして、この閣議決定が間違っているというわけではなくて、本来の趣旨というものを適切に理解した上でその運用をお考えいただくということが大変重要なことではないかと思います。

片山直也(慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)委員長・教授)委員 仮にこの閣議決定に拘束力があることを前提に、今合格率の均衡を図る必要があるということだとしましても、その方法はいろいろ考えられるわけでありまして、その均衡を達成するために予備試験の合格者数を増やすというのは、これは本末転倒の議論ではないかという印象を受けております。

磯村保(早稲田大学大学院法務研究科教授)委員 結局法科大学院の中においても、試験でいい成績が取れる学生が予備試験のルートを通って合格しているにすぎないので、そのルートを通っている法科大学院と、在学している法科大学院生を比較して、どちらがどうかという話をしているのと同じようなものになります。それを、例えば数値のみでみた結果として、予備試験ルートと法科大学院ルートを同じようにするべきだというのは、その前提を見誤った議論ではないかというのが率直な感想です。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第8回会議議事録より引用、太字強調は筆者)

有田知德(元福岡高検検事長)顧問 私、この前にもお話ししましたように、もう土俵が全く違ってきているのではないかなという感じを持っているのです。ですから、これはこれとして、今、射程範囲を超えた状況にあるわけですから、現状をどうするのかという視点で見た場合、一応、これは横に置いておくという措置しか私はないと。それで、その横に置いておくための理由付けをどうするのかというのをもう少し肉づけした上で、みんなに分かっていただくような方法がいいのではないのか。

橋本副孝(元日弁連副会長)顧問 私としては、現状、国として、法科大学院の卒業生に関して、一方で7~8割は受かるという目標設定をして、それを達成するための施策を立案し、実行している過程にある。他方で、予備試験合格者について、書かれているように法科大学院の卒業生と合格率の点で均衡させることを謳っている。こういう状態なのですから、国としては、この両方の要請を満たす形で考えないと、方針として一貫しないのではないかと思います。
 そういう意味で、両方を整合させて考えるのであれば、低い方の合格率に合わせて全体の制度を設計するというのは・・・前提が違うのではないかと思います。ここからどういう対応策を導くかという議論はあるとは思いますが、ただ、両者の要請があることを前提としたものにしないと政策として一貫しませんし、本来の趣旨が生きないのではないかと考えています。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第10回会議議事録より引用、太字強調は筆者)

納谷廣美(前明大学長)座長 現状では、法科大学院修了者の司法試験合格率について、累積合格率が約7割と当初目指していた水準にほぼ達する法科大学院がある一方、累積合格率が全国平均(約5割)の半分未満の法科大学院も相当数あり、全体として法科大学院修了者の約5割(単年では約3割弱)しか司法試験に合格していないことから、法科大学院全体としては大きな課題を抱えており、極めて深刻な事態である。このように認識している。
 一方、平成23年から始まった予備試験については、これまでの実績を見ると、合格者の司法試験合格率が単年で7割程度で推移している。しかし、法務省の公表データ、今日のデータもありますが、自己申告によるものではあるが、予備試験に合格した者のうち法科大学院生と大学生が占める割合は高く、彼らのほとんどが司法試験に合格しており、その現象は増大傾向にあることが読み取られる。上記閣議決定当時には想定されていなかった事態が生じていると思います。このことから、予備試験合格者の司法試験合格率と、法科大学院修了者の司法試験合格率を単純に比較することは適当でないと思います。
 以上の問題状況に鑑みると、法科大学院教育については、その教育内容、水準及び質を早急に根本的に改善・充実させることが必要であるところ、法科大学院制度と予備試験制度との関係が当初想定されていた姿となっていない現状においては、予備試験の合否の判定を現状の法科大学院修了者の水準に合わせることは適当ではない
 こんなところでまとまるかなと思ってペーパーにまとめました。言葉は言い尽せないところもありますし、もう少し付加したいところもあるのですが、おおよそ閣議決定についてはこのように考えていけたらどうなのだろうか。このように顧問会議の御意見を集約させていただいたところでございます。  

(引用終わり)

 

3.以上の結果を踏まえた上で今回の結果をみると、まず、合格点が210点よりも高い235点であったことが目に付きます。これまで、合格者数抑制のための防壁として機能していた210点よりも高い点数が合格点になっている。そうだとすると、合格者抑制の方向にはなりにくい。その意味では、合格者数が増加したことは、むしろ自然なことのように映ります。

4.とはいえ、では、なぜ428人、235点だったのか、という疑問は残ります。そこで、まず、仮に今年の合格点が210点だったらどうか、ということで、法務省の公表した得点別人員調をみると、924人です。これは昨年の2倍以上の数字ですから、いくらなんでも多すぎる。だから、210点を合格点にできなかったのだろうということはわかります。もっとも、それでは何を基準にして合格者数や合格点を決めたのか、ということが気になります。
 司法試験では、一時期、「2000人基準」が採用され、近時はこれが、「1800人基準」となっています(「平成27年司法試験の結果について(1)」、「平成26年司法試験の結果について(1)」)。また、予備試験の短答では、今年も「2000人基準」が採用されています(「平成27年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。そこで、今年の論文式試験について、5点刻みで合格点前後の累計人員をみてみると、以下のようになっています。

得点 類型人員
245 254
240 340
235 428
230 506
225 602

 5点刻みでみたときに、初めて400人を超えるところで、合格点が決まっていることがわかります。まだ今年だけの数字ですから何ともいえませんが、どうも、予備の論文は、「400人基準」になったのではないか、というようにも思えます。
 このことと、従来の「210点下限説」とを合わせて考えると、以下のような法則で、予備論文の合格点は決まる、という仮説を考えることができます。

(1)210点に累計で400人以上存在しない場合は、210点が合格点となる。
(2)210点に累計で400人以上存在する場合は、5点刻みで初めて400人を超える点数が合格点となる。

 今のところ、平成25年以降の合格点は、これで説明できます。来年以降もこれが妥当するのか、注目したいところです。

戻る