1.今年は、6899人が受験して、1583人合格ですから、受験者合格率は、22.9%ということになります。以下は、これまでの受験者合格率の推移です。
年 | 受験者 合格率 |
18 | 48.2 |
19 | 40.1 |
20 | 32.9 |
21 | 27.6 |
22 | 25.4 |
23 | 23.5 |
24 | 25.0 |
25 | 26.7 |
26 | 22.5 |
27 | 23.0 |
28 | 22.9 |
平成23年までは、一貫した低下傾向でした。これは、受験回数制限が機能し始めるまでは、不合格となった受験生がどんどん滞留していくからです。分母である受験者数がどんどん増えるので、合格率が下がるわけですね。一方で、志願者数の減少が始まります。志願者数の減少は、長期的には分母の受験者数を減少させ、合格率を上昇させます。これが、数字として表れてきたのが、平成24年、平成25年の反転上昇だったのです。
ところが、平成26年に2つの特殊要因が生じます。1つは、平成27年から受験回数制限が緩和されることが明らかになったことによる受控えの減少です。これは、分母の受験者数を増加させますから、合格率の下落要因です。そして、もう1つは、分子である合格者数の減少です。平成20年から平成25年まで、合格者数は一貫して2000人台の数字を維持してきました。それが、平成26年になって、急に1800人台となったのです。こうして、分母が増加する一方で分子が減少した結果、平成26年は、受験者合格率が急激に下落したのでした。
昨年と今年は、数字の上ではほぼ同じです。ただ、昨年は、平成26年から受験者数(1人増加)も合格者数(40人増加)もほぼ変化がなかった結果の数字ですが、今年は、分母(受験者数)と分子(合格者数)の減少が同時に生じた結果、昨年と同じ水準に落ち着いた、というものでした。
2.さて、前回の記事(「平成28年司法試験の結果について(1)」)で、近時の合格者数の決定要因として、この合格率が最も重要ではないか、ということを書きました。受験者数が減少しているので、それに合わせて、合格者数を減らさないと、急激に合格率が上昇してしまう。そうならないようにするために、受験者数の減少に合わせて、合格者数も減らしているのではないか、ということでした。ただ、この考え方については、2つの疑問が生じます。
3.まず、1つ目の疑問は、合格率の急激な変化を避けようとした、という説明は、平成26年に合格者数を引き下げたことを説明できないのではないか、ということです。前記1で確認したとおり、平成26年は、受験者数が増加したことに加え、司法試験委員会が合格者数を1800人台に引き下げたことによって、急激な合格率の下落を招いたのでした。そうだとすると、「合格率が急激に変化しないようにするために、合格者数を調整しました。」という説明は成り立ちません。これを、どう考えるかです。
ここで、気を付ける必要があるのは、平成25年以前の合格率と、平成26年以降の合格率は、「試験の難易度ないしは実質的な競争倍率」を示すものとしては、単純な比較ができない、という点です。平成26年以降は、受験回数制限の緩和(平成26年については、その情報)によって、今までは受控えをしていた層が、ダメ元で受験するようになったからです。この層のほとんどは、合格する実力がありませんから、このような受控え層の参加は、実質的には試験の難易度を上げることにはなりません。ですから、平成25年以前の合格率と、平成26年以降の合格率を比較する場合には、受控え層の受験の影響を除去する必要があるのです。
その具体的な試算の方法は、以前の記事で詳しく説明しました(「平成26年司法試験の結果について(2)」、「平成27年司法試験の結果について(2)」)
。同様の方法を用いて、受控え層の受験の影響を除去した今年の修正合格率を試算すると、
1583÷7644÷0.75≒27.6%
となります。以下は、前記の受験者合格率の推移の表のうち、平成26年以降の部分について、括弧書きで上記の修正合格率を表示したものです。
年 | 受験者 合格率 |
18 | 48.2 |
19 | 40.1 |
20 | 32.9 |
21 | 27.6 |
22 | 25.4 |
23 | 23.5 |
24 | 25.0 |
25 | 26.7 |
26 | 22.5 (26.3) |
27 | 23.0 (27.5) |
28 | 22.9 (27.6) |
このようにしてみると、「合格率の急激な変化を避けようとした。」という説明も、それなりに筋が通ることがわかります。仮に、平成26年に、従来どおり合格者数を2000人とした場合、修正合格率は29.1%となります(「平成26年司法試験の結果について(2)」)。また、仮に、今年の合格者数を1800人に据え置くと、修正合格率は、1800÷7644÷0.75≒31.3%になってしまいます。一連の合格者数削減は、このような修正合格率の急上昇によって、例年よりも極端に実質的な難易度が下がることを避ける、換言すれば、合格者の質を確保するためであった、と考えれば、筋が通ります。
上記の仮説によれば、司法試験委員会は、「新司法試験開始当初の高い合格率は、受験回数制限による退出者が出る前の過渡期のものなので、適正なものではない。受験回数制限による退出によって合格率が安定し、受験回数制限緩和の影響を受けていない平成25年の26%~27%が、適正な合格率である。」と考えていることになります。ですから、来年以降の合格者数を考える場合にも、修正合格率が26%~27%くらいになる合格者数の水準を考える必要がある。そのためには、実際の出願者数を見てみる必要がある、ということになるわけですね。
もう1つの疑問については、次回に検討したいと思います。