1.今回は、これまでにみてきた内容に関する補足的なデータを紹介したいと思います。
以下は、直近5年の短答合格者ベースの論文合格率の推移です。
年 | 短答合格者 ベースの 論文合格率 |
前年比 |
24 | 39.3% | --- |
25 | 38.9% | -0.4 |
26 | 35.6% | -3.3 |
27 | 34.8% | -0.8 |
28 | 34.2% | -0.6 |
受験者合格率を比較する場合には、受験回数制限緩和の影響による受控え層の参入を考慮した補正が必要でした(「平成28年司法試験の結果について(2)」)が、短答合格者ベースの論文合格率を考える場合には、そのような補正は必要ありません。なぜなら、受控え層のほとんどは、短答段階で姿を消すと考えることができるからです。
直近5年の推移をみると、一貫して論文合格率は低下傾向です。もっとも、平成26年を除けば、わずかな下落に過ぎません。これまでにみてきたとおり、昨年と今年は合格点が急上昇しました(「平成28年司法試験の結果について(5)」)が、それは論文の難易度が急上昇していることを意味していないことがわかります。
2.以下は、法務省の公表する得点別人員調から算出した平成26年、昨年、今年の論文の合計点の標準偏差です。
年 | 標準偏差 |
平成26年 | 71.5 |
平成27年 | 78.1 |
平成28年 | 80.4 |
平成26年と比べて、昨年は急激に標準偏差が大きくなり、今年も、同様の傾向が維持されていることがわかります。これは、平成26年と比較して、論文の合計点の段階でのバラつきが広がったことを意味します。上位層と下位層の二極分化という現象(「平成28年司法試験の結果について(5)」)が、標準偏差にも表れているといえるでしょう。
3.以下は、今年の公法系、民事系、刑事系の最高得点、短答合格者の上位5%(231位)の得点をまとめたものです。括弧内は、1科目当たりの得点に換算した数字です。
科目 | 最高得点 | 上位5% |
公法系 | 168点 (84点) |
132点 (66点) |
民事系 | 250点 (83.3点) |
203点 (67.6点) |
刑事系 | 164点 (84点) |
133点 (66.5点) |
上記の得点の意味を理解するために、改めて成績評価の際の各区分と得点の範囲との対応を確認しておきましょう。
優秀 | 100点~75点 |
良好 | 74点~58点 |
一応の水準 | 57点~42点 |
不良 | 41点~0点 (特に不良 5点以下) |
トップの答案は、優秀の区分に入っています。しかし、上位5%の得点をみると、ちょうど良好の水準の真ん中くらいの点数です。前回の記事(「平成28年司法試験の結果について(6)」)でも説明したとおり、このことは、採点実感等に関する意見を読む際の目安となります。採点実感等に関する意見に、「優秀に該当する答案の例は~」として書いてあることは、トップになるために必要な内容であり、「良好に該当する答案の例は~」として書いてあることは、上位5%に入ろうとする場合に要求されるような内容だということです。自分がどのくらいのレベルで受かろうと思っているのか。トップでないと気が済まないのか。就職のことも考えて上位5%以内で受かりたいのか。とにかく合格しさえすればいいのか。そういったことを具体的に意識しているかどうかで、採点実感等に関する意見の読み方も変わってくるはずです。
4.今年から、成績通知に系別の得点だけでなく、各科目の順位ランクが記載されるようになりました。各科目の得点は、採点格差調整(得点調整)によって、平均点の得点率は、全科目平均点の得点率に等しく(つまり、今年はどの科目も平均点は48.7点になる。)、標準偏差は10に固定されます。その結果、どの科目も、順位と得点について、概ね以下のような対応関係が生じます。したがって、順位ランクがわかれば、大体何点から何点までの間の得点だったかがわかるわけです。
各科目 の順位 |
各科目 の得点 |
500位 | 62点 |
1000位 | 57点 |
1500位 | 54点 |
2000位 | 51点 |
2500位 | 48点 |
3000位 | 45点 |
3500位 | 42点 |
成績評価の区分との関係で言えば、500位までが良好の下位レベル。それ以外は、全て一応の水準の中に入っています。3500位を下回ると、不良ということになる。要するに、1000位から3500位までは、一応の水準という枠の中でのどんぐりの背比べのようになっているのです。採点実感等に関する意見との関係で言うと、「一応の水準に該当する答案の例は~」と書いてある部分を、どれだけ的確に書いているか。その程度のレベルの中で細かく順位が決まっているというわけですね。当サイトが、基本論点について、規範を明示して、問題文の事実を摘示し(書き写し)て書けば優に合格ラインを超えると繰り返し言っているのは、通常、これをクリアするような内容は、「一応の水準に該当する答案の例は~」として記述された内容を自動的にクリアするようになっているからです。ですから、各科目の順位ランクがBかCかなどという細かいことは、あまり気にしても仕方がないのかな、というのが、当サイトの考え方です。