1.前回の記事(「平成28年司法試験の結果について(10)」)でみたとおり、予備組の合格率は毎年下がってきています。これは、ロー生と比較すると、どの程度の水準なのでしょうか。
2.まず、ロー生全体の受験者合格率と比較してみましょう。今年の受験者全体の受験者合格率は、22.9%でした(「平成28年司法試験の結果について(2)」)。もっとも、この数字は、予備組も含まれた数字です。そこで、ロー生に限ってみると、6517人が受験して1348人合格ですから、受験者合格率は、20.6%ということになる。このことからわかるとおり、全体の受験者合格率は、予備組の参入によって、2.3%押し上げられているのです。他方、前回もみたとおり、予備組の受験者合格率は61.5%です。したがって、ロー生全体との比較では、いまだに3倍程度の圧倒的な差があることになります。
もっとも、短答合格者ベースの論文合格率で比較すると、その差は少し縮まります。今年のロー生全体の短答合格者は4245人で、そのうちの1348人が論文に合格していますから、短答合格者ベースの論文合格率は、31.7%ということになります。これに対し、予備組の短答合格者は376人で、そのうちの235人が合格ですから、予備組の短答合格者ベースの論文合格率は、62.5%です。このように、論文段階に限ってみると、その差は2倍程度に縮まるのです。とはいえ、それでも予備組の方が圧倒的に受かりやすいことには変わりがありません。
3.それでは、上位ローと比較するとどうか。以下は、予備組、東大、京大、一橋、慶応の受験者数、最終合格者数、受験者合格率です。
受験者数 | 最終 合格者数 |
受験者 合格率 |
|
予備 | 382 | 235 | 61.5 |
東大 | 285 | 137 | 48.0 |
京大 | 222 | 105 | 47.2 |
一橋 | 127 | 63 | 49.6 |
慶応 | 350 | 155 | 44.2 |
上位ローですら、受験者合格率はいずれも4割台で、5割以上のものはありません。6割強の合格率を保っている予備組は、今でも上位ローを超える合格率を維持しているといえるでしょう。
もっとも、これを短答合格者ベースの論文合格率で比較すると、少し様相が変わってきます。以下は、予備組、東大、京大、一橋、慶応の短答合格者数、最終合格者数、短答合格者ベースの論文合格率です。
短答 合格者数 |
最終 合格者数 |
論文 合格率 |
|
予備 | 376 | 235 | 62.5 |
東大 | 222 | 137 | 61.7 |
京大 | 163 | 105 | 64.4 |
一橋 | 103 | 63 | 61.1 |
慶応 | 280 | 155 | 55.3 |
慶応は少し後れをとっていますが、京大は、予備組の合格率を上回っています。東大、一橋も、ほぼ予備組と遜色のない合格率です。このように、論文段階に限ってみれば、予備組は、既に上位ローに追い付かれ、一部では追い抜かれてしまっているのです。
上位ローは、論文段階では予備組と遜色ないのに、なぜ受験者合格率では大きな差を付けられてしまっているのか。それは、短答段階で大きく差を付けられているからです。確認してみましょう。以下は、予備組、東大、京大、一橋、慶応の受験者数、短答合格者数、短答の受験者合格率です。
受験者数 | 短答 合格者数 |
短答 合格率 |
|
予備 | 382 | 376 | 98.4 |
東大 | 285 | 222 | 77.8 |
京大 | 222 | 163 | 73.4 |
一橋 | 127 | 103 | 81.1 |
慶応 | 350 | 280 | 80.0 |
短答は、予備組が圧倒的に強く、上位ローもそれなりに高い合格率ではあるものの、予備組との差は歴然としています。特に、論文で予備を上回っていた京大は、短答で苦戦しています。
以上のように、上位ローと予備組は、論文段階では既にほとんど差がないが、短答段階での差は、いまだに大きいということができます。このような短答段階での上位ローと予備組の大きな差は、短答を学習する際のポイントを示唆します。以前の記事(「平成28年司法試験の結果について(8)」)でも説明したとおり、短答の学習は、できる限り早い段階で着手しなければならず、それは完全に独学だ、ということです。予備組は、司法試験の一年以上前から、予備合格に向けて短答の学習に着手しますから、ロー生と比べて必然的に早い段階で短答の学習に着手します。そして、ローの講義と関わりなく、完全に独学で学習していく。それが、このような短答での予備組の圧倒的な強さの原動力となっているのでしょう。これに対し、ロー生は、ローの講義の予習などに時間を取られてしまい、なかなか短答の学習に着手できない。また、ローの講義に学習のペースを合わせてしまいがちなので、短答プロパーの知識の習得が後回しになりやすいのです。現在、法科大学院に通っている人は、この点に注意する必要があるでしょう。
4.さらに、上位ローの既修と比較してみましょう。以下は、予備組、東大既修、京大既修、一橋既修、慶応既修の受験者数、最終合格者数、受験者合格率です。
受験者数 | 最終 合格者数 |
受験者 合格率 |
|
予備 | 382 | 235 | 61.5 |
東大 既修 |
165 | 104 | 63.0 |
京大 既修 |
149 | 96 | 64.4 |
一橋 既修 |
81 | 50 | 61.7 |
慶応 既修 |
211 | 124 | 58.7 |
既修に限ってみれば、既に東大、京大、一橋は予備を上回っています。慶応も、ほぼ遜色のない合格率です。このように、予備組は、既に上位ローの既修とほぼ同水準か、むしろそれ以下のレベルになっているといえます。
5.前回の記事(「平成28年司法試験の結果について(10)」)でみたとおり、予備組の合格率が年々下がってきているのは、2回目以降の滞留者の存在が原因でした。他方で、ロー生の方も、2回目以降の滞留者がいて、その存在が、全体の合格率を下げている。そこで、その要素を排除した1回目受験生同士で対決すると、どうなるか。興味が湧くところです。ただ、残念ながら、現時点では、予備組の受験回数別合格率が明らかではありません。後日、予備組の合格年別の合格率が公表されるでしょうから、その時に、この点を確認してみたいと思います。