1.以下は、予備論文の平均点及び合格点を1科目当たりに換算した場合の点数の推移です。
年 (平成) |
論文 平均点 |
平均点 前年比 |
論文 合格点 |
合格点 前年比 |
23 | 19.5点 | --- | 24.5点 | --- |
24 | 19.0点 | -0.5 | 23.0点 | -1.5 |
25 | 17.5点 | -1.5 | 21.0点 | -2.0 |
26 | 17.7点 | +0.2 | 21.0点 | 0 |
27 | 19.9点 | +2.2 | 23.5点 | +2.5 |
28 | 20.5点 | +0.6 | 24.5点 | +1.0 |
1科目の得点と、その水準の対応は、以下のとおりです。
(「司法試験予備試験論文式試験の採点及び合否判定等の実施方法・基準について」より抜粋)
優秀 | 良好 | 一応の水準 | 不良 |
50点から38点 (48点) |
37点から29点 | 28点から21点 | 20点から0点 [3点] |
(引用終わり)
合格点をみると、平成25年及び平成26年は一応の水準の下限。それ以外の年は、一応の水準の真ん中からやや下の辺りです。他方で、平均点は、不良の上限付近という感じになっています。
このことから言えることは、優秀・良好レベルはまったく求められていない、ということです。今年の結果について、上位の得点と、その水準、順位をまとめたものが、以下の表です。
1科目 当たりの 得点 |
水準 | 順位 |
38点 | 優秀の下限 | 不存在 |
33.1点 | 良好の真ん中 | 1位 |
29点 | 良好の下限 | 32位 |
優秀の水準に入っている人は、1人もいません。トップの人ですら、良好の真ん中くらいなのです。もちろん、これは1科目当たりの平均点に換算した数字ですから、個別の科目だけをみれば、優秀を取った人がいる可能性はあります。しかし、通常の受験対策を考える場合には、ほとんど無視して構わない程度の数でしょう。このことを、まずは知っておくべきです。良好の真ん中くらいをコンスタントに取っているだけで、トップになってしまう。これが、今の予備試験の現状なのです。
当サイトでは、論文の合格答案の十分条件として、以下の3つを挙げています。
(1)基本論点を抽出できている。
(2)当てはめに入る前に、規範を明示できている。
(3)その規範に当てはまる問題文中の事実を摘示できている。
上記の3つは、必ずしも完全にできなくても合格できるが、完全にこなせば、まず間違いなく合格できる、という意味で、「十分条件」と表現しています。司法試験では、上記の(1)から(3)までの要求水準は、それなりに高いです。特に、(2)の規範の明示と(3)の事実の摘示という答案スタイルが守られていないと、それだけで極端に受かりにくくなる。それと比較すると、予備試験は、ある程度、その辺りが雑でも合格できる場合があります。それが、上記の合格点の推移に反映されている、と考えてよいでしょう。その原因は、多くの人が上記(1)の基本論点の抽出ができずに、沈んでしまうということにあります。予備試験は、司法試験と比べると勉強量の極端に短い人が多いので、基本論点すら抽出できない人が、案外に多いのです。そのため、基本論点を拾っていれば、書き方が雑でも、かなり上位になってしまう。もっとも、そうは言っても、(2)の規範の明示と(3)の事実の摘示という答案スタイルを確立しておかないと、次の司法試験で予想外の苦戦を強いられることになりかねませんし、予備試験でも、その点が雑だと受かりにくいことには変わりはありません。ですから、普段の学習では、(2)の規範の明示と(3)の事実の摘示という答案スタイルを常に守れるように、書き方のクセを付けておく必要があります。
2.予備試験の論文の合格レベルは上記のとおりで、それは、今も基本的には変わっていません。もっとも、前回の記事でみたとおり、昨年、今年と、続けて説明の困難な平均点の上昇が生じました(「平成28年予備試験論文式試験の結果について(2)」)。これが、受験生のレベルの向上とは別の要因、例えば、考査委員の採点方針の変更によるものであるとすれば、上記の数字を見る際に、注意する必要があることになります。受験生のレベルは平成25年及び平成26年と変わらないのに、平成27年以降は、高めに採点されている。そうだとすれば、仮に合格点が上がったとしても、それは、合格に必要な水準が上がったことを意味しないことになるからです。以下は、1科目当たりに換算した平均点、合格点と、合格点から平均点を差し引いた得点の推移をまとめたものです。
年 (平成) |
論文 平均点 |
論文 合格点 |
合格点と 平均点の差 |
23 | 19.5点 | 24.5点 | 5.0点 |
24 | 19.0点 | 23.0点 | 4.0点 |
25 | 17.5点 | 21.0点 | 3.5点 |
26 | 17.7点 | 21.0点 | 3.3点 |
27 | 19.9点 | 23.5点 | 3.6点 |
28 | 20.5点 | 24.5点 | 4.0点 |
合格点と平均点との差に着目すると、今年は、その差が拡大し、平成24年と同水準くらいになっていることがわかります。合格点と平均点との差が拡大しているということは、平均点の上昇幅以上に、合格点が上昇していることを意味します。考査委員の採点方針の変更等の事情によって平均点が押し上げられたことを考慮しても、なお、説明を要する合格点の上昇が生じている、ということです。
3.このことは、実は、司法試験の方でも生じていました。司法試験の場合には、その要因は、上位層と下位層の二極分化にありました(「平成28年司法試験の結果について(5)」)。その二極化の現象は、論文の得点の標準偏差の拡大という形で確認できました(「平成28年司法試験の結果について(7)」)。予備試験でも、同様の現象が生じているのでしょうか。以下は、各年の予備論文の得点の標準偏差の推移です(採点格差調整(得点調整)があるにもかかわらず、合計点の標準偏差が各年で変動する理由については、「平成28年司法試験の結果について(5)」を参照)。
年 (平成) |
標準偏差 |
23 | 39.4 |
24 | 37.3 |
25 | 41.3 |
26 | 39.4 |
27 | 39.6 |
28 | 44.2 |
今年は、標準偏差が過去最大の数字になっていることがわかります。今年の平均点の上昇幅を上回る合格点の上昇には、司法試験と同様、上位層と下位層の二極分化が影響している、と考えてよさそうです。
同時に、今年は平成24年と合格点と平均点の差が同じでしたが、その意味合いが異なることがわかります。平成24年は、上記のとおり、標準偏差は小さな数字です。それにもかかわらず、合格点と平均点の差が開いているのはなぜか、それは、合格率の低さにあります。以下は、各年の論文合格率の推移です。
年 (平成) |
論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 |
23 | 1301 | 123 | 9.45% |
24 | 1643 | 233 | 14.18% |
25 | 1932 | 381 | 19.72% |
26 | 1913 | 392 | 20.49% |
27 | 2209 | 428 | 19.37% |
28 | 2327 | 429 | 18.43% |
平成23年及び平成24年は、論文合格者数が少なかったために、合格率は低い水準でした。合格率が低いと、合格点は高くなります。このことが、合格点と平均点の差を拡大させる要因となるのです。つまり、平成24年と今年は、合格点と平均点の差だけを見ると同じ数字ではあるが、平成24年は低い論文合格率が原因であったのに対し、今年は、上位層と下位層の二極分化が原因であり、両者はその原因を異にするといえるわけですね。
4.上記のような二極化の原因は、司法試験とほぼ同様と考えてよいでしょう。当サイトは、司法試験における二極化の原因について、問題文がシンプルな事例問題となったことと、合格答案の要件を知っている受験生と知らない受験生の差が明確になってきたことにあると考えています(「平成28年司法試験の結果について(5)」)。予備試験については、もともと比較的シンプルな事例問題が多かったので、後者の要因、すなわち、「合格答案の要件を知っている受験生と知らない受験生の差が明確になってきたこと」が、二極化の主要な要因であると考えてよいと思います。このことは、前に述べた予備論文の合格レベルを考える際に、やや注意を要します。今までは、合格答案の要件を知っている受験生が少なかったために、(2)の規範の明示や、(3)の事実の摘示がある程度雑でも、合格できていました。しかし、今後は、(2)の規範の明示や、(3)の事実の摘示を普通にこなしてくる受験生が増えてくるでしょう。そうなると、この点が雑な書き方では、合格が難しくなってくる。今年の平均点の上昇以上の合格点の上昇は、この要素を示唆するものといえるでしょう。ですから、今後も見据えた予備論文の対策という意味では、これまで以上に、(2)の規範の明示や、(3)の事実の摘示を重視した学習が必要になる、ということです。