1.以下は、論文の合計点の平均点の推移です。
年 (平成) |
論文 平均点 |
平均点 前年比 |
23 | 195.82 | --- |
24 | 190.20 | -5.62 |
25 | 175.53 | -14.67 |
26 | 177.80 | +2.27 |
27 | 199.73 | +21.93 |
28 | 205.62 | +5.89 |
短答式試験の場合、平均点が上下する主要な要因は、問題の難易度です。正解した問題の数で得点が決まるため、難しい問題が多いと平均点が低くなり、易しい問題が多いと平均点が上がる。とても単純ですね。これに対し、論文試験の場合は、必ずしも試験問題自体の難易度によって、平均点は左右されません。論文試験の得点は、優秀、良好、一応の水準、不良という大まかに4つの水準によって相対的に決定され、その大まかな得点分布の目安についても、決まっているからです。
(「司法試験予備試験論文式試験の採点及び合否判定等の実施方法・基準について」より引用。太字強調は筆者。)
(1) 白紙答案は零点とする。
(2) 各答案の採点は,次の方針により行う。
ア 優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。
イ 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。
ウ 良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。
エ 上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。
優秀 | 良好 | 一応の水準 | 不良 |
50点から38点 (48点) |
37点から29点 | 28点から21点 | 20点から0点 [3点] |
(3) 採点に当たってのおおまかな分布の目安を,各問に応じ次のとおりとする。ただし,これは一応の目安であって,採点を拘束するものではない。
割合 | 5%程度 | 25%程度 | 40%程度 | 30%程度 |
得点 | 50点から38点 | 37点から29点 | 28点から21点 | 20点から 0点 |
(引用終わり)
どんなに問題が難しくて、全体の出来が悪くても、全体の概ね4割くらいには、一応の水準、すなわち、28点から21点までの点数を付ける。逆にどんなに問題が簡単で、全体の出来が良かったとしても、3割程度は不良、すなわち、20点以下の点数を付ける。基本的には、そういった採点をするということです。このような採点方式を厳格に守って運用すれば、本来は、毎年平均点は同じくらいになるはずです。その意味では、論文は相対評価で得点が決まっているといえます。しかし、上記にも「これは一応の目安であって,採点を拘束するものではない。 」とあるように、実際には、上記の目安どおりの得点分布にはなっていません。考査委員の想定する受験生のレベルよりも、実際の受験生のレベルが低いと、目安より低い得点分布になりやすいのです。そこには、「考査委員の想定する一応の水準に達しているか。」というような、絶対評価的な要素も含まれている。毎年の平均点の変動には、そのような意味での受験生全体の実力の変化がある程度反映されている、ということができるのです。このような理由から、当サイトでは、各年の論文の平均点の推移を、受験生全体のレベルの変化を測る手段として、用いてきたのでした。
2.これまでの経験則では、論文の平均点と受験者数の間には、緩やかな負の相関がある、ということがわかっています。以下は、平成23年から平成26年までの論文受験者数と論文平均点を並べて表記したものです。
年 (平成) |
論文 受験者数 |
受験者数 前年比 |
論文 平均点 |
平均点 前年比 |
23 | 1301 | --- | 195.82 | --- |
24 | 1643 | +342 | 190.20 | -5.62 |
25 | 1932 | +289 | 175.53 | -14.67 |
26 | 1913 | -19 | 177.80 | +2.27 |
受験者数が増加すると、平均点が下がり、受験者数が減少すると、平均点が上がっているという関係にあることがわかります。もっとも、必ずしも、その増減幅が対応しているわけではありません。その意味で、「緩やかな」相関しかないということです。このような関係が生じる原因について、当サイトでは、上位陣の存在が毎年一定数に限られるからだ、と考えています。上位陣が一定数に限られるため、受験者数の増加は、下位者の増加を意味することになりやすい。その結果、受験生全体の平均点を押し下げる。もっとも、必ず下位者が増えるとは限らないので、相関性は緩やかなものにとどまる。こういうことなのでしょう。
ところが、昨年と今年は、それでは説明ができないほどの平均点の上昇が生じています。以下は、昨年及び今年の論文受験者数と論文の平均点です。
年 (平成) |
論文 受験者数 |
受験者数 前年比 |
論文 平均点 |
平均点 前年比 |
27 | 2209 | +296 | 199.73 | +21.93 |
28 | 2327 | +118 | 205.62 | +5.89 |
昨年と今年は、いずれも論文受験者数が増加しています。それにもかかわらず、昨年は大幅に平均点が上昇し、今年も、昨年ほどではありませんが、平均点が上昇しています。これは、これまでの経験則からは説明が難しい現象です。急に予備試験を受ける実力者が増えた、というようなことも、考えにくいでしょう。このような「従来の経験則からは説明の難しい論文の平均点の上昇」は、司法試験の方でも生じていました(「平成28年司法試験の結果について(4)」)。同様のことが、予備試験の方でも起こっている。まだ、はっきりしたことはわかっていませんが、共通の原因が背後にあるのでしょう。当サイトとしては、今のところ、考査委員の採点方針に変更があったというのが、一番ありそうな可能性であると考えています。
3.注意したいのは、予備試験の論文では、平均点の上昇の影響が、ダイレクトに合格者数に影響する、ということです。司法試験の場合には、合格者数を左右する重要な要素は合格率ではないか、というのが、現在の当サイトの立場です(「平成28年司法試験の結果について(1)」、「平成28年司法試験の結果について(2)」、「平成28年司法試験の結果について(3)」)。論文の全科目平均点の変動は、合格者数を左右する重要な要素ではないということです。これに対し、前回の記事(「平成28年予備試験論文式試験の結果について(1)」)でもみたとおり、予備試験の論文合格者数は、以下の2つの基準によって説明できます。
(1)210点に累計で400人以上存在しない場合は、210点が合格点となる。
(2)210点に累計で400人以上存在する場合は、5点刻みで初めて400人を超える点数が合格点となる(「400人基準」)。
平成25年と平成26年は、上記(1)によって、合格点が210点となり、合格者数が400人未満となった年。昨年と今年は、上記(2)によって、合格者数が400人を超えた年です。このように結果を分けた大きな原因は、論文の平均点です。平成25年と平成26年は、論文の平均点が低かったために、210点以上を取った人が400人に満たなかったのに対し、昨年と今年は、論文の平均点が上昇したために、210点以上を取った人が400人を超え、合格者数が増える結果となったのです。このように、予備試験では、論文の平均点が、合格者数を左右する重要な要素になっているのです。
来年以降も、昨年や今年のような高い平均点が続くのか。仮に、この平均点の上昇が、考査委員の採点方針の変化によるのであれば、この傾向は、来年以降も続くでしょう。そうであれば、来年以降も、400人を少し超える程度の合格者数になりやすい、ということが一応言えるわけです。
ただ、仮に、来年以降も高い平均点が維持されたとしても、法科大学院の定員削減とのバランスから、予備合格者の数が抑制される可能性も、ないわけではありません。この場合には、上記(2)の「400人基準」が、「300人基準」や「350人基準」となるでしょう。逆に、上記(2)の「400人基準」が、「500人基準」、「600人基準」のように増えていくことは、ほとんど考えられない。結局、減ることはあっても、増えることはない。そういう状況です。