平成31年司法試験の出願者数について(1)

1 平成31年司法試験の出願者数の速報値が公表されました。4930人でした。以下は、直近5年の出願者数の推移です。

出願者数 前年比
27 9072 -183
28 7730 -1342
29 6716 -1014
30 5811 -905
31 4930 -881

 出願者数は、昨年から881人減少しました。平成28年以降、減少幅が縮まってきてはいますが、それでも依然として大きな減少を続けています(平成27年の減少幅が小さいのは、受験回数制限緩和の影響です。)。仮に、毎年同じペースで減少を続ければ、6年で受験者数がゼロになってしまいます。さすがにそれはない、というのが、直感的な結論です。実際のところはどうなのか、検討してみましょう。

2 そもそも、なぜ、出願者数が減少しているのか。その主な原因は、法科大学院修了生の減少です(※1)。以下は、年度別の法科大学院修了者数の推移です(「法科大学院修了認定状況の推移(平成17年度~平成29年度)」参照)。
 ※1 他に、予備試験合格者数の増減も出願者数の増減に影響しますが、直近では予備試験合格者数にそれほど大きな変動はありません(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)。

年度 修了者数 前年度比
17 2176 ---
18 4418 +2242
19 4911 +493
20 4994 +83
21 4792 -202
22 4535 -257
23 3937 -598
24 3459 -478
25 3037 -422
26 2511 -526
27 2190 -321
28 1872 -318
29 1622 -250

 平成21年度以降、一貫して減少していることがわかります。新規の受験者となるべき者がどんどん減っているのですから、出願者数が減るのも当然といえるでしょう。もっとも、修了者数の減少幅と比較すると、出願者数の減少幅の方がかなり大きいことに気付くでしょう。例えば、平成29年度の修了生は平成30年の司法試験を受験することになるわけですが、平成29年度の修了者数は250人しか減っていません。他方、平成30年の司法試験の出願者数は905人も減っています。
 実は、直近の出願者数の減少には、合格率の上昇による滞留者の減少という要因も寄与しているのです。極端な例を考えてみましょう。例えば、前年の司法試験の合格率が100%だったとします。そうすると、翌年は、前年の滞留者による出願が全くないので、出願者数は極端に減少することになりますね。そこまで極端ではなくても、合格率が上昇すると、同様の現象が起きるのです。実際の数字をみてみましょう。ある年の滞留者の規模は、前年の受験予定者から、前年の合格者数を差し引くことで、概数を求めることができます。ただし、5回目の受験生は翌年に受験することができないので、この数字からは除くことになる。こうして求めた各年の滞留者に関する数字をまとめたものが、以下の表です。

前年の受験予定者数
(5回目受験者を除く)
前年の合格者数
(5回目受験者を除く)
前年の
受験予定者ベース
の合格率
(5回目受験者を除く)
前年の受験予定者数
と合格者数の差
(5回目受験生を除く)
前年比
27 9159 1810 19.7% 7349 ---
28 8957 1850 20.6% 7107 -242
(-3.2%)
29 7330 1530 20.8% 5800 -1307
(-18.3%)
30 6195 1482 23.9% 4713 -1087
(-18.7%)
31 5189 1452 27.9% 3737 -976
(-20.7%)

 合格率の上昇傾向に伴い、滞留者(前年の5回目受験生を除く受験予定者数と合格者数の差)が急減に減ってきていることがわかります。高めの合格率によって滞留者がどんどんはけて行き、再受験者が減っているというわけです。仮に、今後も合格者数1500人の下限が維持されるなどして高めの合格率が続くことになれば、さらに滞留者の減少が進んでいくでしょう。それが、出願者数の減少として、数字に表れてくることになるはずです。

3 もっとも、滞留者というのは、元はといえば、そのほとんどが法科大学院の修了者です。したがって、長い目で出願者数の推移を考えていく場合には、修了者数が今後下げ止まるのか、ということを確認しておく必要があります。
 修了者数が今後下げ止まっていくかは、法科大学院の入学者数の推移を確認することによって、ある程度予測することが可能です。以下は、平成20年度以降の法科大学院の入学定員及び実入学者人員の推移です(「各法科大学院の平成30年度入学者選抜実施状況等」、「各法科大学院の入学定員及び実入学者数の推移」等を参照。平成31年度の入学定員数は予定値。)。

年度 入学定員 前年比 実入学者 前年比
20 5795 --- 5397 ---
21 5765 -30 4844 -553
22 4909 -856 4122 -722
23 4571 -338 3620 -502
24 4484 -87 3150 -470
25 4261 -223 2698 -452
26 3809 -452 2272 -426
27 3169 -640 2201 -71
28 2724 -445 1857 -344
29 2566 -158 1704 -153
30 2330 -236 1621 -83
31 2253 -77 --- ---

 入学定員・実入学者ともに、一貫して減少傾向にあることがわかります。もっとも、直近の数字をみると、減少幅がかなり縮小してきています。このまま、下げ止まっていくのでしょうか。

4 そもそも、法科大学院の定員削減は、何のために行われたのでしょうか。これは、志願者を増加させるためです。定員を削減したのでは、むしろ志願者は減ってしまうのではないか、と疑問を持つ人も多いでしょう。これを理解するには、政府が、志願者減少の原因をどのように捉えているか、ということを確認しておく必要があります。

 

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ(平成25年6月26日)」より引用。太字強調は筆者。)

 法曹志願者の減少は,司法試験の合格状況における法科大学院間のばらつきが大きく,全体としての司法試験合格率は高くなっておらず,また,司法修習終了後の就職状況が厳しい一方で,法科大学院において一定の時間的・経済的負担を要することから,法曹を志願して法科大学院に入学することにリスクがあるととらえられていることが原因である

(引用終わり)

 

 政府は、司法試験の合格率が高くなっていないことが、志願者激減の原因の1つだと考えているのです。そこで、これを解消するにはどうしたらいいか、と考えてみると、2つの方策が考えられるでしょう。1つは、分子である合格者数を増やすこと。もう1つは、分母である受験者数を減少させることです。このうち、分子の合格者数については、1500人の下限を守れるか、という状況で、とても増やすという感じではありません。

 

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ(平成25年6月26日)」より引用。太字強調は筆者。)

 近年,過払金返還請求訴訟事件を除く民事訴訟事件数や法律相談件数はさほど増えておらず,法曹の法廷以外の新たな分野への進出も現時点では限定的といわざるを得ない状況にある。さらに,ここ数年,司法修習終了者の終了直後の弁護士未登録者数が増加する傾向にあり,法律事務所への就職が困難な状況が生じていることがうかがわれることからすれば,現時点においても司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは,現実性を欠くものといわざるを得ない。
 上記数値目標は,法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題であったことから,早期に達成すべきものとして掲げられた目標であるが,現状においては,司法試験の年間合格者数の数値目標を掲げることによって,大幅な法曹人口増加を早期に図ることが必要な状況ではなくなっている

(引用終わり)

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日)」より引用。太字強調は筆者。)

 新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである

(引用終わり)

 

 そうなると、考えられる方策は、分母である受験者数の減少しかない、ということになります。そのためには、法科大学院の定員を削減することが、最も直接的かつ有効な手段です。では、どの程度まで定員を削減すべきなのか。これは、合格率の目標とされてきた、「修了生の7割」(その具体的な意味については、「平成30年司法試験の結果について(2)」参照)、当面の合格者数の下限とされている1500人から、逆算することによって算定が可能です。現に、文科省はそのような逆算によって、あるべき法科大学院の定員目標を、概ね2500人としたのでした。

 

(「法曹人口の在り方に基づく法科大学院の定員規模について」より引用。太字強調は筆者。)

 累積合格率7割の達成を前提に、1,500人の合格者輩出のために必要な定員を試算すると、以下のとおりとなる。

○ 法科大学院では厳格な進級判定や修了認定が実施されており、これまでの累積修了率は85%であること。  

○ 予備試験合格資格による司法試験合格者は、平成26年は163名であるが、うち103名は法科大学院に在籍したことがあると推測されること。

 上記2点を考慮した計算式:(1,500 - 163) ÷ 0.7 ÷ 0.85 + 103 ≒ 2,350

○ さらに、法科大学院を修了しても司法試験を受験しない者がこれまでの累積で6%存在すること。 

 上記3点を考慮した計算式:(1,500 - 163)÷ 0.7 ÷ 0.85 ÷ 0.94 + 103 ≒ 2,493 

(引用終わり)

 

 法科大学院の定員を削減するといっても、文科省が直接に指示することはできません。飽くまで、定員は法科大学院自身が決めることですから、自主的に削減してもらうしかない。そこで用いられたのが、定員を削減しない法科大学院に対する補助金を削減する、という手段です。具体的には、補助金支給額の基準を「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」として定め、その中に「定員充足率」の指標を含ませることで、定員を削減しないと補助金が減額されてしまう仕組みを作ったのでした。

 

(「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムの審査結果について(平成29年12月28日)」より引用。太字強調は筆者。)

 本プログラムは、法科大学院間のメリハリある予算配分を通じ、入学定員の適正化等の組織見直しを促進するとともに、先導的な取組を支援し、法科大学院の教育力の向上を図るものです。 

(引用終わり)

 

5 この結果、平成29年度の入学定員は、2566人まで減少しました。この時点で、目標としていた2500人に近い水準です。これで、多少のタイムラグはあるものの、近い将来に合格率は修了生の7割を実現できる程度となるだろう、というのが、文科省の目論見です(ただし、実は修了生7割と入学定員との間には直接の対応関係がないことについては、「平成28年司法試験の結果について(3)」参照。)。
 この入学定員削減目標の達成を契機として、文科省の方針は、入学定員削減から志願者数確保へと転換したのです(※4)。今後、合格率は上昇に向かい、志願者が減少した原因の1つが取り除かれるので、今後は志願者数は増加に向かうだろう、というわけです。こうして、定員充足率が、法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムの指標から外されたのでした。
 ※4 現在検討されている法曹コース(「「法曹コース」の学生を対象とする特別選抜の導入に伴う法科大学院入学者選抜の全体イメージ」参照)は、志願者数確保のための方策の1つです。

 

法科大学院特別委員会(第75回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

塩田専門職大学院室長「法曹人口の1,500人といったような数字を踏まえまして,当面,目指すべき法科大学院の定員規模を2,500人としたということでございまして,その2,500という数字を達成するために,加算プログラムを29年度以降も継続して実施するというような趣旨を書いているものでございます。…平成29年の予定ということでございますけれども…六大学が定員の見直しを行うということを予定されていて,募集停止となる2大学がございます。その定員分を含めまして…来年度は2,566人になる見込みということでございます。ということで,先ほど御説明しましたように,目標値として2,500人程度ということを掲げておりますので,数字がほぼ達成されるというような状況になってございます。
   加算プログラムにつきましては,自主的な組織見直しの促進ということと,各法科大学院における優れた取組を支援すると,こういったような目的で実施しておるわけでございますけれども,目標値である2,500人という数字が達成されるということでございますと,今後,基礎学の指標の取り方を含めまして何らかの修正を加える必要があるのかなとは認識してございます。」

(引用終わり)

(「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」の見直しについて」より引用。太字強調は筆者。)

 入学定員の目標がほぼ達成され、今後は入学定員の適正化に代わって志願者数の確保が重要な課題となることから、定員充足率については指標から削除する。一方、入学者数が10名を下回る場合は、教育組織として規模が小さくなり過ぎているなど、法科大学院としてふさわしい教育環境の確保への影響が懸念されることから、3年連続で入学者数が10名未満となった場合は減点する。

(引用終わり)

(「法科大学院改革の取組状況等について」より引用。太字強調は筆者。)

○ これまで、公的支援の見直し強化策等を通じて法科大学院の自主的な組織見直しを促進してきた結果、平成29年度の入学定員は2,566人となる見込みであり、法曹人口についての推進会議決定(※)を踏まえて設定した法科大学院の目指すべき定員規模(「当面2,500人程度」)を概ね達成
○ これを受け、今後は志願者数の確保がより重要な課題となることから、平成28年12月に、「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」 の運用見直しを行った

 (中略)

これまで、定員充足率と競争倍率の両方を指標として設定することにより、組織見直しを強く促す形となっていたところ、平成30年度予算からは定員充足率の指標を削除することにより、競争倍率の向上につながる、志願者確保のための取組を促すこととしている。

(引用終わり)

 

 従来は、競争倍率(入学者選抜試験受験者数÷入学者選抜試験合格者数)と定員充足率(入学者数÷入学定員)の双方の指標をクリアする必要があったので、例えば、競争倍率2倍、定員充足率70%を同時にクリアする必要があるとすると、入学者選抜試験受験者が100人だった場合には、競争倍率2倍をクリアするために入学者選抜試験合格者数を50人以下にする必要があり、定員充足率70%をクリアするためには、入学者が50人だったとしてもせいぜい70人程度の定員とならざるを得ません。これが、定員充足率を全く考慮しなくてよいとなると、極端にいえば、仮に実際の入学者が50人程度であっても、入学定員を500人にしてよいということになる。このように、定員充足率が指標から外されると、定員を増やしやすくなるのです。
 そして、法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムの趣旨についても、従前記載されていた「入学定員の適正化等の組織見直しを促進する」の文言が削られたのでした。

 

(「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムの審査結果について」(平成31年1月23日)より引用。)

 本プログラムは、法科大学院間のメリハリある予算配分を通じ、各法科大学院の教育理念や抱える課題、強み等の特徴に応じた体系的・系統的な取組を促し、法科大学院の教育力の向上を図るものです。

(引用終わり)

 

 こうして、法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムは、法科大学院に定員削減を迫るという役割を終えたのです。

6 とはいえ、現実の志願者数に見合わない入学定員とするわけにはいかないでしょう。実際の入学者が50人しかいないのに、入学定員を500人にしていたりすれば、「あそこのローは大丈夫か。」という話になるでしょうし、そんなことをしていると、現状では認証評価の方で引っ掛かってしまいます。

 

法科大学院評価基準要綱(平成30年4月改定)より引用。 太字強調は筆者。)

6-2-2
 入学者受入において、所定の入学定員と著しく乖離していないこと。

解釈指針6-2-2-1
 入学者受入において、所定の入学定員と乖離しないよう必要な措置が講じられている必要がある。

解釈指針6-2-2-2
 5年の評価期間中において、評価実施年度における入学定員充足率が50%を下回っており、かつ、他の4年間において入学定員充足率が50%を下回る年度が2回以上あった場合には、原則として、所定の入学定員と著しく乖離していないとはいえない。ただし、基準に適合しているか否かの最終的な判断は、夜間開講や地域性等の個別の事情を勘案して行う。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第76回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

磯村保(早大)委員「入学定員の充足率のところなのですけども…認証評価の関係では,定員充足率が指標に含まれています。加算プログラムではこの指標を外しても,認証評価の関係では,そこは維持するということになると,方向性としては定まらないというところが残るように思いますので,そこは認証評価との関係の調整を考えていただく必要がある」

(引用終わり)

 

 現実には、平成30年度の実入学者は1621人であり、平成31年度の入学定員は2253人となる見込みです。入学定員削減の目標値である2500人を下回っているのに、まだ減少を続けている。今後、入学定員の減少に歯止めがかかることはあり得るとしても、どんどん定員が増えていく、ということには、なりにくいでしょう。

7 結局のところ、法曹志願者が増えなければ、入学定員も増やせない文科省の狙いは、「司法試験の出願者数が減少することによって、合格率が上昇すれば、志願者が増えるだろう。」というものです。仮に、これがそのとおりになったとしても、目に見えて効果が出るのは先のことになるでしょう。ですから、当面は、入学定員・実入学者ともに、下げ止まることはあっても、反転上昇に向かうには時間がかかりそうです。
 したがって、出願者数の推移についても、当面は、減少幅を縮小しつつも、増加に転じることはない、ということになりそうです。

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