1.以下は、直近5年の選択科目別の最低ライン未満者割合、すなわち、その科目を選択して短答に合格した者に占めるその科目で最低ライン未満となった者の割合の推移です。
平成27 | 平成28 | 平成29 | 平成30 | 令和元 | |
倒産 | 2.96% | 4.68% | 1.80% | 2.77% | 2.76% |
租税 | 0.37% | 0.00% | 3.20% | 2.92% | 1.29% |
経済 | 1.01% | 3.50% | 2.71% | 1.33% | 1.19% |
知財 | 1.22% | 2.51% | 3.80% | 7.06% | 0.91% |
労働 | 2.07% | 1.11% | 7.48% | 0.63% | 1.94% |
環境 | 0.57% | 0.35% | 1.99% | 0.54% | 0.61% |
国公 | 2.41% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 5.12% |
国私 | 1.01% | 4.54% | 4.88% | 2.63% | 0.60% |
過去の傾向では、最低ライン未満者の多い科目は、倒産法でした。短答・論文の合格率が最も高い傾向を示す倒産法で、最低ライン未満者が多数出ていることは、ある意味不思議な現象でした。当サイトでは、実力者が倒産法を選択しているという傾向がある一方で、倒産法の採点は厳しく、素点で最低ライン未満になる危険性が高いことから、倒産法を選択するということには、そのようなリスクがある、という説明をしていたのでした(「平成26年司法試験の結果について(10)」)。
それが、最近では、年ごとに最低ライン未満者の多い科目が変動するようになってきました。平成29年は労働法、昨年は知的財産法が突出して高い最低ライン未満者割合でした。今年は、国際公法が高い数字となりました。もっとも、国際公法は短答合格者39人に対して2人というものですから、あまり有意な数字ではないでしょう。国際公法を除くと、倒産法が最も高い数字です。もっとも、平成26年の6.12%や平成28年の4.68%と比較すると、かなり穏やかな数字となっています。倒産法は危険な科目、というのは、現在はあまり当てはまらないといえるでしょう。
従来、労働法は最低ライン未満者割合が低い傾向にあり、安全な科目といえました。しかし、平成29年に7%を超える最低ライン未満者を出したことで、現在では必ずしもそうとはいい切れない状況です。また、従来は、国際公法の最低ライン未満者がほとんどいないという傾向がありましたが、上記のとおり、今年は2人の最低ライン未満者を出し、割合にすると最も高い数字となっています。
以上のように、最低ライン未満になるリスクを考慮して選択科目を選ぶという考え方は、現在ではあまり適切とはいえないでしょう。
2.選択科目ごとの素点の傾向をみてみましょう。以前の記事(「令和元年司法試験の結果について(9)」)でみたとおり、素点の平均点の高低、バラ付きの大小は、素点段階と得点調整後に最低ライン未満の得点となる者の数を比較すれば、ある程度わかります。以下は、素点段階の最低ライン未満者数と、得点調整後に最低ライン未満の得点となる者の数をまとめたものです。
素点 ベース |
調整後 ベース |
|
倒産 | 13 | 23 |
租税 | 3 | 10 |
経済 | 7 | 24 |
知財 | 4 | 18 |
労働 | 20 | 42 |
環境 | 1 | 3 |
国公 | 2 | 1 |
国私 | 2 | 8 |
調整後の数字の方が小さくなっているのは、国際公法だけです。国際公法は母数が小さすぎる(39人)ことに加え、素点ベースと調整後ベースの差が1人だけなので、これだけでは有意なことはわかりません。他方、他の科目は、すべて調整後ベースの方が大きな数字になっています。これらの科目では、素点の平均点が全科目平均点より高いか、素点の標準偏差が10より小さいことを意味しています(「令和元年司法試験の結果について(9)」)。
3.選択科目は、基本的には、自分の興味のある科目を選べばよいと思います。学部やローで講義を受講できるかどうかも1つの要素ですが、特にこだわりがなければ、選択者の多い科目を選んでおくのが無難だと思います。
以下は、今年の選択科目別受験者数及びその全体に占める割合をまとめたものです。
受験者数 | 割合 | |
倒産 | 608 | 13.7% |
租税 | 329 | 7.4% |
経済 | 789 | 17.8% |
知財 | 597 | 13.5% |
労働 | 1299 | 29.3% |
環境 | 256 | 5.8% |
国公 | 59 | 1.3% |
国私 | 492 | 11.1% |
労働法が圧倒的に多く、3割近い受験生が選択しています。それ以外では、倒産法、経済法、知的財産法、国際私法が1割から2割の間の水準です。租税法、環境法は1割を下回るマイナー科目で、国際公法はその存在意義が疑われかねないほど選択者が少ない科目となっています。
このような状況からすれば、特に好みがないなら、労働法を選択しておけばよいのかな、と思います。労働法は、選択科目の中でも、当サイトが繰り返し説明している、「規範と事実」のパターンにはまりやすい科目です。必須科目と比べて論文の書き方に特殊な点がないという点からも、労働法は選択しやすい科目といえるでしょう。ただ、覚えるべき規範の量は、他の科目より少し多めです。ですから、選択科目のための勉強時間を十分に確保できない社会人や大学在学中の予備合格者にとっては、覚える量の少ない国際私法の方がよいかもしれません。実際、国際私法は、大学在学中予備合格者の選択が多いようです。
かつて、労働法より人気があったのが、倒産法でした。法科大学院で履修しやすい科目であったこと、民事系科目との親和性が強いことが要因だったのでしょう。しかし、前回の記事(「令和元年司法試験の結果について(10)」)で説明したとおり、倒産法は実力者が選択する傾向があるために、得点調整で不利になりやすいことや、かつて最低ライン未満者が毎年多かったこともあって、近年は敬遠されがちな科目となっています。もっとも、最近では、最低ライン未満者数もかつてほど多くはなくなってきています。前回の記事(「令和元年司法試験の結果について(10)」)でもみたとおり、今年は、予備組が国際私法から倒産法に移ってきているともみえる結果でした。今後は、また人気が回復してくる可能性もあるでしょう。