令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1.以下は、直近5年の受験経験別の受験者数の推移です。

受験経験 なし 旧試験
のみ
新試験
のみ
両方
平成30 7098 2670 428 940
令和元 7796 2580 444 960
令和2 7257 2104 435 812
令和3 8322 2119 487 789
令和4 9445 2201 555 803

 昨年と比較すると、すべてのカテゴリーで、受験者が増加しています。以前の記事(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)でみたとおり、年代別でみると、20代以上のすべての年代で受験者が増加していましたから、これは自然なことです。
 コロナ禍以前の令和元年との比較という点でいえば、「なし」、すなわち、新規参入の受験者が、最も増加しています。これは、前回の記事(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)でみたとおり、主に大学生と有職者の受験が増加したことによるものでした。一方で、「旧試験のみ」と「両方」は、減少しています。旧司法試験はもう実施されていないわけですから、これは自然なことといえるでしょう。とはいえ、「旧試験のみ」と「両方」を合わせると、3004人これほどの数の人が、旧司法試験時代からずっと苦労をしながら受験を続けているという事実は、あまり知られていません。このような人達がこれまでに費やしてきた資金、時間、労力は、莫大なものがあります。受験を諦めることは、それらが無駄になってしまうことを意味する。だから、やめられない。これが、長期受験者の陥りがちな心理状態です。
 それから、「新試験のみ」も、じわじわと受験者が増加してきています。今年は、500人を超える数字になりました。司法試験で受験回数を使い切った人が予備に流れ、少しずつ滞留してきているのです。このカテゴリーは、当初、まだ若かったりするので、「ちょっとだけ予備も受けてみて、ダメだったら就職しようかな。」という軽い気持ちで受験していたりします。しかし、「あと1回だけ」、「あと1回だけ」を繰り返しているうちに、いつの間にか長期受験者となっていき、「ここで諦めるわけにはいかない。」、「受かるまでずっと受けてやる。」という心理状態へと移行していきます。その結果、滞留現象が生じるのです。

2.以下は、受験経験別最終合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

受験経験 受験者数 最終
合格者数
最終合格率
(対受験者)
なし 9445 411 4.35%
旧試験のみ 2201 25 1.13%
新試験のみ 555 21 3.78%
両方 803 15 1.86%

 「なし」が、最も高い合格率になっているのは、例年どおりです。それでも4%強で、これが予備試験の厳しさを物語っています。今年の特徴は、「新試験のみ」の合格率が、「なし」に肉薄するほど高い、ということです。昨年の数字と比較してみましょう。

受験経験 令和3 令和4
なし 5.11% 4.35%
旧試験のみ 0.94% 1.13%
新試験のみ 1.43% 3.78%
両方 1.77% 1.86%

 こうしてみると、今年の「新試験のみ」が、いかに尋常でないかがわかります。これは、短答・論文のどの段階で生じたのでしょうか。順にみていきましょう。

3.以下は、受験経験別短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

受験経験 受験者数 短答
合格者数
短答合格率
(対受験者)
なし 9445 1696 17.9%
旧試験のみ 2201 679 30.8%
新試験のみ 555 138 24.8%
両方 803 316 39.3%

 短答は知識重視なので、旧試験時代からずっと勉強を続けている「旧試験のみ」と「両方」が圧勝し、一方で、勉強期間の最も短い「なし」は最低の合格率になる(※1)。これは、例年の傾向どおりです。注目の「新試験のみ」も、短答は例年どおりの水準です。新司法試験の受験回数を使い果たして以降も勉強を続けているので、「なし」には勝つわけですが、旧司法試験時代から受験を続けてきた先達と比べれば勉強期間がはるかに短いので、「旧試験のみ」や「両方」にはかなわないのでした。
 ※1 「旧試験のみ」より「両方」の方が合格率が高いのは、旧試験時代の短答は、憲法・刑法で論理問題が多く、知識のインプットが「両方」より弱いことによります。このことは、昨年の記事(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で詳しく説明しました。

4.論文段階になると、どうか。受験経験別論文合格率(短答合格者ベース)をみると、以下のようになっています。 

受験経験 短答
合格者数
論文
合格者数
論文合格率
(対短答合格)
なし 1696 419 24.7%
旧試験のみ 679 26 3.8%
新試験のみ 138 21 15.2%
両方 316 15 4.7%

 短答で圧勝していた「旧試験のみ」と「両方」が壊滅し、「なし」が圧勝するのは例年どおりで、これが若手優遇策(「令和4年司法試験の結果について(12)」)の効果です。一方で、注目の「新試験のみ」をみると、かなり高い合格率であることがわかります。これが尋常でないことは、昨年の数字と比較すると、よくわかります。 

受験経験 令和3 令和4
なし 26.2% 24.7%
旧試験のみ 3.5% 3.8%
新試験のみ 4.9% 15.2%
両方 5.4% 4.7%

 「旧試験のみ」と「両方」がほとんど変わらないのに対し、「新試験のみ」だけは、あり得ないほど合格率が上昇している。これが、今年みられる顕著な特徴です。「新試験のみ」の受験生のレベルが急に上がるということはちょっと考えられませんから、他の要因を考えることになる。ここで、前回の記事(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)と同じ要因が想起されます。まず、思い当たるのは、選択科目が加わったことです。「新試験のみ」は、司法試験を受験する過程で、選択科目を学習済みですから、これはそれなりに大きなアドバンテージでしょう(※2)。ただ、選択科目の全体に占める比重を考えると、それだけでここまで顕著な上昇になるかどうか。もう1つ、思い当たるのは、憲法に代表されるような最近の出題傾向の変化です。問題・採点が、法科大学院の講義内容と親和性の高いものになってきているのではないか。「新試験のみ」は、ほとんどが法科大学院修了生(※3)ですから、法科大学院の講義内容と親和性の高い出題・採点がされることは、有利に作用するでしょう。もっとも、「新試験のみ」は、修了後、受験回数を使い切って予備に回っているわけですから、法科大学院の講義の記憶がどれだけ残っているだろうか、という疑問は残るところです。仮に、選択科目の影響が強いのであれば、毎年受験を続けている「旧試験のみ」や「両方」の受験生も、次第に選択科目に手が回るようになってくるでしょうから、このような大きな差は縮小に向かうはずでしょう。まだはっきりしないところではありますが、前回の記事(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)でみた法科大学院生の論文合格率の上昇と符合する要因とも考えられるところなので、今後も、このような傾向が続くかどうか受験対策上も重要な意味を持ちそうです。
 ※2 「両方」も新司法試験を受験しており、選択科目の学習経験があるわけですが、多くは旧試験終了直後にローに入り、受験回数制限を使い切った人達なので、その後は予備に向けた勉強しかしておらず、久しく選択科目を勉強していない、という人がほとんどだったでしょう。
 ※3 予備試験合格者で受験回数制限を使い切った人も一応考えられますが、そのような人は極めてわずかです。また、「両方」もほとんどが法科大学院修了生ですが、※2で説明したとおり、かなり昔に修了した者が多く、プラスに作用しなかったと考えることができるでしょう。

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