1.以下は、直近5年の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。
年 | 有職者 | 法科大学院生 | 大学生 | 無職 |
平成 30 |
3834 | 1298 | 3167 | 2391 |
令和 元 |
4240 | 1265 | 3340 | 2475 |
令和 2 |
3879 | 1064 | 3141 | 2116 |
令和 3 |
4360 | 1058 | 3508 | 2371 |
令和 4 |
5143 | 1067 | 3786 | 2514 |
すべての職種で、昨年より受験者が増加しています。これは、20代以上のすべての世代で受験者が増加していた(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)ことからしても、自然なことといえるでしょう。もっとも、コロナ禍前の令和元年と比較してみると、法科大学院生だけが減少しています。これは、在学中受験の影響でしょう。急いで予備試験を受験しなくても、在学中受験ができるわけですから、焦る必要はないというわけです。来年は、腕試しに予備試験を受験していた修了見込みの法科大学院生が在学中受験に回るので、法科大学院生の受験者はさらに減少するでしょう。一方で、大学生の受験者は、コロナ禍前と比較してもかなり増加しています。法曹コースの影響によって、大学生の予備受験が減少するかもという話もありましたが、受験者の数自体を抑制する効果はないといえそうです(ただし、上位層の受験は減少したとみえる点につき、後記3、4を参照)。
有職受験者の増加も目立ちます。コロナ禍前の令和元年との比較でみても、900人程度増加している。「仕事をしながら法曹を目指すことができる。しかも、受験回数や受験期間に制限がないので、マイペースに勉強できる。」ということで、受験してみようと思う人が増えているのでしょう。対照的に、無職の受験者は、コロナ禍前と比べるとほぼ横ばいといってよい状況です。無職の受験者は、以前から横ばい傾向でした。このカテゴリーに属するのは、多くが専業受験者です。特別の事情がなければ毎年受験を継続する一方、新規参入するのは、司法試験の受験回数を使い切って予備に回る人くらいです(※1)。そのため、横ばい傾向となりやすいのです。
※1 仕事を辞めて専業受験者になるというのも考えられますが、仕事を辞めて法科大学院に入学するということはあっても、仕事を辞めて予備試験というのは、あまりないことでしょう。仕事を辞めなくても受験できるというのが、予備試験の最大の魅力だからです。
2.以下は、今年の職種別最終合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。
職種 | 受験者数 | 最終 合格者数 |
最終合格率 (対受験者) |
有職者 | 5143 | 96 | 1.86% |
法科大学院生 | 1067 | 124 | 11.62% |
大学生 | 3786 | 196 | 5.17% |
無職 | 2514 | 48 | 1.90% |
有職者と無職の合格率が異常に低いのは例年どおりで、これは、高齢受験者の合格率が低いことと対応しています(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)。
例年と違うのは、ロー生と大学生で差が開いたという点です。昨年の数字と比較してみましょう。
職種 | 令和3 | 令和4 |
有職者 | 1.49% | 1.86% |
法科大学院生 | 9.35% | 11.62% |
大学生 | 7.18% | 5.17% |
無職 | 1.85% | 1.90% |
ロー生が2ポイントほど合格率を高めている一方で、大学生は、逆に2ポイントほど合格率を下げてしまっている。これは、どういうことなのでしょうか。1つの仮説として考えられるのは、在学中受験及び法曹コースの影響です。在学中受験が可能になったことで、普通の法科大学院生はわざわざ予備を受験しなくなり、よほど自信のある法科大学院生だけが、予備合格の経歴を得るために受験する傾向になっているのではないか。それが、法科大学院生の合格率を高めたのではないか。また、法曹コースが設定されたことで、上位層の大学生が法曹コースを選択し、予備試験から遠ざかったのではないか。前記1でみたとおり、大学生の受験者自体は増加傾向にあるけれども、法曹コースを選択する上位層の大学生が抜けてしまった結果、合格率が下がってしまったのではないか。
3.上記の仮説について考える手掛かりになるのが、短答合格率です。上位層が多く受験していれば短答合格率が高まるでしょうし、上位層が受験しなくなれば、短答合格率は下がることでしょう。以下は、今年の職種別短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。
職種 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答 合格率 |
有職者 | 5143 | 1091 | 21.2% |
法科大学院生 | 1067 | 255 | 23.8% |
大学生 | 3786 | 670 | 17.6% |
無職 | 2514 | 685 | 27.2% |
まず、無職の合格率が高いのはいつものことで、これは、無職が多くの場合専業受験者で、最も多く勉強時間を確保できるからでした。また、有職者は、短答段階で法科大学院生より低い合格率となっており、短答の勉強時間を確保することが課題となっていることがわかる(※2)のも、いつものことでした。
※2 このことから、高齢受験者の短答合格率が高いことは、「短答は高齢者に有利」ということを意味するのではなく、「高齢受験者に勉強期間の長い者が多い。」ということを意味することがわかります。なので、昔から勉強を続けているのではなく、新たに法曹を目指して勉強を始める人が含まれやすい有職者のカテゴリーは、短答合格率が低めになるのです。
さて、本題の法科大学院生・大学生の昨年との比較です。
職種 | 令和3 | 令和4 |
有職者 | 22.7% | 21.2% |
法科大学院生 | 25.2% | 23.8% |
大学生 | 20.8% | 17.6% |
無職 | 26.3% | 27.2% |
無職が昨年より合格率を伸ばしているのとは対照的に、法科大学院生・大学生の合格率はいずれも下落しています。このことから、「在学中受験が可能になったことで、普通の法科大学院生はわざわざ予備を受験しなくなり、よほど自信のある法科大学院生だけが、予備合格の経歴を得るために受験する傾向になっているのではないか。」という仮説にはあまり説得力がないが、「法曹コースが設定されたことで、上位層の大学生が法曹コースを選択し、予備試験から遠ざかったのではないか。」という仮説にはそれなりに説得力がありそうだ、ということがわかります。
4.では、短答で合格率を落としている法科大学院生の最終受験者合格率が上昇したのはなぜか。論文段階の合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別論文合格率(短答合格者ベース)等をまとめたものです。
職種 | 短答 合格者数 |
論文 合格者数 |
論文 合格率 |
有職者 | 1091 | 98 | 8.9% |
法科大学院生 | 255 | 130 | 50.9% |
大学生 | 670 | 196 | 29.2% |
無職 | 685 | 49 | 7.1% |
まず、有職者と無職が低い合格率であることは、論文の若手優遇策によるもので、いつものことです(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」、「令和4年司法試験の結果について(12)」)。今回の注目は、法科大学院生・大学生の昨年との比較です。
職種 | 令和3 | 令和4 |
有職者 | 6.9% | 8.9% |
法科大学院生 | 37.8% | 50.9% |
大学生 | 34.7% | 29.2% |
無職 | 7.2% | 7.1% |
これまでは、法科大学院生の方がやや高いものの、大学生とそこまで大きな差は生じない傾向でした。それが、今年は大学生の合格率が下落した一方で、法科大学院生は大幅に合格率を上昇させています。これは、従来みられなかった劇的な変化です。前者は、「法曹コースが設定されたことで、上位層の大学生が法曹コースを選択し、予備試験から遠ざかったのではないか。」という仮説を補強します。一方で、後者は、短答の合格率が下がったことを加味して考えると、「法科大学院生受験者のレベルが上がった。」ということとは別の要因だと考えるのが自然です。まず、思い当たるのは、選択科目が加わったことです。ただ、それだけで、ここまで劇的な差が生じるのかどうか。もう1つ、思い当たるのは、憲法に代表されるような最近の出題傾向の変化です。問題・採点が、法科大学院の講義内容と親和性の高いものになってきているのではないか。今年の問題は、予備校が論証を用意していなかったり、用意していても古い学説だったりするところを判例をベースに検討させようとしたり、事案がやや異なる判例を挙げた上で、「上記判例の趣旨は本問にも当てはまる。」という射程論のような書き方で解答すべきものが多く(※3)、予備校が対応できていない部分が多かったとみえます。まだはっきりしないところではありますが、今後も、法科大学院生と大学生との間で顕著な差が生じる傾向が続くとすれば、受験対策においても重要な意味を持つことになるでしょう。
※3 憲法の全農林警職法事件、行政法の処分後の間接事情考慮に係る日光太郎杉事件、諮問手続と群馬バス事件、商法の兼任禁止該当者を監査役に選任する株主総会決議の効力に関する判例の監査役が子会社取締役に選任され就任を承諾した事案への適用、民訴の既判力抵触・作用に関する判例、刑法の道具性の類型に関する判例、刑訴の令状提示後搬入物に係る判例の同居人持帰り事案への適用等が挙げられるでしょう。具体的な書き方は、各リンク先の参考答案を参照してみてください。