1.今回は、明らかになった受験予定者数から、今年の司法試験についてわかることを考えてみます。以下は、直近5年の受験予定者数、受験者数、合格者数等をまとめたものです。
年 (令和) |
受験予定者数 | 受験者数 | 受験率 |
元 | 4899 | 4466 | 91.1% |
2 | 4100 | 3703 | 90.3% |
3 | 3733 | 3424 | 91.7% |
4 | 3339 | 3082 | 92.3% |
5 | 4165 | ??? | ??? |
年 (令和) |
短答 合格者数 |
短答 合格率 (対受験者) |
元 | 3287 | 73.6% |
2 | 2793 | 75.4% |
3 | 2672 | 78.0% |
4 | 2494 | 80.9% |
5 | ??? | ??? |
年 (令和) |
論文 合格者数 |
論文 合格率 (対短答) |
論文 合格率 (対受験者) |
元 | 1502 | 45.6% | 33.6% |
2 | 1450 | 51.9% | 39.1% |
3 | 1421 | 53.1% | 41.5% |
4 | 1403 | 56.2% | 45.5% |
5 | ??? | ??? | ??? |
2.まず、受験者数の予測です。これは、受験予定者数に受験率を乗じることで、算出できます。多少考慮が必要となるのは、今年は在学中受験が可能である、という点です。「とりあえず在学中受験の出願はしたけれど、やっぱり無理っぽいわ。」という理由で受験しない、という受控えが出るかもしれない。出願しても、受験しなければ、受験期間は起算されないからです(在学中受験の受験資格を取得して受験しないまま修了すると、在学中受験の受験資格と法科大学院修了の受験資格の双方を保有することとなり、出願時にいずれかを選択できますが、どちらを選んでも受験期間は同じです。なお、在学中受験をして、その後に修了した場合、在学中受験の受験資格を喪失し、代えて法科大学院修了による受験資格を取得しますが、受験期間は在学中受験の時から起算されます(司法試験法4条2項2号、3項)。)。
(参照条文)司法試験法4条(司法試験の受験資格等) 司法試験は、次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める期間において受けることができる。 2 前項の規定にかかわらず、司法試験は、第1号に掲げる者が、第2号に掲げる期間において受けることができる。 3 前項の規定により司法試験を受けた者が同項第1号の法科大学院の課程を修了した場合における第1項第1号の規定の適用については、同号中「その修了の日後の最初の」とあるのは、「次項の規定により最初に司法試験を受けた日の属する年の」とする。 4 (略)
(「令和5年司法試験に関するQ&A」より引用。太字強調は筆者。) Q20 受験資格(法科大学院の課程の修了若しくは予備試験合格又は法科大学院在学中の受験資格)を取得後、司法試験に出願しましたが受験しませんでした。その後、更に別の受験資格(法科大学院の課程の修了若しくは予備試験合格又は法科大学院在学中の受験資格)を取得しました。複数の受験資格を取得していますが、どの受験資格で受験することができますか?
A 司法試験を受けていない者で、法科大学院の課程の修了若しくは予備試験合格又は法科大学院在学中の受験資格により複数の受験資格を得ている場合は、司法試験出願時に受験資格を選択して出願することになります。 (中略) Q73 試験に欠席する場合、何らかの手続が必要ですか。 A 試験に欠席する場合について、手続は不要です。なお、試験初日の一科目目を欠席した場合は受験したこととはなりません(Q20参照。)。 (引用終わり)
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かつて、受験回数制限が5年3回だった頃は、出願したものの自信がないので受け控える、という人が相当数存在したため、受験率は75%程度でした(例えば、平成25年は、受験予定者10178人中受験者は7653人で、受験率は75.1%)。もっとも、当時と現在とでは、合格率が全然違います(例えば、平成25年の受験者合格率は26.7%だったのに対し、昨年の受験者合格率は45.5%)。また、当時の受験回数は3回でしたから、「無駄に受けてダメだったらもう2回しかチャンスがない。」というプレッシャーがありましたが、今は5回あるので、仮にダメでも「まだ4回ある。」というのは大きい。そう考えると、当時ほど受控えは生じない、と考えるのが妥当なところでしょう。そこで、ここでは、差し当たり在学中受験予定者の受験率を85%、それ以外の受験予定者は直近の受験率を参考に92%と仮定して、試算してみましょう。
1114人(在学中受験)×0.85+3051人(在学中受験以外)×0.92≒946人+2806人=3752人
受験者数は、在学中受験946人、在学中受験以外2806人で、合計3752人と推計でき、昨年(3082人)より670人程度増加するだろう、ということがわかります。
3.次に、短答合格者数です。現在の短答式試験の合格者数は、論文の合格者数を踏まえつつ、短答・論文でバランスのよい合格率となるように決められているとみえます(「令和4年司法試験短答式試験の結果について(1)」)。そうすると、短答合格者数を考えるに当たっても、先に論文合格者数がどうなるかを、考えておく必要があるでしょう。
(1)直近の論文合格者数は、「1400人基準」で説明することができました(「令和4年司法試験の結果について(1)」)。そこで、今年も「1400人基準」で論文合格者数が決まると想定した上で、短答・論文のバランスのよさそうな合格者数の組み合わせを考えると、以下のような感じになります。
受験者数:3752人
短答合格者数:2800人
短答合格率(対受験者):74.6%
論文合格者数:1450人
論文合格率(対短答):51.7%
論文合格率(対受験者):38.6%
昨年は、短答合格率(対受験者)が80.9%、論文合格率(対短答)が56.2%でしたから、昨年より短答・論文ともに5ポイント程度合格率が下がる、という感じ。厳しくなったともいえますが、上記の数字は、実は令和2年(受験者3703人、短答合格者2793人、論文合格者1450人)とほぼ同じです。令和2年と同程度だ、と考えれば、そんなに厳しいという感じもない。むしろ、昨年が緩すぎたともいえるでしょう。直感的には、これは全然ありそうな数字です。「令和2年合格レベル」は、保守的に見積もった場合の指標といえます。
(2)もう少し楽観的なシナリオも考えてみましょう。今年は、在学中受験が可能となる最初の年です。「在学中受験の開始という外部要因による合格率の変動を避けようとするのではないか。」という予測は、あり得るところでしょう。そこで、昨年と同じ合格率が維持されるとした場合を考えてみましょう。
受験者数:3752人
短答合格者数:3035人
短答合格率(対受験者):80.9%
論文合格者数:1705人
論文合格率(対短答):56.2%
論文合格率(対受験者):45.4%
論文合格者数1700人強というのは、以前の記事で説明した裁判所予算の概算要求書の記載(1年次司法修習生1800人)と整合的です(「裁判所令和5年度一般会計歳出概算要求書からわかること」)。裁判所の予算要求の担当者も、こんな感じで試算したのかもしれません。予算要求の根拠を問われた際に、「在学中受験見込みの人員を受験者に加えて直近実績の合格率を乗じて算出しました。」と答えれば、それなりに説得力がある、というわけです。もちろん、予算要求の担当者がこうした試算をしたからといって、実際に1700人強が合格する、という根拠には全然ならない。その意味で、裁判所の概算要求書に記載された数字から短絡的に合格者数を予測してはいけない、ということは、以前の記事(「裁判所令和5年度一般会計歳出概算要求書からわかること」)で説明したとおりですが、なんとなくこのくらいの数字に落ち着きそうだ、という雰囲気はあるのでしょう。その意味では、違和感のない数字です。「昨年の合格レベル」は、楽観的に見積もった場合の指標といえるでしょう。
4.最後に、以上の試算で推計した数字を、最初に示した年別の一覧表に書き込んだものを示しておきましょう。
年 (令和) |
受験予定者数 | 受験者数 | 受験率 |
元 | 4899 | 4466 | 91.1% |
2 | 4100 | 3703 | 90.3% |
3 | 3733 | 3424 | 91.7% |
4 | 3339 | 3082 | 92.3% |
5 | 4165 | 3752? | 90.0%? |
年 (令和) |
短答 合格者数 |
短答 合格率 (対受験者) |
元 | 3287 | 73.6% |
2 | 2793 | 75.4% |
3 | 2672 | 78.0% |
4 | 2494 | 80.9% |
5 | 2800? | 74.6%? |
3035? | 80.9%? |
年 (令和) |
論文 合格者数 |
論文 合格率 (対短答) |
論文 合格率 (対受験者) |
元 | 1502 | 45.6% | 33.6% |
2 | 1450 | 51.9% | 39.1% |
3 | 1421 | 53.1% | 41.5% |
4 | 1403 | 56.2% | 45.5% |
5 | 1450? | 51.7%? | 38.6%? |
1705? | 56.2%? | 45.4%? |