424条との関係(実戦編)
(令和5年司法試験民事系第2問)

1.前回の記事(「424条との関係(理論編)(令和5年司法試験民事系第2問)」)を読んだ人のほとんどが、「無理無理無理無理無理ィー」と思ったでしょう。今回は、実戦的な話をします。

2.まず、424条に気付いたなら、423条の話をひと通り書いた後、最後に反論として免除を挙げて、単純に424条を摘示して免除を認める、というのが、最も簡便な書き方です。

【論述例】

 免除により、Aの責任は消滅したとのAの反論が考えられる。
 Aは、本件売買契約当時甲社の全株式を有していた。したがって、当然に全株主の同意があるから、Aの責任は免除される(424条)。
 以上から、上記反論は正当である。

 おそらく、ここは424条に気付くかどうかだけでも差が付くだろうから、無理はしない、という戦略ですね。設問2の論点をある程度知っていて、そちらの論述に時間を割きたい、という場合に、特に有効な書き方です。

3.応用論点が出た場合、とりあえず結論の妥当性を基礎付けるような事実を書いておく、というのは、汎用性の高いテクニックです。ここでこれを使うとすれば、以下のような感じになるでしょう。

【論述例】

 免除により、Aの責任は消滅したとのAの反論が考えられる。
 Aは、本件売買契約当時甲社の全株式を有していた。したがって、当然に全株主の同意があるから、Aの責任は免除される(424条)。
 GはAの妹の配偶者で、Gのことが気に入ったAは、今後Gと共に甲社を経営していくことを見据え、Gに甲社株式1万株を譲渡した。有償の事実はない。甲社の経営は順調で、本件売買契約締結後も運転資金が枯渇することはなく、近い将来に甲社が資金繰りに困ることが予想される状態ではなかった。以上から、免除を認めても不当とはいえない。
 以上から、上記反論は正当である。

 前回の記事(「424条との関係(理論編)(令和5年司法試験民事系第2問)」)を読んでいれば、「あーこれ本来の理論構成で意味のある事実だから摘示に配点があって、テキトーに羅列しても加点されちゃうんだろうな。」ということがわかるでしょう。いきなり事実の羅列が始まるので、慣れないと書くときに抵抗があるでしょうし、答練等では、「唐突です。」などとコメントされたりするでしょうが、気にしないことです。
 上記の論述例は単なる事実の羅列なので、もう少し事実の評価を付加すると、以下のような感じになるでしょう。

【論述例】

 免除により、Aの責任は消滅したとのAの反論が考えられる。
 Aは、本件売買契約当時甲社の全株式を有していた。したがって、当然に全株主の同意があるから、Aの責任は免除される(424条)。
 Gは、本件売買契約後の平成30年1月中旬頃にAから甲社株式の譲渡を受けており、本件売買契約を前提とする甲社財産に対応する価値の株式の譲渡を受けたにすぎないと評価できる。Gは譲受時に本件売買契約締結を知らなかったが、甲社株式譲渡は、GがAの妹の配偶者で、Gのことを気に入ったAの好意によるもので、有償の事実もない以上、取引安全を図る必要に乏しい。免除によってGの権利が害されるとはいえない。甲社の経営は順調で、本件売買契約締結後も運転資金が枯渇することはなく、近い将来に甲社が資金繰りに困ることが予想される状態ではなかったから、乙社等の甲社債権者の権利を害するともいえない。以上から、免除を認めても不当とはいえない。
 以上から、上記反論は正当である。

 本問は、設問1と設問2の配点割合が4:6なので、設問1で頑張り過ぎるのは、一般論としては得策ではありません。もっとも、配点が高めの設問2は、どれも微妙に応用論点なので、知らない人は知らない。答案構成段階で、「設問2は全然わからんぞ。」という場合には、上記のように設問1で頑張るという戦略も、十分あり得るでしょう。

4.「そもそも424条なんて気付かんし。」という人もいるでしょう。それでも、「何か使って欲しそうな事実がある。」という程度のことには気付いたでしょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は、Aが個人事業として始めた工務店が昭和60年頃に法人成りしたものであって、……(略)……甲社は、種類株式発行会社ではなく、設立以来、Aがその発行済株式6万株の全部を保有していた

(引用終わり) 

 

 仮に、個人事業のままであれば、「自分で稼いだお金を使って自分のトラブルを解決して何が悪いんじゃ。」ということになる。一人会社の場合も同じことがいえるのではないか。424条に気付かなくても、そんなことは感じ取りたいところです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

5.Aの妹であるFは、外国に居住していたが、平成29年末頃、その配偶者であるGと共に帰国した。Gのことが気に入ったAは、今後Gと共に甲社を経営していくことを見据え、平成30年1月中旬頃、甲社の取締役会の承認を得て、Gに甲社の株式1万株を譲渡し、その旨の株主名簿の名義書換が行われた。その後、Gは、本件土地が甲社の名義であるにもかかわらず活用されていないことに疑問を持ち、甲社の従業員にそれとなく尋ねてみたところ、上記3及び4の事実を知った。

 (中略)

 Gは、平成30年末頃、Aに対し、本件売買契約を締結したことにより甲社に4000万円の損害が生じたと主張して、会社法第423条第1項に基づく損害賠償を請求する責任追及等の訴えを適法に提起した。

(引用終わり) 

 

 「Gのやってることおかしくね?」という印象は持つでしょう。「何かテキトーに法律構成を」と考えるのであれば、もうこれは権利の濫用くらいしかない(※)。そこで、関係ありそうな事実を羅列して書いたのが、当サイトの参考答案(その1)です。
 ※ それで正解になってしまう場合もあります(「令和3年予備試験論文式商法参考答案」、「令和3年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨」)。

(参考答案(その1)より引用)

4.Gの請求は権利濫用(民法1条3項)であるとのAの反論が考えられる。
 確かに、Gは譲受時に本件売買契約を知らなかった。
 しかし、本件売買契約当時、Aは唯一の株主で、締結に先立ち取締役会決議等の会社法所定の手続が行われた。GはAの妹の配偶者で、Gのことが気に入ったAは、今後Gと共に甲社を経営していくことを見据え、Gに甲社株式1万株を譲渡した。有償の事実はない。甲社の経営は順調で、本件売買契約締結後も運転資金が枯渇することはなく、近い将来に甲社が資金繰りに困ることが予想される状態ではなかった。
 以上から、Gの請求は権利濫用である。

(引用終わり)

 424条に気付かない人は、設問2も自信がないことが多いでしょう。設問2は、事実を拾って頑張れる感じではない。なので、事実の摘示で頑張るなら、設問1です。424条に気付かなくても、そのような戦略を考えて、上記のように頑張ってみたい。これでも、事実摘示の配点はある程度取れるでしょう。設問2の論点を知らない場合には、ここの頑張りが合否を分ける可能性があります。 

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