「供述」の意味を理解する(その3)
(令和5年司法試験刑事系第2問)

1.この記事は、以前の記事(「「供述」意味を理解する(その2)(令和5年司法試験刑事系第2問)」)の続きです。
 今回は、実況見分調書②です。まずは、写真部分。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

6 H地方検察庁の検察官Rは、同月8日、同検察庁において、Vから被害状況を聴取したところ、Qに対して供述した内容と同様の説明をしたため、その旨の検察官面前調書を作成するとともに、同日、同検察庁において、Vを立会人とした実況見分を実施した。その際、Rは、前記ゴルフクラブと同種のものを準備し、検察事務官Sを犯人に見立て、Vに対し、被害状況について説明を求めつつ再現させた上、その再現状況を写真撮影した。後日、Rは、この結果につき、【実況見分調書②】を作成した。同調書には、Sが右手でゴルフクラブのグリップを握り、Vの左側頭部を目掛けて振り下ろしている場面の写真1枚が添付されており、その下に「このようにして、犯人は、右手に持っていたゴルフクラブで私の左側頭部を殴りました。」との記載があった。

(引用終わり)

2.撮影者はRですが、Rの供述でないことは、実況見分調書①と同じです(「「供述」意味を理解する(その1)(令和5年司法試験刑事系第2問)」)。では、被撮影者の供述といえるか。ここで、ちょっと注意したいのは、「被撮影者」という表現は、厳密には正確でない、ということです。そのことは、以下の事例を考えてみればわかるでしょう。

【事例】

 検察官は、警察官Aを犯人に見立て、警察官Bを被害者に見立てて、被害者Vの説明に基づいて、被害状況を再現し、A及びBがVの説明に基づいて再現する状況を写真撮影した。

 この場合、被撮影者はA及びBですが、A及びBの供述という余地はありません。A及びBはVの説明に基づいて再現しているので、その内容はVの過去の体験を再現したものであって、A及びBの体験の再現ではないからです。
 本問について考えると、被撮影者はVと検察事務官Sですが、SはVの説明に基づいて再現しているだけなので、Sの体験の再現という余地はありません。したがって、ここで問題になるのは、Vの供述といえるか、すなわち、実況見分調書②の写真に写っているV及びSの姿は、Vが過去に体験した事実を再現したものか、という点です。純粋に写真だけをみると、「今からゴルフクラブでチャンバラごっこしてるところを撮りまーす。」という感じだった可能性も絶対ないとはいえませんが、それはひねくれるにも程があるというものです。問題文に、「被害状況について説明を求めつつ再現させ」と書いてあるのだから、Vが犯行当時に体験した被害状況を再現したに決まっている。だから、これはもうVの供述であることが明らかです。

3.次に、写真下の説明部分をみましょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

6 H地方検察庁の検察官Rは、同月8日、同検察庁において、Vから被害状況を聴取したところ、Qに対して供述した内容と同様の説明をしたため、その旨の検察官面前調書を作成するとともに、同日、同検察庁において、Vを立会人とした実況見分を実施した。その際、Rは、前記ゴルフクラブと同種のものを準備し、検察事務官Sを犯人に見立て、Vに対し、被害状況について説明を求めつつ再現させた上、その再現状況を写真撮影した。後日、Rは、この結果につき、【実況見分調書②】を作成した。同調書には、Sが右手でゴルフクラブのグリップを握り、Vの左側頭部を目掛けて振り下ろしている場面の写真1枚が添付されており、その下に「このようにして、犯人は、右手に持っていたゴルフクラブで私の左側頭部を殴りました。」との記載があった。

(引用終わり)

 まず、これは問題文上、発言者が必ずしも明確ではありません。とはいえ、「私の側頭部」という記載から、Vの発言であることを前提に解答してよいでしょう。では、この記載部分は、Vが過去に体験した事実を再現したものか。犯行当時の被害状況の再現であることは、自明といってよいでしょう。ですから、これはVの供述です。

4.これまで説明したことをまとめると、以下のような感じです。

 実況見分調書①全体→Qの供述
 実況見分調書①の写真部分→供述でない
 実況見分調書①の写真下説明部分→甲の供述
 実況見分調書②全体→Rの供述
 実況見分調書②の写真部分→Vの供述
 実況見分調書②の写真下説明部分→Vの供述

 以上を踏まえると、「再現されたとおりの事実の存在を要証事実とするか」を検討しなければならないのは、実況見分調書①の写真下説明部分、実況見分調書②の写真部分、実況見分調書②の写真下説明部分の3つだけだ、ということがわかるでしょう(※)。あとは、これらの部分について、供述で再現された事実の存在が要証事実となっているかを考えてみるとよい。この点については、予備校等でも普通に解説されるところでしょうから、当サイトの参考答案(その2)を掲げるにとどめます。
 ※ 実況見分調書全体については、再現されたとおりの事実の存在を要証事実とすることが自明です。

(参考答案(その2)より引用)

1.実況見分調書①

 (中略)

(3)甲発言引用部分

 (中略)

イ.「このように解錠できました。」の部分は、甲が体験した解錠の事実を言語で再現するから、供述を内容とする。
 しかし、Tは、要証事実である甲の解錠技能について、客観証拠である前記(2)の写真から立証する趣旨と考えられ、写真が解錠状況を適切に撮影したものであることは、前記(1)のQによる真正作成供述で担保される。甲の発言から「甲が解錠できたこと」を立証しようとする趣旨でないことは明らかである。上記部分は、添付写真が解錠後の場面を撮影したことを特定する趣旨で記載されたにすぎない。
 したがって、上記部分は、再現されたとおりの事実の存在を要証事実としない。

2.実況見分調書②

 (中略)

(2)写真部分

ア.上記部分は、Vに被害状況について説明を求めつつ再現させた状況を撮影したもので、本件事件当時にVが体験した事実を身振りで再現するから、Vの供述を内容とする。
 もっとも、Tは、立証趣旨を「被害再現状況」とするから、あくまで見分当時の状況が要証事実であり、再現されたとおりの事実の存在は要証事実でないともみえる。
 しかし、請求証拠を非供述証拠的に用いたのでは自然的関連性が認められない場合には、裁判所は、たとえ当事者が非供述証拠的使用を示唆していたとしても、これを非供述証拠として証拠採用する余地はない(犯行被害再現実況見分調書事件判例参照)。実況見分は、犯行現場であるV方でなくH地方検察庁で実施され、検察事務官Sを犯人に見立てたもので、体格が甲と同じ者を甲に見立てたものでない。したがって、見分当時の状況自体からは、V供述どおりの犯行が可能であるかを立証して、争点である甲と犯人の同一性を推認させる等の余地がなく、何らの証明力もない。上記Tの立証趣旨によれば、自然的関連性が認められない。
 以上から、再現されたとおりの犯人による犯行の存在が要証事実であるといわざるを得ない。

 (中略)

(3)V発言引用部分

ア.上記部分は、本件事件当時にVが体験した事実を言語で再現するから、供述を内容とする。
 もっとも、前記(2)のとおり、写真部分によって本件事件当時の具体の犯行状況を立証する構造にあることからすれば、上記部分は、写真がVの説明に基づく犯行再現状況を撮影したものであることを特定するにすぎず、再現されたとおりの事実の存在を要証事実としないともみえる。
 しかし、前記(2)の写真が自然的関連性を有するためには、最低限、写真の内容が真に本件事件当時を再現したものであることを要する。写真がS及びVの動作を適切に撮影したこと自体は、前記(1)のRによる真正作成供述及び前記(2)イの機械的記録の正確性で担保されるとしても、その内容が真に本件事件当時を再現したものか否かについては、本件事件を体験しないRの真正作成供述及び記録の機械的正確性では担保できない。そうすると、V発言引用部分は、「本件事件当時の状況が、添付写真のとおりであったこと」を要証事実とし、この事実は、前記(2)の写真の自然的関連性を基礎づける補助事実となる。そうすると、再現されたとおりの事実の存在が要証事実となる。

(引用終わり)

 

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