令和5年司法試験の結果について(7)

1.以下は、今年の受験生のうち、法科大学院修了生の資格で受験した者の各修了年度別、未修・既修別の合格率です。令和5年度については、同年度修了予定の在学中受験者を指します。

修了年度
既修・未修
受験者数 合格者数 受験者
合格率
平成30未修 148 6.0%
平成30既修 110 6.3%
令和元未修 125 7.2%
令和元既修 121 21 17.3%
令和2未修 157 13 8.2%
令和2既修 206 23 11.1%
令和3未修 197 28 14.2%
令和3既修 311 85 27.3%
令和4未修 280 88 31.4%
令和4既修 850 534 62.8%
令和5未修 157 59 37.5%
令和5既修 913 578 63.3%

 毎年の確立した傾向として、以下の2つの法則があります。

 ア:同じ年度の修了生については、常に既修が未修より受かりやすい
 イ:既修・未修の中で比較すると、常に修了年度の新しい者が受かりやすい

 今年は、令和元年度既修の方が令和2年度既修より合格率が高い点が例外ですが、それ以外はこの法則が当てはまっています。このように既修・未修、修了年度別の合格率が一定の法則に従うことは、その背後にある司法試験の傾向を理解する上で重要なヒントとなります。

2.アの既修・未修の差は、短答・論文の双方で生じています。今年の短答・論文別の既修・未修別合格率はまだ公表されていませんので、昨年のデータ(「令和4年司法試験受験状況」)を参考に参照すると、以下のようになっています。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。

令和4年
短答
合格率
論文
合格率
既修 86.29% 55.28%
未修 64.74% 32.98%

 短答・論文の双方で、差が生じていることがわかります。短答で生じる差は、単純な知識量の差とみることができます。未修者よりも既修者の方が知識が豊富なので、単に知っているかどうかで差が付く短答では、単純に有利になるということです。
 他方、論文で生じる差は、規範の知識と演習量の差とみることができるでしょう。当サイトで繰り返し説明しているとおり、論文で合格点を取るには、基本論点について規範を明示し、事実を摘示して解答すればよい。したがって、普段の学習では、知識として基本論点の規範を覚えておく必要があり、演習を繰り返すことによって、どの事例でどの論点が問題になるのかを瞬時に判断できるようになっておく必要があるわけです。また、演習は、時間内に必要な文字数を書き切るという、「速書き」の訓練になるという点も、無視できない要素です。既修者は、早い段階から論文用の規範を記憶し、過去問や事例演習系の教材を用いた演習を繰り返すことによって、論文でも点を取ってくる傾向にあるのに対し、未修者は、短答レベルの知識の習得に時間がかかってしまい、論文用の規範を覚えきれず、過去問等の演習も不足したまま本試験に突入してしまうので、論文でも点が取れない傾向にある。それが、上記のような結果として反映されているのだろうと思います。

3.イの修了年度による合格率の差は、論文で付いています。今年の短答・論文別の修了年度別合格率もまだ公表されていませんので、昨年のデータ(「令和4年司法試験受験状況」)を参考に参照しましょう。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。

令和4年
修了年度
短答
合格率
論文
合格率
平成29 72.31% 23.42%
平成30 69.62% 21.82%
令和元 72.64% 33.77%
令和2 75.77% 42.39%
令和3 84.13% 64.81%

 短答では顕著な差がないのに対し、論文では顕著な差が付いていることがわかります。修了年度が古い受験生は、ローを修了してからの期間が長いわけですから、それだけ勉強時間を確保できます。上記2で説明した規範の知識量と演習量という点で、有利といえます。しかも、受験経験がより豊富なので、試験当日、試験会場での勝手もわかっていて、心理的な動揺なども少ないはずです。そうであれば、修了年度が古い受験生ほど、論文も有利になるのが自然であるとも思えます。しかし、結果は逆になっている。それはなぜか。当サイトでは古くから、この現象を、論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則によるものと説明してきました。すなわち、論文試験は、勉強時間ではなく、「受かりやすい人」か、「受かりにくい人」かという要素が決定的に重要である。「受かりやすい人」は、1回目の受験で受かる確率が非常に高い。そのため、修了年度の新しい受験生の合格率は、高くなりやすい。他方で、「受かりにくい人」は、ほとんどが受からないので、2回目以降に滞留する。「受かりにくい人」は、どんなに勉強量を増やしても受かりやすくならないので、2回目以降の受験でも、ほとんどが受からない。1回目の受験で例外的に不合格になった「受かりやすい人」は、2回目以降も受かりやすい。こうして、「受かりやすい人」がどんどん抜けて、「受かりにくい人」がどんどん滞留していくので、修了年度の古い受験生(ずっと滞留した受験生)ほど受かりにくいという結果が出力される、という仕組みです。つまり、受かりにくい人を選抜する負のセレクションが働いているというわけです。
 では、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則の原因は何か。法律に向いていないとか、やる気がないというようなことでは、説明になりません。上記の表をみればわかるとおり、短答に関しては、修了年度の古い受験生も、それなりに健闘しています。本当に法律に向いていないとか、やる気がなくてだらけているなら、短答も同様の傾向となっていなければおかしいでしょう。実際の経験からみても、なかなか合格できずに苦労している人ほど、むしろよく勉強していて、法律の知識・理解は豊富であることが多いように思います。
 この原因は、最近になってかなりわかってきています。現在の論文試験は、基本論点について、規範を明示し、問題文の事実を摘示し(書き写し)て書けば、合格できます。しかし、そのためにはかなりの文字数を書き切る必要がある。体力的に書き切る力がなかったり、速く書くという意識がない人は、そもそも必要な文字数を制限時間内に書くことが物理的に不可能です。そのような人は、何度受けても受からない。また、一定以上の筆力があっても、当てはめの前に規範を明示するクセの付いていない人は、何度受けても規範を明示せずにいきなり当てはめに入るので、何度受けても受からない。規範を明示するクセが付いていても、問題文の事実を摘示し(書き写し)て書くクセの付いていない人は、何度受けても問題文の事実を摘示し(書き写し)て書かないので、何度受けても受からない。上記の各要素は、勉強量を増やして知識が豊富になったからといって、なんら改善されるものではありません。だから、受験回数が増えても合格率は上がるどころか、かえって下がってしまうというわけです。最近では、意識的に事務処理の比重を下げようとする方向性が示されてはいる(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)ものの、実際の司法試験の結果を数字としてみる限り、上記で説明したような傾向を変化させるに至っていないといえます(「令和4年司法試験の検証結果について」も参照)。
 ちなみに、5回目受験になると、4回目受験よりちょっと合格率が上がる、というのは、最近みられるようになった傾向です。上記の表でいえば、平成29年度修了が平成30年度修了よりも論文合格率が少し高いという点に、それが現れています。これは、4回受験して手応えのない人は5回目を受験しないこと、4回の不合格経験から、これまでどおりの受験対策ではダメだということに気付く人が増えること等が原因ではないかと思っています。

4.なお、今年に関しては、令和4年度修了生と令和5年度修了予定の在学中受験者が、いずれも1回目受験であるという特殊性があります。それなのに、前者より後者の方が合格率が高い。両者の差は、前者が概ね1歳年上であるという点と、後者は受験をしない選択肢があったという点です(在学中受験をしなければ、受験期間が起算されないためです(「令和5年司法試験の受験予定者数について(2)」)。)。1歳の加齢がそこまで影響するとは思えませんので、これは令和5年度修了予定者に受験をしない選択肢があったという点の影響によるものとみるべきでしょう。すなわち、全く自信のない者は在学中受験をしなかったので、それが結果に影響したということです。その観点でみると、既修には0.5ポイントの差しかないのに対し、未修では6.1ポイントの差が付いていることも理解できるでしょう。未修者には、「短答突破もほぼ不可能だろうという状態なので、受験期間の起算を回避できるのであれば受控えをしたい。」という層がそれなりにいる。令和5年度修了予定の未修者は受控えによって受験期間の起算を回避できるけれども、令和4年度修了の未修者にはその選択肢がない(受けても受けなくても受験期間が起算される。)ので、ダメとわかりつつ受験してやっぱり不合格だった、というケースが相当数生じた。それが、6.1ポイントの差となって現れたのでしょう。その意味では、これは勉強量・知識量の差によるものということができます。

5.以上のことをまとめましょう。短答は、単純に知識量で勝負が付きますから、とにかく勉強時間を確保することを考えましょう(具体的な勉強法については、「令和5年司法試験短答式試験の結果について(2)」参照。)。論文も、基本論点の規範を記憶し、論点抽出等に必要な演習をするために、最低限の勉強時間を確保する必要があります。しかし、勉強時間を確保できても、制限時間内に必要な文字数(概ね1行平均30文字程度で6頁程度)を書く能力と、規範を明示し、事実を摘示する答案スタイルで書くクセが身に付いていないと、何度受けても受かりにくい
 今年、不合格だった人で、誰もが書く基本論点に気が付かなかったとか、基本論点の規範すら覚えていなかったなら、勉強不足が原因である可能性が高いでしょう。今年の例でいえば、行政法で処分性の規範を覚えていなかったとか、民法で転賃料債権に対する物上代位の論点を知らなかったとか、商法で役員等の対第三者責任の各要件の規範を覚えていなかったとか、民訴で参加的効力の趣旨・範囲を覚えていなかったとか、刑法で実行の着手・因果関係や「公務」と「業務」の規範を覚えていなかったとか、刑訴で領置や現場指示・現場供述の基本的な処理を知らなかった、という場合が、これに当たります。これは未修者的な不合格の例です。他方、基本論点を抽出できて、その規範も覚えていたが、規範の明示と事実の摘示というスタイルで書けなかった、というのは、修了年度の古い受験生的な不合格の例です。原因は2つあり、対処法が違います。時間が足りなくて平均5頁以下しか書けなかったので、規範を明示して事実を摘示するというスタイルでは書けなかった、というのなら、時間内に書ける文字数を増やす訓練をすべきです。漫然と「できる限り速く書こう。」というのではなく、答案構成の時間を減らしたり、書きやすいボールペンや万年筆に変えてみたり、意識して字を崩して書いてみるなど、目に見えるような違いが出る工夫をしてみましょう。平均6頁以上書いているけれども、問題提起や理由付け、事実の評価などを中心に書いているために、規範の明示や事実の摘示を省略してしまっているのなら、規範の明示や事実の摘示を優先して、問題提起や理由付け、事実の評価などを省略する答案スタイルに改めるべきです。今までのこだわりがあるので抵抗はあるでしょうが、その点を見直さないと、「受かりにくい人」になってしまいます。 

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