報道性・公共性で大魔神
(令和5年予備試験憲法)

1.前回の記事(「Xの属性の意味(令和5年予備試験憲法)」)で説明したとおり、Xの属性は、博多駅事件判例やNHK記者事件判例の射程が及ぶか、すなわち、活動の報道性・公共性に関わるものでした。この点に気が付いたら、後は、「射程が及ぶ。」、すなわち、肯定方向の事実と、「射程が及ばない。」、すなわち、否定方向の事実を拾い上げて大魔神。ここは、できる人は当たり前のようにできるし、できない人は初めからやる気すらない。結構差が付くところだと思います。できる人は、どうやっているのか。順番に問題を見て、肯定・否定にテキパキと振り分けていきます。まず、最初の1文はどうか。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 大手新聞社Aで記者として働いていたXは、編集方針等の違いからAを退社し、現在は、フリージャーナリストを自称し、B県を拠点に、主に環境問題について取材その他の活動を行っている。

(引用終わり)

 まず、「大手新聞社Aで記者として働いていた」はどうか。これは、報道機関で働いた経験があるという意味ですから、肯定方向でしょう。「編集方針等の違い」という退社理由はどうか。方向性がはっきりする事由を想起して、比較するとわかりやすいでしょう。例えば、「取材不十分だったり、他人を誹謗中傷するような記事ばかり書いて使いものにならないとして退社させられた。」であれば、明らかに否定方向。これと比較すれば、記者としての技能不足で退社させられたわけじゃないよ、という意味で捉えることができ、肯定方向とわかります。「自称」は、すぐに否定方向とわかるでしょう。「環境問題」も、厳密な理屈はともかく、どっちかというと肯定方向とわかる。そうしたら、最低限、これを答案に書き写す。

参考答案(その1)より引用)

 確かに、Xは自称フリージャーナリスト……(略)……。

 (中略)

 しかし、Xは大手新聞社Aで記者として働いていたが、編集方針等の違いからAを退社した。Xは、主に環境問題について取材その他の活動を行い……(略)……。

(引用終わり)

 余裕があれば、評価を付していく。

参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

 Xは……(略)……自称フリージャーナリストにすぎず、報道機関でない

 (中略)

 しかし、Xは大手新聞社Aで記者として働いており、報道の経験・ノウハウがある。退社理由は編集方針等の違いであり、技能不足でない。Xが取材等を行うテーマは、主に環境問題で公共性が高い

(引用終わり)

 次に、取材の方法に関する部分を見てみましょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 取材の手段について言えば、B県には、新聞社等の報道機関によって設立された取材・報道のための自主的な組織であるB県政記者クラブが存在するが、同クラブは、その規約上、日本新聞協会加盟社とこれに準ずる報道機関から派遣された県政担当記者のみを構成員としており、フリージャーナリストであるXは入会を認められていない。B県庁やB県警は、記者発表には、B県政記者クラブに所属する報道機関の記者のみに出席を認めているため、Xは出席することができない。

(引用終わり)

 これはどうか。「記者クラブに入ってなくて取材の手段が限られるのだから、取材源秘匿の必要性がある。」という肯定方向で評価した人もいたかもしれません。しかし、それは適切ではない。この部分を正しく評価するには、レペタ事件判例の知識がヒントになります。

レペタ事件判例より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 本件裁判長が、各公判期日において、上告人に対してはメモを取ることを禁止しながら、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してはこれを許可していたことは、前示のとおりである。
 憲法14条1項の規定は、各人に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であつて、それぞれの事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではないと解すべきである(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁(※注:サラリーマン税金事件判例を指す。)等参照)とともに、報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供するものであつて、事実の報道の自由は、表現の自由を定めた憲法21条1項の規定の保障の下にあることはいうまでもなく、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由も、憲法21条の規定の精神に照らし、十分尊重に値するものである(最高裁昭和44年(し)第68号同年11月26日大法廷決定・刑集23巻11号1490頁(※注:博多駅事件判例を指す。))。
 そうであつてみれば、以上の趣旨が法廷警察権の行使に当たつて配慮されることがあつても、裁判の報道の重要性に照らせば当然であり、報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできないというべきである。
 本件裁判長において執つた右の措置は、このような配慮に基づくものと思料されるから、合理性を欠くとまでいうことはできず、憲法14条1項の規定に違反するものではない。

(引用終わり)

 乱暴に言えば、「記者クラブ所属の報道機関の記者の報道は公共性があるから特別扱いが許されるけど、記者クラブに入ってないやつの活動には公共性がないから、そんな特別扱いなんてしてやる必要ない。」ということですね。すなわち、これは否定方向の要素です。
 この点は、短答でも問われたことのある部分です。

平成22年司法試験短答式試験公法系第6問。太字強調は筆者。)

 取材の自由に関連する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所の判例の趣旨に照らして,正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。

ア.民事訴訟法第197条第1項第3号は,「職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合」には,証人は証言を拒否することができるとしており,報道関係者の取材源の秘密は,この「職業の秘密」に当たる。しかし,当該事案において証言拒否が認められるか否かは,さらに比較衡量によって決せられる。

イ.一般人の筆記行為の自由は,報道機関の取材の自由と同様に,憲法第21条の精神に照らして十分尊重に値する。したがって,一般の傍聴者が法廷でメモを取る行為と司法記者クラブ所属の報道機関の記者が法廷でメモを取る行為とを区別することには,合理的理由を見出すことはできない

ウ.報道機関の取材の手段・方法が,贈賄,脅迫,強要等の一般の刑罰法令には触れなくても,取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しくじゅうりんする等法秩序全体の精神に照らして社会観念上是認することができない態様のものである場合には,国家公務員法との関係では,正当な取材行為の範囲を逸脱し違法性を帯びることになる。

1.ア○ イ○ ウ○  2.ア○ イ○ ウ×  3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ×  5.ア× イ○ ウ○  6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○  8.ア× イ× ウ×

 答案で書くなら、これは「自称フリージャーナリスト」と同列の事実として列挙するのが簡便でしょう。

参考答案(その1)より引用)

 確かに、Xは自称フリージャーナリストで、B県政記者クラブへの入会が認められておらず……(略)……

(引用終わり)

 余裕があるなら、レペタ事件判例も挙げたい。

参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

(2)Xは記者クラブ入会すら認められない自称フリージャーナリストにすぎず、報道機関でないから、NHK記者事件判例の趣旨は及ばないとの反論が想定される。

ア.確かに、報道機関ないし記者クラブ所属記者の公共性に着目した区別に合理性が認められることがある(レペタ事件判例参照)

(引用終わり)

 Xの発表の方法について見てみましょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Xの発表の場は主にインターネットとなり、自らの関心に応じて取材した内容動画サイトに投稿し、閲覧数に応じて支払われる広告料によって収入を得ている。環境問題に鋭く切り込むXの動画は若い世代を中心に関心を集めインフルエンサーとして認識されつつある。さらに、Xは、これまでに取材・投稿した内容に基づくノンフィクションの著作1冊を公表している。

(引用終わり)

 ここには、色々な評価ができそうな事実がてんこ盛りになっています。「インターネット」、「動画サイト」というのは、「ただのユーチューバーじゃねーか。」という意味で否定方向とみることができそうな反面、「不特定多数人がアクセス可能な点で報道機関の報道と機能は同じだよね。報道機関も動画やってるし。」という肯定方向の評価も可能でしょう。「自らの関心」という部分は、「個人の趣味じゃねーか。」という意味で否定方向だけど、「取材した内容」という部分は肯定方向。「閲覧数に応じて」の部分は、「再生回数目当てでロクでもない動画作ってそう。」という意味で否定方向だけど、「報道機関もバラエティ番組とかスキャンダル報道とか利益優先でロクでもない内容あるじゃん。『カッパ発見!』を一面にするスポーツ新聞とかあるじゃん。」と考えればそこまで否定方向でもないかも、と思えてくる。この点を指摘した判例として、ロス疑惑大麻報道事件判例があります。配信サービスの抗弁のところで出てくる理由付けですね。

(ロス疑惑大麻報道事件判例より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 今日までの我が国の現状に照らすと,少なくとも,本件配信記事のように,社会の関心と興味をひく私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とする分野における報道については,通信社からの配信記事を含めて,報道が加熱する余り,取材に慎重さを欠いた真実でない内容の報道がまま見られるのであって,取材のための人的物的体制が整備され,一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社からの配信記事であっても,我が国においては当該配信記事に摘示された事実の真実性について高い信頼性が確立しているということはできないのである。

(引用終わり)

司法試験定義趣旨論証集(憲法)より引用。太字強調は筆者。)

私人の犯罪行為やスキャンダルについて配信サービスの抗弁が否定される理由
重要度:B
 社会の興味・関心から報道が加熱し、取材に慎重さを欠く誤報がままみられる我が国においては、信頼性に関する定評という重要な前提が欠けるからである(ロス疑惑大麻報道事件判例参照)。
 ※ 最判平14・1・29。

(引用終わり)

 「広告料によって収入」を得ているのは、民間報道機関も同じだよね、という意味では、積極的に肯定という要素でもないけど、否定でもない。「環境問題」はさっきやりました。「若い世代」というのは、「視聴者層が偏ってる」という意味で、「マス」に訴えかける典型的な報道機関とは違うという意味では否定方向ともいえるけど、「視聴者層の偏りは典型的な報道機関にもあるでしょ。」と考えればそんなに否定方向でもないかも。いずれにせよ、「関心を集め」の部分は誰も興味を示さない動画とかと比べれば肯定方向。「インフルエンサー」の部分は、結構簡単に肯定方向にした人が多そうですが、このようなときは具体的に想像してみるとよいでしょう。「インフルエンサー」というのは、こんな感じの人たちではないか。

 「このコスメめっちゃいい!」
 「たったこれだけで豚肉がホロホロになるからやってみて!」
 「今回ボクのプロデュースでカップ麺が販売されることになりますた。」

 「報道とは全然違うくね?」と感じるでしょう。影響力はありそうだけど、公共性はなさそう。なので、否定方向とみるのが自然だろうと思います。「取材・投稿した内容に基づくノンフィクション」は普通に肯定方向。だけど、「たった1冊かよ。少ねぇ。」というのは否定方向。
 さて、これらを適当に肯定・否定に分けて列挙すれば、以下のような感じです。

参考答案(その1)より引用)

 確かに……(略)……Xの発表の場は主にインターネットで、自らの関心に応じた内容を動画サイトに投稿し、閲覧数に応じて支払われる広告料で収入をえている。関心を集めているのは若い世代中心で、認識されつつあるのはインフルエンサーとしてである。公表した著作は1冊である。
 しかし……(略)……Xは、主に環境問題について取材その他の活動を行い、取材内容を投稿している。環境問題に鋭く切り込むXの動画は関心を集めている。Xの公表した著作は、これまでに取材・投稿した内容に基づくノンフィクションである。

(引用終わり)

 きちんと評価を付して丁寧に書けばこんな感じ。

参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

 確かに、Xの発表の場は主にインターネットで、動画サイトに投稿するのは自らの関心に応じた内容である。関心を集めているのは若い世代中心である。閲覧数に応じて支払われる広告料で収入をえており、興味本位の投稿によって閲覧数を稼ごうとするおそれがある公共的事項を幅広く取り扱い、インターネットを利用しない高齢者にも紙媒体の個別宅配やテレビ放送を行う典型的な報道機関とは公共性の点で異なる。現に、Xが認識されつつあるのは、主観的推奨等に基づく影響力のある個人を意味するインフルエンサーとしてであり、公共性のあるメディアとして認識されているわけではない。公表した著作は1冊だけである。
 しかし……(略)……インターネットの動画サイトも不特定多数人の「マス」がアクセス可能である点でマス・メディアの報道と機能は異ならない。このことは、報道機関も報道内容を動画サイトで公開するようになってきていることからも明らかである。……(略)……取材内容を動画サイトに投稿し、広告料で収入をえており、広告料で収入をえる点は民間報道機関と同様である。民間報道機関は閲覧数に応じて広告料をえるわけでないが、販売部数や視聴率目当てに興味本位の過熱報道をするおそれがある点は同じである(ロス疑惑大麻報道事件判例参照)読者・視聴者層の偏りは典型的な報道機関にも相当程度みられるから、本質的な差異とはいえない。環境問題に鋭く切り込むXの動画は関心を集めており、知る権利に奉仕するという公共的機能を果たしている。Xの公表した著作は、これまでに取材・投稿した内容に基づくノンフィクションであり、ネット以外の媒体でも取材の成果を公表している。これらの事実から、単なる自称でなく、Xの活動にはフリージャーナリストの実質を備える程度の公共性がある。

(引用終わり)

 予備試験の試験時間・解答用紙を考えると、すべてにおいて上記のような評価を付していたら時間内に書き切れないし、紙幅をオーバーしてしまいます。なので、事実を書き写しながら、思い付いたところだけ、無理のない範囲で評価を付していく。現在のところ、事実の摘示に対する意識は、受験生だけでなく予備校等もとても低いので、まずは事実の摘示をしっかりやる。それでなお余裕のある限度でのみ、評価を付せば足ります。

2.上記のようなことを教えてもらえる機会がなかなかないことについては、以前の記事(「当てはめ大魔神する方法(令和5年司法試験民事系第3問)」)で説明しましたので、以下に再掲しておきましょう。

(「当てはめ大魔神する方法(令和5年司法試験民事系第3問)」より引用)

 上記のような当てはめ方を丁寧に教えてもらえる機会というのは、ほとんどないのが現状です。その理由は、3つあります。1つは、教える側にそのような意識がないということです。「論文では本質が問われているんだ。事実の書き写しなんかに点があるはずがない。」という意識を持っている人は、いまだに結構いるものです。もう1つは、予備校等が自ら推奨する論証を使って答案例を作成しようとするので、当てはめで事実を摘示できない、ということです。一般に流通している論証は、極めて配点の乏しい理由付けにかなりの文字数を使っているので、事実を書き写す余裕などありません。教材の答案例は字を小さくしたりできなくて、基本は一行の文字数が決まっているので、所定のページ数で収めることができなくなってしまう。その結果、「当てはめスッカスカ」の「模範答案」が出来上がるというわけです。それをベースに講義をするから、当然ながら適切な当てはめを教えてもらえるはずがない。3つ目は、そんなの講義として成立しない、ということです。今回、長々と説明したとおり、当てはめ方というのは、1つ1つを個別にみれば、「そんなのわざわざ講義で言われなくてもわかるよ。馬鹿にすんな。」という感じの内容です。しかも、1つ1つ口頭で説明していたら、とっても時間が掛かる。こんなのを延々とやっていたら、「いちいち講義の時間を使って延々とそんな当たり前のこと話してんじゃねーよ。もっとハイレベルなこと教えろよ。金返せ。」となってしまう。だから、そんな講義はできない。
 以上のような状況であることを理解したら、後は、受験生が自分で対策するしかありません。もっとも、それはそんなに難しいことではない。上記で延々と説明したとおり、1つ1つは知識ゼロでもわかりそうな、当たり前のことです。意識して問題文を見るかどうかの違いでしかありません。なので、事例問題を解きまくり、解いている時、復習する時に、「模範答案」では無視されているような事実にも意識を向けて、「肯定かな?否定かな?」という判断をして、答案に書くことを考える。それは、自分の力で出来ることですし、出来なければならないことです。

(引用終わり)

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