最低限の知識で頑張る
(令和5年予備試験憲法)

1.今年の予備憲法。解答に当たって最低限必要な知識は、報道の自由、取材の自由に関する博多駅事件判例の知識。それから、NHK記者事件判例の大雑把な判断枠組みです。どのくらい大雑把でいいかといえば、短答式試験で繰り返し問われていた程度です。

平成22年司法試験短答式試験公法系第6問。太字強調は筆者。)

 取材の自由に関連する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所の判例の趣旨に照らして,正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。

ア.民事訴訟法第197条第1項第3号は,「職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合」には,証人は証言を拒否することができるとしており,報道関係者の取材源の秘密は,この「職業の秘密」に当たる。しかし,当該事案において証言拒否が認められるか否かは,さらに比較衡量によって決せられる。

イ.一般人の筆記行為の自由は,報道機関の取材の自由と同様に,憲法第21条の精神に照らして十分尊重に値する。したがって,一般の傍聴者が法廷でメモを取る行為と司法記者クラブ所属の報道機関の記者が法廷でメモを取る行為とを区別することには,合理的理由を見出すことはできない。

ウ.報道機関の取材の手段・方法が,贈賄,脅迫,強要等の一般の刑罰法令には触れなくても,取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しくじゅうりんする等法秩序全体の精神に照らして社会観念上是認することができない態様のものである場合には,国家公務員法との関係では,正当な取材行為の範囲を逸脱し違法性を帯びることになる。

1.ア○ イ○ ウ○  2.ア○ イ○ ウ×  3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ×  5.ア× イ○ ウ○  6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○  8.ア× イ× ウ×

((平成27年司法試験短答式試験公法系第4問。太字強調は筆者。)

 報道の自由に関する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所の判例の趣旨に照らして,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。

ア.法廷内における被告人の容ぼう等につき,手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたイラスト画を被告人の承諾なく公表する行為は,被告人を侮辱し,名誉感情を侵害するものというべきで,その人格的利益を侵害する。

イ.報道機関の取材源は,一般に,それがみだりに開示されると将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることになるため,民事訴訟法上,取材源の秘密については職業の秘密に当たるので,当該事案における利害の個別的な比較衡量を行うまでもなく証言拒絶が認められる。

ウ.少年法第61条が禁止する推知報道に該当するか否かは,少年と面識のある特定多数の者あるいは少年の生活基盤としてきた地域社会の不特定多数の者が,少年を当該事件の本人であると推知することができるかを基準にして判断すべきである。

平成28年予備試験短答式試験民法・商法・民事訴訟法第41問。太字強調は筆者。)

 証言拒絶権に関する次の1から5までの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを2個選びなさい。

1.医師は,職務上知り得た事実で黙秘すべきものにつき,証言を拒むことができる。

2.Aの後見人であるBがその地位を解任された後は,Aは,Bの名誉を害すべき事項につき,証言を拒むことができない。

3.職業の秘密とは,その事項が公開されると当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になる事項をいい,これに該当すれば,当然に,証人は当該事項につき証言を拒むことができる

4.証言拒絶を認める決定に対しては,当事者は,即時抗告をすることができない。

5.証人は,証人自身が有罪判決を受けるおそれがある事項について尋問を受ける場合には,宣誓を拒むことができる。

 一般論として、報道機関の取材源は「職業の秘密」に当たるけれども、具体の事案で証言拒絶が認められるかは、個別の比較考量で判断する。細かい規範や考慮要素は覚えていなくてよいけれども、このレベルは最低限知っていないと、解答の大枠を外してしまうことになります。このように、短答知識は論文を解く上で最低限の背景知識となることが多いので、当サイトは早い段階で短答を固めることを推奨しているのです。

2.さて、上記の最低限の知識で、具体的にどう書いていくか。まず、上記の大枠を把握していれば、答案の項目立ては概ね以下の2つのうちのどちらかになるでしょう。

【答案の項目立ての例①】

第1.「職業の秘密」(民訴法197条1項3号)該当性

1.Xの主張

2.私見

第2.比較考量

1.Xの主張

2.私見

 

【答案の項目立ての例②】

第1.Xの主張

1.「職業の秘密」(民訴法197条1項3号)該当性

2.比較考量

第2.私見 

1.「職業の秘密」(民訴法197条1項3号)該当性

2.比較考量

 

 個人差はあると思いますが、一般には①の方がXの主張と私見の対応がわかりやすく、書きやすいのではないかと思います。当サイトの参考答案では、上記のうち①の項目立てを採用しています。以下では、①の項目立てを前提に説明します。

3.「職業の秘密」(民訴法197条1項3号)該当性について、最低限の知識としては、「報道機関の取材源は『職業の秘密』に当たる。」ということだけです。理由はわからん(※)。でも、報道の自由、取材の自由に関する博多駅事件判例の知識をぶっ込めば、一応理由っぽくなるんではないか。それから、「報道機関の取材源は『職業の秘密』に当たる。」というのが判例の立場だということは知っているのだから、それが判例であることを示す。こうして書かれたのが、当サイトの参考答案(その1)です。
 ※1 当サイトは、規範の理由付けは配点がとても低いので余裕がなければ書くべきでないという立場ですが、ここは「規範→当てはめ」という感じではないので、「報道機関の取材源は『職業の秘密』に当たる。」と言い放つだけでは不十分で、判例を使って理由も書くべきところと判断すべきです。

(参考答案(その1)より引用)

 事実の報道は21条1項で保障され、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値する(博多駅事件判例参照)。
 報道の取材源を明かすと将来の取材が困難になるおそれがあるから、上記判例の趣旨によれば、報道の取材源は「職業の秘密」に当たる(判例)。

(引用終わり)

 「報道の取材源を明かすと将来の取材が困難になるおそれがある」のフレーズも、博多駅事件判例を知っていれば、ギリ書けるでしょう。

4.その上で、「何か反論ないか。」という発想で問題文を眺めて、Xの属性に関する事実の詳しさから、「Xの活動って報道なの?」という点に気付きたい。この点は、以前の記事(「Xの属性の意味(令和5年予備試験憲法)」)で説明しました。気が付いたら、事実を肯定・否定に分けて羅列する。

(参考答案(その1)より引用)

(2)Xの活動は報道でなく、報道の自由の保障及び取材の自由としての尊重を受けないから、「職業の秘密」に当たらないとの反論が想定される。
 確かに、Xは自称フリージャーナリストで、B県政記者クラブへの入会が認められておらず、Xの発表の場は主にインターネットで、自らの関心に応じた内容を動画サイトに投稿し、閲覧数に応じて支払われる広告料で収入をえている。関心を集めているのは若い世代中心で、認識されつつあるのはインフルエンサーとしてである。公表した著作は1冊である。
 しかし、Xは大手新聞社Aで記者として働いていたが、編集方針等の違いからAを退社した。Xは、主に環境問題について取材その他の活動を行い、取材内容を投稿している。環境問題に鋭く切り込むXの動画は関心を集めている。Xの公表した著作は、これまでに取材・投稿した内容に基づくノンフィクションである。
 したがって、Xの活動は報道であり、報道機関の報道と同様に、報道の自由の保障を受け、そのための取材の自由も21条の精神に照らし十分尊重に値する。上記反論は不当である。

(引用終わり)

 これは、知識がなくてもできることです。

5.次は、比較考量。何と何を比較考量するか知らなくても、テキトーに何か思い付けばよい。証言拒絶を肯定する方向の要素としては、「取材源秘匿の要請」、「証言拒絶の必要性」、「取材の自由への影響」、「取材の自由の制約の程度」、「将来の取材が妨げられる程度」、「証言をすることによる不利益」みたいなものは、その場で何とか思い付くでしょう。証言拒絶を否定する方向の要素としては、「公正な裁判の要請」、「適正な裁判の要請」、「真実発見の要請」、「証言の必要性」、「証拠としての重要性」、「証言拒絶による不利益」、「証言拒絶による影響」、「証言拒絶による審理への影響」、「証言拒絶による当事者の不利益」みたいなのを、どれでもいいからテキトーに選んで書く。「公正な裁判の要請」とか「真実発見の要請」というのは刑事っぽくて厳密にはちょっとヒリヒリしますが、多分そんなに評価を左右しないでしょう。比較考量をする理由は、否定要素が肯定要素を上回る場合にまで証言拒絶を認めるべきでない、という当たり前のことを書けばよい(※2)。後は、設問で「関連する判例を踏まえて」とされていて、「よくわからんけど判例は比較考量してた。」というところまでは知識があるのだから、知っている限度でそれも書いておく。
 ※2 比較考量という規範の理由付けだから書かないという判断も普通にありそうですが、Xの主張、反論を踏まえた私見という流れがあるので、ここは書けるなら書きたいところです。

(参考答案(その1)より引用)

 「職業の秘密」に当たる場合であっても、比較考量によって証言拒絶の可否を判断すべきとの反論が想定される。
 私は、証言の必要性が取材源秘匿の要請を上回る場合にまで証言拒絶を認めるべきでないと考えるから、上記反論は正当である。比較考量に当たっては、証言の必要性と取材の自由への影響を考慮する。判例も、「職業の秘密」に当たる場合でも、証言拒絶の可否は個別の事情を比較考量して判断している。

(引用終わり)

6.最後は比較考量の当てはめ。これは肯定・否定で事実を分けて羅列すればよい。それだけで、最低限の解答になります。加えて、西山記者事件判例のフレーズも部分的に覚えていたなら、事実の羅列の合間に強引にぶっ込んでおけばいい。これは、以前の記事(「西山記者事件判例の使い方(令和5年予備試験憲法)」)でも説明しました。

(参考答案(その1)より引用)

(2)以下の理由から、証言の必要性が取材源秘匿の要請を上回るとの反論が想定される。

ア.甲は、輸入元は企業秘密に当たるので回答できないとして、Xの取材を拒否した。甲は、労働者との間に守秘義務契約を交わしており、同契約書には、原材料の輸入元は守秘義務の対象に含まれること、退職後においても、開示、漏えいしないことが明記され、守秘義務に反した場合は損害賠償することとされている。乙は、Xに甲はC国から原材料を輸入していると語った。甲は、Xの証人尋問を求め、裁判所はこれを認めた。
 以上から、証言の必要性が高い。

イ.乙は当初、「退職していても守秘義務があるから何も話せない。」と言い、取材に応じることを断っていたのに、Xは乙の工房に通い詰めたばかりか、乙が家族と住む自宅にまで執ように押し掛け、「あなたが甲の行為を黙認することは、環境破壊に手を貸すのも同然だ。保身のためなら環境などどうなっても良いという、あなたのそんな態度が世間に知れたら、エコロジー家具の看板にも傷がつく。それでいいのか。」などと強く迫り、エコフレンドリーという評判が低下し工房経営に悪影響が及ぶことを匂わせた。
 以上から、取材の自由が制約されてもやむをえない。

(3)しかし、私は、以下の理由から、取材源秘匿の要請が証言の必要性を上回ると考える。

ア.本件は乙に対する損害賠償請求訴訟であり、証言の必要性は高くない。

イ.Xは、森林破壊に関する取材の過程で、SDGsに積極的にコミットしていることで知られる家具メーカー甲が、実はコストを安く抑えるために、濫開発による森林破壊が国際的に強い批判を受けているC国から原材料となる木材を輸入し、日本国内で加工し製品化しているのではないかと考えた。乙は、名前を仮名にすること及び画像と音声を加工することを条件にインタビューを受け、動画には、乙が特定されない加工が施されていた。Xは真に報道目的で、乙の人格の尊厳を著しくじゅうりんするなど社会観念上是認できない手段(西山記者事件判例参照)を用いていない。Xの動画は反響を呼び、その後、マスコミ各社が後追い報道を行ったこともあって、濫開発による森林破壊に加担しているとして甲の製品の不買運動が起こるなどの影響をもたらした。
 以上から、証言による将来の取材への悪影響が大きい。

(引用終わり)

 この部分は答案の最後になるので、残り時間を見て、余裕があれば評価を付したりすればよいでしょう。一度最後まで書き上げてしまっても、時間が余っていれば、余白に挿入する形で一言ずつ評価を入れていくことは可能です。この辺りは、普段の演習で、時間を測って解く際に、臨機応変にできるようになっておくべきです。 

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