1.以下は、直近5年の受験経験別の受験者数の推移です。
受験経験 | なし | 旧試験 のみ |
新試験 のみ |
両方 |
令和元 | 7796 | 2580 | 444 | 960 |
令和2 | 7257 | 2104 | 435 | 812 |
令和3 | 8322 | 2119 | 487 | 789 |
令和4 | 9445 | 2201 | 555 | 803 |
令和5 | 9755 | 2279 | 529 | 809 |
令和4年と比較すると、令和5年は「新試験のみ」のカテゴリーだけ受験者が減少しています。「新試験のみ」は、法科大学院を修了し、司法試験を受験したが、受験回数を使い切って受験資格を失い、予備に回った人が属します(※1)。令和5年から在学中受験が可能になり、受験回数を使い切った人も、既修で法科大学院に再入学すれば1年待つだけで再受験できるので、予備に回る人は減ったことでしょう。そのことが、「新試験のみ」のカテゴリーの受験者の減少に繋がっているのだと思います。失権者の滞留自体が減ったことを意味しないことには留意が必要です。
※1 予備試験合格者が受験回数を使い切って失権し、再度予備に回るということも一応考えられますが、実際にはほとんど存在しないと考えられます。
順調に増加を続けているのが、「なし」、すなわち、新規参入の受験者です。前回の記事(「令和5年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)でみたとおり、有職者や大学生の受験が増加していることからすれば、自然なことといえるでしょう。
「旧試験のみ」と「両方」は、令和4年との比較では、わずかに増加しています。もっとも、旧試験は14年前の平成22年を最後に、もう実施されていない(※2)わけですから、新たに「旧試験のみ」や「両方」のカテゴリーに属する者が増えるというのは、あり得ないことです。では、どうして増えたのか。それは、コロナ禍前の令和元年との比較をすればわかります。令和元年と比較すれば、「旧試験のみ」も「両方」も、受験者は減少している。令和2年以降の受験者数の変動は、コロナ禍によるイレギュラーなもの、すなわち、新型コロナウイルス感染症を恐れて受験を控えていた者が、最近になって受験を再開するようになった、それが受験者数として表れた、ということでしょう。「旧試験のみ」や「両方」の受験者は高齢者が多いことから、コロナ禍の影響が大きめに反映されるのです。
※2 厳密には、平成23年に口述試験のみ実施されています。旧司法試験では、口述試験不合格者は翌年度に再度口述試験を受験することができたため、平成22年度の口述試験不合格者のみ限定で、平成23年度口述試験が実施されたのです(「平成23年度旧司法試験第二次試験の結果」)。
令和5年の時点で、「旧試験のみ」と「両方」の受験者が合わせて3088人もいます。旧試験は14年前に終了しているので、これらの人は、14年以上司法試験の勉強に人生を捧げたことになる。これほどの数の人が、ずっと苦労をしながら受験を続けているという事実は、あまり知られていません。この人達がこれまでに費やしてきた資金、時間、労力は、莫大なものがあります。受験を諦めることは、それらが無駄になってしまうことを意味する。だから、やめられない。これが、長期受験者の陥りがちな心理状態です。この人達も、最初から10年、20年と受験するつもりはなかったのが普通です。最初は、「ちょっとだけ受けてみて、ダメだったら就職しようかな。」という軽い気持ちだったりする。それでも、不合格になると悔しいので、「あと1回だけ受けてみよう。」と考えます。そうして、「あと1回だけ」、「あと1回だけ」を繰り返しているうちに、いつの間にか長期受験者となって、気が付くと、新卒採用中心の日本では通常の就職が難しい状態になっていた。そうなると、「もう自分には受験しかない。」、「受かるまでずっと受けてやる。」という心理状態へと移行していきます。これは、一度陥ると抜け出すのが極めて難しいプロセスです。その結果、これだけの滞留現象が生じるのですね。予備試験は一見魅力的なルートですが、受験するか否かを判断するに当たっては、この怖さを十分に考慮すべきだと思います。
2.以下は、受験経験別最終合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。
受験経験 | 受験者数 | 最終 合格者数 |
最終合格率 (対受験者) |
なし | 9755 | 434 | 4.44% |
旧試験のみ | 2279 | 21 | 0.92% |
新試験のみ | 529 | 11 | 2.07% |
両方 | 809 | 13 | 1.60% |
「なし」が、最も高い合格率になっているのは、例年どおりです。それでも4%強で、これが予備試験の厳しさを物語っています。「旧試験のみ」や「両方」は、もう絶望的な数字です。両カテゴリーの受験者3088人中、最終合格できたのは34人しかいない。毎年34人が合格して、3088人全員が受かるには、単純計算で91年を要します。「受かるまでずっと受けてやる。」という意識で、ただがむしゃらに勉強して受験を続けても、多くの人は、おそらく先に寿命を迎えるだろう。とても厳しい現実が、そこにあります。
最近の特徴として、「新試験のみ」の最終合格率が高くなった、ということがありました。令和3年以降の数字で比較してみましょう。
受験経験 | 令和3 | 令和4 | 令和5 |
なし | 5.11% | 4.35% | 4.44% |
旧試験のみ | 0.94% | 1.13% | 0.92% |
新試験のみ | 1.43% | 3.78% | 2.07% |
両方 | 1.77% | 1.86% | 1.60% |
令和4年になって急に最終合格率が上昇したものの、令和5年は、それほどでもなくなっている。令和4年の結果について、当サイトは、以下のように考えていました。
(「令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」より引用。太字強調は原文による。) 「旧試験のみ」と「両方」がほとんど変わらないのに対し、「新試験のみ」だけは、あり得ないほど合格率が上昇している。これが、今年みられる顕著な特徴です。「新試験のみ」の受験生のレベルが急に上がるということはちょっと考えられませんから、他の要因を考えることになる。……(略)……まず、思い当たるのは、選択科目が加わったことです。「新試験のみ」は、司法試験を受験する過程で、選択科目を学習済みですから、これはそれなりに大きなアドバンテージでしょう……(略)……仮に、選択科目の影響が強いのであれば、毎年受験を続けている「旧試験のみ」や「両方」の受験生も、次第に選択科目に手が回るようになってくるでしょうから、このような大きな差は縮小に向かうはずでしょう。 (引用終わり) |
令和5年の結果をみると、「新試験のみ」と、「旧試験のみ」や「両方」との差が縮小している。このことは、令和4年の「新試験のみ」の最終合格率の急上昇は、選択科目の影響によるものだ、という仮説を補強します。この仮説が正しければ、今後は、この差がより縮小していく方向で推移していくでしょう。
また、令和4年と比較すると、「旧試験のみ」、「新試験のみ」、「両方」のいずれのカテゴリーの最終合格率も低下していることが確認できます。このことは、前回の記事(「令和5年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で説明した、無職の最終合格率上昇が専業受験者の合格率上昇を意味するものではなく、単に卒業予定の大学生の一部が「無職」に混入した結果にすぎないという仮説を補強します。
3.以下は、受験経験別短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。
受験経験 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答合格率 (対受験者) |
なし | 9755 | 1677 | 17.1% |
旧試験のみ | 2279 | 644 | 28.2% |
新試験のみ | 529 | 111 | 20.9% |
両方 | 809 | 253 | 31.2% |
短答は知識重視なので、旧試験時代からずっと勉強を続けている「旧試験のみ」と「両方」が圧勝し、一方で、勉強期間の最も短い「なし」は最低の合格率になる(※3)。これは、例年の傾向どおりです。最終合格率が高めになっていた「新試験のみ」も、短答は例年どおりの低い水準です。司法試験の受験回数を使い果たして以降も勉強を続けているので、「なし」には勝つわけですが、旧司法試験時代から受験を続けてきた大先輩達と比べれば勉強期間がはるかに短いので、「旧試験のみ」や「両方」にはかなわないのでした。このように、短答段階における「新試験のみ」の合格率に顕著な変化がみられないことは、「新試験のみ」の最終合格率の上昇が選択科目の影響によるものだ、という仮説を補強します。
※3 「旧試験のみ」より「両方」の方が合格率が高いのは、旧試験時代の短答は、憲法・刑法で論理問題が多く、知識のインプットが「両方」より弱いことによります。このことは、以前の記事(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で詳しく説明しました。
4.論文段階になると、どうか。受験経験別論文合格率(短答合格者ベース)をみると、以下のようになっています。
受験経験 | 短答 合格者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 (対短答合格) |
なし | 1677 | 438 | 26.1% |
旧試験のみ | 644 | 25 | 3.8% |
新試験のみ | 111 | 11 | 9.9% |
両方 | 253 | 13 | 5.1% |
短答で圧勝していた「旧試験のみ」と「両方」が壊滅し、「なし」が圧勝するのは例年どおりで、これが若手優遇策(「令和5年司法試験の結果について(13)」)の効果です。
一方で、「新試験のみ」をみると、高めの合格率であることがわかります。令和3年以降の数字で比較してみましょう。
受験経験 | 令和3 | 令和4 | 令和5 |
なし | 26.2% | 24.7% | 26.1% |
旧試験のみ | 3.5% | 3.8% | 3.8% |
新試験のみ | 4.9% | 15.2% | 9.9% |
両方 | 5.4% | 4.7% | 5.1% |
「新試験のみ」の論文合格率は、令和4年に急上昇したものの、令和5年はそれほどでもない、という感じにとどまっていることがわかります。令和4年は、選択科目が導入された最初の年だったので、「旧試験のみ」や「両方」は対応が難しく、「新試験のみ」に有利だった。それが、令和5年は、「旧試験のみ」や「両方」もそれなりに選択科目を勉強してきたので、「新試験のみ」のアドバンテージが縮小した。そう考えて矛盾のない結果といえます。このことは、令和4年の「新試験のみ」の合格率の急上昇は、選択科目の影響によるものだ、という仮説を補強します。この仮説が正しければ、今後は、この差がより縮小していく方向で推移していくでしょう。
それはともかく、重要なことは、論文段階で「なし」のカテゴリーが圧勝するという事実です。その他のカテゴリーの受験者は、ただがむしゃらに勉強をしても、ほとんど受からない。勉強時間を増やすことで合格できるなら、「旧試験のみ」や「両方」はとっくの昔に受かっていなければおかしいのです。論文は、長文の事例、規範の明示と事実の摘示による当てはめ重視という若手優遇策があり、「受かりにくい者は、何度受けても受かりにくい」法則が成立する(「令和5年司法試験の結果について(13)」)。これを意識し、逆手に取る勉強をしなければ、いつまで経っても合格することは難しいでしょう。それは、上記の数字が如実に物語っています。